建物に直接かかる建設費、修繕費の他に運営管理費、保全費、水道光熱費等の費用が、その公共施設が出来てから老朽化し、廃棄されるまでの60年間にかかります。その建築物の生涯にかかる費用計算をトータルで把握し、建設計画から維持管理、将来におけるリフレッシュ工事計画を財政的観点からも捉えようとするのが、ライフサイクルコスト研究です。
1995年、全国の自治体の中でいち早くライフサイクルコストの視点から公共施設の総合的な維持管理計画と利用計画、財政計画を統合した政策を実施したのは、東京都目黒区でした。その後、東京都、大阪市等がライフサイクルコスト研究を進め、政策化を実施しています。
学校、幼稚園、保育園、図書館、近隣会館等の豊中市の公共施設は、226施設(延べ床面積合計・632487あります。これら施設の大部分は、戦後に建てられたもので、総工事金額は1937億円でしたが、2050年までに必要なこれらの建物の修繕費は1568億円と見積もられました。病院、水道などの特別会計、企業会計の施設を除いた214の公共施設が、研究対象になりました。
下のグラフを見れば、2001年からの20年間だけでも、954億円の建物修繕予算が必要になることが明らかです。豊中市は、大阪市の衛星都市として1960年代から急速に人口増加し、1970年代に学校、保育園から始まった公共施設建設は、住民要求の変化を受けてスポーツ施設、文化施設、高齢者福祉施設と変化し200を超える公共施設をストックとして保有しています。 この豊中市の傾向は、大阪府下の衛星都市が共通してもっており、各市が抱える課題は、豊中市と同じです。
自治体財政危機が全国で深刻化していますが、公共施設の維持管理を長期的に、しかも技術と財政の両面から問題を直視し、問題解決のための政策を立案・実行することが緊急の課題です。豊中市の研究と取り組みは先進的行政実践として重要で、私たちが7年前に問題提起した吹田の教育環境整備の問題点は、概ね妥当なものであったことが明らかになっています。
豊中市のライフサイクルコスト研究の成果を吹田市に当てはめれば、吹田市の今後20年間の公共施設修繕費の必要額は、少なくとも800億円は下らない金額になるであろうと推定されます。財政状況のひとつの指標である、経常収支比率は、豊中市では平成10年以来、100を超えています。(9年度 97.5、10年度105.1、11年度103.2、12年度103.6)
経常収支比率(一般財源収入に対して経常経費充当額の比率を言い、100よりも小さい数字であるほど財政のゆとりや自由度があるとされる。つまり財政の硬直化を表す数字と言われる。しかし、経常収支比率は、行政の内容を示しているものではなく、数値の低さが、行政サービスが行き届いていないことを表している面もある。) 自治体の財政を表す指標としては、経常一般財源比率、公債費比率、債務負担行為、積立金会計などがある。詳しいことを知りたい人は、リンクページから「私家版自治体情報倉庫」を訪れてください。
豊中市政研究所・発行 「豊中市における公共建築物のライフサイクルコスト研究」
1・グラフ対象の施設は、一般会計にかかわる214施設のみ。
2・2000年完成以降の建物は含まれず。
多くの自治体においては、その自治体の保有する公共施設の計画的な改修についてのプランや系統的な政策は、ほとんどないのが実状です。マンションなどで言う長期営繕計画は、個別の施設についてありませんし、全体計画もありません。ライフサイクルコストの研究を手がけている自治体の数も2001年末において、数%しかないのが実態です。現場の老朽化による改修工事費の要望の声が、切実になって初めて予算がつけられるというのが、大部分の自治体の姿だといえます。膨大な公共施設を生み出しながら、その将来の維持管理経費の増大には、目が向けられていなかったのです。
教育を重視する自治体では、学校教育施設について建て替え政策を1980年代中期に立案して計画的に実施してきました。また、厳しい財政危機の中でも、子どもたちの命と良好な教育環境を守るために、学校施設の耐震補強工事と大規模改修工事を最優先政策課題と位置づけ、1/3以上の工事を終えた摂津市のような自治体もあります。吹田市では、学校体育館の改修工事だけが継続的に行われようとしています。ここに来て、行政の姿勢が本当に問われています。
ライフサイクルコスト研究とその政策化は、5つの役割が期待できると言われています。
1 長期修繕計画費用の中期財政計画への反映
2 維持補修費用の年度間の平順化による単年度負担の軽減
3 類似工事の一括発注によるコスト削減
4 施設配置計画と長期修繕計画との最適化
5 発生主義会計への応用
阪急豊中市駅から東へ徒歩で5分のところにある豊中市立大池小学校は、3年をかけて全校舎の建て替え事業を行いました。また、豊中市立第七中学校は、平成12年度に耐震補強工事と徹底したリサイクル工事を行い全館冷暖房化を実施しています。
厳しい財政事情の中で、学校施設の建て替え事業や耐震補強・大規模改造事業に踏み切る判断を行ったのは、市民の願いを受けとめながら中・長期の見通しを持った行政の良識の発揮だと言えます。人口急増期に建てられた学校は、どの市においても昭和56年の新耐震基準制定以前の建物が多く、早急な耐震補強工事が求められています。
注釈
1・標準モデルの算出基準は、2000年から数年以前の実績単価の平均値の一般建物 440千円/?、学校230千円/?を基にして今後の物価変動は考慮されていない。
2・建物の耐用年数は、60年として解体費用を含む。
3・学校施設からは、体育館、プールは除かれている。
上のグラフの学校モデルでは、30年のところに大規模改造工事費3億1千万円を想定しています。この金額は、吹田市が1987年から6年かけて行った32校の大規模改修工事の総予算額36億円から見ると大変大きな金額に見えますが、徹底した改造工事を行っている枚方市、寝屋川市、摂津市の実績に比べると、実態に近いものであることが分かります。豊中第七中学校の予算実績は、3億5千万円あまりでした。
豊中市政研究所
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