夜明の寒さに目覚めれば 炊飯器の飯の炊ける音がし 鈴虫 こおろぎの虫すだく 乾いた壷のひびのように 人の世が遠くある 庭にひまわりは首を垂れ 花は散って地ににじみ 種子が静かに時を集めている しだいに宇宙は空に還り 人々は今日も手足を動かすのだ 夜明の寒さに目覚めれば 風はまた家々を渡り 森や鉄塔を渡り 河や海を渡り そうして何処かへ消えてゆくのだ 夢の水際を乾かして わたしはもう起きようか 溶けたわたしの赤子の朝を 母のように起こそうか 未知のもの世にまだ満ちると