るーとらの秘密基地
松吉
■詩集『サマータイム』
  ●花
●走る野鹿
●あれは幻
●雪がつもる
●道尽きて
●夜明けの寒さに
●summertime
●ひと夏の経験
●笛
●青空
●夜の蝉
●老子
●砂漠の駱駝
●恋する惑星
●光る乗客
●空の深さ
●猿が哭く
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恋する惑星

 魚だったんです。眠れぬ夜の。水の中にも風は吹くんです。

 星の光が水底に届く時刻でした。わたしは鰓をひらく背びれをたてる。

 金の銀のこころが揺れる。

 魚だったんです。雨に濡れ。見えない惑星に上陸し、肺を痛めて。

 胸鰭をたてる、歩き出す、斜めの未知、背骨が軋むさ、
 ゆくも戻るもただ哀し。

 旅をしました。
 見るために、感じるために。
 はじまりのおわりへ、おわりのはじまりへ。

 まあるいまあるい形象。それも折り畳んで、
 わたしは醜い次元を生きて、
 魔につかれて…。

 旅をしました。   
 陽の色、月の色、眠るもの、眠れぬもの、
 天罰のように。天啓のように。

 猿だったんです。吹雪の山の。生きることにかじかんで。

 はじめての垂直。哭いてみたら何かに触れて。

 それが何かは解らず…。

 猿だったんです。鳥にはなれず。木を降りて。
 地を這いずり。海に焦がれ。
 花に狂う猿だったんです。

 花。花。
 花が咲いていました。
 花が、花が咲いていました。

 恋する惑星。 虚空に浮かび、

 花が、花が咲いていました。