国際犯罪組織バイオネットに籍を置くメタルサイボーグのプロトタイプ。ゾンダーメタル研究の成果を、バイオサイボーグ改造技術にフィードバックし生み出されたメタルサイボーグは、擬似的にとはいえ金属と生体部品の融合を実現していたと言われる。シュウの身体は全身がワイヤー状のパーツが収束する事で構成されており、これを自在に分離、展開、集束、硬化させる変幻自在の攻撃を得意としている。セクション9で優秀な成績を残していたシュウは、自らメタルサイボーグへの改造を志願し、多数の仲間や同志が改造手術とその後の訓練や、身体の拒否反応に耐えられず生命を落としていく中、ただ一人生き延びたばかりか、実戦投入に充分に耐えうると判断されるほどの力を身に付けていたのである。
バイオネットエージェントには珍しく、自ら陣頭に立って正々堂々とした戦う事を好む。同時に自らの能力を十全に発揮できる高い技量も持ち合わせており、それに裏打ちされたプライドの持ち主でもある。しかし、急速にしかも研究途上の技術で改造された身体には、いつその身体が崩壊してもおかしくないほどの負荷が既に蓄積されていた。それをおして新型ガオーマシン奪取作戦で実働部隊指揮官を務め、多数のハイブリッドヒューマンやメタルサイボーグを率いて実験中のGGGを強襲、エヴォリュダー・ガイさえ圧倒する脅威の戦闘能力を見せつけ、最終的には全てのガオーマシンを掌握し、ファイナルフュージョンを敢行するまでに至るが、その苛烈な負荷にもはや身体が耐えられず、崩壊。その生命を散らせた。
その戦いを支えたのは、妄執とも言うべき獅子王凱への執着であった。鰐淵シュウは、かつて獅子王凱や卯都木命の高校時代のクラスメイトであり、ガイと文武両面にわたって校内トップの座を争い続けた無二のライバルでもあったのだ。しかし、彼は幾多の対戦の中で、一度たりともガイに勝利することができなかった。「万年二位」という周囲の心無い陰口に、元来プライドが高かったシュウは、ガイを乗り越える事こそが自身の運命を乗り越える事なのだと確信し(その契機となったのはガイの史上最年少アストロノーツ就任であるとも、ガイとミコトの正式な交際が始まったことであるとも言われている)、遂にガイに決闘を申し込む。だが運命は彼の前から、決着の場すら奪い去っていく。
EI−01とスピリッツ号の接触事件である。一般にはガイは死亡したものと発表され、これによりシュウの執念は決闘前の強烈なボルテージにありながら行き場を失ってしまった。彼は荒れた。戦い、勝ち取る事こそ彼の望むところだったからである。それが適わない今、彼は内に溜め込んだ莫大なエネルギィを持て余し、次第に暴力の世界へと身を沈めていく。しかし、運命が彼から決着の場を持ち去ったのだとしたら、これは幸運と呼ぶべきだろうか。彼はガイを失って陥った暴力の世界にあったからこそ、いち早くガイの生存と彼がGストーンのサイボーグとなって機界文明と戦っている事を知ることができたのである。失った事によって行き着いた場所で、失ったものを再び見出したのである。これこそが天の配剤であったのか。しかし少なくとも彼はそう信じた。セクション9から強力なプロテクトが施されていたはずの幹部専用回線へ侵入し、ギムレットに談判のメールを送りつけ、メタルサイボーグへの改造手術の被験体の一人となりおおせた。次々と倒れる仲間たちの屍を喰らい、血をすすり、骨で足場を組むように、彼は地歩を確実に固め、遂に唯一最後の生き残りとして、メタルサイボーグ化の手術と訓練に耐え抜いたのである。
以後の経緯は前述したとおりであるが、不完全なはずのシュウの身体が時に超進化人類であるエヴォリュダー・ガイさえ凌駕し、遂には全てのガオーマシンをその手にするという、バイオネットのどのエージェントも成し遂げた事のない「偉業」を達成する事が出来た。それを支えたのは他ならない彼の執念であった。信じがたい事だが、高校生時代に立てた誓い、「ガイに勝つ」ことだけを糧として彼は次々と「不可能」を「可能」にしていった。新型ガオーマシン奪取作戦の作戦指揮官であり、同時にセクション9の統轄官の一人でもあったギムレットが彼を実働部隊指揮官に任命したのも、本来ならばとっくに崩壊しているはずのシュウの体を支えているファクターが何なのか、科学者として興味をそそられたことが理由の一つなのだろう。
シュウの身体はその基礎設計概念を、機界文明においている。ゾンダーメタルはストレスをはじめ、知的生命体のマイナス思念をエネルギィ源とする。彼の「執念」に、その身体の奥底に流れる異星のテクノロジーが応えたのだろうか。ガイは言った。「俺たちは人間を超越した力を得た・・・。その力を使ってこれからも共に戦い、競い合っていけるはずだ!勇者として!!」しかし、その言葉は彼にとっては輝かしすぎて、同時に遅すぎた。そのちからを手にするまでの間に、踏み越えてきた屍の数と、手を染めた犯罪行為の数々は、決して消し去る事はできない。そしてそれを償うための時間さえ、彼には与えられていなかったのだ。
もし、彼の「執念」が、違うベクトルに振り向けられていたら・・・。そう想像せずにはいられない何かが、鰐淵シュウという青年の生き様には、ある。