「架空の庭」の入り口へ 

Poem

小説の中に使われた詩のご紹介をしています。漫画の中の詩はこちらへ。

■海外編                           海外編|国内編

「ミラボー橋」(アポリネール)

「航時機館」に勤める私は、ある日、航時機――生きたタイムカプセル――に乗っている男性を耐えがたい激情の色を浮かべて見つめる若い女性に出会った。数年後、彼女と再会した私は、彼女をおいていった男性、アキの話を聞くことになる……。
違う時間を生きる恋人たちを描いた傑作SF。

「ミラボー橋」の訳詩をお読みになりたい方は、こちらへ。

(梶尾真治 「美亜へ贈る真珠」 ハヤカワ文庫)

「死者の埋葬/The Burial of the Dead」(T.S.エリオット)

エリオットの有名な詩「荒地」(The Waste Land)より。冒頭の「四月は最も残酷な月」(April is the cruelest month)はよく知られている。
本文中では、宇宙暦七九八年の四月、司令官ヤンの不在中に帝国軍との戦いを強いられたことに対して用いられている。(第三巻 第七章)

原詩及び訳詩は「音楽とペーパーバック」(管理人・tokiさま)のサイトへ。

(田中芳樹 『銀河英雄伝説』 徳間書店)

大阪府警の捜査に呼ばれた犯罪学者の火村と作家の有栖川がやってきたのは、英国式庭園を持つ館だった。死んでいたのはその家の主であり、眉間に残っていた傷が致命傷らしい。
事件当日の朝、主は集めた客たちに、ある宝探しのゲームを提案していた。ヒントは暗号の書かれた紙。それが解ければ宝の場所が分かるようになっていた。その宝探しの途中で、主は殺されたのだ。

事件とゲームの係わり合いがあるのかどうか。捜査を始める火村・有栖川の見つけた真実とは?

(有栖川有栖 『英国庭園の謎』 講談社NOVELS 収録 同名短編)

「野ばら」(ゲーテ)

梢子が彼――ナツキに会ったのは、彼女がどん底の状態のときだった。
恋人にはふられ、友達には裏切られ、バイトはくびになってしまう。そんなときに、公園でぽつんとスケッチブックを持っていたナツキについ声をかけてしまったのだ。そして、梢子とナツキは3日間を一緒に過ごす。何か大事なものを絵にしたいと言うナツキに、彼女は「神様の薔薇」の話をする。それは、彼女が父親から昔聞いたとても大切な話だった……。

「野ばら」はシューベルト、ヴェルナーなどさまざまな旋律がつけられた有名な詩。
原詩は、こちらへ。

(下川香苗 『神様の薔薇』 ワニブックス)

「地獄の女王の庭園」(スゥインバーン)

ヨークチェスターの共同墓地にレベックは住んでいた。そこで暮らす19年もの間、彼の話相手は食物を運んでくる鴉と、墓地に眠る死者のみ。死者たちと話をしたり、チェスをしたりして過ごすのが彼の日課だった。しかし、ある日、夫を亡くした女性と知り合ったことから……。

墓地を舞台にしたやさしくほろ苦いファンタジイ。
原詩は、こちらへ。

(ピーター・S・ビーグル 『心地よく秘密めいたところ』 創元推理文庫)

「レディ・オブ・シャロット」(テニスン)

ミス・マープルの住むセント・メアリ・ミードも、次第に時代の変化を感じさせるようになってきた。中心の一角は以前の面影を残しているが、村の商店街は近代化の波が押し寄せてきている。

新住宅地に興味を持ったミス・マープルは、付き添いのミス・ナイトを何とか使いに出して、散歩へと出かけた。そこで、彼女は転んでしまい、ヘザー・バドコックという女性に助けられる。

ヘザーは彼女が幹事をしている野戦病院協会のパーティで変死するのだが……。

(クリスティ 『鏡は横にひび割れて』 ハヤカワ文庫)

「唄/Song」(ジョン・ダン)

魔法がふつうに存在する国、インガリー。物語の主人公は、長女に生まれたことを嘆く少女ソフィー・ハッター。ある日、荒地の魔女に90歳のおばあさんにされてしまったソフィーは、家を出てハウルの動く城に乗り込んでしまう。悪名高きハウルと生活をするにつれて、しだいに彼の本当の姿と秘密に気づいていくソフィーだが……。

作中に出てくる重要な詩が、これ。原詩は、こちらへ。

(ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 『魔法使いハウルと火の悪魔』 徳間書店)

「春には愛が芽をふく/Es liebt sich so lieblich im Lenze」(ハイネ)

バーン・ジョーンズ展で、オペラ歌手の卵に出会った遊民爺さんが、「春こそは恋の季節って、ハイネも言っていたけど……」(p.30)とつぶやいた台詞に登場する。後日、バーン・ジョーンズ展に行った主人公も"眠り姫”の前でその詩をつぶやいた……。

ブラームスが曲をつけており、歌曲としても有名。(作品71-1)

原詩はこちらへ。

(小沢章友 『遊民爺さんと眠り姫』 小学館)

「ローレライ」(ハイネ)

カナダで生まれたコリンヌは、フランス貴族である祖父に自分を孫と認めてもらうためある条件を課される。それは、ライン川の東岸に立つ古い塔に幽閉されている人物の正体を調べることだった。
仲間を集めてもかまわないという祖父の言葉に、コリンヌが選んだのは?
ナポレオン没後の1830年、フランス・パリからはじまる冒険譚。

原詩はこちらへ。

(田中芳樹 『ラインの虜囚』 講談社)

「マンフレッド」(バイロン)

旧家に家事手伝いとして雇われた娘、晴美。彼女から叔母に宛てられた手紙には、「殺される、助けてください」とだけ書かれていた。
弓削家の館に踏み込んだ人々が見たものは……?

晴美を魅了した弓削家の当主、葉月。艶やかな美しさを持つ、美春。二人の世話をする老人たち。謎の庭師――四季折々に姿を変える庭に建つ洋館を舞台にした幻想ミステリ。

チャイコフスキーやシューマンがこの劇詩に曲をつけている。

(小沢淳 『プリマヴェーラの葬送』 講談社)

「行かなかった道」(ロバート・フロスト) 

ライダーは、母と姉のアイリーンと3人で暮らしている。父親が出て行って325日目の朝、ライダーの家の上の大きな空にピンクのパラシュートが現れた。降り立ったのは15人の兵隊たちで……。

「行かなかった道」は、兵隊たちの隊長の台詞に登場する。黄色い森の中で道がふたつに分かれているという部分は、決断を迫られていることの象徴。

原詩はこちらへ。

(ベン・ライス 『空から兵隊がふってきた』 アーティストハウス)

「大鴉」(エドガー・アラン・ポオ) 

三重県のとある島で休暇をすごすはずだった火村と有栖は、手違いと勘違いから、もともと行くはずではなかった島へと連れて来られてしまう。すぐに元の島へ帰る手段のない彼らは、その島に別荘を持つ海老原瞬と面識を得る。
海老原は英米文学者であり、伝説的な象徴詩人でもあり、妻を亡くしてからは社会との接触を絶っているが、数多くの「ファン」を持つ人物でもあった。
彼の元へと集まっている人々。そこでは不思議な集まりが催されているようだった。

結局海老原の世話になることになった火村と有栖なのだが、もの一人「招かれざる客」がやって来て……。
本格ミステリ。

原詩はこちらへ。

(有栖川有栖 『乱鴉の島』 新潮社)

「永遠」あるいは『地獄の季節』(アルチュール・ランボー) 

警察を辞め、警備員の仕事を惰性で続けている桃山は、自分の担当するビルの中に少女と怪我をした少年を匿うことになってしまう。世界の全てを敵に回して、少女を守る少年の姿に桃山は忘れかけていた情熱を少しずつ取り戻していく。
彼らを追いかけている複数の組織の正体とは?そして、すでに終わったとされる地下鉄テロ事件の真相が明かされていく……。

海には、自由と永遠があると言った少年の言葉にランボーへの言及がある。ちなみに、 「永遠」の詩は、『地獄の季節』の「ことばの錬金術師」に形を変えて引用されており、ランボーの詩の中では「酔いどれ船」と共に著名。

訳詩をお読みになりたい方は、こちらへ。原詩は下のフレーズではじまる。
Elle est retrouve'e . Quoi ? - L'Eternite' . C'est la mer alle'e Avec le soleil.

(福井晴敏 『川の深さは』 講談社)

「海の水の譚詩(パラーダ)」(ガルシア・ロルカ) 

ある日、しずかにしずかに海がやってきた。しずかに少しずつその範囲を広げてゆく。町の西から東に向かって。誰も逃げることもなく、さわぎたてることもない。
そして、わたしのところへも ――

(海がくる 『安土萌』 理論社)

「タム・リン/Young Tam Lin, Or Tamlane」

スコットランドの一部にいろいろな形で伝わっている伝承バラッド。「多くの妖精伝承がその中に組みこまれており、超自然界をテーマにしたバラッドのうちでは、おそらく最も重要なものであろう。」(キャサリン・ブリッグズ 『妖精辞典』 冨山房 p.517 )

この作品 『九年目の魔法』のモチーフになっている。

(ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 『九年目の魔法』 創元推理文庫)

■国内編                                     海外編|国内編

「少年の日」(佐藤春夫)

「世界で一番悲しい声」で、結婚を間近に控えた女性の不慮の死を告げに来た青年。青年に何も言わずに、女性は旅行に行き、事故にあった。青年の残した言葉が気になり、亡くなった女性の自宅に行く主人公たちだが、女性の行動には確かにいくつかの疑問があり……。全三話。

詩をお読みになりたい方は、こちらへ。

(光原百合 『時計を忘れて森へいこう』 東京創元社)

「あどけない話」(高村光太郎) 『千恵子抄』より

人の心の闇に憑く魔性の存在、妖の者。それと敵対する形の、空の者。長く戦い続けた彼らも、ようやく現代において、最終決戦を迎えようとしていた。そして、炎将による攻撃がスタートする……。

その中で(東京には空がない)と思う不登校の少女は、炎将と出会い奇妙な関係を作っていく。

詩をお読みになりたい方は、こちらへ。

(若木未生 『不滅の王』 集英社コバルト文庫)

「北の海」(中原中也)

著名な幻想画家・藤沼一成。彼の描いた絵「兆し」の前で、双子の少女たちが口ずさんだ詩。

他に、 「汚れつちまつた悲しみに……」「昏睡」(共に中原中也)も登場する。「北の海」を読みたい方は、青空文庫の「在りし日の歌」へ。 「汚れつちまつた悲しみに……」をお読みになりたい方は、青空文庫の「みちこ」へ。

(綾辻行人 『暗黒館の殺人』 講談社NOVELS)

「湖上」(中原中也)

主人公のアリス(本名)は、大学二年生の夏、友人のマリアの伯父の別荘に来ていた。その島にマリアの祖父の遺産が隠されていると聞き、アリスたちは謎を解こうとする。しかし、同じ別荘に滞在していた人物が何者かに殺されて……。

「湖上」を読みたい方は、青空文庫の「在りし日の歌」へ。 「月夜の浜辺」をお読みになりたい方は、青空文庫の「 永訣の秋」へ。 他に、オマル・ハイヤームの「ルバイヤート」も登場する。

(有栖川有栖 『孤島パズル』 東京創元社)

「干からびた犯罪」(萩原朔太郎)

四十年前に死んだ恋人、氷室。多佳子は彼の死後、気の進まない見合いを強いられ、結婚においやられた。その相手と離婚し、開いている人形教室も安定してくるにつれて、昔の恋人の死への疑いが頭をもたげてくる。
久しぶりに懐かしい思い出の場所へと足を運んだ多佳子は、学生時代の友人に出会って……。

「干からびた犯罪」(『月に吠える』収録)をお読みになりたい方は、青空文庫へ。または、こちら(「つれづれの文庫」さま)へ。

(中井英夫 『不思議の国のアリスミステリー傑作選』 河出文庫 収録 「干からびた犯罪」)

「風景 純銀モザイク」(山村暮鳥)

信彦が公園で見かけた少女は、初恋の女の子によく似ていた。雨が降っていない限りは、決まった時間に彼女は公園にやって来る。彼女に惹かれる信彦だが、彼女には特別な秘密があった。

「いちめんのなのはな/いちめんのなのはな……」自分たちの家と公園しか知らない少女は、そんな処をかけてみたかったと思う。

他に、「北の海」(中原中也)も登場する。「北の海」をお読みになりたい方は、青空文庫へ。

(新井素子 『グリーン・レクイエム』 講談社文庫)