革の物作りを始めてみませんか。革の物作りをするときの基礎知識や作業工程の一例を紹介します。
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TUZIE実験室その4
糸を試す


 糸を試すというタイトルにはほど遠い、いい加減なことを試すだけのページです。アナログマンその54に、「人工シニュー」のことを書いたのですが、補足的にこのページを作りました。




 上の画像の右側は、ラミー糸です。(ラミーは麻の一種です。)

 上の画像の左側は、レザークラフトのカタログに近年掲載されるようになった、「人工シニュー」です。英語での商品名は「Artifical  Sinew」です。和訳すると「人工 腱」と言うことになりますが、ここでは「人工シニュー」と書くことにします。(私個人は、ふだんは「合成シニュー」 と呼んでいます。)

 人工シニューは、化学繊維で出来ている合成品でありまして、本物の動物の腱ではありませんが、強度のある糸として、近年人気があるようです。

 この人工シニューと、麻糸を、ごく簡単に使い比べてみました。

 

 今回使用した人工シニューは、平らなテープ状の糸です。上の画像の上側の糸です。下側の糸は、平らな人工シニューを撚ったものです。手縫いにはこの状態で使うと良いのではないかと思われます。






 まず最初に、糸を引っ張ってみました。このように2本の棒に糸を巻き付けて、両手で引っ張りました。直接手で引っ張るよりも力が入ります。(直接手で引っ張ると、手が切れてケガをすることが考えられるので、気を付けてください。)

 私のサイトの一窓店舗で紹介しているラミー糸は、16/4までの太さは、引っ張ると切れました。16/5からは、私の力では切れませんでした。(棒を使わずに、手だけで引っ張ると、もっと細い糸しか切れません。手が痛い。)

 人工シニューは、裂いて細くした糸は、やはり切れましたが、そのままの太さの糸は、私の力では切れませんでした。足で棒を踏みつけて、両手で引っ張ってようやく切れました。

 糸の見た目では、人工シニューを撚った時の太さは、ラミーの25/6と最も近いように見えました。同じくらいの太さで比べると、人工シニューの方がずいぶん引っ張り強度がありました。(参考:シニューのほうが伸びます。)

 ラミーは、短い繊維を紡いで作られた紡績糸です。もともと切れているものをつなげているわけです。それでも、天然繊維の中では、最も単繊維が長く、強度のある糸とされています。

 人工シニューは、合成繊維が長ーく切れずにつながっているフィラメント糸です。繊維の質や構造がまったく違っておりますので、それが引っ張り強度にそのまま表れているのでしょう。





 この、引っ張り強度を見ただけで、人工シニューの方が良い糸だと思われる人もいらっしゃるかもしれません。それはそれで、良いのではないかと思います。糸は強い方が良いですからね。でも、もう少し試してみましょう。






 左がラミー糸の縫い目、右が人工シニューの縫い目です。それぞれ、スッテッチンググルーバーで溝を切り、溝の中に縫い目を沈めています。

 ラミーは、人工シニューとほぼ同じ太さに見えた25/6を使いましたが、縫い目を見ると人工シニューの方が太くなって見えています。この画像ではわかりにくいのですが、縫い目はラミー糸の方がすっきりしています。

 

 上の画像は、荒い紙ヤスリをかけたものです。それぞれ同じくらいがりがりと削りましたが、溝に埋まっているので、糸まではなかなかヤスリがかかりませんでした。それでも、人工シニューの方がやや太いのか、糸の繊維がかなり切れています。

 この作業は、ただやってみただけなので、特別な意味はありません。私がよくやる無意味な実験です。






 次に、それぞれの糸で縫い合わせた革を、ペンチに挟んで引っ張ってみました。

 引っ張ってみたところ、どちらも糸は何ともありませんでしたが、革が切れてしまいました。溝を切って、手縫い用の穴を開けているわけですから、革は切れやすくなっていたはずですね。革の厚みは2.2ミリです。何も手を加えていないヌメの切れ端でした。

 さて、革の方が切れてしまったことをどう考えればいいでしょうか。革がもっと厚く強度があれば、糸の方に影響が出たかもしれません。でも、この厚さで見れば、糸はどちらも必要十分な強度があったことになります。

 こういうところから私が思いますのは、糸の選択もバランスだと思うのです。美観・操作性・強度・縫い合わせる素材との適性などなど、いろいろなことを考えて、最終的には使い手の好みで使う糸を決めればいいのではないかと思います。単純な引っ張り強度以外にも、いろいろな要素がありそうですね。

 参考までに、菱目の穴は革が切れやすくなると言うので、ドリルなどで丸穴を開けて手縫いをすることもあるようです。そういったことも含めて、縫製については総合的に考えると良いのでしょうね。





 化繊糸では、太いミシン糸などにもロウを施して手縫いに使うことも可能です。また、化繊の組紐糸と言うのがありまして、強度があり伸びにくい糸として、革の縫製用にミシンでも手縫いでも使われているようです。革の愛好家に手に入りやすい所では、誠和の「スムース糸」という商品が、この組紐糸です。

 私自身は、手縫いの時はほとんどラミー糸です。(ミシンの時は化繊糸です。)人工シニューや組紐糸も持ってはいますが、手縫いではラミー糸が操作性も含めて好きです。針に付ける前の、糸漉き作業をひとつとっても心地よく感じます。ただのラミー糸が、ロウを施されて手縫い用に変身する様も良いですね。縫い目も好きです。引っ張り強度の比較だけでは決められない魅力があるような気がしています。 (革の縫製に使われるもう一つの麻糸であるリネン糸については、知識と経験が不足しているので、記述を控えます。)

 さて、糸を試すというページなのに、結局は麻糸が好きだという個人的な好みを書いてしまいました。

 さてさて、あなたは、どんなバランスで縫製糸を選ぶのでしょうか。


 このページを書いてから数日後、「奈良・植山古墳の馬具から麻糸、千四百年前の光沢のまま 」というニュースがありました。(2004年5月 asahi.com )

 奈良県の植山古墳(6世紀末〜7世紀初め)で出土した馬具の飾り付き金具から、苧麻(ちょま)が見つかったそうです。苧麻は、ほぼラミーと同じものと考えて差し支えないものです。「馬の動きで揺れる歩揺(ほよう)と呼ばれる部品を取り付ける心棒4本が苧麻で束ねてあった。」とのことです。

 このような形で、麻糸が確認されるのは、まれなことことだそうです。

 自分が麻糸を使うこととは直接関係あるわけではありませんが、何となくうれしいニュースでした。

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