Confession | ||
![]() 曲:★★★★ 演奏:★★★★★ ジャズ入門度:★★★★★ 評価:★★★★ |
[Release Date] 2019 [1] You're Gonna Hear From Me [2] Little Taste [3] Interlude [4] Forget About The boy [5] Stranger In Town [6] I Don't Wanna Cry Anymore [7] Hope She Makes You Happy [8] Confession/The Other Woman [9] Gypsy In My Soul [10] No Not Much [11] I'm Hip [12] No Regret |
[1][2][4]-[6][9]-[12] Veronical Swift (vo) Emmet Cohen (p) Russell Hall (b) Kyle Poole (ds) [3][7][8] Veronical Swift (vo) Benny Green (p) David Wong (b) Karl Allen (ds) |
通算4枚目、マック・アヴェニュー・レコード第1弾のアルバム。内容は、ピアノ・トリオを従えた実にオーソドックスなジャズ・ヴォーカル。超有名曲は含めずちょっとマニアックなジャズ曲を選曲(歌ものに疎い僕は全曲知らず)。バックバンドの演奏は高いレベルで手堅く、安心して身を委ねて聴くことができる。ヴェロニカのヴォーカルは発声がしっかりしており、声は女性らしい優しさと腰の座った安定感があって音程は確か。歌いまわしもオーソドックスなジャズのスタイルでスキャットも余裕を持ってこなしており、ただ上手いだけでなく表現力も豊か。2015年のセロニアス・モンク・ジャズ・コンペティションで2位だったという実力はさすがと言ったところ。本作ではジャズに徹している中、その歌い方はジャズの枠に留まらず、ポップス系を歌わせても様になりそうな歌いまわしも垣間見える。サマラ・ジョイのように伝統的なジャズ唱法に振り切ったり(ただしジャズ以外のスタイルでもしっかり歌えることはYoutubeや生で聴いた際に確認済み)、ジャズメイア・ホーンのようなクリーンで超絶滑舌のスキャットを武器にしたり、セシル・マクロリン・サルヴァントのように音楽も歌い方もアクが強い、といった同業者と比較すると、強烈な個性と言えるものがないところがウィークポイントか。とはいえ、その肝心のヴォーカルは十分レベルが高い上に演奏もクオリティが高く、癖を求めずに質の高い現代のジャズ・ヴォーカルを聴きたいという人にはお勧めできる。ベースとのデュオによる[10]、オールドジャズの軽快な歌いまわし[11]、ゴスペルテイストのブルース[12]で締まる最後の流れが出色。(2024年4月21日) |
This Bitter Earth | ||
![]() 曲:★★★★ 演奏:★★★★ ジャズ入門度:★★★★ 評価:★★★ |
[Release Date] 2021 [1] This Bitter Earth [2] How Lovely To Be A Woman [3] You've Got To Be Carefully Taught [4] Getting To Know You [5] The Man I Love [6] You're The Dangelous Type [7] Trust In Me [8] He Hit Me (And It Felt Like A Kiss) [9] As Log As He Needs Me [10] Everybody Has The Right To Be Wrong [11] Prisoner Of Love [12] The Sports Page [13] Sing |
Veronica Swift (vo) Emmet Cohen (p except[8], celeste[4]) Yasushi Nakamura (b except[1][8]) Bryan Carter (ds except[1][8]) Lavinia Pavlish (violin [1][3][4][13]) Meitar Forkosh (violin [1][3][4][13]) Andrew Griffin (viola [1][3][4][13]) Susan D. Mandel (cello [1][3][4][13]) Aaron Johnson (as [6]), bfl [7], fl [7]) Armand Hirsch (g [8][13]) Steven Feifke (conductor [1][3][4][13], background vocals[13]) Ryan Paternite (background vocals[13]) Will Wakefield (background vocals[13]) Stone Robinson Elementary School Choir (background vocals [13]) Walton Middle School Girls Choir (background vocals [13]) |
基本的に前作の延長路線で、選曲も同じような傾向。一方でストリングスやコーラスを導入して普通のジャズ・ヴォーカルものから幅を広げようという意欲が表れている。このため、[1]をはじめ、より一般的なポップスに近寄った歌いまわしをところどころ聴くことができる。アルバム全体として、パフォーマンスのレベルが高いことは間違いないものの、強いクセがあるわけではないという意味では前作同様で、音楽の幅を少し広げたことで「どんな歌手なのか」という焦点がぼやけてしまった印象を受ける。この先、さらに音楽の幅を広げるのか?もし、そうならどの領域に行くのか、それで個性を確立できるのかなど、今後の方向性を心配してしまう。(2024年4月21日) |
Veronica Swift | ||
![]() 曲:★★★★★ 演奏:★★★★★ ジャズ入門度:★ 評価:★★★★★ |
[Release Date] 2023 [1] I Know What I Am [2] Closer [3] Do Nothing Till You Hear From Me [4] The Show Must Go On [5] I'm Always Chasing Rainbow [6] In The Moonlight [7] Sevred Heads [8] Je Veux Vivre [9] Chega De Saudede [10] Keep Yourself Alive [11] Don't Rain On My Parade |
Veronica Swift (vo) Adam Klipple (p [1][4][5][6][11]), key [2][3], org [2][3][10]) Philip Norris (elb [2][3][6][10]) Alex Claffy (b [1][4]) Chris Whiteman (g [2][3][6][7][10][11]) Brian Viglione (ds [1]?[3][6][10][11]), rhythm guitar [11], gang vocals [11]) James Sarno (tp [2][3][6][10]) Troy Roberts (ts [2][3][6][10][11]) David Leon (bs [2][3][6][10]) with: Mariano Aponte (gang vocals [11]) Benny Benack III (tp [3][6]) Ludovic Bier (accordion [8]) Pierre Blanchard (vln [8]) Carolynne Framil (background vocals [2][10]) Antonio Licusati (b [8]) Felix Maldonado (elb [11]) David Mann (woodwinds+digital orchestration [5][9]) Javier Nero (tb [3]) Austin Patterson (vo [7]) Luisito Quintero (per [4]) Samson Schmitt (g [8]) Antoine Silverman (violin+viola [5][9]) Randy Waldman: (p [5]intro) |
今後の方向性が心配だ、なんて思っていたら3枚目ではそれをあざ笑うかのように突き抜けてきた。そもそも、ヴェロニカ自身はもちろんジャズを出自としつつも、ジャズ執着したかったわけではなく、ここまでの活動に「このままで本当にいいんだろうか」と思っていたらしい。自分がやりたい音楽を全部詰め込んだというこのアルバムは、ヴェロニカ自身の曲のアイディアをロック系ドラマーのブライアン・ヴィグリオーネがプロデューサーとして仕立てて制作されたとのこと。[1]はジャズ・スタイルの演奏だけれども冒頭から飛び出るスキャットはもともと得意とする歌い方ながら漲る力強さとキレがこれまでと違う。[2]はなんとナイン・インチ・ネイルズのインダストリアル調の曲をハイテンションなファンクのスタイルで演奏、これをソウルフルに歌い上げる。中間部ではこれまた歯切れ良いスキャットを織り交ぜて、しかもこのファンク・アレンジの中にそれが見事に融合。エリントン作の[3]はコテコテのブルース・アレンジで、アレサ・フランクリンのように歌い上げている。クイーンのカバー[4](レオンカヴァッロのオペラの中の" 衣裳をつけろ"、ナット・キング・コールの"Cool! Cool Clown"を挿入)はピアノのみをバックに1コーラスを歌い、その歌にはこれまでヴェロニカに感じたことがなかったフレディ・マーキュリーの影響が垣間見える。そこから転じてラテン・ジャズ調はオリジナルの曲調とはまるで違い、歌い方もオリジナルとは異なるにもかかわらずフレディ・マーキュリーの影響を感じさせるリスペクトぶり。[4]はショパンの「幻想即興曲」をベースにミュージカル仕立てのアレンジをバックに歌い上げていてこれも様になっている。[5]はベートーヴェンの月光をベースにソウル・バラードのように歌いはじめ、その後の歌メロの展開やロック・バラードのアレンジにはクイーンを思わせるところがあり、フレディ・マーキュリーへのリスペクトを込めた感動的なバラードに仕上がっている。[6]はプッチーニのオペラからの曲でアコギ1本をバックに男性ヴォーカルとデュエット、[7]プッチーニのオペラからの曲でアコーディオンとアコギをバックにシャンソンのスタイルを披露する。[8]はグノーのオペラからの曲でストリングス(実際にはキーボード)をバックにリズム楽器なしで再びミュージカル風に歌う。[9]もホーンセクションが入ったブルース・バラード的なアレンジを施された、クイーンのデビュー曲のカバー(この曲をカバーをしている人なんているんだろうか?)。アンコール扱いの[10]はかなり激しいパンク・ロックで、これも見事に歌いこなしてる。これだけバラエティに富んだ曲を採り上げていながら付け焼き刃的なところは皆無、幅広いスタイルで、それでいて彼女ならではの1本筋が通った表現で歌いきり、それでも上手さが鼻につかないのは歌心に溢れているからに他ならない。演奏もアレンジもしっかりしており万華鏡のようにサウンドは華やかで、ソウルとガッツ、そして繊細な歌心までも備えた盛りだくさんの内容でありながら、Too Muchな感じがないまとまりの良さ(よくプロデュースできている)も特筆できる。これまで表に出ていなかったエンターテイナーとしての資質が開花しており、何でも歌える女性シンガーに興味がある人なら、聴いていないのは音楽体験の損失と言っても良いくらいの傑作。(2024年4月21日) |