Rock Listner's Guide To Jazz Music


Samara Joy



Samara Joy

曲:★★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★★★
評価:★★★★
[Release Date]
2021/7/9
[Recording Date]
2020/10/20, 21

[1] Stardust
[2] Everything Happens To Me
[3] If You Never Fall In Love With Me
[4] Let's Dream In The Moonlight
[5] It Only Happens Once
[6] Jim
[7] (It's Easy To See)
    The Trouble With Me Is You
[8] If You'd Stay The Way I Dream
[9] Lover Man
   (Oh Where Can You Be ?)
[10] Only A Moment Ago
[11] Moonglow
[12] But Beautifu
Samara Joy (vo)
Pasquale Frasso (g)
Ali Roland (b except[12])
Kenny Washington
   (ds except [7][9][10][12])
2枚目の「Lighter A While」を先に通ってからこちらを聴いてみた。クラウドファンディングで資金を募集したら目標の倍も集まったと言われている通り、SNSでは既に話題になっていたサマラ・ジョイはデビュー盤からマット・ピアソンがプロデュースという大物ぶり。ビリー・ホリデイ、ナット・キング・コール、カーメン・マクレエゆかりの曲を中心にチョイスしてオーソドックスなジャズを、オーソドックスに歌い上げている。このデビュー盤は、自然かつ伸びやかに歌っていて、現代風なサウンドを取り入れるようなところがまったくなく、オールド・スタイルのジャズ・ヴォーカルを求める方は「イマドキの最新録音でこんなジャズが聴けるとは」と喜べること請け合い。やや作り込み過ぎな「Lighter A While」よりもこちらに好感を持っている人が少なからずいるのは納得できる。編成もピアノレス、ギター入りカルテットに絞っていることからサウンドにも統一感があり、バックメンバーは揃いも揃って芸達者。ギター界の新星の呼び声高いパスカーレ・グラッソのプレイをたっぷり味わえるという点でも高得点。(2023年4月2日)

Lighter A While

曲:★★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★
[Release Date]
2022/9/16

[1] Can't Get Out Of This Mood
[2] Guess Who I Saw Today
[3] Nostalgia
[4] Sweet Pumpkin
[5] Misty
[6] Social Call
[7] I'm Confessin'
[8] Linger Awhile
[9] 'Round Midnight
[10] Someone To Watch Over Me
[11] I'm Glad There Is You
     (bonus track)
Samara Joy (vo)
Pasquale Grasso
     (g except[1][5])
Ben Paterson
     (p except[10])
David Wong
     (b except[10])
Kenny Washington
    (ds except[10])
現代のジャズ・ミュージシャンは50年代のスタンダード曲を50年代のスタイルのように演奏しても評価されることはなく、オリジナル曲、独自の音楽性が求められるところは歌手であってもその例に漏れない。ジャズ・シンガーにカテゴライズされる歌手もポップスとの親和性が高くなり、ホセ・ジェイムズなどのようにヒップホップ、R&Bなどの要素を取り入れたり、セシル・マクローリン・サルヴァントのようにジャンルの枠を超えた曲を取り上げるのが現代のジャズ・ヴォーカリストの在り方。そんな現代に、これ以上ないくらい古典的王道ジャズ・ヴォーカルのスタイルで往年のスタンダードを23歳の女性がゆったり歌うというのは逆に新鮮に映る。その歌いっぷりは堂に入り、技巧は高く、表現力もあり、誰が聴いても上手いなあと思わせる実力があるのだから、ちょっとした衝撃を与えているのも、なるほどとすんなり納得できてしまう。バックの演奏も、今風の色付けをしようという素振りがまったくなく、洗練されてはいるもののオーソドックスなジャズのスタイルに徹していている。一方で、何度か繰り返し聴いているとやはりその歌は若いなあと思うところも感じるようになってきた。ジャズ・ヴォーカルというのは(もちろんヴォーカル以外も)それなりの技術が必要である。一方で、完璧な音程コントロールがあれば良いというものでもなく、人気の高い歌手は独特の歌い回しが聴き手を惹きつける。特に50年代ころに活躍した歌手は独特の歌い回しこそが生命線で、表現は技巧に頼ったものではなく粋を感じさせるところに魅力がある。また、比較的最近の歌手であればダイアナ・クラールのような大人の落ち着きや、カサンドラ・ウィルソンのような独特なしゃがれ声の渋みといった、まさにその人でないと聴くことができない味を備えた歌手が高く評価されている。マット・ピアソン仕上げのサマラ・ジョイは現代の歌手らしく声量も音程をコントロールする技術も申し分ない。若さを武器にした張りと厚みのある声が魅力でR&Bやソウルを完璧に歌い上げることもできることが容易に推測できる。あとは表現と個性という点がどうか。厳しい目で見ると、現時点ではまだ「サマラ・ジョイならでは」というスタイルと表現の主張が弱いと思う。もちろん、大きく包み込むようなスケールの大きな歌い方はすでに個性になっているし、歌に表情を与える力もある。それでもあえて厳しいことを言うなら、お行儀が良くて、ある意味強引さを以って自我を押し通すような歌い方はしていない。それはまだ歌に余裕がないということなのかもしれない。あと、キレのあるリズム感は彼女の得意とするところではない(とはいえ苦にしているわけではない)ところも見えてきた。もちろん、あえて言うならば、ということであって、実力が確かなのは間違いなく、技術があっても無機質であるとかそういうことはまったくない。別の言い方をするなら、素直で瑞々しい歌い方ということでもある。本来なら経験を積み重ねて身に着けていく歌唱力と懐の深い声を備えていながら、アクがない素直な歌いっぷり、どっしりした張りのある声の若々しさというアンバランスなところが今の彼女の魅力になっている。(2023年4月2日)

Portrait

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★★★
評価:★★★★★
[Release Date]
2024/10/11

[1] You Stepped Out Of A Dream
[2] Reincarnation Of A Lovebird
[3] Autumn Noctune
[4] Piece Of Mind
    / Dreams Come True
[5] A Fiool In Love (Is Called A Clown)
[6] No More Blues
[7] Now And Then
   (In Remembrance Of...)
[8] Day By Day
[9] Three Little Words
Samara Joy (Vo)
Jason Charos (tp, flh)
Kendric McCallister (ts)
David Mason (as, fl)
Donovan Austin (tb)
Connor Rohrer (p)
Felix Moseholm (b)
Evan Sherman (ds)
デビュー時から話題になり、すでにグラミー賞を3度受賞とあってジャズ界ではスターと言っても良い存在になったサマラ・ジョイ。最初に聴いたときは、イマドキ珍しい王道ジャズ・ヴォーカルをこんなに若い人が歌っているんだ、へえー、確かに歌は上手いね、という感想を持ったものだった。その時点でリリースされていたアルバム、特に2枚目の「Lighter A While」はキャリア豊富なバックに支えられて手堅い、お行儀の良いジャズ・ヴォーカルに仕上がっていた。その後、2023年4月にヴィレッジ・ヴァンガードで聴いたサマラ・ジョイは、普段着に近い格好でホームパーティで歌っているかのように思い切りよく歌っており、これが素の姿なんだなということがわかるライヴだった。そして、それから僕は彼女のCDをほとんど聴かなくなってしまった。生で聴いたことで、これまでのアルバムはプロデューサー、マット・ピアソンが作り込んだ、彼女本来の姿ではないことがわかってしまったから。もちろん「Lighter A While」も本来の姿と違う虚像を作り上げていたわけではなく、サマラ・ジョイの持っている一面であったことは間違いない。マット・ピアソンはイマドキ珍しい、旧来のジャズ・ヴォーカルをしっかり歌うことができる新人のイメージを決定づけるプロデュースしたという意味で良い仕事をしていたとは言えるんだけれど、それ故にサマラ・ジョイをいう歌手のポテンシャルを広く引き出す手段を取らなかった、ということである。このアルバムでのサマラ・ジョイの思い切りの良い歌いっぷりは、これまでのCDとは明らかに趣を異にする。ヴィレッジ・ヴァンガードで聴いた、あまりにも自由奔放な歌い方とまではいかないにしても、あの時に感じた彼女本来の歌いっぷりがここにはある。時にビッグバンドのようなムードもある厚いホーン・アンサンブルにも統一感があり、これまでなかったラテン・テイストの曲も織り込んで、アルバムを通して主張したいことが良く表現できている。それは、プロデューサー、ブライアン・リンチ(サマラ・ジョイも共同で名を連ねる)が引き出したもの。時に耳障りとも聞こえるファルセットの歌い回しも含め、スタジオ録音としての枠に収めながらも自由奔放に歌うサマラ・ジョイを初めて世に問うた好盤。(2024年10月14日)