実ベクトル空間のあいだの一次写像の階数と行列表示の階数

関連ページ:ベクトル空間からベクトル空間への1次写像の行列表示基底の変換と一次写像と行列

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定理:一次写像の階数と、一次写像の行列表示の階数  

 [斎藤『線形代数入門』4章§5[5.1](p.116);砂田『行列と行列式』§5.5-d(p.194);] 

【舞台設定】
R実数体(実数をすべて集めた集合)  
V :実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)で、有限次元。 
W :実ベクトル空間実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)で、有限次元 
f :V→W」:一次写像 
rank f一次写像f階数 

【本題】
 V, Wに任意基底を定めたときの一次写像fに対応する行列Aの階数は、 
     一次写像f階数に等しい。 
 つまり、V, Wに任意基底を定めたときの一次写像fに対応する行列Aにたいして、 
      rankA=rank f   

【証明】
[準備1]  
 一次写像f:V→W には、
   f (v1)=w1 , f (v2)=w2 , , f (vrankf )=wrankf , f (vrankf+1)= , f (vrankf+2)= ,, f (vdimV)=  
 を満たす 
 Vの基底{v1,v2,,vdimV }、Wの基底{w1,w2,,wdimW }が存在する。() 
[準備2]  
 したがって、[準備1]で存在が示された、Vの基底{v1,v2,,vdimV }、Wの基底{w1, w2, , wdimW}をとると、 
 これらの基底に関する一次写像fの行列表示は、 
     
 となる。()  
[本題]  
Vに「任意基底{ v'1, v'2, , v'dimV }を、Wに「任意基底{ w'1, w'2, , w'dimW }を定めたとき一次写像fに対応する行列Aとおく。
{ v'1, v'2, , v'dimV }から、1.で存在が示された{v1,v2,,vdimV }へ変える基底変換行列が一意的に存在し()、これを、Pとおく。P正則行列である()。
{ w'1, w'2, , w'dimW } から、1.で存在が示された{w1, w2, , wdimW}へ変える基底変換行列が一意的に存在し()、これを、Qとおく。Q正則行列である()。
基底変換公式より、V基底{v1,v2,,vdimV }W基底{w1, w2, , wdimW}に関する一次写像fの行列表示は、Q−1AP
また、
[準備2]より、V基底{v1,v2,,vdimV }W基底{w1, w2, , wdimW}に関する一次写像fの行列表示は、
    
したがって、
 
Q−1AP=D (dimW,dimV, rank f) 
が成り立つ。
Q-1, P正則行列だから、基本行列を掛け合わせた行列積として表せる()。 
したがって、D (dimW, dimV, rank f)は、行列Aの標準形であり、
rank fは、行列Aの階数である。()  
以上から、V,Wに任意基底を定めたときの一次写像fに対応する行列A階数rankAは、
     一次写像f階数rank f に等しくなることがわかる。


トピック一覧:部分ベクトル空間の定義
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(reference)

日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目83行列L線形写像(p.222)
線形代数のテキスト
志賀浩二『数学30講シリーズ:線形代数30講』朝倉書店、1988年、17講線形写像(pp.107-112)。
ホフマン・クンツェ『線形代数学I』培風館、1976年、3.4行列による一次変換の表現(p.89)。
永田雅宜『理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、1.4行列と一次写像(pp.23-31)。
藤原毅夫『理工系の基礎数学2:線形代数』岩波書店、1996年、4.3線形写像の階数と行列の階数(p.102)。
斎藤正彦『線形代数入門』東京大学出版会、1966年、第2章§3行列と線形写像(p.44):実線形空間・複素線形空間のみ;。
以下未確認
佐武一郎『線形代数学(第44版)』裳華房、1987年、Vベクトル空間§6ベクトル空間の公理化(p.115)。線形従属・独立については、数ベクトルに限定?
代数学のテキスト
酒井文雄『共立講座21世紀の数学8:環と体の理論』共立出版、1997年、1.6ベクトル空間(p.22)。:数ページしか触れていないが、逆に、一般の線形空間の理論の骨組みだけを浮かびあがってくるので、何が重要事項なのかを見極める上で便利。
数理経済学のテキスト
神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、§5.2.1線形写像の行列表現(p.165)。