革の物作りを始めてみませんか。革の物作りをするときの基礎知識や作業工程の一例を紹介します。
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TUZIE解説

 「TUZIE解説」は、以前に工房で配布した「TUZIE通信」というプリントをベースに、書き直した物です。いい加減なことが書かれているかもしれませんが、個人で勝手に思いこんでいることですから、大目に見てください。

1.クラフト用の革 4.レザーカービング 7.接着剤 10.作業板
2. 皮の鞣し 5.革の染色 8. 磨きの道具
3.鞣す と 漉き 6.仕上剤 9.仕立ての周辺


【クラフト用の革】

「タンロー」

 クラフト用の革には、おもに植物タンニンで鞣された牛革が使われます。その中で、日本独特の革なのではないかと思われるのが、「タンロー」です。「タンロー」は、「タンニン鞣しローケツ染め用」の略称だそうです。染色用の革ということですね。

 実際にこの革は白く作られており、水性の染料でも染まりやすく作られています。日本では、染色をやる人が革に取り組み始めることが多かったようなので、そのためにタンローの需要が多く、色もより白くなってきたのだと思います。

 タンローは、白く傷が目立たないように仕上げられています。きれいに見えて、ある意味で第一印象の良い革だと言えます。

 白いから染色した色に革の地色の影響が少ないということなのですが、ある程度は地色が変わりますので、まったく影響が出ないということではないようです。また、きれいに見えた革でも、染色してみると傷が目立ってくるという場合もあります。

 タンローは、日本では消費量が最も多いクラフト用の革だと思われます。この革に模様を入れて染色するというクラフトが、広く行われているからですね。

「ヌメ革」

 タンニン鞣しの皮革の中で、原型とも言えそうな革がヌメ革ではないでしょうか。下地的な革として作られており、着色・仕上げなどを施されて製品用の革に加工されるものだと思われます。他のクラフト用の革もそうですが、半完成品的な革なのですね。

 ヌメ革はタンローのようには白く作られておりませんし、美観についていえばそれほどきれいに見える革ではありません。というよりも、タンローと比べれば汚く見えることが多いのではないかと思います。

 タンニン鞣しの皮革本来の味出しのある革で、最近革を始める若い人たちの求めているのは、この手の革かもしれません。私もヌメ系の革は好きです。

 ヌメ革は、漢字で書くと「滑革」または「(gif画像)」だそうです。広辞苑にそのように載っておりました。ヌメ革の雰囲気が、漢字からもわかりますね。

 ファッション雑誌などで、バッグなどの素材の説明でヌメ革と書かれていることがありますが、タンニン鞣しの素材を表すファッション用語として使われているもののようです。本当のヌメ革のことは少ないのだと思われます。

「サドルレザー」

 「サドルレザー」というのもあります。馬具用の革ということだと思いますが、ファッション用語の側面もあり、現実の用語の使われかたの定義はあいまいです。いろいろな革が、「サドルレザー」と称されて流通しているようです。販売業者の思惑もあり、渋鞣しの革に広く使われるようになった用語ではないかと思われます。

 私の工房に「サドルレザー」を求めてくるユーザーもいらっしゃいますが、革の名称にこだわらず、好きな革を使うことを勧めています。

「豚革」

 豚革もよく使われる素材です。レザークラフトの世界では、裏貼り用に使われるのも豚革が多いですね。

 豚革は、唯一国内で原皮の生産が間に合っていて、輸入に頼らずに済む素材だそうです。タンナーさんも工夫を重ねており、これが豚革なのかと驚かされる素材が、たくさん作られています。

 クラフトの技法でも、豚革の特性に合わせたものが工夫されていておもしろいですね。私自身は行いませんが、華やかな作品がいろいろと作られているようです。

 ブランド品にも、豚革の製品が見受けられますね。おもしろい質感の素材だと思います。


 牛や豚の他にも、羊や山羊などの革もよくつかわれます。
 皮革素材の多くは、畜産の副産物として生産されています。食肉をとったあとの残りと言った性格があるのです。口蹄疫や狂牛病など、畜産の諸問題がそのまま皮革の生産にも影響します。
 

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【皮の鞣し】

 化学的にいうと、皮を鞣す作用のある物質の総称を、タンニンと言うそうです。でも、ふだんタンニンという時には、鞣し作用のある植物成分のことを指しますね。お茶の渋なんかもタンニン分の一種です。

 皮の鞣し剤では、油脂や脳みそが最も古く、ミョウバンや植物タンニンも古代から利用されてきたと考えられているようです。脳みそと書くと気持ち悪いですけど、日本でも鹿皮の鞣しなどにずっと脳漿鞣しが行われてきました。アメリカ原住民の伝統的な鞣しにも利用されてきたようですね。

 薬品に頼らないところでは、ひたすら噛むという鞣しもあるそうです。極寒の地では、近年まで行われてきたようなのですが、日本でもそんな鞣しが行われていたかもしれませんね。

 鞣し剤そのものではありませんが、皮を柔らかくするのに、むかしは鳥や犬の糞尿なども使ったりしたらしいです。PH調整か何かだったのでしょうか。動植物成分フル活用で皮の鞣しが行われてきたのですね。

 すごいと思うだけにして、想像はしないようにしましょう。(えっ、もう想像してしまいましたか、実は私もばっちりと…)

 古代からの鞣し剤の中で、クラフトに最も関係がありそうなのは、植物タンニンですね。シュマックやオーク樹皮が最も古くから利用されていたそうです。オーク樹皮はカテコール系とピロガロール系の両タンニンを含み、古来上質のタンニン剤とされているようです。

(この手のことを調べると、化学式がたくさん出てくるのですが、私はさっぱりわかりません。とりあえず用語だけ。革をやっていて思うことは、化学と数学の勉強をもっとやっておけば良かった、と言うことです。どちらも最悪の苦手科目でした。)

 海外のタンナーや商品に「オーク」と付くことが多いのは、オークタンニンが皮革の歴史の中で重要な位置を占めてきたからかもしれません。

 日本では、国産の柏のタンニンなどが使われた時期もあったと、図書館の本には書いてありました。現在は、ほぼ100%輸入タンニン剤が使われています。ミモザ・ケブラチョ・チェスナットなどが、現在日本で使用される主なタンニン剤です。

 日本で植物タンニン鞣しが本格的に行われるようになったのは、明治時代になってからです。西洋式軍隊の装備に、革が必要になったのです。ドイツの革鞣しの技術が取り入れられたそうです。いまでもドイツの技術が基本になっているらしいですよ。合成タンニンも、戦争でタンニン剤が不足したドイツが開発したと、何かで読みました。軍事と革の関係は深いのですね。古代からの革の歴史そのものが、そうなのかもしれません。


 ところで、植物タンニンは名称から考えても革の鞣しに重用されてきた物ですが、薬でもあり染料でもあります。革の世界に限らず、何かの歴史を調べてみると、ある一つの物が、古くからいろいろな分野で利用されていることに出会うことがあります。

 どうして、昔の人はこんな利用法に気が付いたのだろうかと、不思議な気持ちになりますが、昔の人ってすごいですよね。タンニンの利用法を考えただけでも、すごいです。(現在は、油田の採掘などの時の土質改良にも使われると、タンニンについての文章で読みました。よくわからないのですが、これもすごいかも。)


 現在の鞣しの中心的な技術は、クロム鞣しです。19世紀半ばから工業化された、比較的新しい技術です。金属塩での鞣しの総称は鉱物(ミネラル)鞣しですが、クロムの他にアルミニューム鞣しなどがあります。古くからのミョウバン鞣しも、アルミニューム鞣しの一種ですね。ジルコニューム鞣しというのもあるようです。アルミニューム鞣しもジルコニューム鞣しも、白い革ができるらしいのですが、詳細は私は知りません。申し訳ない。

 鞣しとしては、1種類の鞣し剤を使う単独の鞣しよりも、複数の鞣しを組み合わせるコンビネーション鞣しが多いのだそうです。植物タンニン鞣しと鉱物鞣し、鉱物鞣しと油脂鞣しの組み合わせなど、複数の鞣しを組み合わせることによって、いろいろな革をつくるようです。

 私は革を見てもよくわからないので、袋物に使うような革は何でもクロムレザーで済ませてしまっています。これは反省ですね。

 鞣しそのものではありませんが、現代の革は仕上げの技術などが進歩して、様々な表情の革が作られています。でもその反面、合成素材との境界線がわかりにくくなってきているところもあるような気がします。革の存在について考えさせられます。


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【「鞣す」と「漉き」という言葉】

 「鞣す」というのは、ご存じのように生の皮を加工して、柔軟で安定した実用性のある素材にすることですね。「皮」は鞣されて「革」になると、必ず解説本などには書いています。

 この「なめす」という言葉、柔らかく加工することの日本語の共通の音なのですね。たぶん。

 金属加工では、加熱して素材を柔らかくすることを「なます」と言いますが、「なめす」も「なます」も、もともと同じような意味を表す音から始まっている言葉ではないかという気がします。

 他にもいろいろと兄弟のような言葉がありそうですが、何を思い浮かべられますか。


 ところで「漉く」という言葉があります。革を薄くする時に使われますね。一般には紙を「漉く」という、紙を作る工程に使われる言葉です。

 以前、私の地元秋田で、「職人学会」なるものが開かれたことがあります。その時、永六輔さんの講演会がありまして、たまたまチケットをいただいたので行ってまいりました。

 物作りにまつわる著作も多い人ですし、講演は、さすがに楽しくおもしろいものでした。その中で、どうして紙を作ることを「漉く」と言うのだろう?という話が出ました。

 「漉く」の話の前に、「のろし」は「狼煙」と書くが、これはオオカミの糞を燃やすのが「のろし」としては最も良いからなのだ、と言うお話がありました。使われる文字には意味がある、しからば「漉く」の中の「鹿」はどういう意味なのか?と言うことだったんです。

 自分では考えたこともなかった、とてもおもしろい話だと思いました。講演の中では答えは示されなかったのですが、私なりにいろいろと考えました。

 まず「すく」と言う音が、「薄いものを作る」という意味なのだそうです。漢字はあとからあてがわれていったのでしょうね。革を薄くするのも「すく」。ノコギリや包丁の身を部分的に削る時にも「すく」が使われます。薄い紙を作るのも「すく」なのですね。「透ける」も、兄弟のような言葉でしょうか。

 私が思ったのは、紙以前のシート状の素材の代表的なものが、革であろうと言うことでした。日本で革の中心的な素材は「鹿皮」であったそうです。実物をイメージしてみると、和紙の繊維の絡み方と鹿皮の肉面の繊維の状態は、似ているところがあります。

 水の中から作られる鹿皮に似たシート。それで「漉く」となったのではないのかなというのが、私の想像です。製造工程も、何か共通しているところがあるような気がしませんか。

 革の「すき」にも「漉き」の文字が使われます。作業自体を表すには「剥き」が正しいような気もするのですが、この文字は「剥ぐ(はぐ)」と言う文字でもあります。革の場合は薄くするという行為よりも、別の作業をイメージしてしまいそうです。

 革も水の中を通って作られるものです。その革を薄くする作業に「漉く」の文字を使うのは、とても似合っているような気がします。

 「革漉き」と「革剥き」、やっぱり「漉き」のほうが誤解もなくきれいな感じがしますね。「漉き」の文字を選んだ人の気持ちがわかります。

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【レザーカービング】

 レザーカービングは、代表的な革の装飾技法です。革を叩いて圧縮することによって表現していく、革の伝統工芸です。(日本の「伝統工芸」には国の決めた定義があるのですが、それは関係なし。)

 1920年代に技法書などが発行されて、一般に紹介されるようになったと聞いております。それまでは、代々の工人にだけ伝えられてきたそうです。

 日本ではアメリカのウエスタンのイメージが強くあるようですが、歴史をさかのぼるとメキシコがありスペインがあります。

 皮革の加工技術は、北アフリカで初期の技術が起こり、中世には現在に通ずる技術がほぼ確立されていたのだそうです。(イスラム文化圏の中でしょうか。) その中心的な地域の一つがスペインだったのです。その後スペインからは皮革の技術に限らず、植民地政策に伴って、世界中にあらゆる技術と感覚が伝えられました。

 スペインは、近代を見てもガウディ・ダリ・ピカソなどが生まれた天才の国、技術と感覚の国だったのですね。

 ところで、革の装飾の古いものとして、紀元前数千年のナイフシースのようなものに、直線で構成された模様が施されているものを、本の写真で見たことがあります。アフリカの遺物だったと思うのですが、日本の風土では腐り風化して無くなってしまうような皮革の遺物が残っているなんて、すごいですね。

 革の装飾には、それぞれの時代に、様々な感覚や技法があったようです。イスラムの幾何学的な独特のモチーフ、華やかに金箔を施す技法、プレス機と植物の種を利用した模様付けなど、私には断片的にしか知ることができませんが、豊かな発想と技術で皮革の加工が行われてきたようです。

 高級なところでは壁紙ならぬ壁革もあったようですし、茹で皮といった感じの庶民の器もあったそうです。あらゆるところで革が使われてきたのですね。素材の選択肢が少ない時代だったからこそ、自由な発想であらゆることに使われたのかもしれません。「そこに革があるから使う」。そういう時代があったのだと思います。

 革の技術は、何百年も前からすごかったと言うことですね。



 ところで、スペインからメキシコに伝えられたカービングの技法ですが、新天地ではヨーロッパの文化に縛られることなく、メキシコの自然の中の植物がモチーフとして取り入れられ、自由な新しい感覚のデザインが生まれたと言われています。

 さらにアメリカでの感覚も加えられて、アメリカのウエスタンのスタイルができてきたのだと思われます。アメリカ(南西部)らしいモチーフとして、ワイルドローズやザクロ・ポピーと言った植物が、アメリカのテキストには紹介されておりました。

 レザーカービングと言えば、唐草模様のイメージがありますが、時代や地域の独特の感覚が、唐草にも取り入れられているのですね。でも、アメリカの図案集などを見ていると、先祖返りと言いますか、ヨーロッパの伝統的な装飾スタイルが再び取り入れられているのも感じます。

 いろいろな時代の感覚と、デザインする描き手の感覚が融合して、様々な図柄が作られています。でも、この革の唐草模様は、見慣れない人にはとてもわかりにくい部分があります。独特に様式化されシステム化されている上に、個人の感覚が加わり、抽象的でわかりにくいものになっているのかもしれません。

 パターンを何々スタイルと分けるのは、あまり好きではないのですが、このところシェリダンスタイルという言葉を、よく目にします。円を配した基本構造を持っていて、整った好印象のパターンだと思います。このスタイルが日本でも紹介されて以降、カービングに取り組む人が増えたそうです。工具もシェリダンスタイル向きの物が、販売されています。



 日本では、レザーカービングが染色の下地のように扱われている面があるようです。「ちょいと模様を付けてから、染色しましょう」という感じです。そこに、伝統工芸としてのレザーカービングの影は薄いような気がします。

 日本でレザークラフトが行われるようになった時に、染色をやっていた人が革に取り組むことが多かったようなのです。材料の販売会社も、クラフトの指導者も、染色から入ったケースが少なくないようです。

 また、レザーカービング以前に、明治・大正時代にヨーロッパに留学した画家などが、モデラで柄を付けた革に染色をする技法を、日本に持ち込んでいたそうです。(絵画に関する本に、その技法の名称も書いていたのですが、忘れてしまいました。)画家の奥様が、内職で革製品作りをすることも、多かったそうです。

 まず色があって、そこに革とカービングの技法がやってきた、という面があったのではないかと思います。そのため、日本では使用される素材もタンローが多くなったのでしょう。

 でも、タンローという革に、伝統工芸としてのカービングに応えてくれることを望むのは、難しいことなのではないかと私は思っています。以前はおもしろいと思える革もあったのですが、最近のタンローの中にはおもしろそうな革が見あたらないようです。タンローはやっぱり染色用であって、カービング用にはできていませんね。

 それではカービング用として良い革が豊富にあるかというと、そうでもないんです。なかなかこれだという革には、お目に掛かることができません。(良い革も中にはあるのですが、私の個人的な好みを満たしてくれる革とは、本当に出会うことが難しいです。)

 ヌメ系の革で、十分に鞣されて締まり具合や脂の入れ方がちょうど良い革。そして厚みの選択も十分にできる革。そういう革があればいいなと、いつも思っています。以前と比べると、業界もタンロー一点張りではなくなってきているので、期待しているところです。(本当は思い通りの革をオーダーしてみたいのですが、ロットの枚数や失敗することを考えると、宝くじでも当たらないと怖くてできません。できたとしても、革を置いておく場所がない…。)

 レザーカービングというのは、ある意味で革に傷を付けてしまう作業です。本当は何もしないほうが、革は美しいかもしれません。でも、ハードに叩いた時に革がそれに抵抗しながらも受け止めてくれて、また繊細な表現をしたい時には革が素直に応えてくれる。そこに革と作り手とのコミュニケーションがあるような気がします。


「刻印」

 刻印はレザーカービングにとって、とても重要な工具です。良い刻印を持ちたいと思うのは、レザーカービングをする人に共通の願いではないでしょうか。

 刻印の善し悪しをここで述べることはできませんが、私はごく普通の国産の刻印を中心に使っています。もちろん自分の好みに調整して使っておりますが、お気に入りの刻印が手元にあると、うれしいものです。

 1960年代のアメリカで、刻印が繊細で最も充実した時期があったと聞いております。残念ながら、1964年生まれの私にはその頃のことはわかりません。現在のカタログでも、かなり高価な造りの良さそうな刻印は紹介されており、質の良い刻印もまた少しずつ増えてきているようです。

 どのような刻印を使うにしても、自分で使用する刻印と素材の革が持っている表現力を、十に引き出すことが大切です。

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【革の染色】

 レザークラフトにおける染色は、おもに植物タンニン鞣しの革の染色と言うことになります。私はほとんど染色を行わないので、染色について書くには力不足なのですが、一般知識的な内容でまとめてみたいと思います。



「地色の変化」

 植物タンニン鞣しの革は、タンニン分の酸化と共に色が変わっていく性質があります。変色を嫌がる人もおりますが、この変色こそが革の味へとつながる、重要な革の性質です。

 タンニン分は植物染料でもあります。ですから、革が最初から植物染料で染色されていて、それが酸化発色するのだと考えると、革の変色も肯定的に考えることができるのではないでしょうか。

 革の染色では、この革の地色の変色も計算に入れることが大切です。また、ヌメ系の革などでは、最初から下地の色が強く影響します。そこで、革の地色と染色との関係を考えてみましょう。


 植物タンニン鞣しの革の色は、やや赤みのある色に変わることが多いようです。鞣し剤の種類や加脂や仕上げの状態によって、色合いが違ってくるようです。色の微妙な違いがあり、変色の程度にも違いはあるものの、おおむね橙色系のくすんだ色に変わっていくと考えて、差し支えないのではないかと思います。

 革の染料は透明色ですから、下地の色の影響を大きく受けます。その中でも、最も受ける影響が大きいのではないかと思われるのが、青系の色です。大雑把な言い方になりますが、橙色系の補色は青系の色です。補色同士を混ぜると、色はくすんで無彩色に近づいていきますから、青みは薄れてグレイっぽくなりやすいことになります。薄く明るい青は、最も持ちの悪い色になるかもしれません。

 青に限らず、ほかの色も下地の影響は受けます。中には深みを増し味わい深くなる色もあると思います。地色の変色の影響以外にも、染めた色が退色することもありますし、色の変化を予測するのは難しいことです。でも、色相環やトーンについての知識と、混色の知識がある程度あれば、多少は予測の役に立つのではないかと思います。色を作る時も自由にできるようになると思います。(ちなみに、知識があっても私は苦手ですが。)


 皮革の染色では、布などの染色とは違って、いくつかの制限があります。熱を加えることができなかったり、使用することのできる薬品も限られます。したがって、皮革の染色強度は一般に低い物と考えられています。

 事実、染色はしやすいけれども、退色もしやすいということが皮革染色では良くあります。染色について書いた本の中に、染色は化学的な可逆反応で、染色しやすい物は色を抜くこともしやすい、と言うようなことが書いたありました。ちょっと意味合いは違うようですが、革の染色にどこか当てはまるような気がします。

 同じ染料を使っても、色の耐久力や色落ちの程度は、染色の仕方や仕上げの方法によって、かなり違いが出るようです。自分で使用する染料と革の組み合わせで、染色の段取りや濃度などを吟味することも大切なことだと思います。


「鉄染み」

 革の作業をしていて、革が青黒く変色して指紋が付いたりと言うことがありますね。あれは植物タンニンと鉄分の反応が起きた、鉄媒染の状態です。鉄との反応が最も目立ちますし、鉄はそこら中にある金属元素なので、鉄と反応した鉄染みはよく起こります。アルミや銅との反応は、鉄ほど目立ちません。鞣しの時には、金属封鎖剤などを使って金属との反応を防いでいるんですよ。
 解説本などによく書いてあることですが、鉄とタンニンを反応させた鉄タンニンインクは、いわゆるブルーブラックインクです。

 鉄染みは、蓚酸の水溶液で拭き取ることができることが多いのですが、蓚酸は劇薬です。性質などを確認してから使うようにしてください。自己責任というやつですね。
 子どもさんのいるご家庭などでは、薬品類の扱いには特に注意をしてください。私も、子どもたちには、「毒」であると小さい頃から言い聞かせています。



「追加記事」

 上記の記事を読んでくださった、革のクラフトの先輩から、蓚酸よりも安全な物として、「レモン果汁」を教えて頂きました。

 早速試したところ、効果抜群でありまして、毒性の心配をしなくても良いので、あらためて「レモン果汁」を鉄染み除去に勧めます。




「塩基性染料」

 植物タンニン鞣しの革は、いろいろな染料で染色することが可能です。塩基性染料・直接染料・酸性染料・オイル染料・植物染料などで染色することができます。その中でも、最もポピュラーな塩基性染料について書いてみます。

 塩基性染料は、色が鮮やかで低温での染色が可能なので、革の染料として広く使用されています。日光堅牢度が劣るので、雑貨染色用の染料として扱われているようです。染料液の性質を、塩基性に調整して使うので塩基性染料というのだそうです。

 19世紀に初めて開発された合成染料は、塩基性染料の一種でした。はじめは布の染色にも使われたようなのですが、耐久力が低いためにやがて使われなくなりました。後年、アクリル繊維には堅牢に染め付くことがわかり、改良型の塩基性染料がアクリル繊維用に使われるようになっています。

 市販の革用の水性染料が、塩基性染料の一種なのですが、これらは酢酸の酸っぱい臭いがします。塩基性染料は酢酸を加えると溶解性が増すので、酢酸が加えられています。

 塩基性染料の標準使用濃度は1〜2%くらいの物が多いのですが、この程度の濃度で溶くには、酢酸を必要とする色は多くはありません。粉の製品はあまり見かけなくなりましたが、自分で溶く場合には酢酸は必ず使うというわけではありません。

 塩基性染料は水にもメタノールにも良く溶けます。ほとんどの色はお湯で溶くことができますが、メタノールを加えることによって完全溶解する色もあります。メタノールを加えることによってカビなども防ぐことができます。多少は浸透性も良くなるようです。


 染色する時は、あらかじめ革を湿らせておきます。革に限らず布などでも同様です。染めムラを防ぐためです。そして、薄い色を染め重ねて目的の色を出すようにします。いきなり濃度の高い染料で染めるよりも、何度か染め重ねて色を出す方が、染色の強度が上がると言われています。

 3〜5回くらいの染色で目的の色に仕上げるのが適当ではないかと、私は考えていますが、いかがなものでしょうか。染め重ねる時は、前の染料が乾き切る前に次の染色をしたほうが染料も入りやすいですし、革へのダメージも少ないと思います。

「アルコール染料」

 染料の分類で、アルコール染料という物があるわけではありませんが、レザークラフトの世界では通称でアルコール染料と呼ばれています。おそらく金属を含む酸性染料の仲間をアルコールで溶いているものだと思われます。色素と金属がくっついていると、色の強度が高くなるそうです。

 酸性染料は、絹・ウール・ナイロンなどの染色に使われます。糸や布の染色では、水(湯)で溶いて加熱して使われますが、革ではアルコールで溶いて使われるのです。

 塩基性染料と比べて、色の鮮明さに欠けるといわれますが、問題のない色合いだと思います。アルコールに対しての溶解性は、塩基性染料よりも劣る物が多いようです。不溶解物が出る場合は、上澄みを使うようにします。(水で溶いた場合と、アルコールで溶いた場合では色が違うと言うことです。)


 メタノールに良く溶ける、メタノール染料という商品もあります。これも含金属酸性染料から、誘導されて作られた物のようです。メタノールとエタノールでは、溶解力や揮発性・染料の浸透性が異なります。メタノールのほうが、染めのコントロールはしにくいと私は感じます。

 メタノールにエチルセロソルブを多めに加えると、液性が穏やかになり染めのコントロールがしやすくなります。エチルセロソルブは、革のカタログでは染料溶解剤として紹介されています。エチレングリコールモノエチルエーテルという長い名前で、成分表示されているかもしれません。いずれにしましても、メタノールは劇薬ですから、使用する場合は注意が必要ですね。

 革のカタログで紹介されているアルコールは、おそらくエタノールにイソプロピルアルコールを加えたものですので、そのまま使って良いと思います。メタノール染料に関しては、やはりメタノールにエチルセロソルブを加えたもののほうが、良く溶けます。また、粉から溶く時は、アルコールを先に容器入れておきます。逆にすると溶かしにくくなるようです。

 アルコール染料で革を染める時には、刷毛よりもウェスのほうが扱いやすいと感じています。染料屋さんは刷毛やスプレーとも言うのですが、私がやってみた中では、ウェスが最もコントロールしやすいようです。最初にやはり革を水で湿らせますが、水気が多すぎると色が正しく出ません。

 水染めのように何度も染色するのではなく、できれば1回で色を決めた方が革へのダメージが少ないと、私は思っています。1回の染色の中で、濃度を薄い物から濃い物へ変えていくとよいと思います。濃度は高くても2%くらいが良いように思っています。濃度が高くなると、色かぶりが起きやすくなります。

 乾燥途中で軽く揉みを加えると、革の硬化をかなり押さえることができます。柔軟にするための方法が、他にもいくつか考えられますが、同時に色落ちしやすくなってしまう場合もあり、難しいところです。



 染料以外にも、着色剤はいろいろと使われています。工業的に見ても、合成樹脂塗料などを使用した塗装が広く行われています。着色と仕上げが同時に行われるわけですね。

 コバの仕上げなどにも、塗料がよく使われます。市販の製品には、よく見受けられますし、クラフトの世界でも一般的に使用されています。こぎれいに仕上がります。

 革に装飾を施してからの着色にも、合成樹脂の絵の具がよく使われているようです。水性のアクリル系絵の具が最も多いようです。

 染料の一つとしては、ペースト染料がさび入れによく使われます。「アンティック仕上げ」と言われていますね。

 あらゆる着色剤が、革には使用することができると思います。目的にあわせて使用してください。


【仕上剤】

 仕上げをどうするかは、かなり難しい問題です。革を始めて以来ずっと、私などは悩んでばかりです。答えはいまだに出ませんし、これからもずっと試行錯誤を繰り返していくことになりそうです。

 仕上げも人それぞれで、自分にあった方法で行えばいいと思いますが、レザークラフトでよく使用される、一般的な仕上剤を紹介します。

「水性仕上剤」

 水性ニスとして販売されている物は、ほとんどの物が乳白色のアクリル樹脂系の仕上剤です。安全性が高く手軽に扱うことができて、仕上がりもきれいなものです。

 水性のアクリル樹脂は、柔らかく屈曲性に富みますが、その柔らかさが仕上がりのべとつき感にもなってしまいます。水性の仕上剤を厚塗りした時のべたべたした感じは、樹脂の性質が柔らかいためなのです。

 レザークラフト業界に、いくつかの製品が販売されています。私は仕事でこの手の仕上剤を使うことはほとんどありませんが、製品により性質が違うように感じています。

 ムラのできやすさや保存性などに、違いを感じたことが何度かあります。

 アクリル樹脂以外にも、ウレタン樹脂の水性仕上剤などもあります。


「油性仕上剤」

 溶剤に有機溶剤を使用する物を、油性の仕上剤と考えて良いと思います。アクリル樹脂やウレタン樹脂の仕上剤の他、造形的な作品にはカシュー塗料なども使用されています。

 カシューはカシューナッツのカシューです。カシューの殻から抽出される成分に、漆のウルシオールと似通った成分があり、それが利用されていると言うことになっています。代用漆といった感じで利用されます。

 もちろん本物の漆も皮革に利用されます。武具の甲冑にも利用されていますし、正倉院の御物の中の皮革製品も、生皮に漆の技法を施したものです。

 アクリルやウレタン樹脂については、水性よりも油性の製品のほうが、塗膜の性能が優れているはずです。塗料では一般的に、油性の製品のほうが性能が高いのです。

 また、非常にポピュラーなものとしてはラッカーがあります。缶入りやスプレー式の製品が市販されています。ラッカー原料には粘度の違いなどにいくつかのタイプがあり、用途によって使い分けられているそうです。例えば木工用と革用では、当然求められる性能が違うわけです。革用の特徴としては、屈曲性が求められると言うことでしょうか。可塑剤という、柔軟性を出すための成分が添加されています。

 よく解説本などで言われることは、この可塑剤は革に移行してしまい、ラッカーの柔軟性が不足して割れることが考えられる。そのため、可塑剤が移行しないように、下塗りのバインダーなどを使うと言うことです。下塗りには、ムラなどを押さえる効果もあるのでしょう。

 私個人は、上記のような使い方をしないので、この点については実は詳しくはわかりません。一般的な解説をなぞっただけですので、詳細はご自分で確認してください。

 レザークラフト業界の各社が販売しているラッカーは、それぞれ違う製品です。使用法によっては、効果に違いが出てくると思います。詳細や私の感想は省略しますが、製品の違いはかなり大きい物があります。

 同じ商品名でも中身は異なると言うことを、頭のどこかに入れておいたほうが良いかもしれません。 


「オイル・ワックス」

 油脂類は革には欠かすことのできないものです。革の繊維は油脂分が無くなると傷んでしまいますね。塗装とは違う意味で、油脂類は革の仕上げの重要な要素です。(仕上げ以前に、革の構成要素の一つですが。)

 以前は、日本のレザークラフトのカタログには、油脂類の紹介が多くはありませんでした。それが、モーターサイクルファッションのレザークラフト業界への影響の中で、少しずつ増えてきたようです。日本にも良い製品があるはずですが、カタログで紹介されるようになった油脂類は、海外の物が多いようです。

 日本の、タンローに装飾を施して華やかに染め分けるクラフトスタイルには、油脂による仕上げは向きません。特に塩基性染料は、色落ちが激しいものです。そういう事情もあり、油脂類の紹介が少なかったのでしょう。

 カタログの紹介文は必ずしも正確ではありません。防水性のほとんど無い製品に、防水性をうたっている場合もあります。とにかく自分で使用してみて、自分の目でどんな物なのかを見極めることが必要ですね。

 油脂による仕上げをするのであれば、複数の油脂を用意する必要があるでしょう。1種類だけでは難しいのではないかと思います。

  


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【接着剤】

 接着はとても大切な工程です。何をどのように接着するかによって、適する接着剤が変わりますし、同じ作業をするに当たっても、使用する接着剤によって作業性が異なります。

 誰もが知っているような、一般的な内容になりますが、接着剤について簡単に説明します。

「ゴムノリ」

 ゴムノリはあまり接着力を必要としない接着に使います。伸びがよく、塗りやすいノリです。接着後も、革があまり硬くなりません。

 へりの折り返しに使いやすいですね。裏革を接着する時も、強度の必要のない部分に使います。

 ゴムノリは接着する革の両面に塗布します。そして、十分に乾かしてから接着します。

「合成ゴム系ボンド」

 合成ゴムのボンドは、普通のゴムノリよりも接着力の強い接着剤です。やはり、両面に塗布してから十分に乾かし、べとつき感が引いてから接着します。乾燥が不十分な状態で貼り合わせると、接着強度が弱くなり、その後の作業にもよくない影響が出る時があります。

 厚塗りされたりはみ出したりしたボンドは、コバ磨きなどの時に、磨きの邪魔をしてコバがきれいに仕上がらない原因となります。接着剤の塗り方の上達が、作品の仕上がりの向上にもつながります。

 合成ゴム系のボンドには、おもに黄色いタイプと透明なタイプがあります。全ての製品がそうだというのではありませんが、私が使った範囲内の透明なボンドは、やや塗布しにくい面がありました。私は黄色いボンドを使っています。

 同じ黄色いボンドでも、商品により塗布する時の感じや、接着力や接着可能時間は異なるようです。自分で使いやすい製品を見つけてください。

 以上は、有機溶剤を使用したボンドですが、水性の合成ゴム系のボンドというのもあります。私は1種類しか試したことがないのですが、接着力はあまり強くはありませんでした。でも、両面塗布の乾燥後に接着というのは、作業性が優れているので、水性という安全性を考えると、リハビリや教育現場には適する接着剤かもしれません。性能の向上や、低価格化が進めば、使用される機会が増えるかもしれませんね。


 有機溶剤を使用した接着剤は、容器に入れていると溶剤が抜けて硬くなってきます。完全に固まってしまうと、捨てることになりますが、ある程度は溶剤を加えることによって適度な硬さに戻すことが可能です。

 接着剤用の溶剤は、トルエンとヘキサンの混合物です。引火性も中毒性も高い物がありますので、十分に気を付けて使用してください。もちろん管理責任もあります。

 接着剤を使用する時の換気などにも、十分に配慮してください。

「水性ボンド」

 酢酸ビニル系の水性の接着剤です。木工用ボンドや手芸用ボンドとして販売されている接着剤にも、同様の物が多いですね。乾燥後は透明になり、やや硬さが出る点は共通の性質です。

 乾燥後に硬くなるために切削性がよく、切り口の始末の時に合成ゴムのボンドのように接着剤が伸びて出てくるということもありません。造形的な作品で磨く工程が大切な場合などは、重宝する接着剤だと思います。接着力も十分にあります。多めに塗ると、片面塗布で接着することができるので、その点も便利な時があります。口金の溝に入れる接着剤としても、よく使われています。

 だだし、貼り合わせた時の初期接着力が、合成ゴム系のボンドと比べると弱いので、用途によっては使いにくいと感じる時もあります。乾燥性の異なる製品が販売されています。塗布してから接着するまでの時間も考えて、使用する製品を選んでください。

 ちなみに私は、乾燥性の異なる接着剤を混ぜて使っています。そういえば、でんぷんノリと酢酸ビニル接着剤を混ぜて、それを水で薄めたノリを製本用の布の裏打ちの接着に使用するというのもありました。他の水性接着剤とも混ぜて使うことができるのですね。

 硬くなった時には、水を加えることもできますが、水を加えると急激に粘度が低下する性質があります。水を加えなくてはならない場合でも、ほんの少しずつ様子を見ながら加えていかないと、柔らかくなりすぎてしまいます。

「両面テープ」

 お手軽接着剤の代表です。製品としては、非常に接着力の強い物も製造されていますが、皮革の加工に使用されるのは、ごく一般的な接着力のものです。通常のDIYショップで見かけるものとの違いといえば、テープの幅に狭い物があるということでしょうか。

 強度のそれほど必要としない部分に、使用することになります。ミシン仕立ての縫製前の固定という意味合いの強いものだと思いますが、ミシンの針の落ちる部分にはテープがこないように接着することが大切です。針に粘着剤が付いてしまい、縫製不良の原因になります。ある程度はシリコンなどで防ぐこともできるようですが、テープを縫わないことが何よりですね。



 以上の他にも、皮革の接着にはいろいろな接着剤を使用することか可能です。接着剤も、どんどん新しい製品が製造されて、最新の製品はよほど気を付けていないと、把握することすらできません。一般のお店では小売りされない、業界用の製品がどの分野にも必ずありますし。

 古くは、漆・膠・小麦粉系の盤石ノリなども接着剤として使用されました。現在はあまり使用されていないと思われます。

「ノリベラ」

 どの接着剤を塗布する場合でも、何で塗るかは重要ですね。自分にとって使いやすいノリベラをがあると、作業がしやすいです。

 私は樹脂製のヘラが好きです。白い硬質の製品を使っていますが、素材はポリプロピレンか何かなのだと思います。ヘラに付いた接着剤を剥がす時も楽ですし、適度な弾力もあります。

 形状になかなか良い物がないため、市販の製品を加工して使っていますが、レザークラフト業界に独自の物があっても良さそうな気がしています。レザークラフトのカタログには、市販のパテベラをノリベラとして掲載していることが多いようです。

 ヘラの他にも、ブラシなども接着剤の塗布には便利です。


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【磨きの道具立ち】

 革の加工では、磨くという作業がよく行われます。その中で使用されている道具や用品について簡単に解説します。

「ノリ」

 コバや床を磨く時に使用するノリ剤があります。最も一般的なのはCMCではないでしょうか。水かぬるま湯に溶かして使いますが、溶解までに時間が掛かります。一晩くらい掛けて溶かすと良いですね。加水分解してさらさらになってしまう性質があるので、少し濃いめに作っておいて、使用する分を適度に薄めながら使うと良いかもしれません。

 CMCは塩基性染料や金属とは相性が悪く、凝固します。革用の一般的な染料とは混ぜることができません。

 CMCは、食品添加物の糊料として使用されていたり、保冷剤の中身として使用されていることもあります。注意してみると、身近なところでいろいろと使われています。「えっ、こんなところにも!」というのがきっとありますよ。

 いま開いてみた本には CMC = カルボキシ メチルセルロースと書いてあります。名前を見ても、いったいどんな化学物質なのかさっぱり見当の付かないのが悲しいところですが、危険な物ではないようですから、安心して使いましょう。


 CMCは水で溶いたあとは徐々に分解されていく性質がありますから、粉の状態で販売されています。他にも、すぐに使用できる状態のノリ剤がいくつか販売されています。トラカントガムらしきものや、ビニルか樹脂系と思われる物などがあります。これらには色を混ぜた有色の物もあります。

 技法書には、アラビアガムが紹介されていました。日本で伝統的なものといえば、フノリです。私もフノリを使っています。フノリは腐るので、その対策が必要です。


「何で磨くか?」

 コバの磨きを行う時、何を使っていますか。市販の製品では樹脂製のヘラや、円盤形の樹脂製や木製の物が、磨き用として販売されていますね。

 「何で磨けばいいのか?」を考えた時に、「結果がよければ、何でも良いんじゃないかな」というのが私なりの答えです。布・ヘチマ・革なども便利に使えますね。

 布であれば、堅めで繊維の落ちにくい綿の布などが良いのではないかと思います。帆布などは使いやすいですね。ヘチマは適当な大きさに切って使います。革は裁ち落としの残りの革で十分です。

 いろいろとやってみて、お気に入りを見つけると良いですね。それぞれ万能ということではなくて、適材適所で使い分けると良いと思いますよ。

 私どもの教室の中ですと、薄物には布や革がよく使われます。ベルトなどにはヘチマが好まれているようです。縫製後のコバの始末ではヘラが欠かせません。床や銀の磨きにはガラス板が活躍しています。

 自分で磨き用のヘラなどを作っても良いですね。さて、何を使って磨きますか。


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【仕立ての周辺】

 糸や針などの仕立てに関連した物を取り上げます。

「糸」

 まずは、ミシン糸。おもにポリエステルなどの化繊糸が使われています。フィラメント糸という、繊維がずーとつながっている作りの糸が多く、毛羽立ちがありません。毛羽立てた化繊糸もありますが、革ではあまり使われているのを見かけません。

 細い物で40番くらいから、太い物では1番や0番といった糸が使用されています。この何番という糸の番手は太さを表していますが、「ある決まった重量の時のその糸の長さがどれくらいか」によって決められています。具体的には、太さの規格ごとに数字が決まっているのですが、細かい重さと長さの数字は覚える必要はないですね。

 一般のミシン糸の番手でいえば、数字が小さいほど糸は太くなるということを覚えておいて、あとはサンプル帳があれば十分です。

 糸の太さを表す企画にはいくつかの種類があり、綿番手や麻番手など、糸の種類によって使い分けられているそうです。



 手縫いに使われる糸では、まずは麻糸があります。麻の中でもラミー(苧麻)が多く使われます。ラミーと苧麻は厳密には違うと書いてある本もあったのですが、同じものとしている本も多く、まずは同じものと考えても差し支えはないようです。

 ラミーは繊維が長く、天然繊維糸の中では最も引っ張り強度に優れたものです。化繊のフィラメント糸とは違い、短い糸を紡いで作る紡績糸です。

 欧米の手縫い用の天然糸は、リネンやフラックスとされていることが多く、これは同じ麻糸でも亜麻糸ということになります。やはり繊維が長く丈夫な糸です。参考までに、衣料品などで日本で「麻」と繊維の表示をする場合、JISで亜麻か苧麻と決められているそうです。亜麻と苧麻が強度もあり美観もよい、代表的な麻繊維なのですね。麻繊維には他にジュートやヘンプなどがあります。

 さて、麻糸の表示でたとえば「20/3」となっていれば、それは20番手単糸を3本撚りあわせた糸を表します。さらに糸の番手の後に「Z」か「S」の表示があれば、それは撚りの方向を表します。「Z」は左撚りで、「S」は右撚りです。撚りあわせた糸を側面から見た時、撚り目が傾斜して斜めの線に見えますよね。その線の傾きの向きをアルファベットのZとSの字に見立てて、縒りの方向を表す記号に使われています。

 糸を染色加工したりロウ引き加工したりすると、その加工だけで5〜10%も強度が落ちるのだそうです。市販の糸をいろいろと比べてみてください。「おっ、なるほど。」と思うところがあるかもしれませんよ。同じ番手の麻糸でも、強度が異なる場合があるようです。

 手縫い製品の中には、太いミシン糸のような化繊糸を使用していて、ライターでほつれ止めをした物も見受けられます。

 糸では、他にも化繊の組紐構造の糸などが使われています。ミシン縫いでも手縫いでも使われていますね。たいへん強度のある糸です。

 人工シニューという、動物の腱を真似た化繊糸も使われているようです。

「手縫い針」

 一般的な手縫い針としては、先端を丸めた針が市販されています。太い針と細い針の2種類があるようです。

 私はふとん針を使っています。軽く先端を研磨ペーパーで削ります。太さや長さがちょうど良いのです。

 他にも、いろいろな針が使用されているようです。ご自分の好みで選ぶと良いですね。

 先端を三角に削った針も革用として販売されています。以前、列車の連結の蛇腹の幌部分の縫製に使うとおっしゃって、この針を求めて行かれた人がおりました。いろいろな使い道があるのですね。

「手縫いロウ」

 手縫いの糸に施すロウです。市販品はそれぞれ性質が違っています。日本製のロウは、白ロウか何かが入っているのか、滑りの良い物が多いようです。アメリカ製のビーズワックスは、日本製のロウよりも締まりが良いですね。多分、混ぜ物を入れず、また精製もしていない蜜蝋だと思うのですが、私はこちらを勧めています。

 手縫いで有名なエルメスの紹介写真などを見ていると、さらした蜜蝋のような物が写っていますが、実際はどうなのか。

 私は自分で好みのロウを作って使っています。

「マイクロニッパー」

 手縫いが終わってから糸を切る時に使う道具としては、マイクロニッパーがなかなかのおすすめです。際で安全に切ることができます。刃の付け方に種類があるので、購入する時に気を付けて見てください。刃の表に角度の付いていない物が良いですね。

 刃の合わせが大切で、刃の間に隙間があると使いにくい物になります。購入する時に刃を合わせて光に透かしてみて、光が漏れてこない物を選びましょう。そこそこの値段の製品が良いと思いますが、刃の合わせ具合が良ければ、安価なものの中にも使うことのできる物はあります。でも、材質が悪い場合もあるので、注意してください。


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【作業板】

 裁断・穴あけなどの作業板について、簡単に紹介します。

「ビニプライ」

 裁断用のビニル板です。裁断用には、文具として薄手のカッティングマットも市販されていますが、すぐに裏まで切れてしまいますし、革包丁のような繊細な刃物は刃こぼれしやすくなってしまいます。

 その点、ビニル板は刃に対する当たりが柔らかく、耐久性もあるので安心して使用することができます。使用する作業台の全面にビニプライを敷くと、作業が快適にできますね。

「ゴム板」

 ゴム板は、菱目打ちやハトメ抜きで穴あけをする時に使います。一見したところ同じように見える黒いゴム板でも、硬さに種類があります。レザークラフト業者は、カービングの台との兼用も考えて、硬めのゴム板を販売していることが多いようです。

 私は、硬めの台が好きではないので、柔らかめの製品で30センチ角の物を取り寄せています。刃のあとが立たずに、穴あけに安心して使用することができます。30センチ角の大理石と同じ大きさで、収納した時に収まりがよいようにしました。

「大理石」

 レザークラフト業者で販売しているのは、25センチとか30センチ角の大理石です。カービングの時の作業台として使います。硬質のゴム板と兼用するよりも、やはり大理石の板のほうが、きれいな作業ができます。

 いちおう大理石と書きましたが、石であれば大理石でなくても良いのです。御影石くらいしか名前がわかりませんが、庭石用でも墓石用でも平らでほどほどの厚さであればOKです。

 厚さや材質によって、音の出方などが変わると思うので、何でもいいとは言い切れませんが、良さそうな物があれば試してみてはいかがでしょうか。音といえば、私どもの教室の作業環境では、テーブルの上に直に大理石を置いて作業をしたほうが、槌音が静かになります。生徒さんが自宅でやるとフェルトを敷いた方が静かになることもあるようですし、音の響き方は一様ではないようですね。




 以上、簡単にあれこれと解説しましたが、何か一つくらいは参考にして頂けましたか。また、何か気が付いたことがあった時に、書き足していきたいと思います。

1.クラフト用の革 4.レザーカービング 7.接着剤 10.作業板
2.皮の鞣し 5.革の染色 8.磨きの道具
3.鞣す と 漉き 6.仕上剤 9.仕立ての周辺

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