小説
*P.L.トラヴァース 『帰ってきたメアリー・ポピンズ』 岩波少年文庫
ムクドリは、暖炉のほうを見やって、また、アナベルに目をおとしました。
「ビスケットか!」と、頭をふりふりいいました。「あーあー、アナベル、あーあ!」 (p.173)
人は生まれる前に知っていた大事なことも、しばらくすると忘れてしまう……。それでも、アナベルの語る言葉はとても美しいです。
*ジェニー・エルペンベック 『年老いた子どもの話』 河出書房新社
ほかの生徒たちは、自分たちの人生に何が欠けているかを知っていた。自由がない。そして、その自由は施設の外にある。しかし、その女の子は、ほんとうの自由とは、ほかの人を押さなくてもすむことであり、その自由は施設のなかにあってほかのどこにもない、ということを理解していた。自分を押させてさえいれば、その子はこの施設での場所を永遠に持ち続けられる。 (p.23〜p.24)
*沖井千代子 『すいかの種』
ふじ子は、この時のお父さんの笑顔を、その後いつまでも忘れることができなかった。(ふじ子がどんなにびっくりするだろう。)というような笑顔だった。
*野梨原花南 『前田朝日の冒険 3』 ムービック
それは例えば天気のいい午後に、夜中、水を飲みに立った台所で父と鉢合わせした時に、ふとのぼる母の名前。光子母さんが好きだった花、……。
心の中に生きている、という陳腐な言葉の真実。
光子や健太の父が今どこにいても、朝日の心の中に確かに光子はいる。
その名を思い出す度、ずっと。 (p.178〜p.179)
父親が急に再婚をすると言い出し、主人公の朝日は猛反発。しかし、とあるきっかけから、異世界に義弟の健太と行くはめになり、神さまどうしの争いに巻き込まれてしまう。上記の文は、最後の戦いの場面で、朝日が思ったこと。1巻のキャッチコピーは「スチャラカファンタジー」だったらしいが、生きることの大切さがストレートに伝わってくる。全3巻。
コミックス
*杉本亜未 『独裁者グラダナ』 徳間書店
作品は作ってるうちは無我夢中でもあとになってみると
一人歩きして…創った人間をも活かす力になるもんだな… (p.126)
*萩岩睦美 『鳥の家』 集英社
ローズの言う事はとんちんかんなようだが 時として非常に正しい
確かに幸せなのに悲しい顔はなかなかできない
だが悲しいのに幸せなフリをしている人間が この世の中にどんなにたくさんいることだろう
ぼくは今まで これほどまでに惜しみなくほほえみを向けられた事はなかった (p.24〜p.25)
メイド1週間プレゼントに当たった主人公ショーンのところに派遣されたお手伝いは、若く綺麗な娘だった。たった1週間の付き合いだとは分かっているが、まっすぐな視線やあたたかい笑顔にしだいにひかれていくのたが……。
*今市子 『百鬼夜行抄』 朝日ソノラマ
僕らが死んでしまった人に会いたいと思うように
彼らもやっぱり会いたいと思っているんだろう