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Novel

小説

小説の中に使われた小説・戯曲などのご紹介をしています。漫画の中に使われた小説・戯曲はこちらへ。

■海外編                                     海外編|国内編

『わたしはロボット』(アイザック・アシモフ)

私がクリスマスの前日にサンティエゴに来た目的は、亡くなった父親のガレージを整理するためだった。父が亡くなって四ヶ月が過ぎ、母のためにも少しずつ父の持ち物を整理したほうがよいと思ったからだ。
そして、私は思い出す……。手仕事が得意で、正直で、生涯戦う勇気を持っていた父のことを。

(ケニー・ケンプ 『父の道具箱』 角川書店)

『人魚姫』(アンデルセン)

作中で演じられる劇。野原真夏は、ほとんど決定していた人魚姫の役を別の少女に取られてしまう。その少女は真夏の好きな男の子とどうやら付き合い始めたらしい。……ネコが取り持つラブ・ストーリー。

(谷山浩子 『きみの瞳につまづいたネコ』 集英社文庫)

『地底旅行』(ジュール・ヴェルヌ)

内藤内人(ないと)はごくふつうの中学生(と自分では思っている)。しかし、竜王創也(そうや)と共にいつも冒険に巻き込まれてしまうのだ。創也の目的は、伝説のゲームクリエイターである栗井英太をさがすことだ。そして、この栗井英太さがしが結局冒険につながってしまう……。
さて、今度の冒険は?

(はやみねかおる 『都会のトム&ソーヤA』 講談社)

『1984年』(ジョージ・オーウェル)

予備校生のホンダハルコは、自分が六十四歳になると決めた瞬間から六十四歳になった。すっかり「枯れて」しまったハルコは、予備校の午後の授業をたまに受けながら、委員長というあだなの友人ととそれなりに楽しく過ごしている。
ある日、高校時代の知り合いのテシロギから誘いの電話がかかってきて、出かけることになるハルコだが……。

読書家の委員長が高校時代に読むと決めた本が、助詞の「と」が入っている本のみなど、本のタイトルがたくさん出てきて面白い。

(藤野千夜 『少年と少女のポルカ』 講談社文庫 収録 「午後の時間割」)

『城』(カフカ)

「ちょっと遠出するかもしれん」
こんな言葉だけを残して旅に出た推理小説研究会の先輩を案じて、後輩たちは彼が出かけたであろう場所へと行くことにした。
そこは宗教団体・人類協会の聖地である、神倉。
彼らは宗教団体の総本部の中にいるらしき先輩と連絡をとろうとするが、なかなか会わせてもらえない。
しかも、団体内部で起きた殺人事件にも出くわして……。

江神シリーズ第四弾。

(有栖川有栖 『女王国の城』 東京創元社)

『ジェニィ』(ポール・ギャリコ/古沢安二郎訳 新潮文庫)

いつの間にか僕は猫の中に入ることができるようになっていた。そして、ピーターという犬に助けてもらった僕は、自分を「ジェニィ」と名乗る。もちろん、ポール・ギャリコの名作『ジェニィ』からもらった名前だ。ある日、僕と同じ小学校の生徒が事件に巻き込まれ、僕は猫の姿でそれを解決しようとしたのだが……。ギャリコの『ジェニィ』の設定と名前を借りたほろにがいミステリ。

『さすらいのジェニー』(矢川澄子訳/角川文庫・大和書房)もあり。

(西澤保彦 『いつか、ふたりは二匹』 講談社ミステリーランド)

『不思議の国のアリス』(ルイス・キャロル)

主人公が穴に落ちるシーンで思い出す話。『不思議の国のアリス』のあのシーンは、異世界への移動パターンの典型だろう。続編の『鏡の国のアリス』も文句なしにおすすめ。他に、エリック・サティのピアノ曲や『大きなかぶ』(小学校教科書の定番)も登場。

(はやみねかおる 『ぼくと未来屋の夏』 講談社)

ニューヨークで起こった連続絞殺事件。被害者同士に関連は見つからず、動機もはっきりと分からない。<猫>と呼ばれるようになった絞殺魔の事件を担当することになったクイーン警視を助けるために、エラリイも事件の捜査に加わるのだが……。

(エラリイ・クイーン 『九尾の猫』 ハヤカワ文庫)

少年野球の物語を書くために取材に来たことのあるグラウンドで、私はアリスという名前の女の子と再会した。彼女はかつて私が取材したチームのエースだった。
中学生になる彼女はもう野球を続けることはないはずだが、昨日までおかしなところで投げていたと話してくれた。

新聞記者の宇佐木さんを追って彼女がたどりついた世界とは?

(北村薫 『野球の国のアリス』 講談社)

『Yの悲劇』(エラリー・クイーン)

泥棒を仕事にしている俺は、ある新興住宅に盗みに入ったときに、不運な天災にあってしまう。そして、目を開けてみると、そこには双子の男の子たちがいた。俺は彼らの家(ターゲットの隣の家)の屋根から転げ落ちたらしい。 盗みの際に屋根から落ちて身動きのできない俺は、仕方なく彼らの様子をうかがうことにする。

彼らが警察に通報することをしなかったのは、両親がそれぞれ駆け落ちをしてしまい、お金に困っていたからだった。一応助けてもらったということもあり、俺はもう一度隣りの家に盗みに入ろうと決意した。ところが、進入した隣りの家の内部は鏡だらけだったのだ……。連作ミステリ。
他に、エド・マクベインの「87分署」シリーズや、『ドルリー・レーンの最後の事件』なども登場。

(宮部みゆき 『ステップファザー・ステップ』 講談社)

『ABC殺人事件』(アガサ・クリスティ)

最初に殺されたのは、朝倉一輝だった。兵庫県尼崎市安藤町の路上で。
第二の事件は、豊中市別院町で、番藤ロミが殺されたもの。
そして、警察に送られてきたのは、奇怪なメッセージ。「アルファベットは26文字。手元の弾丸は26発。やってみよう。ためしてみよう。……」

犯行現場の地名と名前のイニシャルが一致している――この事件で思い起こされたのが、クリスティの『ABC殺人事件』。

(有栖川有栖 『モロッコ水晶の謎』 講談社 収録 「ABCキラー」)

『せかいにパーレただひとり』(イェンス=シースゴール作)

親友レベッカを亡くした少年ユストは、どうしようもなく哀しく、レベッカがいなければ生きていけないと思いつめている。そして、自分の周りが実態もなく、場所さえもない状態になったと感じてしまう。しかし、そこでユストはレベッカに出会うのだ。レベッカは、ユストを宇宙やさまざまな場所をめぐる不思議な旅へと連れて行く。

『せかいにパーレただひとり』のパーレも、ある朝目覚めたら世界に自分しかいなかった――そんな世界を最初は楽しんでいたパーレだけれど、という話。

(ベント・ハラー 『天使の足あと』 徳間書店)

『ロミオとジュリエット』(シェイクスピア)

主人公のヘルヴァは「歌う船」として有名な”脳”。(宇宙船の身体を与えられ、<中央諸世界連合>の元で働いている)

ベータ・コルヴィ人という生物を見つけた<中央諸世界連合>は、彼らの持つ科学知識と交換にあるものを教えることになった。彼らがひどくほしがったものは「芝居」であり、選ばれた演目が「ロミオとジュリエット」。

(アン・マキャフリー 『歌う船』 創元推理文庫)

新しい学校に転校してきた一ヵ月後、瀬田歩は秋本高史に「おつきあい」を申し込まれてしまう。同性の自分より体格のいいクラスメートからの言葉を最初は誤解していた歩だが、秋本は自分と「漫才のコンビ」を組もうと言い出したのだ。……結局、文化祭の劇で「ロミオとジュリエット」(通称・ロミジュリ)を漫才でやることになってしまって……。

(あさのあつこ 『The MANZAI』 カラフル文庫)

舞台監督を務めた『ロミオとジュリエット』の本番当日、同級生の山根に告白した水元頼子は見事にふられてしまう。山根とは別の高校に進んだそれから約二年後、頼子はあこがれの片桐先輩がいる新聞部に在籍していた。
ある日、片桐先輩の提案から学校の資料室を取材することになった頼子だが、隠し部屋でタロットカードを見つけたことから、そのタロットに宿る精霊たちの争いに巻き込まれてしまい……。

(皆川ゆか 『《魔法使い》にお願い?I』 講談社X文庫)

『ハムレット』(シェイクスピア)

本屋の主人になったぼく。はりきっていた初日のお客さまは友人がひとりだけ。その友人のすすめでびらをまいたところ、次の日からやってきたお客さまたちは何と……!

(竹下文子 『星とトランペット』 ブッキング 収録「タンポポ書店のお客さま」)

NO.6という「理想の都市」に住む権利を与えられ、豊かで安定した生活を保証されていた紫苑。嵐の夜、突然の侵入者・ネズミを匿ったことで、彼の生活は一変する。しかし、その後罠にはまり、矯正施設へ連行されそうになった紫苑を救ったのは、そのネズミだった……。そして、ネズミと紫苑との奇妙な生活が始まった。

この本は、ネズミとの会話の途中で、「読め」と紫苑がおしつけられたもの。

(あさのあつこ 『NO.6』 講談社)

イリノイ州の田舎に1軒の屋敷がある。そこは、世界中の魔力あるものの隠れ家だ。そこに住むものは、エジプト生まれの「ひいが千回つくおばあちゃん」「心を自由に飛ばす魔女」「緑の翼を持つおじさん」「たったひとりの人間の子ども」……。

世界各地に散らばる一族たちが、久しぶりに集まる「集会」の日。久しぶりの再会と別れ、再び出会おうという約束。しかし、人間たちの変化が、この屋敷にも少しずつ押し寄せてこようとしていた。
『ハムレット』の他にも、『クリスマス・キャロル』、『嵐が丘』、『ねじの回転』、『レベッカ』、『猿の手』などへの言及がある。

(レイ・ブラッドベリ 『塵よりよみがえり』 河出書房新社)

『マクベス』(シェイクスピア)

ナヴァの名前はナヴァホ族からきたものだ。ナヴァの父親はベトナム戦争に従軍し、ナヴァホ族出身の軍曹に助けられていた。大怪我をした父親は、誰か新しい魂が体の中に入ってきて、自分は別人に生まれ変わったというが、昔の話をしたがらない。

そして、大きくなったナヴァに付きまとってくる男、ティム。ドラッグの売人をしていて、ナヴァにもすすめてくるような男だ。しかし、そのティムが誰かの告げ口で警察に捕まったあと、ナヴァは不思議な夢を見はじめる……。

(ハイム・ポトク 『ゼブラ』 青山出版社)収録「ナヴァ」)

「猿の手」(ウィリアム・W・ジェイコブズ)

大阪港の第四突堤の岸壁で、ふらつきながら走ってきた車が海に転落したのが目撃された。中にいた中年男性は溺死したのだが、車が転落した時点でその男性は睡眠薬により眠っていたと思われ、他の誰かが運転していた可能性が高いという。
事件に関係のありそうな人物は3人。しかし、調べてみてもその人物たちには犯行は不可能のように思われて……。

臨床犯罪学者・火村英夫と推理作家・有栖川有栖の活躍するシリーズ。

(有栖川有栖 『妃は船を沈める』 光文社)

『みずうみ/Immensee』(シュトルム/岩波文庫)

作中、文化祭で演じられる劇の演目。女子だけの中学なので、ラインハルト役ももちろん少女が演じる。女子だけの寄宿生活・学校生活が生き生きと描かれている。

(氷室冴子 『クララ白書』 集英社コバルト文庫)

『宝島』(スティーブンソン/岩波文庫など)

夏休みは赤バラ軍と白バラ軍の戦い(バラ戦争呼んでいる)に全力をあげてかかれるので、カッレたち3人はうれしくてしかたない。

ところが、ある日、カッレの仲間のひとりエーヴァ・ロッタが高利貸し殺しの犯人らしき男を目撃してしまう。気が進まないながらも、カッレは犯罪捜査に乗り出すことになって……。

(リンドグレーン 『カッレくんの冒険』 岩波少年文庫)

『シャーロック・ホームズの冒険』(コナン・ドイル)

省エネ生活をモットーとする、古典部所属の折木奉太郎は、夏休みにも関わらず部活動の打ち合わせのために学校に行っていた。そこで、部長の千反田えるに誘われて、あるクラスが文化祭に出品する自主映画(ミステリー)を見てほしいと頼まれてしまう。
ラストを明かされぬ終わり方をしたその映画の結末を探すのを手伝うはめになる部員たちだが……。

古典部員が活躍する同じ作者の『氷菓』については、こちらへ。

(米澤穂信 『愚者のエンドロール』 角川スニーカー文庫)

『罪と罰』(ドストエフスキー)

「中学二年生の一年間で、あたし、大西葵十三歳は、人をふたり殺した」(p.7)

山口県下関市の沖合いにある島に住む葵は、母親と血のつながらない父親と暮らす、平凡な少女だった。しかし、中学ニ年生の夏、葵は宮乃下静香と話をするようになる……そこから、彼女たちの運命は大きく変わっていったのだ。

「殺人者」という、「少女には向かない職業」をなぜ、彼女たちは選ばざるをえなかったのだろうか。

(桜庭一樹 『少女には向かない職業』 東京創元社)

崖の上に建つ館に、今年もいとこたちが集まった。館に住むおばさんのところに遊びに来たのは、「研さん」、「真一さん」、「棹ちゃん」、「由莉ちゃん」、「哲文くん」、そして涼子。
平穏に過ぎるはずの休みに、またも不可思議な事件が起きたとき、彼らは二年前亡くなった彼らのいとこ千波を思わずにはいられない。
彼女の死には不可解な点が多すぎた。

いとこたちによって始められた謎解きが行き着く先とは?

長らく絶版状態が続いていたが、2007年に復刊。

(佐々木丸美 『崖の館』 講談社文庫)

『コレクター』(ジョン・ファウルズ)

人間の<情報的似姿>を官能素空間に送り込むことによって、人間は現実生活を送りながら、仮想リゾート<数値海岸>でさまざまな体験をできるようになった。

その技術を可能にした女性・阿形渓は、十二歳から<ラギッド・ガール>という作品をリリースした張本人であり、その作品・阿雅砂と名乗る少女とは、サイトの中で偶然のようにしか出会うことができない。
しかし、阿雅砂を生け捕りにしようとするものは多く、彼らは阿雅砂を加工し、作品としてサイトで公表するのだった。特に<キャリバン>と名乗るコレクターが異常性においてきわだっており……。

(飛浩隆 『ラギッド・ガール』 東京創元社 収録 同名短編)

『タタール人の砂漠』(ディーノ・ブッツァーティ/集英社)

姪からのことづてにより、かつての自分の作品『LOST・GARDEN』のことを思い出したF・Gは、その作品を賞賛してくれた評論家に会うのをためらっていた。なぜなら、その作品はかつての夫の手元にあるのだ。簡単に貸し出してもらうこともできない。F・Gは、自分のことに関心を寄せる姪や評論家と交流するうちに、自分の過去を少しずつ思い出していく。
作者本人を想起させる女性を主人公とした、一種のメタ・フィクション。

『タタール人の砂漠』は、主人公が何度か思い浮かべる「さびしーい世界」の話。
バスティアーニ砦へと派遣された ドローゴは、辺境の国境線を守っていくだけの砦の生活から抜け出せなくなっていく。外の世界から取り残され、何も残すものもなく老いてゆくのだ。そして、主人公たちが待ち望んだ「敵」がやって来るのだが……。

(矢川澄子 『失われた庭』 青土社)

『嵐が丘』(エミリ・ブロンテ)

英語の通信簿で20点満点の3点を取ってしまったカモ。母親の怒りはすさまじく、お互いに言い合っているうちに、母親が仕事を3カ月続けられたら(2週間続いたことがない)、カモも3カ月で英語をマスターするという約束を交わしてしまう。

そして、もちろん3カ月後、カモは英語をマスターするはめになり、母親からペンフレンドに手紙を書くようにとアドレスを渡される。しぶしぶとキャサリン・アーンショー(15人の名簿から適当に選んだ)にかなり失礼な手紙を出したカモだが、返ってきた返事(封蝋がしてあった)を読んで猛反省する。そして、そこからカモの英語の猛特訓が始まった。

(ダニエル・ペナック 『カモ少年と謎のペンフレンド』 白水社)

『10月はたそがれの国』(レイ・ブラッドベリ)

菜穂はママが大好きな中学生。最近つっかかってばかりいるけれど、ママが好きなことに変わりはない。ママは専業主婦で、菜穂のためにおいしいお菓子を作ってくれる。
13歳になる前日。12歳の最後の一日。菜穂は中学になってから知り合った亜矢から、『10月はたそがれの国』という本をプレゼントされる。12歳の夏の日が閉じ込められているという「みずうみ」を読み、最高に幸せな気分で迎えた誕生日。
ママの一言「それじゃあ」で、すべてが変わってしまったのだ。

亜矢の家に相談に行った菜穂は、亜矢に初めて声をかけられたときの言葉を思い出す…。

(石井睦美 『卵と小麦粉それからマドレーヌ』 BL出版)

『デミアン』(ヘルマン・ヘッセ)

まゆは、もうすぐ夏休みを迎える中学三年生。友達からは「ふしぎちゃん」と呼ばれることもある、ぼんやりした少女だ。でも、最近、一緒にクラス委員をしている岡野くんが何だか少し気になっている。一学期の終わりの日、岡野くんが「これ、読んでみて」と差し出したのが、この本。
まゆにとって忘れられない夏休みがはじまった。

(田口ランディ 『ひかりのメリーゴーラウンド』 理論社)

『老人と海』(ヘミングウェイ/新潮文庫)

作中人物(バーテンダー)が読んだという小説。作中では、人間にとっての怪物とは何か、という哲学的な(?)命題にまで話が進んでいる。

『老人と海』が海を舞台にした話であり、かつ、ヘミングウェイと酒が切り離せないことを考えると実にバーテンが読むのにぴったりの小説。ヘミングウェイはお酒が好きでいろいろなエピソードも多い。たとえば、自分の子どもにブラディ・マリーを作ってやっていたという。宿酔に効くらしい。(尾崎浩司・榎木富士夫『バー・ラジオのカクテルブック』角川文庫より)

(北方謙三 『黒銹』 角川文庫)

『美女と野獣』(ボーモン夫人)

人生に絶望し、セーヌ河に身投げをしようと決意していたマーシュを呼び止めたのは、人形小屋の人形たちだった。そして、その人形一座に居つくことになった彼女だが、しだいに、七体の人形たちと交流を深め、愛情を感じるようになる。彼らはそれぞれの個性を持ち、彼女と人形のやり取りはそのままお芝居になり、一座はしだいに有名になっていく。しかし、七体の人形を操っている座長のキャプテン コックは、あたたかい心の人形たちとは異なり、マーシュに対しても何に対しても冷淡だった。

純真無垢な少女マーシュと冷酷な男キャプテン コックと人形たちの物語。

(ポール・ギャリコ 『七つの人形の恋物語』 王国社)

『長いお別れ』(フィリップ・マーロー)

死後の世界で探偵事務所を営む朽網(くさみ)は、今日も来るはずもない依頼を待っていた。金がなければ即座に消えなければならない死後の世界(仮想世界)は就職難であり、何をしてももうからないのだ。

ところがある日、「あの世」(死後の世界から見た現実世界のこと)から、家出人を捜索してほしいという依頼があり、「おれ」は早速仕事に取りかかるのだが……。

(森岡浩之 『優しい煉獄』 徳間デュアル文庫)

『森は生きている』(サムイル・マルシャーク)

飛鳥が大通り公園で迷子になったのは五歳のときだった。見知らぬ若い男の人が、飛鳥の住むあすなろ学園まで送り届けてくれた。その後、飛鳥は本岡家に引き取られることになるが、その家を飛び出した先で、再びその男の人に出会う。三度目の出会いだった。

飛鳥は、その男の人(名前は祐也といった)に結局引き取られることになり、本岡家でのつらい生活の記憶もしだいに薄れはじめていく……。

『森は生きている』は、祐也の友人が飛鳥に話してきかせたもの。飛鳥と同じような境遇の娘が、四月にしか咲かないマツユキ草を雪の降る日に摘むように言われてしまい、森の中をさまよううちに……という話。

(佐々木丸美 『雪の断章』 講談社文庫)

『白鯨』(ハーマン・メルヴィル)

亡くなった伯父さんから遺された遺産はクジラ型潜水艇だった!
伯父さんの残した飼育ノートを参照して潜水艇を育てていた私だが、それは思った以上に獰猛だった。私は潜水艇に「モービー・ディック」という名前をつける……。

72歳の「私」の冒険譚は、驚きと哀しみに満ちた旅になった。

(たむらしげる 『モービー・ディック航海記』 ソニーマガジンズ)

四国沖の航空自衛隊演習空域で立て続けに起こった航空機事故。事故調査委員として岐阜基地に派遣された春名高巳は、二度目の事故の当事者であり目撃者でもあった武田光稀という人物に話を聞くことになった。
また、その事故で父親を亡くした少年は高知県の河口でふしぎな生き物を発見する。

事故とその生き物との関係、遺された人たちの思い、大人たちと子どもたち……いろいろなテーマが込められたエンターテイメント。

(有川浩 『空の中』 メディアワークス)

『さいごの戦い ナルニア国ものがたり7』(C.S.ルイス/岩波書店)

大学も残りわずかな期間しか残っていないのに、就職先が決まっていない。コンビニで、さとしはそんな自分に溜息ばかりついていた。また小さな溜息をついて、週刊誌を取ろうとした瞬間、さとしの目の前には派手なアロハシャツ(秋というのに)を着た初老の男が立っていたのだ。
その男に色々あって連れてこられたのが、「ヘブンズ・ブックサービス」、天国にある本屋だった。
(やる気のないはずの)さとしは、しだいにその本屋で働くことに愛着を覚え、店長代理の仕事の一つである朗読も客が興味深く聞いてくれる。
レジ担当のユイとも少しずつ打ち解けていったのだが……。

他に『泣いた赤おに』(浜田広介)、『ろけっとこざる』(H.A.レイ)なども朗読される。

(松久淳+田中渉 『天国の本屋』 かまくら春秋社)

『帰ってきた空飛び猫』(アーシュラ・K・ル=グウィン/講談社)

超常現象を信じない(というようり信じたくない)、本人が言うには「真面目な男」井上快人の周囲には、変な人間ばかりが集まっている。本物の霊能力者である、幼ななじみの春奈。そして、幽霊が出るといううわさがある(そのせいで家賃が安いのだが)下宿の先輩たち。

彼は彼なりに普通の生活を送ろうとするのだが、下宿の先輩の中でもきわめつけの変人、長曽我部先輩にだまされて「あやかし研究会」なるものに入るはめになってしまう。

空飛び猫については、 長曽我部先輩が想像上の動物が実在した例としてあげたもの。もちろん、羽の生えた猫で、飛ぶことができる。長曽我部先輩は目撃談まで詳細に説明している。

(はやみねかおる 『僕と先輩のマジカル・ライフ』 角川書店)

『シラノ・ド・ベルジュラック』(エドモン・ロスタン)

東京、山の手に広々とした敷地を誇る聖マリアナ学園は、伝統ある女学校であり、そこに通う生徒たちは良家の子女であると漠然と認識されていた。
その学園の花形のクラブ活動は、生徒会であり、演劇部であった。しかし、そのような学園にも異端者は存在し、「読書クラブ」という集団を作っていた。
そして、彼女たちは学園の正史には残されない事件をクラブ誌に書き記していく……。

都会に住む少女たちの物語。

(桜庭一樹 『青年のための読書クラブ』 新潮社)

『白い牙』(ジャック・ロンドン)

アラスカのある部落に住むジョージは、狩人にあこがれている男の子。ある日、『白いきば』という本を読んだジョージは、本の中に出てくるような狼の子をほしいと思うようになった。
狩人をしているおじさんに頼んだところ、おじさんは狼とソリ犬との雑種をジョージにくれたのだ。ウルフという名前をつけて可愛がっていたジョージだが、周りの偏見と誤解がウルフをそばに置いておくことを許さず……。

(椋鳩十 「森の王者」 理論社)

■国内編                                     海外編|国内編

「大きなかに」(『小川未明童話集』収録/新潮文庫)

中垣内真理香は合コン命の18歳。事故で声を失った幼なじみである晋一郎の、手話通訳兼世話係の仕事をしている。
ある日の合コンで真理香に積極的に声をかけてきたのは、真理香の好みとは正反対の好感度高し、話好きの大学生、大河内聖信。真理香のことを「好みのタイプ」と言い切り、彼女の苦手な実話系会談(「呪いの村」の伝説)を披露する相手を真理香は張り倒してしまう。
しかし、その呪いの村へ向かった弟を助けて欲しいという依頼が、真理香の作った事件相談サイト(探偵役は晋一郎である)に舞い込んで……。

「呪いの村」伝説が、小川未明の「大きなかに」と似ていると本文中で指摘されている。

(早見裕司 『自律世界の愛しい未来 Mr。サイレント2』 富士見ミステリー文庫)

「桜の樹の下には」(梶井基次郎)

ジジジ……という妙な音を不審に思った男が藪を掻き分けて見たものは、群生した白いムシトリナデシコだった。そして、花の根元にある茶色っぽい塊はミイラ化した死体。
しかし、警察の調べによると、そのミイラ化した人物は6時間前まで目撃されていたのだ。その真相とは……?(第一章 「しずるさんと吸血植物」より)

病院にずっと入院しているしずるさんと、彼女に面会に行く「よーちゃん」の二人の推理を描く、 『しずるさんと偏屈な死者たち』に続く短編集。今回のテーマは「密室」。

「桜の樹の下には」をお読みになりたい方は青空文庫へ。
「Kの昇天」も同じ青空文庫へ。

(上遠野浩平 『しずるさんと底無し密室たち』 富士見ミステリー文庫)

『伊豆の踊子』(川端康成)

主人公が高校の寄宿舎で同室になった少女に言われたセリフの中に登場。「(略)……あんたと話してると、かおるちゃんを思い出すわね」「……”いい人ね、いい人はいいね”って名セリフを言った純真無垢な子よ。……(略)」
どうしてもその少女とうまくいかず、交代を願おうとまで考えていた主人公だが……。

(氷室冴子 『アグネス白書』 集英社コバルト文庫)

『雪国』(川端康成)

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった」

日本に出稼ぎに来ているホームズへの元へ警視庁から依頼があった。それは、上記のメッセージを殺されたある女性が書き残したので、意味を教えて欲しいというもので……。
ヨーロッパにはない<雪国>、意味不明の<夜の底が白くなった>など、そこからホームズの考えた推理とは?

(赤川次郎 『ホームズ贋作展覧会 上』 河出文庫 収録 「絶筆」 )

『走れメロス』(太宰治)

学校教科書の定番。主人公は学校教材映画でこれを観て感動する。メロスの身代わりの人質になったセリヌンティウスに同情して。一方、主人公の親友はメロスのほうに感情移入しているようだった。……ということを主人公が回想するシーンがある。

『走れメロス』をお読みになりたい方は青空文庫へ。

(氷室冴子 『北里マドンナ』 集英社文庫)

高飛込みに打ち込む三人の少年たちが主人公のシリーズ。

主人公の一人、富士谷要一の父は、ミズキダイビングクラブの主任コーチであり、、昔はオリンピックに出場したこともある。高校でコーチをやっていたとき、ミズキダイビングクラブからコーチ就任の声がかかるのだが、彼は自分の息子に自分と同じ苦労をさせたくないと思い、自分の息子が飛込みを続けることに対してためらいがあった。しかし、息子の『走れメロス』への感想を漏れ聞き……。

(森 絵都 『ダイブ!!』 講談社)

『泣いた赤おに』(浜田廣介/小学館文庫)

千年以上もの時を生き続ける鬼、聖と弓生、そして、彼らが使える「本家」の陰陽師たちの物語。現代を舞台にしたものが主だが、大正時代、平安時代などさまざまな時代を舞台にした番外編的なものもあり。
小学館キャンバス文庫でのシリーズは一応完結しており、別に選集という形で出版されている。
また、小学館ルルル文庫に神島桐子を主人公とした番外編『鵺子ドリ鳴イタ』全五巻もある。

(霜島ケイ 「封殺鬼」シリーズ 小学館キャンバス文庫)

『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治)

「どんな薬でも症状に合わせてお出しします」
看板の横の張り紙には、そんな言葉が書かれている。お店の名前は「深山木薬店」。四ヶ月前に改装されたと思えない、レトロな店構えが特徴的だ。
そこに住むのは、穏やかな顔つきの20代後半の青年、小学生ぐらいの男の子、そして、綺麗に整った顔の少年だ。彼らの表向きの仕事の客はたいそう少なく、半ば本職となりつつある副業の客が今日もやってくる。さて、本日の揉め事は?

『銀河鉄道の夜』は、ある事件で死んだ少年の国語のノートに、書かれていたもの。
『銀河鉄道の夜』をお読みになりたい方は青空文庫へ。

(高里椎奈 『銀の檻を溶かして』 講談社NOVELS)

ある事件がきっかけで知り合いになった栄三郎を訪ねることになった、坂木とひきこもりぎみの鳥井。電車を使っての遠出にしぶる鳥井をなだめつつ浅草まで行く途中で、二人は別の友人がお世話になっている地下鉄の駅員を紹介される。
そして、鳥井を名探偵と聞いた駅員が坂木に持ち込んだ事件は、奇妙なものだった。中学生ぐらいの男の子が、ホームの一番前でずっと立っている。しかも、彼の手にははじめはヨーヨーが、事件の話を坂木が聞いた日には、水風船を持っているということだった。
その話を聞いた鳥井が出した「推理」とは?

(坂木司 『仔羊の巣』 東京創元社)

『注文の多い料理店』(宮沢賢治)

ハイキングに出た二人の紳士がたどり着いたのは、「どんな物語もそろいます」と看板に書かれた書店だった。本屋を前にして素通りできないなどと話し、書店に入った二人が見たのは、迷宮のように広がる本棚の列。

途中で何だか同じ店を知っているような気がした二人は……。

『注文の多い料理店』をお読みになりたい方は青空文庫へ。

(有栖川有栖 『壁抜け男の謎』 角川書店 収録 「迷宮書房」)