「架空の庭」の入り口へ 

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音楽

小説の中に使われたジャズ等のご紹介をしています。小説の中のクラシックはこちらへ。

Bloody Doll シリーズ(北方謙三著/角川文庫)

ワッツ・ニュー/What's New(ジョニー・バーク作詞 ボブ・ハガート作曲)

作品の冒頭部分で登場。主人公は偶然入ったバーで、かつて知っていたピアニストに出会う。主人公がおごったソルティ・ドッグを飲んだ、もしくは、それに気づいた後にピアニストが弾いたのがこの曲。「What's New」(お変わりない?)で始まる、久しぶりに会った元恋人への問いかけの歌。日本語詩は、「開けてびっくり・Jazz詩玉手箱」さまへ。

『黒銹』

イン・ア・センチメンタル・ムード/In A Sentimental Mood(Duke Ellingtonら作詞・作曲)

作中でもページを割いて語られているとおり、デューク・エリントンとコルトレーンとの録音が有名。文庫本の対談で、作者自身がエリントンとコルトレーンとの出会いが書きたかったと明言している。

『黒銹』

サテン・ドール/Satin Doll (Johnny Mercer作詞 Duke Ellington&Billy Strayhorn作曲)

「うわさのサテン・ドールが自分に気があると思って誘いをかけてみると……。」という歌詞が本当についている。作中では主人公の横に映子という女性が座っているという状況なので、ピアニストの選曲はなかなか面白い。

曲をお聴きになりたい方は、「PAYA'S WEBSITE」(管理人・payaさま)のmidiのお部屋へ。

『黒銹』

マイ・マン/My Man

作中でピアニストが何曲か弾くうちの一曲。それらを聴いて主人公を涙を流す。女性視点の歌。「どうしようもない男だけれど、離れられない」といった感じだろうか。真面目に訳すとちょっと怖い。

原詩はビリー・ホリデイのホームページへ。

『鳥影』

サマータイム/Summertime(D・ヘイワード作詞 ジョージ・ガーシュウィン作曲)

フォーク・オペラ『ポーギーとベス』のナンバーで、ガーシュウィンの作品の中でも特に有名な一曲。「夏は生きていくのが簡単……だから泣かずにお休み、ぼうや」の歌詞どおりの子守唄。「俺を眼醒めさせたい時、沢村さん(ピアニスト)はあれを弾く」とは作品より。

原詩はビリー・ホリデイのホームページへ。曲をお聴きになりたい方はこちら

『聖域』

ラヴァー・マン/Lover Man (ジミー・デイヴィスら作詞・作曲)

主人公の父親が、後に恋人になる女性と最初に会ったとき、彼女が歌っていた曲。それをブラディ・ドールのピアニストが弾いている。(まだ見ぬ)「恋人はどこにいるの?」という、シチュエーションにふさわしい歌詞がついている。

原詩はビリー・ホリデイのホームページへ。

『聖域』

レフト・アローン/Left Alone(ビリー・ホリデイ作詞 マル・ウォルドロン作曲)

作詞者のホリデイ自身の録音はない。ホリデイの他界後、1960年にマル・ウォルドロンが彼女を偲んでレコーディングしたものが有名。(ジャッキー・マクリーンがアルト・サックスでヴォーカルパートを担当)映画やCMで使われたことで、日本ではかなりメジャーになった曲。

『ふたたびの、荒野』ではピアノ・ソロでの演奏なので、マル・ウォルドロンの「アンド・アローン」の中の一曲が近いかと。「私は残され、一人ぼっち(I'm left alone , all alone)」という歌詞の通り、残されたものの哀しみの歌であり、このシリーズのテーマにもふさわしい一曲。

どういう状況で弾かれた曲なのかは、作品を見てほしい。原詩はビリー・ホリデイのホームページへ。

『ふたたびの、荒野』

その他のジャズ(アルファベット順)

黒と茶の幻想/Black And Tan Fantasy(Duke Ellington/Bub Miley)

友人シックの恋人の話を聞き、自分も恋をしたいと思っていたコランが出会った少女はクロエという名前だった。幸福な結婚をし、幸福な生活を送るはずの二人だったが、クロエの病気がそこに影を落とす。彼女の片肺にはあるものが巣食っていたのだ。
コランはクロエの苦しみを和らげようと手を尽くすのだが……。

「ブラック・アンド・タン・ファンタジー」(黒と茶の幻想)は、ピアノカクテル(ピアノを弾くと、その曲によって全く異なるカクテルが出来上がる)のシーンに登場。

(ボリス・ヴィアン 『うたかたの日々』 早川書房)

コーリング・ユー/Calling You(Bob Telson)

携帯電話を持たない女子高生リョウは、友達がいない。そして、携帯電話で友達とつながっているクラスメイトたちにあこがれている。リョウは自分の携帯電話を想像する。白くてなめらかで、着信メロディは、映画『バクダッド・カフェ』で使われた、「コーリング・ユー」。

ところが、ある日、その実在しない携帯電話に着信があって……。

(乙一 『きみにしか聞こえない』 角川スニーカー文庫 収録の同名短編)

エヴリタイム・ウィ・セイ・グッバイ/Everytime We Say Goodbye(コール・ポーター作詞・作曲)

連作短編集。周囲からロクデナシと言われながら絵を書き続けている父親をもつ木島や、イラストレーターの叔父の世話を焼いている村田みのりとその周辺の人々の物語。「オセロ・ゲーム」という短編の中で、村田みのりとその叔父が聴いていた曲がこれ。

「いつもあなたにさよならを言われるとき、ちょっとだけ死んでしまうような気持ちになる……」という歌詞がついているが、作品内ではジョン・コルトレーンの演奏。

(佐藤多佳子 『黄色い目の魚』 新潮社)

時間どおりに教会へ/Get Me To The Church On Time(F・ロウ作曲)

ミュージカル『マイ・フェア・レディ』の有名なナンバー。主人公の父親が結婚式を挙げる日、教会へ行きながら歌った歌。

「薬師寺涼子の怪奇事件簿」シリーズの第二作より。いつものごとく上司である涼子に呼びつけられた、語り手・泉田警部補。今日は結婚式に出席する涼子のお供(待機)のはずだったが、これもいつものごとく、不可解な事件が起こり……。

(田中芳樹 『東京ナイトメア』 講談社NOVELS)

イパネマの娘/ The Girl From Ipanema(N・ギンベル作詞 A・C・ビジョン作曲)

レコードをに針を落とすと、すぐにイパネマの娘は現れる。1963年の昔も、1982年の今も。年をとらないイパネマの娘に僕は語りかける。いつまでも歩き続けるイパネマ娘に。

(村上春樹 『カンガルー日和』 講談社文庫 収録 「1963/1982年のイパネマ娘」)

イン・ア・センチメンタル・ムード/In A Sentimental Mood(Duke Ellingtonら作詞・作曲)

渡瀬はバーで酒を楽しんでいるときにヤクザの二人組に声をかけられた。外に連れて行かれた彼は、黒い車に乗った別の男に忠告される。彼の会社で販売予定の『蓬莱』というゲームの販売をやめた方がいいというのだ。
次の日弁護士に相談した渡瀬だが、社員の大木がなかなか出社していないことに不安を覚える。昨夜のヤクザたちは大木の名前を知っていたのだ。
そして、昼過ぎに警察が、大木が死んだことを知らせに来て……。

「安積班」シリーズの一つ。

今野敏 『蓬莱』 講談社

レフト・アローン/Left Alone(ビリー・ホリデイ作詞 マル・ウォルドロン作曲)

詳しくはBloody Doll内の「Left Alone」の項参照。主人公の矢代俊一が、キャバレーで毎晩のようにリクエストされる曲。(ちなみにリクエストしているのは、暴力団幹部)途中に「レフト・アローン」について主人公が説明するシーンもある。他に「セント・トーマス」(p.5)「ミスティ」も登場。(p.24)

(栗本薫 『キャバレー』 角川文庫)

作中でかけられるレコード。聴いている女は「……またしけたピアノ聞きたがるわねえ、まるで疲れきった老いぼれじゃないのよ、それ黒人の浪花節よ。……(略)」と言う。

(村上龍 『村上龍自選小説集1』 集英社)収録「限りなく透明に近いブルー」

ヴァーモントの月/Moonlight In Vermont

ヴァーモント州の風景が歌いあげられている。作中でピアニストが弾いており、その他にも、同じピアニストが口ずさむ曲として「ミスティ」とラストにもう一曲登場。

原詩はビリー・ホリデイのホームページへ。

(大沢在昌 『眠りの家』 角川文庫 収録「ゆきどまりの女」)

マイ・ファニー・ヴァレンタイン/My Funny Valentine

NY市警本部殺人課に異動になったセシルの新しい相棒は、一つ年上の女性ドロシーだった。可愛らしい外見とは裏腹に、口が悪く、手も早い相棒に先行きに不安を感じるセシルだが、早速事件が舞い込んだ!
バッテリー・パークで遺体が発見されたことから始まる事件は、思わぬ方向へと展開して……。

「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」は、セシルのファースト・ネーム(ヴァレンタイン)について話が出た後に、たまたま流れたもの。

(柏枝真郷 『PARTNER 1』 中央公論新社)

マイ・ウェイ/My Way

音楽療法士を目指す千鶴は、アルバイト先を「亮子先生」から紹介される。いかにもお嬢様育ちの彼女に最初反発を覚えていた千鶴だが、あっという間に彼女と親しくなった。ある日、亮子先生のお宅に紹介されたとき、変質者らしい人間が彼女の家を覗いている現場に出くわして……。

シナトラが歌うものが有名だが、原曲はフランス語。原詩・訳詩(英語・日本語あり)をご覧になりたい方は、「月の雫大阪支部」のホームページ(フランスの歌をあなたに・第三回)へどうぞ。

他に「いつか王子様が」も登場。

(菅 浩江 『歌の翼に』 祥伝社NON NOVEL)

リターン・トゥー・フォーエヴァー/Return To Forever(チック・コリア作曲)

同名のアルバムの中の一曲。チック・コリアの代表作。作中冒頭では、行方不明のペットたちが多くなったことから始まり、それがなぜ起きるのか、その理由が書かれている。この曲を聴くと何となく納得できてしまうような気がする。

(黒田恭一 『彼女だけの音楽』 マガジンハウス 収録「レオとチック」)

ローズ・ルーム/Rose Room

肝臓癌で死んだクラリネット奏者(自分の病気を悟っていた)は、自分が死んだら「ローズ・ルーム」を演奏してくれと仲間に言っていた。ところが、彼の妻はたいへんなジャズ嫌いで……。

短編集。タイトル通り、全編にジャズが登場。巻末付録にディスク情報がついているのもうれしい。作中に登場する主な曲は次の通り。「ミラージュ」「朝日のようにさわやかに」「マイ・ファニイ・バレンタイン」「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」「ボディー・アンド・ソウル」「「サテン・ドール」「チュニジアの夜」など。

(筒井康隆 『ジャズ小説』 文藝春秋 収録「葬送曲」)

サテン・ドール/Satin Doll (Johnny Mercer作詞 Duke Ellington&Billy Strayhorn作曲)

ノーベル賞候補としても噂される千葉敦子は、著名なサイコセラピスト。PT(サイコセラピー)機器を用いて、患者の治療を行っている。
ある日、精神医学研究所の内部がごたついている中、敦子は所長の島に「パプリカ」の出動を要請される。敦子は「夢探偵パプリカ」として、夢の中で人々の治療を行っていたのだ。島の紹介で、能勢という男性に会うことにした敦子だが……。

Bloody Doll内にも「Satin Doll」の曲紹介あり。

曲をお聴きになりたい方は、「PAYA'S WEBSITE」(管理人・payaさま)のmidiのお部屋へ。

『黒銹』

雨に唄えば/Singin' In The Rain

映画『雨に唄えば』の中で、ジーン・ケリーが歌った有名なナンバー。
本文中では、雨が降り続く中、主人公二人が雨宿りをするシーンで、少年の方が小さく歌っている。隣にいる少女は、二人の間に会話はないが、その沈黙をあたたかいと感じているが、同時に恐れをも感じている。なぜなら、このままではアイツが出てきてしまうから。少女にはその家系に秘密があった……。新伝奇小説。

(奈須きのこ 『空の境界』 講談社NOVELS)

シング・シング・シング/Sing,Sing,Sing(Louis Prima作詞・作曲)

横山英ニは、家族のことで少し悩みを抱えている普通の中学生。そんな彼に吹奏楽部から勧誘がやって来た。「お前にはリズム感がある!」と言ったのは、同じ学年で吹奏楽部の部長の菅野七生。そのまま吹奏楽部でパーカッションを担当することになった英ニだが……。
地の文まで大阪弁が使われているところが楽しい。

「シング・シング・シング」は、用語解説にあるように、スイングジャズバンドの代表格、ベニー・グッドマンのバンドが演奏していた曲。

(風野潮 『ビート・キッズ』 講談社)

いつか王子様が/Someday My Prince Will Come

高飛込みという一瞬にすべてをかける競技に、それぞれ情熱を燃やす3人の少年たちのストーリー。……謎めいたコーチ・夏陽子の出現が全ての始まりだった。さまざまな困難に出会いながらも、彼らは少しずつ成長していく。全4巻。

曲をお聴きになりたい方は、「poco a poco」(管理人・なごみさま)のMIDI→ディズニーへ。

(森 絵都 『ダイブ!!』 講談社)

スターダスト/Stardust(M・パリッシュ作詞 ホーギー・カーマイケル作曲)

靴磨きをしていた主人公が不思議なめぐり合わせで出会った男の家で聞いた曲。主人公はこのメロディを覚えていて、後にナット・キング・コールのレコードを買う。

連作短編集。全てに何らかの歌が登場し、作品を彩っている。(他に「ムーンライト・セレナーデ」「ルート66」「アンド・アイ・ラヴ・ハー」「アローン・アゲイン」「ラヴ・ミー・テンダー」)

(藤田宜永 『じっとこのまま』 中央公論社 収録「雪模様−スターダスト」)

サマータイム/Summertime(D・ヘイワード作詞 G・ガーシュウィン作曲)

詳しくはBloody Doll内の「Summertime」の項参照。主人公の進がプールで知り合いになった少年が、右手だけで弾いたピアノ曲。(左腕は事故でなくしており、その時、父親は死亡している。)彼が自転車に乗れなくなったエピソードと、主人公の姉が乗れるように一緒に練習するという話など印象的。
文庫化されたので(新潮文庫)、手に入りやすくなった。

(佐藤多佳子 『サマータイム』 MOE出版)

九月の雨/September In The Rain(アル・デュービン作詞 H・ウォーレン作曲)

「あなたが私にささやいた愛の言葉を、雨だれがくりかえしていた」という回想の歌

作中で、9月、雨が続く中、ジャズピアニストの母親が繰り返し弾いている曲。上記の『サマータイム』の姉妹編にあたる話。今度は左腕を事故でなくした少年が主人公の話(「九月の雨」)と、前回の主人公の姉の話(ホワイト・ピアノ」)を収録。二人が離れ離れになっているときの話であり、「ホワイト・ピアノ」には、「マイ・フェイヴァリット・シングス」も登場。
新潮文庫版『サマータイム』に収録されている。

(佐藤多佳子 『九月の雨』 偕成社 収録「九月の雨」)

星に願いを/When You Wish Upon a Star(Ned Washington作詞 Leigh Harline作曲)

病気療養中の「友人」を訪ねた主人公は、彼があまりにも昔と変わっていないことを知る。共に一番星を探し、「あの星は、ぼくの者だ」と言った幼いころと。

その友人が久しぶりに弾いてくれた曲が「星に願いを」。その瞬間、主人公はある決心をする。

ディズニー「ピノキオ」の中で歌われた、祈りの歌。曲をお聴きになりたい方は、「poco a poco」(管理人・なごみさま)のMIDI→ディズニーへ。

(太田忠司 『帰郷』 幻冬舎ノベルス 収録「星に願いを」)