■ 2021年に観た映画
  
2021年12月 「花束みたいな恋をした」
世間の大評判に押され楽しみにしていたが、期待が高すぎたのかもしれない。ときおりはさまれる映画や本などのサブカル的な要素も、おっとは思わせるけれどあまり深掘りもされないので、記号的に思えてしまう。「これ出しときゃいいんでしょ」的な安易さを感じてしまうのだ。男女間の痛々しさは身に染みるけれど、さほど新しいことを描いているわけでもない。平凡な人々を描いても強烈に個性的な映画や小説は作れるけれど、本作は「サブカル好き同志の恋」というテーマありきで作られたせいだろうか、平凡な人を描いた平凡な映画になってしまった。
2021年12月 「アス」
なぜだか知らないが自分達家族と同じ人たちが現れ、家庭を乗っ取られていく恐怖を描く。なんだかすごく説明的な展開で、純粋なホラー的要素を感じられなかった。ジョーダン・ピール監督は『ゲット・アウト』でも思ったが、アリ・アスターと同様、さほど新鮮でもないアイデアを仰々しく描く感じがする。
2021年12月 「イーダ」
ポーランドのパヴェウ・パヴリコフスキ監督作。孤児として修道院で育てられたイーダは、院長から唯一の肉親である叔母の存在を知らされ、修道女の誓いを立てる前に会いに行く。叔母はイーダに、彼女がユダヤ人であることを伝え、両親の墓はどこにあるのかわからないと告げる。イーダは自らの出自を探るため、叔母と共に旅に出る。
 モノクロームの美しい映像の中で、淡々とながらドラマが進行し、時にえぐいほどの人間模様が垣間見える。全く知らない監督だったが、独特の世界に浸ることができた。修道院やユダヤ人など、僕には遠い世界ながら普遍性を持って訴えかけてくる。
2021年12月 「スペシャルアクターズ」
上田慎一郎監督による、『カメラを止めるな』に続く劇場用長編第2作。何でも屋のような芝居集団に属した男が次々に妙な事件に巻き込まれていく。見ている途中、なんだか少しおかしい、と思ったことが最後に回収される作りは、『カメラを止めるな』と同種の作り。二番煎じと言われることもあるだろうが、僕は十分に楽しめた。主役の顔がこの映画に合っていて、とてもいい。
2021年12月 「悪人伝」
いまや大人気のマ・ドンソク演じるヤクザのボスと、はみ出し者の若い熱血刑事がいがみ合いながら協力し、事件の謎を追う。上記のテーマありきで強引に作られた印象が強く、特に若い刑事にリアリティが乏しい。こんなことをしていたら一発で殺されるだろうところが全くそういう展開にならないのだ。見ていてこの刑事に共感も持てず、イライラしてしまった。
 それにしても韓国映画の悪役は本当にいい顔が多い。おなじみとなった横並びで歩く姿も堂に入っている。
2021年12月 「くれなずめ」
披露宴の余興のため、高校時代を共に過ごした男6人が5年ぶりに再会する。まったくウケなかった余興のあと二次会の開始を待つあいだ、過去の思い出に浸る6人。彼らの一人には重大な秘密が隠されていた。
 “秘密”の中身は、映画の冒頭くらいでほぼ明かされてしまうので、その謎を最後まで引っ張る映画ではない。とにかく若い男同士の悪ふざけ描写が延々と続き、多くの男性観客がそこに過去の自分を見つけ、懐かしさに浸るのだろう。僕自身は友達とのそうした経験が薄く、乗れない部分も多くあったが、若い頃の苦い体験には共感するところもあった。
 途中で奇矯な演出が見られ、ついていけない人がいるかもしれないが、楽しければ何でもありと僕は思っているので、この部分は悪い気はしなかった。それにしても、藤原季節と若葉竜也はいろんな映画で存在感を示しているなあ。

2021年12月 「暴行儀式」
日活ポルノとして制作、上映された作品。四人の男子高校生が暴走族に憧れながら、免許を手にした時には地元の暴走族は解散していた。「勝手に解散しやがって」と怒る彼らは、かつての暴走族メンバーを襲い、連れの女性を輪姦する。若さゆえの暴走、という意味で同じ根岸監督の傑作『狂った果実』があるが、本作は主人公たちにほとんど共感できず、あまりいい評価はできない。それにしても、ポルノという枠でいろんな試みがなされていたのは事実で、いい時代だったとは思う。
2021年12月 「TENETテネット」
クリストファー・ノーランは全く好きではないけれど、世間のあまりの評判に押され、本作も見てみた。(結局ノーランの映画は本作までの11本のうち8本を見たことになる。)これはもう、時間を逆行する者と順行するものが戦ったらこうなる、という映像を見せたいだけのために全編が作られた感じ。この監督は、「誰も見たことがない映像を見せる」ことだけに興味があって、ストーリーやキャラクターは無理やり当てはめられているだけの気がする。中盤以降のアクションは、確かに「あれっ?!」と思うけれど、よく考えたら矛盾しているし、映画全体を通じて面白かったとかすごかったという感想になっていかない。
2021年12月 「カリートの道」
マフィア同士の報復合戦を描くという意味で、日本の仁侠映画に近い。一方が相手に、こんなことをしてただで済むはずがない、ということをして、やっぱりただで済まなかったという繰り返し。本作では、ショーン・ペン演じる弁護士が、そんなことをしたら確実に殺されるだろうと思うのになぜかそうならないのが理不尽で冷める。いずれも見ていて呆れるほどのリアリティのなさに、あまりのめり込んでみる気になれなかった。せっかくのアル・パチーノが無駄遣いに終わっている。
  
2021年11月 「BLUE/ブルー」
ボクシング映画として、また人間ドラマとしてきっちりツボを押さえた良作。松山ケンイチ、木村文乃らが確かな演技を披露し、本当にそこにいるような人間像を見せてくれる。柄本時生のおとぼけキャラも堂に入っているし、作品によっては首を傾げたくなる東出昌大も、本作ではきっちり役を演じきっていた。それから、本作がメジャー映画デビューとなる守谷周徒がとんでもなく素晴らしかった。こうした役者陣を、得意なボクシングという世界で見事に描いた吉田監督の手腕に拍手。
2021年11月 「我輩はカモである」
マルクス兄弟出演作を初めて見た。制作されたのはなんと1933年! 政治家をコケにする笑いや、同じギャグ(というかイタズラ)を何度も何度も執拗に繰り返すところなど、面白いというより狂気じみていて、笑いながらぞっとした。これが彼らの特色なのかはわからない。本作はその過激な内容から興行的には失敗だったらしい。バスター・キートンのような作風を想像して観たら、あまりの違いに驚いた。
2021年11月 「騙し絵の牙」
吉田大八監督作は全てを見ているが、大傑作『桐島、部活やめるってよ』以降、がつんとくるものがない。本作はタイトルからして騙し騙されの出版業界を描くものかと思っていたら、サスペンスやミステリ要素は薄く、大泉洋演じる主人公の奇矯ぶりが際立つ内容だった。僕が大泉洋という役者にあまりぴんと来ないせいもある。
2021年11月 「フランシス・ハ」
主人公フランシスが恵まれない中で奮闘する姿を軽快に描く。ノア・バームバック監督はずっと前に見た「イカとクジラ」が良かったが、こちらも同じく、まさに中の中という平凡でぐうたらな人間を魅力的に描いている。深刻な事態が起こっているのにひらりひらりとかわして前に進んでいく姿は、最後には崇高にさえ思えてくる。能天気さは強さでもあるのだ。同じようなテーマの『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』はあまり乗れなかったが、本作はかなり楽しんで見られた。
  
2021年10月 「佐々木、イン、マイマイン」
主人公の悠二は役者になることを夢見て上京したがうまくいかず、恋人との同棲生活も破綻しかけている。そんなおり、ふとしたきっかけで佐々木という一人の奇異な同級生を思い出す。
 佐々木の、映画内での存在位置が絶妙だ。主役ではないのに、周囲の人間にとって忘れがたい人物として配され、さまざまな影響を与えている。最高に面白かった、という映画ではないのに、なぜか忘れがたい一本。
2021年10月 「デッド・ドント・ダイ」
ジャームッシュの映画は好きでいろいろと見てきたが、これはどうしちゃったんだろうという一本。ゾンビ映画のパロディとかメタ映画という意味でも相当出来が悪い。かといって、それ以外の見方もできない。なにか僕の気づかない見どころが隠されているのだろうか。
2021年10月 「ビヨンド」
ルチオ・フルチの一連のスプラッター映画の中では、最も好きな作品。劇場で特集上映されていて、初めて大画面で鑑賞した。話の筋はどうでもよく、最後の退廃的な雰囲気が本当に好き。
2021年10月 「ミステリー・トレイン」
永瀬正敏と工藤夕貴が出演したことで有名なジャームッシュ監督作。テネシー州メンフィスにある小さなホテルで、3つの独立した物語が語られる。それぞれの話が少しずつ絡み合い、そこに人間というもののおかしさがにじみ出る。小品だとは思うが、画面のおしゃれな雰囲気、とぼけたユーモアなど、いつまでも見ていたくなる。BGVのように流すのにも合っているかも。
2021年10月 「ジュディ 虹の彼方に」
ジュディ・ガーランドの最晩年、薬物依存や貧困でボロボロになりながらもロンドン公演を成功させる様を描く。こうした映画では、容姿や仕草がどれだけ似ているかに心血が注がれがちだが、見ているほうは「似ている」ことにさほど重点を置いていない。アカデミー主演女優賞を獲得したレネー・ゼルウィガーの演技は確かに良かったけれど、彼女が吹き替え無しで歌っていることも映画の評価にはさほど関係がない。ストーリーもほぼ知っている前提で見て、予想をまったく超えてこない内容だった。
2021年10月 「ボクシング・ジム」
フレデリック・ワイズマンの映画は機会があるたび観るようにしているが、本作にはあまり乗れなかった。いつものワイズマン映画に比べて尺がかなり短く、なにかが始まると思っていたら終わったという感じ。
  
2021年 9月 「静かなる決闘」
黒澤映画としては小品だろうが、骨太の一作。梅毒が差別的に嫌悪される時代、三船敏郎演じる医師が治療中のミスにより感染してしまい、その苦悩を抱えて生きるさまを描く。父親役の志村喬を含め、演技はあまねく素晴らしい。三船敏郎が長セリフで心情を吐露する場面で、黒澤監督が思わず涙したというエピソードが有名。
2021年 9月 「007/スカイフォール」
理屈抜きで面白いエンタメ映画をと思い、本作を再見した。あいかわらずオープニングシークエンスは美しい。最近何度も同じことを書いているが、確かによくできた映画で文句なく面白いとは思うのだが、こうした映画を見てかつてほどの喜びを感じなくなってしまった。見終わって何も残らないところが不満なのだろうか。思わせぶりな存在だった女性エージェントのイヴが結局あまり出てこないところや、中国資本が入っているせいかお決まりのように上海のシーンが出てくることも、見返してみると不満に思える。
2021年 9月 「クワイエット・プレイス」
鋭敏な聴力を持つ生命体に支配された世界を描く。こういう映画に厳密さを望んではいけないのかもしれないが、登場人物たちは小声で話したり、物を置いたりする音くらいは気にしていない様子で、“どの程度の音なら危険なのか”が今一つわかりづらく、素直に本作のサスペンスを享受することができなかった。
2021年 9月 「GONIN」
6年ぶりに再見したが、石井隆監督作の中でも、万人が楽しめる傑作エンタメ映画に仕上がっていることを再認識した。えぐいほどのバイオレンスアクションにホラー風味も備え、その中に石井作品特有の耽美さも溢れている。端的に言って、めちゃくちゃ面白い。前回も書いたが、竹中直人演じるサラリーマンが帰宅した時の場面が秀逸でほれぼれする。役者も全員すばらしい。日本が誇れるエンタメ映画の一本。
2021年 9月 「アウトレイジ ビヨンド」
俳優・塩見三省さんの自伝を読み、いたく感激したので本作を見返してみた。ストーリーそっちのけで塩見さんの出てくるシーンだけに注目し、あらためてその演技の凄さを感じた。この映画に出るまで悪役はほとんど演じたことがないとは思えないほどの迫力。錚々たる悪役の立ち並ぶ中でも、塩見さんは抜きんでて目立っていた。
 東京の山王会対大阪の花菱会の抗争を中心に様々な陰謀が渦巻き、たくさんの人が死ぬ。エンタメ映画としてよくできているが、たけし演じる大友がもうこの世界から足を洗いたいと何度も吐露するのが、北野武としてもう映画作りから足を洗いたいと訴えているように感じられて、寂しくなった。
2021年 9月 「ランボー ラスト・ブラッド」
ランボーは全作見ているけれど、結局第一作の叙情的でミステリアスな雰囲気に惹かれたのであって、以降の作品はただのアクション映画でしかない。本作も、ランボーを活躍させるためだけに脚本が作られ、ランボーのためだけに人が死んでいく。その割に、見せ場となるランボー宅の攻防が大急ぎで過ぎていくのがもったいない。あそこをもっとじっくり見せるための映画なのに。
2021年 9月 「サウダーヂ」
“作りたい映画を勝手に作り、勝手に上映する”をモットーに活動する映像制作集団『空族(くぞく)』による作品。どんなものかと思い観てみたら、思った以上に出来の良い、素晴らしい映画だった。
 山梨県甲府市を舞台に、不況にあえぐ土木建築業者や移民労働者といった、過酷な状況で生きる人々が生々しく痛々しく描かれる。決して立派とは言えない人たちが、あえぎながらぎりぎりのところで生きていく様が胸に突き刺さる。ヒップホップ映画としても秀逸で、167分の長尺がまったく気にならなかった。空族の映画はソフト化されていないのでなかなか観られないが、機会があれば絶対に見ようと思う。
  
2021年 8月 「赤頭巾ちゃん気をつけて」
原作となる小説も、学生運動華やかなりし頃の空気を感じられて面白く読んだが、この映画版もしっかり時代を感じさせてくれる良作だった。のちに東映社長となる岡田裕介が主人公を演じ、奇妙な演出と共に独特の雰囲気を出している。見ているだけで古き良き昭和の時代を思い出させてくれる。ヒロイン役の森和代も可憐で印象に残った。こういう映像はずっと見ていたくなる。
2021年 8月 「家族を想うとき」
ケン・ローチ監督作を見るのは、『わたしは、ダニエル・ブレイク』に次いで2作目。どちらも非常によくできていて素晴らしいとは思いつつ、もう一度はあまり見たくないという共通点がある。あまりに痛々しすぎるからだ。
 幸せを願う平凡な家族がふとしたことでうまくいかなくなり、いったん外れた歯車は元に戻らない。現代人の生き辛さをここまで辛らつに描かれると、リアルではあるけれど目を背けたくなってしまう。同時に、普通に幸せに生きていることがいかに奇跡的なことかと気づかされる。
 現代の貧困問題はなかなか根が深い。ずっと前に読んだ「樋口一葉 「いやだ!」 と云ふ/田中優子」に、〈お金の得かたは生き方そのもの〉という言葉があったが、その通りだと痛感する。
 この家族には、どうか幸せになってほしいと願う。
2021年 8月 「星の子」
今村夏子の原作小説は好きで、この映画版はかなり原作に忠実に作られていた。ただ、それでも二時間で描くには無理があったように思う。
 主人公のちひろの両親は新興宗教にはまりながら、それなりに幸せに仲睦まじく暮らしている。それで問題はなかったはずなのに、周りの大人の介入により、ちひろは岐路に立たされる。姉のように家を出ていくのか、両親の元に留まるのか。どちらにしても簡単な道ではなく、この映画のキャッチコピーにあるような「この感動を、あなたと」というような内容ではもちろんない。このテーマを描くにあたり、小説ほどの覚悟を映画には感じられなかった。
2021年 8月 「フィフス・エレメント」
昔からこの映画が大好きで、子供向けの他愛もないエンタメだとわかっていながら何度も見てしまう。若い頃、映画館で感激して二度見たせいかもしれないし、自宅にホームシアターシステムを導入した頃にレーザーディスク(!)で買ったこのソフトを何度も再生していたせいかもしれない。ブルース・ウィリス演じる主人公の空飛ぶタクシー、俗悪むき出しの怪物のCG造形、オペラの劇場でおこなわれる銃撃戦など、映像を見ているだけで幸せな気持ちになる。クリス・タッカー、ゲイリー・オールドマン、ミラ・ジョヴォヴィッチ達の怪演も見もので、思い出すほどに好きなところが湧き出てくる。
2021年 8月 「ブルータル・ジャスティス」
日本で初めて劇場公開されたS・クレイグ・ザラー監督作品。各所で評判が高く、WOWOWで放送されたのを機に見てみた。確かに、緊迫感あふれる映像が途切れず、飽きさせないところは凄い。主役とその相棒、そして悪役も魅力たっぷりに描かれる。容赦なく人が殺され、先が読めない展開の脚本もよくできている。ただ、僕にはもうこうしたエンターテインメントがそれほど必要でなくなってしまった。
2021年 8月 「悪の法則」
なぜかこうした犯罪映画が見たくなり、面白かったが内容を忘れてしまった本作を7年ぶりくらいで見た。ぞくぞくするような緊迫した展開で、リドリー・スコットの腕が冴えわたる良作だ。ただ、『ブルータル・ジャスティス』でも同じ感想を持ったが、僕は徐々にこうしたエンタメ映画に昔ほど感動できなくなっている。
  
2021年 7月 「幻の光」
ずっと前に見たものを妻と再見。ストーリーよりも、いくつかの場面の印象が強く頭に残っていた。主人公のゆみ子がかつての夫と暮らしていた部屋を再訪するところや、再婚先の家の玄関前が海に向かって傾いている風景、ラストでゆみ子が叫ぶ海辺のシーンなどが、美しく撮られている。再婚相手の民雄を演じる内藤剛志の抑えた演技がとてもいい。
2021年 7月 「クリープショー」
4〜5話のホラー作品を集めたオムニバス映画で、本作と『トワイライトゾーン/超次元の体験』が今となってはごちゃごちゃになる。見ていて思い出したが、グレムリンが出てくるのは『トワイライトゾーン』で、大量のゴキブリに殺されるのは本作だった。今となっては古臭くてあまり面白くもないホラー映画。レトロやカルトという雰囲気もなく、忘れられた作品となるのもしかたがない。
2021年 7月 「犯罪都市」
マ・ドンソクが『新感染 ファイナル・エクスプレス』でブレイク後、人気を決定づけたともいえる作品。彼が暴力刑事を演じ、韓国マフィア、中国マフィア達との抗争を繰り広げる。韓国バイオレンスのエッセンスが凝集し、マ・ドンソクの魅力も十分に堪能できる一本。ここまで派手に暴れてくれれば、エンタメ映画として一定の満足感は得られる。
2021年 7月 「異人たちとの夏」
大林宣彦監督のクセがそれほど強くなく、安心して見られる良作。 風間杜夫と片岡鶴太郎、秋吉久美子の親子関係が実に情緒豊かに描かれており、胸をしめつけられる。いっぽう、名取裕子演じる隣人女性とのやりとりは、あまり心を動かされず、余分にすら感じてしまった。
2021年 7月 「永遠の門 ゴッホの見た未来」
ゴッホの生涯を一通り知っていれば、見る前に思っていた通りの内容だったというしかない。豪華キャスト陣は不足のない演技を披露しているけれど、新しい解釈はなく、この時代にこの映画を作る必然性が感じられない。もちろん、見て損な映画ではないけれど。
2021年 7月 「スパイの妻」
僕にはまったく頂けなかった。演技は総じてピンと来ず、制作側の意向で各登場人物が踊らされ、それぞれの思惑や行動にも納得できないところが多かった。ただ「スパイの妻」というキャラを作りたいためだけに、この映画が作られた気がする。
  
2021年 6月 「サスペリア」
1977年版が大好きなだけに、見始めて最初はあまりの違いに戸惑い、興味を失いかけた。それでも徐々に、本作ならではの雰囲気や面白みにのめりこんでいき、ラストの爆発的な描写には心底しびれ、美しい残虐描写というのはあるものだと感じた。最後まで見て本当に良かった。
2021年 6月 「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」
うーん、きれいな映像を次々と見せられているうちに映画が終わった感じで、この映画の面白ポイントがよくわからずじまい。そして僕はこれまで、ティモシー・シャラメが出てくる映画ですごく面白いと思ったものがない。
2021年 6月 「デッドマン」
ジャームッシュは好きな監督なのだけれど、本作は評価に困る。詩人ウィリアム・ブレイクの引用に散りばめられ、詩的で難解なシーンが続く。これまでのジャームッシュ作品とはかなり趣が異なるので、頭が混乱しているうちに終わってしまった。
  
2021年 5月 「世界中がアイ・ラヴ・ユー」
ウディ・アレンが1996年に撮ったミュージカル作品。年に一度のペースをずっと続けているのは本当にすごいと思うけれど、それぞれ似た作品なので一本ずつのイメージは薄いのがウディ・アレン。特に、2005年の『マッチポイント』まではそうしたマンネリを批判されていたようだ。本作も別にどうということはない作品なのだが、妙に気に入ってしまった。惜しげもなく出てくるスター俳優達が、映画の楽しさを存分に味わわせてくれるからだろうか。
2021年 5月 「真実」
是枝裕和監督の最新作。同監督の作品はすべて見ているが、本作は過去作ほどのインパクトを感じなかった。なぜだろう。カトリーヌ・ドヌーヴ演じる嫌味でいい加減な母親は、フランス版樹木希林かというほどはまっていたのだが、娘を演じるジュリエット・ビノシュが強すぎたのだろうか。過去作であれば、ああいう母親に子供らが苦悩する様が描かれるが、本作ではその苦悩が感じられず、深みがないように思う。そして、どうしてもおしゃれに映ってしまうフランスの情景と人物たちが、過去作に感じた日本的湿度を薄めているのかもしれない。
2021年 5月 「漂流教室」
大林宣彦監督作は、近年の反戦映画はかなり好みだし、それ以外にもすごく気に入る作品もあるのだけれど、まったく受け付けられない作品もあって、これもその一つ。楳図かずおの名作漫画を映画という枠内でアレンジする必要はわかるのだけれど、なぜインターナショナル・スクールになるのか、よくわからない。そして、いつもの独特の映像表現もなんだかちゃかちゃかして落ち着きがなく、見ていて面白いとも美しいとも思えなかった。
2021年 5月 「ナイト・オン・ザ・プラネット」
アメリカやフランス、イタリアで、同じ時刻におこった5つの短編が収められたオムニバス。テーマはすべて、タクシー運転手と客の会話だ。ウィノナ・ライダー、ジーナ・ローランズ、ロベルト・ベニーニといった有名俳優が出演し、それぞれに味のある演技を披露してくれる。僕は二作目のニューヨークの話がいちばん好き。『バグダッド・カフェ』とか『迷子の警察音楽隊』など、異国から来た妙なおじさん(おばさん)の愛おしさを描く作品はツボなのだ。
2021年 5月 「ペット2」
犬や猫の特質や動きを忠実に再現した良作の続編。今回もそうした動物たちの動きが、「ああ、そういう仕草やるよね」と思わせ、楽しませてくれる。ただ、短い時間にたくさんのヤマ場が出ては消えていく作品スタイルのため、やや落ち着きに欠けるというか、その場限りのアクションの連続のように思えてしまい、見ごたえに欠ける気がした。子供が見て楽しめるようにという配慮だろうが、そのあたり、ピクサーなどは大人も楽しめるバランスにしてあるから、やはり本作は少し物足りない。
2021年 5月 「ブラック・クランズマン」
確かに黒人が迫害されてきた歴史は事実であり、悲惨だと思う。現在の報復合戦の状況は大きな問題だというのもわかる。ただ、本作の出来は、僕にはあまり感心できない。まず、多くの人が思う疑問の一つ。フィリップ(アダム・ドライバー)が電話も担当すればいいじゃないか、というところ。なぜ、実際にKKKに潜入する人間と電話応対する人間を分けるのかが不明だ。さらに、KKKはユダヤ人差別もしていることは自明なのだから、潜入捜査官は非ユダヤ系白人を選ぶのが賢明だろう。そして何より、あの作戦の意図がよくわからない。かなりの危険を犯して実施した末、首謀者の数人を殺してイエーイ、って意味不明だ。
 とにかく本作、「なんと黒人がKKKに潜入!」というテーマありきで作られているのが見え見えだから、そこでしらけてしまう。そして、その中で無理やりサスペンスを作っているようで、作劇として拙い。黒人差別への問題意識を高めたいのはわかるが、テーマは物語の中にうっすらと潜ませるべきであり、ここまで前面に出てくると素直に受け止められなくなる。
2021年 5月 「大奥十八景」
公開時の宣伝文句は「エロス・スペクタクル大作」だったそうで、確かにエロティックなシーンは満載なのだけれど、意外に骨太のストーリーがあり、鈴木則文監督の奇天烈演出もはまっていて、かなり見ごたえがある。ラストが尻すぼみなのがもったいないが、これは拾い物の作品。女優さんの顔も体もきれいに撮られていて素晴らしい。殺陣のシーンもかなりしっかりしている。鈴木監督はキャリア晩年期にこんないい映画を撮られたんだなあ。
2021年 5月 「あなたはまだ帰ってこない」
フランスの作家マルグリット・デュラスの実体験を元に、ナチス占領下のパリで囚われた夫を待ち続ける女性を描く。レジスタンスに参加しつつ、夫を捕らえたというゲシュタポの手先との密会を重ねるマルグリット。危険な行動はすべて夫への強い愛情ゆえ、と思っていたら話は思わぬ方向に転がっていく。これが戦争の見せる狂気なのか、マルグリット・デュラスという女性の個性なのか、判別がつかない。淡々と進行しつつ、1940年代のパリの風景が美しく画面に広がる。
2021年 5月 「タクシー運転手 約束は海を越えて」
やりきれない出来事があったので、妻と二人、気分転換になる映画を見ようと本作を選んだ。僕は再見で、見始めてから、スカッとするけれど後半はかなり陰惨な話だったのを思い出し、少し後悔した。それでもやはりラストへ向けての力強いエンタメ展開には心を揺さぶられる。

★前回の僕の感想はこちら
  
2021年 4月 「宇宙戦争」
スピルバーグ監督作にはそれほど好きな映画はないのだけれど、本作はかなりのめりこんで見られた。なにより映像が素晴らしく、宇宙人が攻撃し、人々が恐怖にとらわれる様が本当にリアルで怖くなる。これだけCGを使っていていてしらけない映像を作るのも至難の業だと思う。駄目なお父さんが頑張るものとしても秀逸。
2021年 4月 「カジュアリティーズ」
ベトナム戦争における若い兵士の苦悩を描く。情け容赦ないところはブライアン・デ・パルマ監督の得意とするところで、途中まではいい緊迫感と興味を持って見ていたのだが、最後にメッセージを主役の口から言わせてしまうところでしらけた。何度か気が抜けたような映像があるのも気になった。ただ、ショーン・ペンなど脇役陣の演技は素晴らしい。
2021年 4月 「フライングハイ2」
『フライングハイ』の続編。同様なギャグとパロディが繰り返されるが、だんだん飽きてきた。元ネタを熟知していればもう少し楽しめるのかも。
2021年 4月 「舟を編む」
三浦しをんの同名小説を読んだのを機に、映画も見てみた。当時の日本アカデミー賞で、作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞など6部門を受賞したらしいが、本作がそこまでの評価を受けることに大いに落胆と憂慮を覚える。かなり原作に忠実に作ってあるが、原作からしてあまりいい出来でもない作品なのだから映画が良くなるはずもない。つまらないコメディタッチにしなかった分だけましだとも言えるが、辞書に対するそこまでの熱意が画面からは伝わってこず、あいかわらずまじめ君の恋愛要素は不要だ。助演のオダギリジョーと池脇千鶴の演技で少し救われたという程度。
2021年 4月 「おもひでぽろぽろ」
高畑勲監督作はこれまでどれ一つピンとこなかったのだが、これだけは違った。子供時代の回想パートと現代パートが見事に融合しており、声優の今井美樹と柳葉敏郎からキャラクターを造形してあるのもうまくいっている。先が読めそうで読めない展開は、人間心理の深いところを追求しているからで、造り手側の恐ろしいほどの冷徹な眼差しを感じる。
2021年 4月 「スキャンダル」
事情に疎い日本人からすると、最初からいろんな人物が説明なく行動するのでわかりづらい。途中まで見てからネットで説明を読み、もう一度最初から見直してようやく理解できた。しかしまあ、こんな最近の事件をすべて実名で映画を作るということが許されるハリウッドという環境に感心する。ジャーナリズム的には意味合いの強い作品だと思うが、映画の出来はさほどでもないというところ。ドキュメンタリーっぽさを出したいのか知らないが、素人のようにぶれるカメラワークも気になった。
2021年 4月 「雨の訪問者」
名匠ルネ・クレマンによるサスペンス。序盤はいい雰囲気だったのに、チャールズ・ブロンソンが出てきて、主役女性のやったことを何故か全て知っている、という時点で映画がおかしくなり、最後までポイントを外した展開になってしまった。事情が妙に入り組んでいるのもいただけない。
2021年 4月 「THE INFORMER 三秒間の死角」
麻薬組織とFBIとニューヨーク市警が絡み合うサスペンス。ただ緊迫感を出したいためにデタラメに作られた脚本で、見ていられない。だいたい、組織の人間がFBIの情報屋として動くのがあんないい加減で、組織側にばれないはずはない。警察なんかより組織側の制裁のほうがよほど恐ろしいというのに。なんというか、僕にはどうでもいい映画だった。
2021年 4月 「滝を見にいく」
見始めてしばらくは、態度の悪い女性達の様子に「これはハズレかな」と思っていたが、まったく違った。公開当時の評判は耳にしていたけれど、これほど素晴らしい映画だとは思いもよらなかった。
 有名な俳優はほとんど出ておらず、(申し訳ないけれど)とくにきれいでもない中年女性7人が映画の全編に登場するという、なんとも華のない映画。なのに、人間が人間であることの喜びが画面全体から湧き出てくる。僕はあの女性たちのあまりの愛おしさに、後半はずっと涙を流しながら見ていた。短いながらも芯の通った、心のかよった作品だ。この監督の作品は前に見た『横道世之介』にあまり乗れなかったのだが、あらためて過去作を追ってみたいと思う。大好き。
  
2021年 3月 「トップ・シークレット」
90年代にテレビで見てすごく面白かった記憶がある。その10年後くらいにレンタルビデオを見つけて喜んで借りてみたら、テープ不良で見られなかった。以来、ずっと見たい見たいと思い続けていて、ようやくWOWOWで放送してくれた。パロディギャグの数々は周到に作り込まれており、明石家さんまさんの「心はロンリー気持ちは…」シリーズは本作に影響を受けている気がする。メインキャラのギャグ以外に、その背後でもいろんな笑いが仕組まれているから、何度か見てそれを確認するのも面白い。全体的に下ネタが多めなのが、好みのわかれるところだろう。
2021年 3月 「his」
今泉力哉監督が「愛がなんだ」の翌年に撮った作品ということで、期待して見た。「愛がなんだ」に比べ、演出がテレビドラマのように安っぽいのと脇役陣の演技レベルの低さから、途中まではあまり乗れなかった。それでも法廷シーンの渚の行動に思わず見入ってしまい、そこからラストまでは一気にのめり込んで見た。とくに、玲奈を演じた松本若菜さんが素晴らしかった。ラスト前のセリフはとても自然で玲奈のキャラクターをよく表していた。本作は、迅と渚と玲奈の三人それぞれの視点描写を小説かテレビドラマで表現すれば、もっといいものになるのではないか。
2021年 3月 「下女」
『パラサイト半地下の家族』のオマージュ元にもなった、1960年公開の韓国映画。ルックは当時の日本映画のようでもあり、画面作りと音楽のケレン味ある使い方は当時のハリウッド映画のようでもある。下女が豪胆さと弱さをたくみに使い分けながら裕福な家にのさばっていく様は、本当に腹が立つほどに嫌らしい。女工が音楽教師にラブレターを出しただけでクビになるのは当時の韓国社会を映しているのかも。脚本がぎこちないのは、実際の事件を元に作っているせいかもしれないが、やや気になった。
 それから、楳図かずおの漫画との類似を感じた。とくにラストで女性が階段にいるシーンはおろちのラストそっくりだし、窓越しに女性が恐ろしげな表情を浮かべるシーンもどこかで見た気がする。
2021年 3月 「ミッドサマー」
『ヘレディタリー/継承』でも同様に感じたが、アリ・アスター監督作は、思わせぶりに始まりながら結果的にはよくあるホラー映画の焼き直しに過ぎない。本作を見る前の予告などから、こういう内容かなあと思っていたそのままに話が進み、終わる。まったく意外性がないものを多少映像にひねりをくわえてある程度で、僕としては世評ほどまったく評価できない。
2021年 3月 「残酷異常虐待物語 元禄女系図」
鈴木則文に比べ、石井輝男監督はぬるいなあと思っていたが、本作を見て反省。これはなかなかぶっ飛んだ作品。30分ほどの短編映画が三つつながっており、それぞれに楽しめる。エログロをとことん突き詰め、片輪者とのセックス、妊婦の腹を刀で割いて子供を取り出すなど、なかなかの地獄絵図が繰り広げられる。勧善懲悪とかハッピーエンドとかくそくらえ、という意気込みがすごい。これはたいした傑作だ。
2021年 3月 「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY」
昨今のMCUシリーズやアメコミヒーロー全般にまったく思い入れがなく、本作も期待せずに見たら、かなり面白くてびっくり。世評どおり、敵側があまり強くないので爽快感が弱いものの、虐げられた女性同士が一致団結してアクションを展開するのは、胸が熱くなる。マーゴット・ロビーの器用さにも驚いた。
2021年 3月 「徳川いれずみ師 責め地獄」
タイトルからして何事かと思うが、内容もなかなかの過激さで、確かにこれはカルトとして語り継がれることはある。入れ墨師二人の対決やその影での陰謀などのストーリーはあるものの、とにかく監督がエログロの異常な映像を見せたいだけで盛り込んでいる。オープニングからぶっ飛んでいるが、ラストもまた過激。そんな止め絵で終わる映画があるかい、と言いたくなるほど。
2021年 3月 「フライングハイ」
『トップ・シークレット』の監督が、同様にギャグとパロディ満載で作ったコメディ。存分に楽しめるが、『トップ・シークレット』に比べてやや落ちるか。
  
2021年 2月 「渚のシンドバッド」
僕の好きな橋口亮輔監督の1995年制作の映画。無名に近い頃の浜アあゆみが出演しており、歌手より役者のほうが向いているのではないかと思わせるほど、自然で生き生きとした演技を見せている。橋口監督が作ると、青春映画もちょっと違った毛色で、痛々しいほどのリアルさが出るなあと興味深く見た。
 ただ、見ている途中、これは役者にアドリブでやらせているんだろうなと思うシーンがいくつかあり、調べるとやはりそうだった。これは手法として全く悪いとは思わないが、見ているほうに気づかれるようでは駄目だと思う。いったんアドリブだと思い始めると、映画ではなくドキュメンタリーとして見てしまうからだ。そこがやや残念だった。
2021年 2月 「レベッカ」
ヒッチコック監督の作品は僕にはどうも中途半端で、面白みのわからないものが多い。本作は30年前くらいに見てすごく面白かった記憶があったのだが、今回見返してみるとさほどの感動には至らなかった。死んだレベッカの幻影に惑わされる恐怖があまりうまく表現されているとも思えない。夫が何度もでかけたり戻ったりする脚本もいい出来だとは言えず、レベッカの死の真相について、そこに関して最後に交わされるハラハラもなんだかうまくいっていない感じ。あの家政婦のいかにもいわくありげなたたずまいが全て、というかそこに頼り過ぎて作られた感じがする。
2021年 2月 「誰もがそれを知っている」
イランの名匠アスガー・ファルハディ監督が、ペネロペ・クルス&ハビエル・バルデムというスペインの大物夫婦と組んで作った作品。ある事件が起こり、その過程で平和だった関係にひずみが生じ、それが大きくなっていくというのは、同監督の作品全体に通じるテーマだ。今回はかなりエンタテインメント寄りに作られているせいで、過去作に比べ見やすい映画になったぶん、中途半端にもなってしまった気がする。ただ、個人的に彼の過去作は、面白いが見返すには辛すぎるものばかりで、本作くらいのバランスがちょうどいいのかもしれない。明かされる真相がちょっと拍子抜けというところは、そもそもミステリをしっかり作り込む監督ではないから仕方がないのだろう。
2021年 2月 「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」
僕には、例えばジョン・ヒューズ監督の作るような青春映画がさっぱり肌に合わず、一つも面白いと思える作品がない。ただ、本作はおバカなバディものが女性同士というところが新しく、しかも同性愛も含んだ現代性のある設定ということで、一定の面白みは感じられた。ギャグも笑えたし、ヒップホップに疎い僕でも音楽はカッコいいと思えた。でも、見終えたあと、なんにも残らないんだなあ。見直すこともないだろう。
2021年 2月 「氷上の王、ジョン・カリー」
僕がフィギュアスケートを本格的に見始めたのは2002年のソルトレイクオリンピックで、その前の長野オリンピックくらいならかろうじてわかるが、もっとずっと前に活躍したジョン・カリーのことは全く知らなかった。彼がフィギュアスケートにおいてスポーツ性よりも芸術性を重んじたことは、現代フィギュアスケートにおいてもまだ議論が続いているところで、その先見性に驚かされる。本作は、彼の足跡を丹念に追ったもの。地味な作りに思えるが、事実を正確に伝えるならこれくらいのバランスになるのかもしれない。
2021年 2月 「徳川セックス禁止令 色情大名」
町山智浩氏が本作を様々なメディアで何度か紹介されていて、いつか見たいと思っていたらWOWOWで放送された。鈴木則文監督がエロスとバイオレンスと笑いをふんだんに盛り込み、爆発的なエネルギーを持った作品に仕上がっている。不謹慎だという声もあろうが、映画という作り物の中でこれくらいのことはやって構わないと思う。評判どおりの快作だった。
2021年 2月 「徳川女系図」
Wikipediaによれば、「日本の大手映画会社が初めて製作したピンク映画」。徳川五代将軍綱吉の時代、大奥で繰り広げられた女性どうしの抗争を描く。今見るとエロティック表現はかなり抑えめで、内容もバカバカしい。いっそ鈴木則文ほど弾けた映画を作ってくれるなら見ごたえがあるが、本作は実に中途半端。何より、俳優の演技がひどくて見ていられない。
2021年 2月 「野性の呼び声」
原作をかなり忠実になぞっている感じはあるが、CGの不自然さに気がとられてしまい、映画を味わえなかった。もちろん昔に比べれば技術は相当進歩しているのだが、それでも本物の動物の動きと比べてしまえば違いは明らかなわけで、見ている間じゅうずっと、「ああ、CGだなあ」と思ってしまう。このあたりを見事に処理した『ベイブ』は本当に偉大な映画だった。
 それから、犬のバックが徐々に野性を取り戻していくところも、小説に比べて深みを感じられなかった。野性とは、仲間のオオカミと仲良くなっていくことだけではなく、人間から離れ、人間と敵対していくことだ。そのあたりをもっと非情に描いたらよかったのではないか。
2021年 2月 「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」
良くも悪くも安心印のウディ・アレン映画。ニューヨークに来た若いカップルが数々のハプニングに見舞われ、自分や他人の本性をかいまみる、そしてそれを見ている観客がほくそ笑む、という構図はウディ・アレン作品で何度も繰り返し描かれてきたテーマだ。とくに、彼氏がいながらも魅力的な相手からの誘いを断り切れないという展開は、ウディ・アレンの女性嫌悪がそのまま出ているのかと思わせる。ただ既視感にあふれているのも事実で、新鮮味は感じられない。
2021年 2月 「屍人荘の殺人」
小説を読み、あの内容をどう映画化するのだろうと思って観た。かなり小説に忠実に作ってあるが、部屋の間取りに関するところは映像で見せるのは難しいと判断したのか、ばっさりカットされている。コメディにもなんにもなっていないただの悪ふざけ演出は、悪い邦画の伝統どおり。
2021年 2月 「ハスラー2」
ポール・ニューマンとトム・クルーズ共演の有名作だが、ぜんぜん頂けない。エディ(ポール・ニューマン)がヴィンセント(トム・クルーズ)にビリヤード場での振る舞いを教えるのだが、始めはわざと負けて掛け金を上げていけというエディの教えに対し、ヴィンセントがこらえきれずに勝ちまくって失敗する、という展開が何度もつづき、うんざりしてしまう。ヴィンセントの恋人カルメン(やたらと脱ぐ)の存在意義も不明だし、ラストもおざなり。
2021年 2月 「アーヤと魔女」
劇場公開前にNHKで放送されたものを見た。これは無だ。なにもない、ただの無としか言いようがない。超低レベルの3D-CG、アーヤの母親の声優、孤児院園長のCG技術とは違った意味での演出の酷さ、そして物語的内容の無さ。ただただ、なにもない映画。
  
2021年 1月 「恋人たち」
5年ほど前に劇場で見て以来の再見。前回の感想として、アツシのエピソードだけが突出して重いのでバランスを欠いている、と書いたが、今回はまったくそう思わず、むしろ全体としての統一感に感激した。3つのエピソード、しかもテーマ的にも直接リンクするわけでもない3つが実に自然に流れるように紡がれていく。脚本と編集の凄さを今回、思い知った。アツシの置かれた境遇は本当にきついものだけれど、だからこそほんの少しの思いやりや優しさ、なんということもない明るさに救いの一端を感じる。救済と赦しと人間愛の物語だと感じた。満点。
2021年 1月 「二十歳の微熱」
橋口亮輔監督のデビュー作。かなりアングラ色濃厚な作りでいて、同性愛をはじめとする、男女の性愛ではない関係性を描くという橋口監督の方向性が強く出ている。俳優陣は本作がデビュー作という人も多いが、鼻白む演技をする人はまったくおらず、橋口監督の確かな演出力がうかがえる。ラストで、最初はただの嫌な客にしかみえなかったゲイの男性(監督自身が演じる)が、バイオレンスの空気をまといつつもしだいに胸の内を吐露し始めるシーンが圧巻。けっきょく誰もが寂しい思いを抱えているというところを、映像として見せている。
2021年 1月 「呪怨 白い老女」
割といい評判を聞くし、監督の三宅隆太さんの話をラジオで聞いたりするのは好きだけれど、本作には感心できなかった。全編、単純に「わ!」と驚かせるシーンの連続で、怖さを様々に作り出す努力が見えなかった。演技も拙い人が多く、途中、コントのように見える箇所もあった。
2021年 1月 「EXIT」
韓国発の大ヒットパニックドラマ。韓国のある都市で毒ガステロが発生し、パーティー会場のビルに取り残された青年が、家族や大切な人を守るために苦闘する。ノリが軽すぎるとか作りがお粗末という声もあるけれど、僕はアイデアに溢れた快作だと思い、十分に楽しんだ。確かに大傑作ではないけれど、見て十分に満足できる一作。各場面ごとに制作陣が頑張って工夫を凝らしている舞台裏が見えてくる。ときおりはさまれるユーモア感覚も好き。
2021年 1月 「パパは奮闘中!」
幸せだったはずの一家の母親が突然失踪し、残された父親が仕事に育児に奮闘する。紹介文を読んでコメディなのかと思っていたら、かなりシリアスな内容だった。それでも、重たすぎるシーンになるとバランスを取るように軽いシーンがはさまれ、意外に見やすい。そこに物足りなさを感じる人もいるかもしれないが。
 役者陣はおおむね自然な演技で、安心して見られた。それにしてもみんな、簡単に浮気するんだなあと思う。
2021年 1月 「人生の特等席」
クリント・イーストウッド主演だが、監督作ではない。メジャーリーグで名を馳せた老スカウトマンが、新しくなる時代や娘との確執を克服していく。監督のロバート・ロレンツはそれまでプロデューサー業に携わっていたのが、本作で監督デビューを果たした。あらすじをそのまま脚本にしたような作品で、ご都合主義かつお涙頂戴の展開が続き、見ていられない。ドラフト候補の選手の悪者ぶりなど、キャラクター造形もお粗末。イーストウッド映画定番の「じいさんもまだまだ頑張る」というテーマも、イーストウッドが監督すればいい映画になるのだが、腕の無い監督だとテーマの陳腐さも際立ってしまう。見どころは、エイミー・アダムスが綺麗に撮られていることくらい。
2021年 1月 「舞踏会の手帖」
1930年代に作られたとは思えない映像美、編集美、そしてドラマ性の高さに驚く。夫を亡くした貴婦人が、かつて16歳で経験した舞踏会を懐かしみ、求愛された男たちを訪ね歩くという物語。貴婦人は自分が見捨てたために傷つけたたくさんの男たちの行く末を知り、心を動かされる。出会う男たちそれぞれの場面が連作短編小説のように紡がれ、それぞれの物語がとてもよくできているので引き込まれる。ときおりはさまれるユーモアのセンスも良く、ラストの切れ味も鋭い。さほど有名ではないかもしれないが、まぎれもない傑作。
2021年 1月 「フォードvsフェラーリ」
車好きの二人がエンジニアとドライバーというそれぞれの立場で懸命に貪欲に勝利に向けて闘いを挑んでいく様がストレートに伝わってくる。キャロル(マット・デイモン)がフォード首脳陣にたてついたり煙に巻くところ、ケン(クリスチャン・ベール)とキャロルとの、喧嘩しながらも絆を深めていくバディものとしての要素も面白い。ケンと家族との絆もしっかり描かれ、レースの醍醐味も味わわせてくれる。映画のツボをことごとく抑えた職人映画。
 とはいえ、何度かに分けて見たせいか、やや印象の薄い結果となった。これは僕が主に自宅での食事時に映画を見るせいだが、この鑑賞スタイルを変えようとは思わない。食事以外できっちり時間をとって映画を見ようとしたら、鑑賞本数が激減する。見ないくらいならどういう形であれ見たほうがいいと思うので、今のようにやっている。
2021年 1月 「ジョジョ・ラビット」
少年のイマジナリーフレンドとしてヒトラーが登場するが、結局、映画オリジナルのこの設定があまり生かされていない気がした。非常に深刻な状況でのコメディタッチな演出に批判があるようだが、僕としてはそこは気にならなかった。それでも、世評ほどのめりこむこともなかった。この監督独自のメッセージ性を感じられなかったせいかもしれない。
2021年 1月 「ファースト・マン」
これは劇場でその映像美を体感すべき作品なのだろう。自宅で見ていると、結末を知っている物語が淡々と進んでいくだけで、しかも『ライトスタッフ』『アポロ13』などの似たような先行作品と比べ、特別優れている点も見当たらない。宇宙飛行士アームストロング氏が内向的で口下手なところも、あまりドラマ的には生きていない。事実を元にしているから仕方がないとはいえ、見せ方はもっとあるような気がする。アームストロング氏が亡くした娘さんのことは、事実としてもこれまであまり紹介されてこず、その点に少し独自性があるのかもしれない。ただ、最後に月に降り立つあたりは音楽と映像が絡み合い、さすがに素晴らしいものだった。