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遺棄毒ガス・解決への提言

中国人遺棄化学兵器被害事件・解決提言 ―被害者の人権回復と日中関係の未来のために―

被害者の解決要求と政策提言

1 被害者の解決要求

  1. 日本政府は旧日本軍の遺棄した化学兵器による中国人被害者(以下「中国人遺棄化学兵器被害者」という。)に対し,責任のあることを認め,真摯にお詫びすること。

  2. 日本政府は中国人遺棄化学兵器被害者に対し,適切な補償を行うこと。

  3. 日本政府は中国人遺棄化学兵器被害者に対し,医療ケア等の支援を行うこと。

  4. 日本政府は中国人遺棄化学兵器被害者に対する根治治療の研究に努めること。

  5. 日本政府は中国人遺棄化学兵器被害者に対し,生活支援を行うこと。

  6. 日本政府は,旧日本軍の化学兵器の製造・配備・使用・遺棄の事実に関する情報の収集を行い中国政府に伝えるなど,被害防止に真摯に努めること。

日本政府は、遺棄化学兵器被害賠償請求事件等の被害者らと上記6項目の解決要求の実現を目的とした継続的協議の場を設定すること。

2 政策提言

  1.  中国人遺棄化学兵器被害者の人権回復と日中関係の未来のための制度を設立する。

  2.  日本政府は(1)の制度に,中国人遺棄化学兵器被害者の要求を実現するに相応しい金員を拠出する。

  3. 制度の内容は,医療支援,生活支援などの福祉事業と適切な補償を受けていない被害者らに対する補償事業からなる。

  4. 制度は,日中間の協議に基づいて,中国側が執行する。

解決要求の理由

(1)被害者らは進行性被害に苦しんでおり,一刻も早い救済が必要
戦後,旧日本軍が遺棄した化学兵器により、子供らを含め中国人一般市民らが殺傷される重大な事件が相次いでいる。戦後60年以上経った今も事件は起こっている。

被害者らは,糜爛箇所のかゆみ・痛み、視力の低下、朝晩の激しい咳き込み、肺機能の低下、体力の低下、集中力の低下、頻繁に風邪を引く等の免疫力の低下、 性的不能などさまざまな毒ガスの中毒障害に苦しめられている。このように深刻な被害状況のため,ほとんどの被害者が現在も就労に復帰できず,収入を得る道 を閉ざされ、また、「毒ガス中毒は感染する」という噂のために、近隣の住民や友人、親戚からも差別されている。マスタード中毒に対する治療は対症療法しか ないためこれを根治することができない。被害が治癒するどころか、症状悪化,再発,他の病気の発病など症状がさらに深刻化し、本来なされるべき医療が受け られない不安に怯えた毎日を余儀なくされている。

(2)被害者らの救済施策は何もない
旧 日本軍が製造し中国に配備し今も中国の地にある化学兵器は、日本側は40万発、中国側は200万発としている。この化学兵器の処理については、1991年 に中国政府が国連で問題として以降、日本政府は1995年に化学兵器禁止条約を批准し、2007年までに無害化して廃棄する義務を負い、1999年には日 中間の覚え書きにより、日本政府は旧日本軍が中国に遺棄した化学兵器を回収し無害化することを約束し、遺棄化学兵器処理事業を発足させた。以来、発見され た遺棄化学兵器は調査の上保管され、今後は無害化する処理施設を建設するなど、全体で数千億円に上る遺棄化学兵器処理事業が計画されている。

遺棄化学兵器処理事業は,「人の安全を確保し,環境を保護することを最優先としつつ・・・化学兵器禁止条約の義務を履行することを目的とする」。化学兵器 による非人道的な人身被害を根絶することが条約の目的である以上,同条約に基づきその目的を実現するための同事業に於いて「人の安全の確保」が最優先さ れ,医療と損害の補償が果たされるべきことは当然であり,同事業の根幹となる理念である。

日本政府は,チチハル事件発生後,「遺棄化学兵器処理事業に係る費用」として3億円を中国政府に支払っており,その大半が被害者の医療及び生活保障に充て られている。これは,同事業の理念に合致するものとして評価できるが,被害実態に照らせば,係る補償は決して十分なものではない。また,日中間覚書以前の 事故の被害者に対しては,何らの補償もなされていない。

旧日本軍により遺棄された化学兵器は、戦後2000人とも言われる被害者を生み出し、現在においてもなお、子供らを含め何ら罪のない一般市民が遺棄化学兵 器により人生を奪われ、癒されるどころか症状の進行に怯える日々を送っている。今後も将来にわたって遺棄化学兵器による被害が生じる可能性が高い。にもか かわらず、被害者に対する医療ケアなど被害回復のための処置は何らなされず放置されたままであり、被害防止のための努力もなされていない状況である。

(3)毒ガス製造に携わった旧日本軍の軍人・軍属には救済制度がある
日本国内における毒ガス兵器による被害者に目を向けると、例えば、旧陸軍で毒ガス製造に携わっていた軍人・軍属には、戦後制定された共済要綱等により、無料で医療を受けられる保障、毎月の年金支給など、不十分であっても人道的観点から何らかの施策が講じられている。

人権に国境はないはずである。子供らを含めた中国の一般市民らが、旧日本軍が遺棄した化学兵器により被害を受け日々苦しんでいる。日本政府には,中国人遺棄化学兵器被害者を救済する政治的・道義的・人道的責任がある。

(4)化学兵器を遺棄し被害を生ぜしめた責任は日本国にある
旧日本軍が化学兵器を遺棄し被害を生ぜしめたことについては,遺棄毒ガス被害事件第1次訴訟東京地裁判決,同第2次訴訟東京地裁判決,同第2次訴訟東京高裁判決のいずれの判決においても詳細に認定されており,明らかな事実である。例えば,同第2次訴訟東京高裁判決は,

ア 日本陸軍が多量の毒ガス兵器を生産し,これを中国に持ち込んで配備し,終戦前後に日本軍の兵士が上官の命令に基づき毒ガス兵器を中国国内に遺棄した事例があること,

イ 終戦後の昭和27年(1952年)から中国政府によって実施された調査の結果及び平成3年(1991年)から我が国が中国国内で行った調査の結果によれば,中国国内に日本軍の毒ガス兵器が大量に遺棄・放置されていたこと,

ウ 戦前においても既に毒ガス兵器の使用が国際法によって禁止されていたことが認められ,終戦後,日本軍は毒ガス兵器に関する情報を連合国に秘匿しようとしていたこと,

エ 大量に中国に持ち込まれた毒ガス兵器が終戦に伴う武装解除により原則的にソ連軍等に引き渡されたと認めうる証拠はないこと

か ら,日本軍により中国国内に配備されていた毒ガス兵器は,終戦前後に日本軍あるいはその兵士により遺棄されたものが相当数に上り,その態様は隠匿のために 地中に埋設されたり,河川に捨てられたり,あるいは倉庫等の従前の保管場所にそのまま捨て置かれたりしたものであったと推認されると判示している。

このように,旧日本軍が化学兵器を遺棄し中国人一般市民に被害を生ぜしめたのは明白な事実であるから,日本政府は,中国人被害者に対する政治的・道義的・人道的責任がある。

(5)日中関係の未来をつくることは日本の未来をつくること
日 中間の関係は,経済,文化,いずれの面においても近年、その緊密さを増しており,政治の面においても関係改善の努力がなされている。しかし,その一方で, 基礎となるべき日中両国民の信頼関係は,いまだ良好とは言えない。原因は,日本が先の戦争で多大な損害を与えた中国国民の苦痛に対し誠実な対応をしていな いことにある。

この施策の実現は、日中両国民の相互の信頼関係を基礎とした日中間の真の友好を築き,人道的国家として国際社会における信頼を獲得し、アジアの隣人とともに生きる未来を創る第一歩となると確信する。

 

2009年3月

 

中国人遺棄毒ガス被害賠償請求事件弁護団
遺棄化学兵器被害チチハル事件弁護団
遺棄化学兵器被害敦化事件弁護団

 

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弁護士 南 典男

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