■ 2022年に観た映画
  
2022年12月 「密告」
アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督作をWOWOWで続けて放送していた。本作の舞台はフランスの小都市で、「カラス」と名乗る人物から一人の医者の元に、彼の不正を暴く怪文書が届けられる。その後、似たような文書が様々な人々に何通も送られ、街は大混乱に陥る。「カラス」とは誰なのか、何の目的なのか。
 前に見た『悪魔のような女』と同様、人間心理の闇を巧みに描き、骨太なサスペンスを生み出している。1943年に作られたことにも驚く。
2022年12月 「犯罪河岸」
続けて見ているアンリ=ジョルジュ・クルーゾー作品。本作もまた入り組んだミステリ劇になっており、とくに登場人物を追い詰めていくアントワーヌ警部の演技が見事で、彼とどう対峙し、苦境を乗り越えるのかが大きなサスペンスポイントになっていて飽きさせない。ラストはやや拍子抜けの感があるものの、突き放したラストは本作には似合わないと思うから、これでいいのだろう。
2022年12月 「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」
007シリーズをさほど熱心に見てきたわけではなく、思い入れもない。ダニエル・クレイグ版は、なかなかに面白かった『スカイフォール』のみ見ている。(『スペクター』は見ているつもりだったが、見ていなかった。)本作は『スペクター』から直接つながる続編であり、ダニエル・クレイグ版の最終回。さすがに50歳を超えて肉体的な説得力がなくなり、アクションも厳しくなったようだ。評価のあまり高くない本作だが、僕は何故か、すごく楽しんで見られた。もちろん、スペクターが弱すぎるところや、今回の“兵器”があまりに無敵すぎてしらけるところ、ラミ・マレック演じる大ボスのインパクトが薄い点など、短所はたくさんある作品だが、あまりそのあたりが気にならず、映像美に酔いしれることができた。ラストにも低評価を下す人がいるだろうが、まあ次作でなんとかしてくれるんでしょ、というところでとりあえず納得。
2022年12月 「広島仁義 人質奪回作戦」
おなじみの役者陣が揃い踏みの東映ヤクザ映画だが、監督に『徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑』などのエログロ映画を撮った牧口雄二を迎え、やや趣を異にする一作。とはいってもこの監督の特色はさほど現れず、おなじみの切った張ったのやりとりが繰り返される。構成が上手くないせいか、登場人物の名前が覚えにくいのが難点。それにしても小林旭は死なないなあ。
  
2022年11月 「実録・私設銀座警察」
いわゆる東映実録路線ものとして、『やくざと抗争 実録安藤組』『実録安藤組 襲撃篇』の間に撮られた作品。おなじみ安藤昇の他、梅宮辰夫、室田日出男、葉山良二などが顔を揃える。誰が誰を出し抜いて襲撃したりまた逆襲されたりと、おなじみの展開が続く。本作はそこに、終戦後の混乱期における、博徒や退役兵、米兵らが入り乱れる猥雑さ、渡瀬恒彦がほぼセリフなしでただ狂った男を演じるエキセントリックさを添え、なかなか見ごたえのあるカルト映画に仕上がっている。東映のヤクザものは同じ映画ばかりのようにも思えるが、本作は一見の価値あり。
2022年11月 「さがす」
岬の兄弟』で驚かされた片山慎三監督による、長編映画第2作。いかにもだらしのない父親を佐藤二朗が好演し、しっかり者の娘を『空白』で短い演技ながら強烈な印象を残した伊東蒼が演じる。自殺願望のある人を殺していいか、という大きなテーマ、そこにミステリ的な要素を加え、さすがに独特の作品に仕上がっている。ただ、『岬の兄弟』のインパクトを期待して見たぶん、肩透かし感はあった。入り組んだ構造と見せ場づくりにも嘘くささを感じてしまったのが、やや難点。
2022年11月 「フィフス・エレメント」
さほどの名作とは言えないのに、昔から大好きな映画。アイスダンスの日本人ペアが劇中曲を使用している影響で、妻と一緒に見た。妻は初鑑賞で、僕はもう何度見たかわからない。フィギュアで使われたのは、異形の異星人が歌うオペラ歌曲で、そのシーンもいいし、コメディ場面やSF的な壮大な映像にも酔いしれる。人間に化けた極悪異星人が、顔をぶるぶるっと震わせると元の顔に戻るシーンが大好き。妻も楽しんで見てくれたようだ。
  
2022年10月 「トップガン」
1986年の公開後、サントラが好きで何度も聞いていたが、映画自体はずっと見たことがなかった。『トップガン マーヴェリック』鑑賞のため、たまたまやっていたCSの放送で見た。若き日のトム・クルーズは若くて爽やか、というよりも、野放図で無神経な感じに思え、あまり良い印象は持てなかった。作品のテーマとしても、飛行訓練での競争と、たまたま遭遇した実戦という、ぼんやりしたものでしかない。ライバルもさほどの行動をしないため対決構造が弱く、恋愛要素に至っては笑止千万。これでは心揺さぶられるエンタメにはなりえない。
2022年10月 「LOVE LIFE」
久しぶりの劇場鑑賞。深田晃司作品は、評判は聞いてたけれど見るのはこれが初めて。骨太なつくりに、評判通りの質の高さを感じた。様々なテーマが提示され、それぞれに考えさせられる。あまりの内容の豊かさゆえ、一つ一つのテーマが薄くなっていると思う人もいるかもしれない。たとえば、中盤以降のある人物の不在についてないがしろにされているのでは、という不満の声もあるようだ。そうした意見も確かに理解できるが、それでも僕には人間や人間関係、人生の複雑怪奇さがリアルに伝わってきて、心を動かされた。
 主人公の女性に観客を感情移入させ、夫や周囲の人間との敵対関係を簡単に描く浅薄なドラマはいくらでもあるが、本作はそうならない。主人公・妙子を含めた全員の駄目な部分をきっちり見せ、誰にも単純に肩入れさせず、誰を断罪することもなく、じゃあ人はどう生きるのか、自分ならどう行動するのかと問いかけてくる。
 主人公・妙子夫婦と義理の両親との部屋の位置(大声を出せばコミュニケーションが取れ、何かの折に行き来できる)など、舞台設定もよくできているなあと感心する。また、主人公・妙子と聴覚障害者の元夫との手話でのやりとりは、元夫は彼女なしでは生きていけない、と“彼女が強く思うための”道具立てとして、うまく機能していたと思う。
2022年10月 「ドラキュラ 血の味」
子供の頃、テレビで何度も観ていて、ドラキュラの復活するシーンが本当に怖かった。今観るとどう感じるのだろう、と40年ぶりくらいに再見した。思ったほどの怖さはなかったものの、ストーリーとしての出来の良さに感心した。クリストファー・リーのはまりっぷりは見事なものだし、ゴシックホラーの雰囲気は満点。ラストのあっけなさが不満なものの、この時代のホラー映画として上出来で、今観ても遜色のない一作。
2022年10月 「そこにいた男」
岬の兄弟』というとんでもない映画を撮った片山慎三監督がその翌年に発表した作品。33分の短編映画という、商業映画の枠外に追いやられてしまいそうなフォーマットを選んだ真意はわからないが、短いながらセンスがキラリと光る佳作、ではなく、残念ながら短いせいでありきたりの映画になってしまった気がする。殺しのシーンのショッキングさだけではさすがに今の時代、通用しない。
2022年10月 「恋の罪」
一時期、園子温監督作を好んで見ている時期があり、本作はWOWOWで放送されなかったせいもあって見逃していた。予告編や見聞きする感想などから、エログロの激しい作品だと思っていた。実際に見た印象としては、『愛のむきだし』にかなり近い。何人かの物語が平行して描かれ、徐々に彼らや周囲の行動がエキセントリックかつ意味不明になっていき、そこに園子音印とも言える独自の映像表現が展開される。ただ、『愛のむきだし』と同様、よくわからないながらアートのようなものを見た気にもなるが、冷静に考えれば大したこともない作品にも思える。化けの皮は、この後、作品を発表するごとにしぼんでいく評価と共にはがれていく。
2022年10月 「よこがお」
LOVE LIFE』に感銘を受けて以来、深田晃司監督に興味を持ち、まずは本作を配信で見た。筒井真理子さん演じるごく普通の優しい看護師が、ほんの少しの手違い、判断違いから、思いもよらぬ出来事に巻き込まれていく。彼女のことをかわいそうだとも思えるし、仕方がないとも思えてしまう絶妙な設定が、見る者をなんともいえない気持ちにさせる。脚本も秀逸だし、『LOVE LIFE』と同様、二つのマンションの部屋の位置など、舞台設定も見事。それにしても、池松壮亮は『紙の月』といい、こんな役ばっかりだな。
2022年10月 「浅草スマイル」
恋人たち』の主役だった篠原篤さんの、垢ぬけなくて器用とも思えないところがずっと気になっていて、売れてほしいと願っている。本作は、『恋人たち』の2年後に撮られた主演作。なぜか41分という中途半端な長さで、さほど話題にもならず、Wikipediaの篠原さんのページにも掲載されていない。
 売れない漫才師という設定は篠原さんの当て書きなのか、実在感があって好ましい。ただ、物語としては、とある秘密の是非を問う最大の謎解きがやや性急に感じられ、この短さが生かされていない気がした。短編映画というのはかなり難しい表現形態なのだと痛感する。
2022年10月 「ゼンタイ」
橋口亮輔が傑作『恋人たち』の2年前に撮った62分の短編映画。全身タイツ、略して「ゼンタイ」の愛好者の集まり、というメインテーマの元に役者の即興演技で作り上げた作品。本作に出演した篠原篤と成嶋瞳子が『恋人たち』のメインキャストとなっている。そうした経緯を踏まえて見れば面白いが、本作単体ではなんとも評価しがたい。
2022年10月 「空白」
万引きの疑惑をかけられた女子中学生が、スーパーの店長に追いかけられた末、交通事故で死亡する。中学生の父親はやりきれない思いを抱え、スーパーの店長や中学校教師をモンスター的に追い詰めていく。父親は立派な人物とは言えないまでも、娘を亡くすという最大級に辛いできごとを前にしてはやむを得ない気になるし、だからといって周りの人間にもどうすることもできず、見ていてやりきれない気持ちになる。役者さん達はみな素晴らしい演技を披露し、いつもはあまり好きではない松坂桃李も本作では役にぴったりとはまっている。彼が弁当に関する些細なことでキレてしまう場面、同様に寺島しのぶがつまらないことでボランティアの同僚スタッフを叱り飛ばすシーンなど、人間の人間たる部分にあふれていて切なくなる。
 ただ、ラストへ向かっての展開は、やや甘くなってしまった印象。アスガー・ファルハディやミヒャエル・ハネケなら最後まで突き放した作品になるところ、吉田恵輔監督の優しさが出てしまった気がする。
2022年10月 「1917 命をかけた伝令」
戦争ものはそれほど好きではなく、サム・メンデス監督にそこまで信頼は置いてなかったが、実によくできた映画だった。全編ワンカットに見える撮影もさることながら、伝令を伝えるという一本道のストーリーにこれほど起伏に富んだ豊かなドラマを含ませた手腕に感服する。戦争映画ながら大衆的で万人受けするエンターテインメントになったともいえるが、それは悪いことではないはず。エンターテインメントの底力を思い知らされた。しっかりキャストを動員した迫力ある映像も素晴らしい。
2022年10月 「ゴッドファーザー<最終章>:マイケル・コルレオーネの最期」
以前の『ゴッドファーザーPartV』は見たことがあるが、コッポラ監督が再編集した本作を見るのは初めて。冒頭にバチカンのシーンから始まるところからして、物語がスムーズに流れ、わかりやすくなった気がする。ただ、やはりソフィア・コッポラの浮き上がりぶりとアンディ・ガルシアの雰囲気たっぷりなのにイマイチな感じは健在で、前二作と比べるとどうしても評価は落ちてしまう。
2022年10月 「鵞鳥湖の夜」
ディアオ・イーナンは『薄氷の殺人』でも思ったが、どうにも話のテンポが悪く、素直に楽しめない。ストーリーにもキャラクターにも魅力が乏しいから、画面上ではいろんなことが起こり、その一つ一つは面白い(殺され方など)のに、一本の映画として伝わってくるものが薄いのだ。
  
2022年 9月 「ゴッドファーザー」
U-NEXTで配信している『ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男』を見るための予習として鑑賞。これぞ映画の中の映画。内容がどうこうよりも、あの雰囲気に浸れるだけで至福の時を過ごせる。
2022年 9月 「ゴッドファーザーPartU」
『ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男』の予習として見た第一作のあと、やはり見たくなってこちらも鑑賞。一作目は数えきれないほど見ているが、本作を見るのは3度目くらいで内容を結構忘れていた。結局、ビトーは本当に殺すべき大悪党しか殺さなかったが、マイケルは身内を含めどんどん殺していく。その対比がやはり素晴らしい。ただ一作目からすると、あの独特の雰囲気がやや薄らいだ気がして、ほんの少しだけ評価が落ちる。
2022年 9月 「勝利への脱出」
巨匠と言われるジョン・ヒューストン監督だが、僕が見た『マルタの鷹』『黄金』『キー・ラーゴ』『アフリカの女王』『赤い風車』あたりは、どれも傑作というほどの出来とは思えず、本作も雑な作りと演出が気になって思うように楽しめなかった。映画界のスター、シルベスター・スタローンやマイケル・ケインと、サッカー界のスター、ペレとの共演という名目があったにせよ、脱出のための苦労、サッカーのリアリティなどがうまく描かれず、ラストのカタルシスも作品のテーマもうやむやになった気がする。
2022年 9月 「ピエロがお前を嘲笑う」
ドイツ製の犯罪サスペンス。天才ハッカーが起こした犯罪を、捕らえられた彼の独白で再現するという構成。サイバー犯罪の痛快さ、何度も続くどんでん返しなどが見どころなのだろうが、僕はもうこういう映画はいいかなという感じ。
2022年 9月 「17歳のカルテ」
僕とは全く関連のない、外国の若い女性の物語に、ここまで心を揺さぶられるとは思わなかった。冒頭からしばらくは、主人公スザンナ(ウィノナ・ライダーが好演)の頭の中の乱れをそのまま映したような、時間配列バラバラの映像の羅列に、トリッキーな映像を見せつけるタイプの作品かと思っていた。これがそうではなく、激中でも語られるアンビバレントな心象世界をリアルに描き出した傑作だった。登場人物の誰にも肩入れせず、この世の悲劇と喜劇をバイアスなしで描き出した監督の手腕を称えたい。そしてとにかく、アンジェリーナ・ジョリーよ! 本作でのアカデミー助演女優賞受賞に異論なし!
2022年 9月 「死霊館 エンフィールド事件」
人気シリーズの第二作。一作目同様、かなり古風なホラー映画、オカルト映画の部類に入る。堅い作りながらときおりギャグかと思われるほどやりすぎの恐怖表現があり、ホラーエンタテインメントとして十分に楽しめる。いっぽう僕が不満だったのは、「この現象は果たして本物かイタズラか」という命題が、本作の鑑賞者、および本作の登場人物に突き付けられ、鑑賞者はほぼすべての映像を見られるので、後半あたりではもう本物だとしっかり認識している。いっぽう、登場人物にとって得られる情報は各人で断片的なため、後半までこの命題が生きており、ラスト近くになって「やっぱりイタズラだった」といって全員が手を引いてしまう演出のところで、鑑賞者はしらけてしまう。こうした映画では、鑑賞者と登場人物の認識はなるべく一致させるのが常套手段だろう。
  
2022年 8月 「きっと、うまくいく」
仕事と私事でかなり忙しくなったため、見やすいものや過去に見て面白かったものを見ている。本作を見るのは三度目で、僕のオールタイムベストの一本。見るたびに笑って泣いて感動できる、盤石の作品だ。171分と長尺だが、今回見てみると、もう少しじっくり時間をかけて見せてほしいと思う場面がいくつかあった。それでも安心して楽しめる、誰にでもお勧めできる傑作に違いはない。
2014年鑑賞時の感想
2015年鑑賞時の感想
2022年 8月 「少年の君」
デレク・ツァン監督の長編第二作にして、堂々たる出来。香港社会の底辺階級の生き辛さ、青春の痛々しさなどがリアルに迫って来る。ややご都合主義的な展開に思える部分もあるが、見ごたえはたっぷりある。主演のチョウ・ドンユイ、イー・ヤンチェンシー(フィギュアスケートの高橋大輔選手の若い頃に激似)、いじめっ子役のチョウ・イエなど、演技といい面構えといい、この映画の世界観にぴったりはまっていて素晴らしい。
2022年 8月 「トスカーナの幸せレシピ」
旅行で訪れて以来、フィレンツェは大好きな街なので、タイトルに惹かれて見てみた。料理を紹介するほのぼの系映画かと思っていたら、一流シェフが少年を指導して料理コンテストでの優勝を狙うという、意外に起伏のある王道ストーリーだった。
 怒りをコントロールできないシェフと、アスペルガー症候群の少年という師弟関係は面白いと思わせるものの、肝心の料理の過程があまり映されず、少年の料理の腕前がどうすごいのか、なぜ彼はコンテストで勝ち進めたのかがよくわからない。少年を支持する団体の女性心理学者とシェフが簡単に関係を結んだり、シェフと長年のライバルだった男性との確執など、浅薄な描写も少し気になったが、感動ストーリーとして一定の基準はクリアした良作だと思う。
2022年 8月 「南極料理人」
滝を見にいく』が素晴らしく、追いかけてみようと思っている沖田修一監督の、商業映画デビュー作。南極観測隊の個性的な面々との生活を、料理人の目から描く。淡々とながらも登場人物達を長所短所の隔てなく描くところは素晴らしいが、『滝を見にいく』ほどの感動には結びつかなかった。ややデフォルメしすぎの感があるのと、閉鎖空間でのドラマ作りが今一つうまくいっていないせいか。
2022年 8月 「ターミネーター」
疲れのたまる日々のなか、あまり難しい映画は受け付けられず、過去に見たうちで間違いのない作品を再見している。本作においては、タイムトラベルものなのにタイムトラベルの理屈や手法をばっさり切り捨てたところが、逆にテーマ性を浮かび上がらせる結果になったのだろう。続編ではしっかり「兵士」になったサラ・コナーが、本作ではまだ普通の女性として登場し、自分の息子と人類の未来を守るためにけなげに戦う姿には熱くならざるをえない。
2022年 8月 「ターミネーター2」
前作とは違いしっかり兵士として鍛えられたサラ・コナーが、前作では敵だったシュワルツェネッガーと手を組み、新たなターミネーターと闘うという、続編として実によく寝られたプロット。バディ、友情、親子愛、人類救済など、複数のテーマを盛り込み、短い時間でまとめあげた力作。二作を続けて見ると本当に見ごたえがある。
2022年 8月 「ブラス!」
『トスカーナの幸せレシピ』と続けて見たが、思いがけず同じコンテストものだった。閉鎖寸前の炭鉱で暮らす男たちがブラスバンドのコンテストに挑むが、仕事や生活との狭間でチームワークは乱れ、リーダーは病気でコンテストに出られない、さあどうするか、という話。たまたまやってきた美人の女性奏者、とても上手いとは思えないバンドがなぜか勝ち進む展開などで、音楽は美しいのに乗り切れなかった。
  
2022年 7月 「アイネクライネナハトムジーク」
今泉力哉監督作をいくつか見た中で、大傑作とは言わないまでも一番好きな作品になった。三浦春馬の演技を観るのは初めてだったが、気持ちを表に出せない主人公のもどかしさを見事に演じていて感心した。「あのとき出会ったのが君で本当に良かった」という今どきどうかと思うクサいテーマや、出てくる人がいい人ばかりという点など、頭を抱えるような駄作に仕上がりかねないところ、見ごたえのある作品に仕上がっていて驚いた。役者陣もすべていい演技で、実在感がある。
2022年 7月 「街の上で」
タイトルどおり、街の上で起こる大小さまざまなできごとが描かれる。若葉竜也演じる主人公・青(あお)の身に起こるのも、彼女に振られたり、映画のキャストに呼ばれるが緊張してうまくいかなかったり、たまたま知り合った女性と込み入った話をしたりと、大したドラマにもならないできごとばかり。それでも今泉監督が、彼らを普通の人のまま魅力的に見えるよう演出していて、手腕の確かさを感じる。延々と続くいたたまれない展開にも、「あーもう、見てられないよー!」と身もだえしつつ見てしまう。聖地巡りをする女性とそれにつきあうカフェ店員、自分の話をしたがる警察官など、本筋と何も関係ない描写もそれぞれ味わい深い。
2022年 7月 「ヘンリー・フール」
ハル・ハートリー作品を初鑑賞。内省的な主人公の青年がヘンリー・フールいう不思議な男と出会い、詩の才能を開花させていく、というストーリーはあるのだが、そう明快に描かれるわけではない。淡々とした日常の中で突発的に様々なできごとが起き、それらが微妙に関わりながら人生が続いていくといった感じ。嫌いではないが、それほどのめりこむでもなく見終えた。もう少し物語部分に重きを置いたバランスのほうが、僕の好みではある。
2022年 7月 「悪魔のような女」
1955年の映画で、ここまでしっかりサスペンスを作り込んであることに驚く。序盤はやや地味な展開が続くものの、中盤以降は一瞬も目が離せない。プールに沈めて隠したはずの死体がなくなり、誰かが真相を知っているのか、もしかして死んでいなかったのか、などなど、様々な憶測が頭をよぎり飽きさせない。最後の仕掛けも気が利いていて、いい映画を見たと満足できる。
2022年 7月 「新感染半島ファイナル・ステージ」
前作『新感染ファイナル・エクスプレス』およびその前日譚アニメ『ソウル・ステーション/パンデミック』が素晴らしい出来栄えだったので、続編となる本作も楽しみに見た。
 前作から4年後という設定で、同じ世界観ながら登場人物はまったく異なる。序盤から気になったのは、いかにもCGというのが丸わかりの映像で、どんなに激しいアクションを見せられてもゲーム画面のようで胸に迫ってこないところ。また、人間ドラマを盛り込んだ脚本は悪くないのだが、迫りくる危機から間一髪で急展開、という演出が上手くないため、助かることが見ている側にバレバレだったり、感動を生まないケースが多かった。小道具も今一つ生かし切れておらず、惜しいと思わせる一作。
  
2022年 6月 「ミナリ」
韓国系移民の一家が、アメリカでの成功を夢見ながら、いさかいを起こしつつ団結して生きていく。美しい風景と共に静かなドラマが進行するものの、予想の範囲をほぼ出ないままに映画が終わってしまい、やや物足りなさを覚えた。アカデミー助演女優賞を獲ったユン・ヨジョン演じるお祖母さんがもっと大きな存在になるかと思っていたのだが、そうでもなかった。
2022年 6月 「ゴースト・ドッグ」
日本の武士道に傾倒するニューヨークの殺し屋が主人公という、変わった設定の物語。殺し屋が依頼主との連絡に使うのが伝書鳩(!)という、日本趣味なのかどうかよくわからない、とぼけた内容になっている。それでも厳然と人の死は描かれるわけで、このノリについていけない人には理解不能かもしれない。僕は、嫌いではないものの、他のジャームッシュ作品と比べると取り立てて好きというほどでもない。武士道精神を説いた書物『葉隠』の一節がモノローグ的に挿入される展開は、『パターソン』と雰囲気が似ている。
2022年 6月 「ゾッキ」
原作者の出身地である蒲郡市を舞台にした実写作品。ところどころにぐっとくる描写やセリフがあるのだけれど、オムニバス的に語られるドラマのからみ具合が今一つしっくりこない感じがした。ふざけてやり過ぎるノリも、僕には合わなかった。
2022年 6月 「気狂いピエロ」
ヌーベルバーグは得意ではないのだけれど、トリュフォーよりは好みかなと思っていたゴダール。ヌーベルバーグの到達点とも言われる本作を初めて観た。ストーリーはどうでもよく、主役二人、アンナ・カリーナとジャン=ポール・ベルモンドの弾けるような魅力、そして流れゆく映像美を楽しめばいいと思うのです。ベルモンドがいやいやながら家庭生活を送る序盤は見ているほうも退屈だったが、アンナ・カリーナと行動を共にするようになってから、酔いしれるように画面にくぎ付けになってしまった。これがどう名作なのか、なかなか解説するのは難しいが、とても好きな映画になったのは間違いない。
2022年 6月 「プロミシング・ヤング・ウーマン」
割と好きな女優のキャリー・マリガンが、こんな役もできるのかと驚いた。主人公による残虐な復讐、ということを想像してたら、その点はやや肩透かしの印象。ラストでは確かに復讐を成し遂げたとはいえるが、それでいいのか、とも思う。
2022年 6月 「北陸代理戦争」
松方弘樹演じる主人公が自分の親分さえ拷問にかけるほどの破天荒ぶりを見せる点では、『仁義の墓場』の渡哲也にも通じる。ヤクザの組や組員が大量に出てきて混乱するが、ストーリーを丹念に追う映画ではないので、だいたいのところでドンパチを楽しめばよいと思う。ただ、ラストの処理については疑問が残った。
  
2022年 5月 「ベートーベン」
二度目の鑑賞は年老いた母親と一緒に見たが、すごく楽しんでくれた。犬のかわいさ、愛らしさが嫌らしくないレベルで出ている。漫画風なストーリーも、ちゃちにならないようしっかり作り込んであって、大人の鑑賞にも耐えられるし、子供が見ても楽しめるだろう。こういう映画はなかなか作るのが難しいと思う。

前回の感想はこちら
2022年 5月 「ファーザー」
認知症が進んでいく老人を、老人視点から描いた力作。事実と思っていたことがどんどん変容していくさまは不条理劇さながらだが、本人からすればこうなるのだろう。何が本当のことなのかどんどんわからなくなる地獄。興味深いけれどあまり見たくはない世界だ。ただ、「認知症の人からは世界がこう見えます」という問題提起だけでなく、最後に何らかの方向性を示してほしかった気がする。
2022年 5月 「ヒックとドラゴン 聖地への冒険」
前2作は本当に素晴らしかったが、3作目の本作においてはネタ切れ感が強い。トゥースの彼女役の登場も父親からかつて聞かされた新天地への移動も、共にインパクトに欠ける。果ては今回のボスキャラがたいして強くないことが、物語を決定的に緩くしてしまった。
2022年 5月 「生きちゃった」
断片的なアイディアが置かれただけ、という印象。登場人物すべてに魂が宿っていないから、普段はいい役者なのにもったいない。「日本人だからこうなるのか」を強調することに意味は見いだせず、恋愛や夫婦、家族、友人の意義については何も語られていないに等しい。
2022年 5月 「全員死刑」
もっと悪ふざけノリの作品かと思っていたら、ぜんぜん真っ当な映画だった。そこらへんの邦画よりよほどセンスがあってしっかりした映画に仕上がっている。悪ノリ演出もあるにはあるが、それは本作のテーマそのものだから、しらけずに最後まで観られる。役者のそれぞれ魅力的で、主役の間宮祥太朗の怖さと頼りなさの共存する雰囲気、その兄貴役の毎熊克哉の底知れなさなど、いいものを見られた満足感でいっぱい。
2022年 5月 「ハリーとトント」
実家にて、母親と姉とで一緒に鑑賞。二人とも猫好きなのもあって、存分に楽しんでもらえた。家を失ったハリーが子供らを頼ってアメリカを横断し、どこへ行ってもうまくいかない。短い出会いが短編小説の味わいをもたらし、それぞれが興味深い。ハリーをかつての恋人と勘違いした女性とダンスを踊るシーンが大好き。主役のハリーを演じたアート・カーニーは本作でアカデミー主演男優賞を獲った。ノミネートされたアル・パチーノ、ジャック・ニコルソン、ダスティン・ホフマンらをおさえての受賞だから、その価値もわかろうというもの。

前回の感想はこちら
2022年 5月 「実録安藤組 襲撃篇」
主演の安藤昇がヤクザ時代に実際に起こした横井英樹襲撃事件を元にした作品。たいしたことは起こらない事件を実にだらだらとしたテンポで描くから、見ているほうは退屈になってしまう。
  
2022年 4月 「トラック野郎 御意見無用」
トラック野郎シリーズの第一作。鈴木則文監督は、『徳川セックス禁止令 色情大名』や『大奥十八景』のように、エログロなんでもあり無茶苦茶映画を撮ればすごく面白い作品になるのだが、こういうファミリー向けほのぼのコメディになると、途端にどうでもいい作品になってしまう。ファミリー向けの割にきついエログロ描写もあったりして、僕が小学生だった頃は一度も見たことはなかったし、いったいどういう家族が見ていたのだろうと不思議に思う。菅原文太もコメディとなるとやや影が薄い。中島ゆたかが大根演技ながら美しく撮られている。
2022年 4月 「ビルとテッドの大冒険」
近年になり、29年ぶりに第3作が作られたということで話題になったから人気作なのだろうが、僕はまったく知らなかった。マトリックスが大ヒットする前の本当に若いキアヌ・リーヴスが出ているが、ものすごく、清々しいまでに演技が下手なので驚いた。おバカコンビがタイムトラベルを続け、歴史の有名人を引っ張り込んで大騒ぎという、実にどうでもいいお話。こういうナンセンスものは、作り手がちゃんと考えて秀逸なアイデアを出して作れば傑作が生まれるのに、作り自体がいい加減ではなんともならない。『トップ・シークレット』などを見習ってほしい。
2022年 4月 「茜色に焼かれる」
大事な人を理不尽に失った人がその先どう生きていけばいいのかという問題、貧困による格差、いじめなど、前半はなかなかにやりきれない展開が続き、見ていて辛くなる。主役の尾野真千子さんがさすがの演技で、怒りを抱えながらぎりぎりのところで生きている様を演じている。
 こういう映画は、どう決着させるのかが重要だ。問題点を指摘するのは簡単だが、ではその問題をどうするのかというところが肝心で、現実でもフィクションでもそこが本当に難しい。本作でも、後半に行くに従い、どんどん問題がばらけて雑になっていった。永瀬正敏演じる風俗店の店長が都合よくいい人になっていくのもどうかと思うし、息子のいじめやケイの受難も、適当に処理されている気がした。
 ただ特筆すべきは、役者陣の演技が総じて良かったこと。尾野真千子さんはもちろん、息子を演じた和田庵、ケイを演じた片山友希も素晴らしかった。それから、なぜ生きるのかなんてわからないということを、コロナ禍でみんながマスクを着けているのだって本当に有効かどうか誰にもわからない、というたとえにしたのは面白いと思った。
2022年 4月 「カラヴァッジオ」
デレク・ジャーマン監督の映画を初めて見た。それも大好きな画家カラヴァッジオの映画だから、かなり期待して。ところが期待は裏切られた。僕はこうしたアート気取りで、さしたる中身のない映画が好きではない。有名なカラヴァッジオ作品のモチーフが散りばめられているのも、面白いとは思うがたいした意味はない。散発的に物語が語られるだけで、なにも伝わってこない。
  
2022年 3月 「殺しのドレス」
ブライアン・デ・パルマ監督がヒッチコックの『サイコ』の影響を受けて撮ったらしいが、僕にはヒッチコックよりもダリオ・アルジェントっぽさが強く感じられた。エロティックな面を強調しつつ、最終的にはしっかり作り込まれたミステリ作品に仕上がっているからだ。途中から意外な人物に焦点が移っていく作りも面白い。
2022年 3月 「あのこは貴族」
階級が上の者には上の者の苦悩が、下の者には下の者の苦悩がある。言いたいことはわかるのだけれど、なんだかするすると予想の範囲内の展開が続き、つかみどころのないまま終わった。不満の理由を考えると、大事なシーンが抜けているせいではないかという気がする。たとえば、水原希子演じる美紀が大学時代、必死に入学した大学を辞めてほしいと親に言われて激怒するなら、いざ本当に辞めるとなった時の苦悩は描くべきなのに、次のシーンではすでに辞めた後のことが描かれる。同様に、門脇麦演じる華子と高良健吾演じる幸一郎との仲良くなっていく過程や性行為も描かれず、なんだかきれいな断片ばかりを見せられている気がした。かなりの評判の高さに期待して見たが、それほど心に響かなかった。これは僕が男だからだろうか。
2022年 3月 「ナイル殺人事件[2022年版]」
オリジナルの1978年版が大好きで、劇場2回を含め、テレビでも何度も見返してきた。今回のリメイク版はコロナ禍で一年以上も公開が延期され、期待値がどんどん膨らむなか、ようやく鑑賞にこぎつけた。
 ……やはり期待が大きすぎたのかもしれない。大事な部分がことごとく簡略化され、かえってわかりづらくなってしまった。人物紹介、彼らがどういう経緯で被害者を憎んでいたのか、彼らが犯行を犯すとすればどうなるのかなど、前作で面白かったポイントが全て損なわれている。設定が変わった部分も意味があるとは思えず、真犯人が明かされる場面も驚くほど淡泊だ。もちろん、前作通りに作る必要はないが、面白さまで削がれてしまっては意味がない。
 オールキャスト映画という意味でも、前作からかなりスケールダウンしている。CGとスタジオセットで撮影した映像もまた前作に遥かに及ばない。ポワロ役も、前作のピーター・ユスチノフが好きすぎるせいもあるが、ケネス・ブラナーは取ってつけたようなヒゲをはじめ、どうにもしっくりこず、まったくポワロに見えない。
 シリーズ化のための演出として、冒頭でポワロが過去に心身の傷を追った描写が入り、それを受けてのエンディングも用意されているが、MCUやDCの悪影響でしかない。純粋に本作を楽しみたい身としては、どちらもまったく余計なばかりか、貴重な本編時間がそれだけ割かれてしまうわけで、本当に腹立たしい。
2022年 3月 「ナイル殺人事件[1978年版]」
劇場で見たリメイク版があまりにあまりにもな出来だったので、一緒に見に行った妻と二人、夜に1978年版を見直すことにした。やはりこちらは、人物紹介、各人と被害者との関係性や犯行の可能性、謎解きなどが丁寧に描写されており、内容とその面白みがスムーズにわかりやすく観る者の頭に入ってくる。オールキャストの役者陣は本当に豪華で、演技も確かだ。そして僕にはやはり、ポワロと言えばこのピーター・ユスチノフがどはまりで大好きだ。CGを使わない本物のアフリカの風景は、まさに本物の迫力と魅力に満ちている。ああ、やはりこちらは素晴らしいと妻と二人、納得した。
2022年 3月 「あの頃。」
『佐々木、インマイマイン』や『くれなずめ』同様、男同士のホモソーシャルなわちゃわちゃを描く、本当にそれだけと言ってもいい映画。僕はアイドルにほぼ興味はなく、若い頃にもそこまで入れ込んだ経験もないので、本作に出てくるアイドル萌えに共感はできない。また、アイドルという要素がなかったとしても、こういうあけすけな関係性も好みではないので、「あの頃は本当に楽しかったなあ」という感慨にも共感できない。ただ、人の死をこういう風に扱うことはもしかして救いになるのかもという気はした。
2022年 3月 「ソウル・ステーション/パンデミック」
『新感染 ファイナル・エクスプレス』を撮ったヨン・サンホ監督による、前日譚を描いたアニメーション。人間の動き、とくに韓国人らしい動きや話し方を忠実に再現していて、すぐに引き込まれた。ゾンビものという手垢にまみれた題材なのに、非常に見ごたえのある映像と、練りこまれて意外性に富んだストーリーを作り上げた手腕に驚く。ゾンビ映画として特筆すべき一本に仕上がった大傑作。
2022年 3月 「やくざと抗争 実録安藤組」
俳優・安藤昇の実体験をもとにした作品。学生時代に結成した愚連隊がやくざと対抗していく様を描く。どんな組織にも臆さず立ち向かっていく安藤昇は、滑稽にも思えるほど一本気の男だ。ここまで無軌道で無目的だと相手も空恐ろしくなるだろう。肝心なところで映画が終わるのがもったいない。
2022年 3月 「卍」
若尾文子演じる魔性の女・光子に、いいようにもてあそばれる男女。光子との同性愛が発覚しそうになった園子が、夫に強気で押し通すところが面白い。さらに光子は別の男ともデキていて、演じるのがつい先日亡くなった川津祐介だけれど、いつもとは違うつかみどころのないひょうひょうとした男を演じていて魅力的だった。第三者からすれば馬鹿馬鹿しいことをやっているとしか思えないが、それが恋愛の本質かもしれない。
2022年 3月 「羅小黒戦記(ロシャオへいせんき)ぼくが選ぶ未来」
一時、話題になった中国製アニメ。Webで公開されていた元作品があり、その前日譚を描いたのがこの劇場版だ。完全2D作品ながら迫力満点で不自然さが全くないアニメーションとして一定の評価はできるものの、大絶賛するつもりもない。
 キャラクターが整理されていないため把握がしづらく、物語に入り込みづらい。どのキャラも似たような容姿なのに加え、誰と誰が同類でどう対抗しあっているのかが最初はよくわからないのだ。しかも、“人間”代表として妖精たちと闘う無限が、とても人間とは言えない能力を備え、人間vs妖精という図式が飲み込みづらくなっている。テーマや絵柄はもろにジブリアニメそのままという気がして、いい意味でも悪い意味でも、日本アニメと変わらなく見える。
2022年 3月 「宇宙大征服」
米ソでの宇宙開発競争が激化するなか、片道飛行で人を月に送り、アポロ計画が完成するまでの間、月に物資を運び続けるという無謀な計画を描く。実際にありえたかもしれない計画なだけにぞっとする。地味な映画だと聞かされていたが、しっかり見ごたえがあった。ジェームズ・カーンとロバート・デュヴァルというゴッドファーザーのコンビが見られたのも嬉しい。
2022年 3月 「ドライブ・マイ・カー」
元になった村上春樹の短編集『女のいない男たち』は割と好きで何度か読み返している。6編の収録作のうち、本作の原作である「ドライブ・マイ・カー」はそれほどいいとは思えなかったが、別の短編「木野」のエッセンスが今回の映画に含まれており、原作を短編集全体を使って膨らませた内容となっていた。その点ではうまく作られた脚本だと思う。
 ただ僕は本作に限らず、劇中劇というものにあまりいい印象を持っていない。劇中劇なら下手な演技でも許される、つまり「下手な演技をしている」という演技をしているのだ、などと何とでも言えるわけで、劇中劇を見ている間はたいてい退屈に感じる。さらに、劇中劇で描かれるテーマが映画そのもののテーマと直結していることもあり、劇中劇のシーンだけが突出してしまうことになると、非常にバランスが悪くなる。本作でも、やはりこれらの点が僕には気になった。
 それから、追加された内容のせいで、あの運転手との交流がこの映画にあまりしっくりこない結果となった気がする。だから運転手と少しずつ打ち解けていく展開も感慨は薄かった。
 もう一点、本作に登場する手話は、形の美しさを表現するための偽物(言語として成立していない)らしい。この点もどうかと思う。
  
2022年 2月 「オープニング・ナイト」
ジョン・カサヴェテス監督作を見るのは、これが3作目。監督の妻でもあるジーナ・ローランズが本作でも圧巻の演技を見せている。話のテーマとしては『こわれゆく女』と同様、老いに直面する舞台女優が心を病んでいく様が描かれる。序盤は話がなかなか話が進まず、舞台上の演技と本作の演技との区別がつかない場面があったりなど、戸惑ってしまった。それでもじっくりと女優の姿を描くことで彼女の苦悩がじわじわと迫ってくる。それが一つの舞台を全員で作っていくプロセスとも重なり、あまり体験したことのない鑑賞体験となった。すごく面白かった、というわけではないが、心に残る一作。
2022年 2月 「フリーズ・ミー」
石井隆の脚本にしては、まっすぐなストーリー。それでも、ラストへ向けての盛り上がり、着地の仕方など、しっかり石井隆ワールドが展開されて楽しめる。井上晴美が意外にもちゃんとした演技を披露していて驚いた。
2022年 2月 「新感染ファイナル・エクスプレス」
さほど期待せずに見たら圧巻のエンタテインメントだった。迫力のある見せ場が説得力を持って積み上げられていくから、しらけずに最後まで見られる。ここまでやってくれれば何も文句はないという出来。ゾンビ+高速列車というアイデアに、父娘関係、恋愛要素などをうまく盛り込み、ドラマ仕立ても素晴らしい。そりゃあ最後は泣くでしょうよ。
2022年 2月 「アイズ ワイド シャット」
キューブリック監督の遺作を初めて見た。もっと官能文芸のような内容を想像していたら、思ったよりエンターテインメントだった。これこそがやはりキューブリックならではのバランスで、僕がこの監督を好きな理由だ。夫婦関係の危うさ、羽目を外そうとして迂闊な行動を起こすと恐ろしい目に遭うことへの警鐘などが、リドリー・スコットかと思わせるようなサスペンスを伴って描かれる。
2022年 2月 「83歳のやさしいスパイ」
タイトルの時点でかなり先は見えてしまうのだが、ドキュメンタリーということで見入ってしまう。人間とは本質的にこういうものなのだと教えてくれるからだ。盛り上がりに欠けることや、意外にみんな親切で優しいところもドキュメンタリーゆえのこと。笑って泣いて、好きなように見ればいいと思う。
2022年 2月 「翔んだカップルオリジナル版」
公開数年後にテレビで見て、すごく衝撃を受けたのを覚えている。四十年ぶりぐらいの再見なのに、セリフの一つ一つや間の取り方なども鮮明に覚えていた。その感覚はうまく表現できないが、当時田舎の高校生だった自分には、この二人の状況が恐ろしいまでに理想郷に思えたのと、薬師丸ひろ子の魅力に撃ち抜かれたせいもあるのか。それでも、本作を見たあと彼女のファンになるようなことはなく、あの山葉圭というキャラクターに惹かれたのだと思う。鶴見辰吾や本作がデビュー作となる石原真理子、コメディーリリーフの円広志など、総じて役者たちも良い。相米慎二監督独自の役者に演技を考えさせる方法が、決してうまいとは言えないながらリアリティのある作品を作り出している。
2022年 2月 「やくざと抗争」
安藤昇という俳優を、ほぼ初めて知った。僕が子供の頃に封切りされた彼の一連の出演作は僕の両親が仁侠映画を好まなかったため見ることはなく、テレビで放送されることもあまりなかったように思う。成人後、出演作は数本見ているが、全く認識することはなかった。当時は高倉健、鶴田浩二らと並ぶほどの扱いだったようだ。本作においては、その独特の面構えに雰囲気を感じたが、菅原文太にいいところを持っていかれた気もする。
 作品全体としては、オープニングの日本版ニューシネマっぽいカッコよさから、だんだん典型的な昭和仁侠ものに変わっていくところに違和感を覚えた。そしてお約束の切った張ったの展開で、つまらなくはないが、特別面白いわけでもない内容が続く。それでもこのシリーズを続けて見たいという気にはなる。
2022年 2月 「死霊館」
『ソウ』で一躍有名になったジェームズ・ワン監督が、『ソウ』の約10年後に発表した作品。こちらは一転してゴシックなホラーで、1970〜1980年代あたりのオカルト映画を彷彿とさせる。実在した心霊研究家夫婦の体験談を元にし、その心霊研究家が最終的に除霊師の役割も果たす。主人公一家の夫婦と心霊研究家夫婦、それぞれの内面も描くという凝った作りのため、新鮮ではあるがややごちゃごちゃした印象にもなる。それでも一定のクオリティは確保しているので安心して見られた。ジェームズ・ワンは本作のあと、『ワイルド・スピード SKY MISSION』ではシリーズ最高興収、『アクアマン』ではDC原作映画での最高興収、と着実にキャリアアップしていて凄い。『狼の死刑宣告』もこの監督だったのか。
2022年 2月 「はちどり」
劇場に続き、自宅で二度目の鑑賞。新人監督らしからぬ堂々たる撮影ぶりに感心する。やや冗長ぎみにも思えるほど、大事なところはゆっくりじっくり見せ、それにこたえる俳優陣も主役の少女を中心にのきなみ素晴らしい演技を披露している。韓国における少女の生きづらさを描きつつ、家族のあり方にも目を向ける。少女には辛いできごとばかり起こるのに、最後には爽やかさを感じさせてもくれる。
  
2022年 1月 「悪い種子」
なんとも気持ちの悪い(いい意味で)映画だった。主役の少女の演技がただごとではないので、母親の感じるのと同じ恐怖を、見ている側も味わうこととなる。スリリングさの中に人間同士のいがみ合い、階級差別などへの批判もこめられ、人間ドラマとしても機能している。ラストの切れ味も素晴らしい。これは名作。
2022年 1月 「スター・ウォーズ エピソード9/スカイウォーカーの夜明け」
さんざん酷い感想を見聞きしたのでそのつもりで見たら、思ったほど悪くなかったかなという印象。前作までに広げ過ぎた風呂敷を、無理やりにでも畳んでみせたことには敬意を表したい。レジスタンスのあまりの不甲斐なさ、スパイの存在意義、カイロ・レンとレイの関係性など、不満点を並べ始めるときりがないので、あまり考えないようにしている。それでも、エピソード7からの新キャラクターをほとんど魅力的に描けなかったことは、最大の失敗点だと思う。
2022年 1月 「アウトレイジ 最終章」
数年ぶりに再見。前はピエール瀧の演技が見ていられないので評価が低かったが、塩見三省さんが半身不随で熱演していたことをエッセイで知り、あらためて見直すと、そこまで悪い映画でもないと思った。ただ、監督・北野武よりも、俳優・ビートたけしの衰えを感じざるを得ない。
2022年 1月 「透明人間」
世間の大評判ほどには乗れず。序盤からテンポが遅く、30分過ぎになってようやく面白くなってきた感じ。けれど、主人公の女性を巧妙に罠にはめていた前半に比べ、後半からとつぜん透明人間が間抜けになり、おかげで主人公が優勢になっていく展開に醒めてしまう。ラストもほぼ予想できる展開でひねりがない。面白さもCGの使い方も、『インビジブル』のほうが数段上だと思う。
2022年 1月 「月下の蘭」
石井隆の監督第二作にして、既に独自の世界が形作られている。オープニングからして、石井ワールドが全開だ。あとから考えれば無茶な設定と展開なのに、映画を見ている間はしらけずに世界に浸れる。スタイリッシュでハードボイルド、それでいてファンタジーに彩られた作品。根津甚八や余貴美子など、常連役者さん達もそろって素晴らしい。
2022年 1月 「死霊の罠」
「和製スプラッターホラーの先駆け」と称されるにふさわしく、ちゃんと怖くて面白い一作。池田敏春監督は、以前に見た『天使のはらわた 赤い淫画』もそうだったが、ホラーとしての雰囲気づくりがすごく上手いと思う。そして、脚本が石井隆とくれば、面白くないわけがない。
2022年 1月 「ノマドランド」
もっと詩的な内容かと思っていたら、意外にかっちりしたストーリーのある作品だった。主演のフランシス・マクドーマンド以外はほぼ全員が本当の車上生活者であり、誰もが直面する問題が描かれていると言える。実際、ほんの小さなことで人は職を失い、生きていくことが困難になる。そうした恐怖を本作から感じた。
 車上生活は、見知らぬ美しい景色に出会えたり、人々との素晴らしい交流があったりといい面はあるが、同時に耐えられないほど辛い面もある。憧れる部分はあるけれど、自分がその生活を送るとなったらどうだろう、と考えてしまう。
2022年 1月 「音楽」
これは思った以上に素晴らしいアニメーション。冒頭から、人の歩く姿にちゃんと体重が感じられて、そこだけで感動してしまった。最新の大作アニメでもちゃんと体重が表現されている作品は少なく、いつも不満に思っていたのだ。本作のアニメーションは、全編を通じて本当によくできている。さらには、まったく先の読めない展開。シュールに堕することもなく、キャラクターをちゃんと魅惑的に描けてもいる。岩井澤健治監督は本作がデビュー作だが、末恐ろしいほどの才能だ。『夜は短し歩けよ乙女』の湯浅政明監督に似た感性を感じるが、あれほど弾け過ぎず、それでいて誰にも作れない作品に仕上がっている。