●幻のビデオゲーム 関西精機製作所は、国産初のビデオゲーム・ポントロン（セガ・1973年）が出回っていた頃、ビクターと共同で業務用ビデオゲームの試作しAMショーで発表している。1973年＝昭和48年といえば、まだ前年末にPONG(アタリ社）が業務用ビデオゲームとして初上陸したばかりである。そんな超初期に、なんといきなりカラー方式。操縦桿（そうじゅうかん）コントローラーを動かしくじらが小魚を食べるという内容で、その名をプレイトロンと言った。 ��橋：うちがその技術がなかったから、映像技術と言う部分ではすべてビクターに提供してもらって うちがやったのはハンドルまわりね。レバー関係、キャビネット。当時、僕も記憶が定かではないけれど、基盤がね、何枚もあったと記憶してるよ。 水田：これはコンベアで量産の準備もしていたし、ブラウン管も用意していた。なにせ、ビクターだから。 寺町：カラーって、色テープじゃなく、本当のカラーですよね? 水田：カラー。試作は2台つくってね。海のゲームで、バックは海ということでブルー。鯨（灰色か黒）が、泳いでいる魚（赤っぽい色）を食べるゲーム。赤というのは、ゲームだからよく目立つようにしていたんだと思う。 ��橋（富）：ワカメはアニメしていてグリーン、そこに魚が泳いでいる。 寺町：すでに現物が存在していたと? ��橋：完成していましたよ。名称は覚えていないけれど、名前はあったと思うんだ。 寺町：ポントロンの時代でしょ？それすごいですよね。みんなTTL制御で? ��橋：いや、覚えていない。 　コインジャーナルの関西精機製作所の記事（号数不明）によると、このゲームはアナログ方式だったという。関係者の方に確認したが、とにかく「デジタルではないもの･･･」。 　上の写真は、以前関西精機製作所に保管されていたという1枚だが、これがビデオゲームのデモだというのは見てとおりわかる。よく注目して欲しい。表示されているキャラクターは直線がすっきりとシャープで、まるでドット絵のようには見えないのだ。単に写真のピントが甘いだけなのか?それとも全く前例のない、例えば切り絵をブラウン管に映す･･･そんな雰囲気のハードウエアだったのだろうか? 水田：あれ出していたらビルがたってだろうね。ただ、途中でやめたんだよね。それは途中でビクターの社長が変わって。次の社長がやらなかったわけ。 ��橋：ビクターの社長が途中で交代された、と。ということで「この業界は参入するな」と。いうことで申し訳ありませんと断ってきたと。その時に関西精機さんでやられるんでしたら自分たちが協力できる部分については協力します、ということだったけれども一切そうした経験もなにもなかったし、当時の関西精機一社の力ではできなかったということでお蔵に入ってしまったというのが流れかな。 だからね、当時本当にビクターと関西精機がいっしょにやっていたら今のソニーもありません。いまのセガもありません。間違い無くビクターがこの業界の王者になっていたと僕は思う。関西精機という会社もかわっていたし、ゲーム業界もかわっていたであろうと思うよ。 寺町：うわわー!!それはすごいですねえ。 例えばビクターがアミューズメントマシンから発展して家庭用ゲーム機までつくったりとか。また、関西精機が家庭用ゲーム事業部をもっていたり。 ��橋：そうです。そんな時代が来ていたと思います。それは僕ら第一線にいたからよく肌で感じましたよ。 僕らが辞めていった原因もそこにあるんだけど。このままでは会社はもたんと。また、会議の中でそういう話をしたこともあるよ。それはまあ、簡単に言ったら力がなかったということですわ。（笑） 寺町：ははあ。 ��橋：やるだけの資金力は当時あったと思うんだけど、まあ･･･。 寺町：まあ･･･上のお考えの中に、そういったお考えがなかったと。 ��橋：先ほど中村（雅哉）さんのお話が出てきたけれども、中村さんも大体月に１、2回は関西精機の方におみえになっていましたね。僕は九州から出てきて寮にいたんだけど、丁度お盆の中頃でしたよ。専務から電話がかかってきて「中村さんが来られるから車を出してくれ」ということで、奥さんと娘さんと3人で京都市内を観光にこられたんだと思うんだけど。車にワックスかけて、夏だったんでちょっとカルピスを出して。 　その時のことをいつも思うんだけど、やっぱり関西精機と違ったということだね。 2つも3つも前に行ってたということですよ。今も忘れもしないけれど「��橋君、君、これから僕らの業界は、東京大学の電子工学をでてきたくらいの人達を必要とする時代なんだよ、これからの時代は!」と僕に言われた。当時は「この人は何を言うとんにゃ」と(笑）。「リレー（スイッチ）くらい、それくらいのことは俺らにもわかるんや」と。 当時まだ真空管もあったし、トランジスタが出てくる時代の話だったから「何が東京大学の電子工学や」と。ものすごくインパクトにのこっていますよ。 その後、関西精機製作所はビデオゲームとは疎遠となる。1979年のインベーダーブームをへて、業界の流れはビデオゲームの比重が大きくなるが、関西精機製作所はあいかわらずブラウン管をつかわないゲーム機を作りつづけていた。任天堂からTVゲームの下請けをやらないか?という話もあったそうだが、流れが変わることはなかった。 ��橋：僕らが会社を出た時が、ちょうどインベーダーが出た時だったから、間違い無く今後大きな水が開いていくということがはっきりしていたから。そりゃ、メカニックゲームで残って行けたらよかったよ。だけどやっぱりこの大きな流れ。僕は会社の中でもよく言うけれど、大河の流れというものは、小さな流れでは変えられないんだから。ちいさな溝なら自分でせきとめることはできますよ。だけど当時の流れはどうだといったら、まちがいなくビデオゲームにながれつつあったわけですよ。お子さんの頃だから覚えているとは思いますけど、どこのゲームセンターに行ってもひとつのビデオゲーム・インベーダーが何十台、多いところで100台とあったわけですよ。 ということはもう間違い無くアミューズメントの流れが大きく変化をしていく時代であったわけです。 それに乗り遅れたと。 当時の会社、みんな大きくなって上場公開をしています。そして僕らくらいの年齢のみなさん、それぞれ大企業の重役になられたり、またはその会社の株を持たれたり、大きな富を得ていると。いうのが実態ですよ。 寺町：うーん。だけど関西精機製作所を知らない若い子がきいたら、すごい素朴に疑問に思うと思いますね。（ビデオゲームを）1台でもやりゃよかったじゃんって。 ��橋：それはやっぱり経営者は自分がやってきたことは正しいと思うから。今はそうでもいつかはまたこのメカニックでとりかえすことができるんだ、というものがあったんだと思う。 水田：マシンゲームへのこだわりだろうなあ。 ��橋：うん、正しいと思って進んできているから。そこがやっぱり経営の難しいところなんですよ。僕らも何回も訴えましたけどね。

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