世界制服を企む悪の国際犯罪組織バイオネットが2000年代から、その科学力の全てを結集し開発を試みた生体改造を施した戦闘用サイボーグ。
これまでバイオネットによって開発、運用されてきた戦闘用サイボーグは主に体表への装甲材の癒着、骨格の強化、筋力増強剤の大量投与が中心で、単純に身体能力を強化した人間以上のものではなかった。もっとも、その能力は屈強な職業軍人をも遥かに凌駕するものだったが、次第にその限界を露呈させてもいた。バイオネットの技術者たちにとって最大の課題は、人間の生体としての限界そのものにあった。いかに装甲材で防御能力を強化し、全身の骨格を金属補強で強化したとしても、人間の身体強化には早々に限界が訪れる。装甲材を厚くすれば重量が増し、歩行すらままならなくなる。それを防ぐ為に骨格を強化し、薬物で筋力を強化したとしてもそれが更なる重量増加を招き、それ対処するため更なる強化が施される。そうするうち過度な筋力増強剤の投与が被験者の全身の筋肉を破壊してしまう・・・。かといって常識的な範囲で強化を施しても、年々強力になってゆく各国の銃砲火器に耐え抜くことはできない。これであれば兵士に防弾ジャケットを着せたほうが遥かに安上がりであるし、戦車を開発した方がよほど実戦的であったといえる。それ以前にそうした過度の強化に耐えうる人間などそうそう存在するはずはなく、また当時の免疫抑制技術では、被験者の寿命をいたずらに短縮してゆくだけの作業に過ぎなかった。
数々の失敗に教訓を得たバイオネット技術陣は悪魔的な着想をそのまま実行に移すこととなる。そもそも人間という生物自体が「戦闘」向きにはできていない。肉体は脆弱であり、身体能力や感覚器官も他の動物に劣ること甚だしい。だが人間がこうまで地球上を席巻できたのは、その知性の存在があったからに他ならない。すなわち、他の動物群の能力と、人間の知性を持ち合わせた存在こそ、次世代の戦闘力に相応しい―。自身の数倍の体重を持つものを易々と持ち上げ、体長の数十倍の距離からの落下にも耐える昆虫の強靭な肉体。蝙蝠やイルカの高度なエコーロケーション能力。肉食獣たちの獰猛たる狩猟本能とそれを充足させうる強靭にしてしなやかな筋肉、そして鋭利な牙や爪といった生体武器。それらを人為的に人間に付与し、自在に操ることができればそれは最強の兵士たりえるのではないか。ドクターモローの見た夢を現実のものとするべくバイオネット技術陣は遺伝子の解体と再構成に手を染めてゆくのである。だが、これらの試みも難航を極めた。彼等の怨念がバイオネットの獣人軍団―ハイブリッドヒューマンとして結実するのはジュピターX強奪後、そこに宿る無限エネルギィを手にするまで時を待つ必要があったのである。
だが、このハイブリッドヒューマン計画も短期間でその限界を露呈させていく。それは生命の進化の不可逆性がもたらすものなのか、獣の持つ超越的能力と人間の知性は、いかにジュピターXを介在させたとしてもその両立を図ることができなくなったのである。獣人達の知性はきわめて低く、戦闘指揮官からの命令をかろうじて遂行できる程度に留まり、個体によってはそれすら困難なものも少なくなかったのである。これでは、自身の戦力として運用するにはまだしも、「商品」としては成立しない。更に、ジュピターXの爆発消失が追い討ちとなりバイオネット技術陣は新たな戦闘用サイボーグの開発を余儀なくされていく。そのとき、地球ではゾンダーと呼ばれる異文明からの侵略者との戦いが激化していた。ゾンダーが持つ、旺盛な再生融合能力は、バイオネット技術陣に新たな示唆を示していた。かくしてバイオネットの戦闘用サイボーグ開発史はメタルサイボーグの時代へと推移していくのである。
バイオサイボーグとはこうした流れの中で、従来の戦闘サイボーグからハイブリッドヒューマンへ、そしてまた再びメタルサイボーグへと移行していく中で、ハイブリッドヒューマンのバイオテックを次世代の戦闘用サイボーグに応用せんとして開発されたプロトタイプサイボーグ群を指す。(人間にこだわらず)生体部品を多用し、人間を生化学的に強化したものと言われているが、現実には人間がもつ免疫反応に対して充分な現実的対処も執られていない「欠陥品」であった。計十数体のプロトタイプの多くは、無理矢理に埋め込まれた生体部品への身体の拒否反応によって命を落としていったと言われている。
なお、未確認情報であるがEUの秘密警察組織シャッセールに所属する豪腕捜査官「獅子の女王」ことルネ・カーディフ・獅子王もバイオサイボーグたるために生体改造を受けていたとされている。