世田谷区「子ども条例」に異議あり!


 異議あり!として反対してきた世田谷区「子ども条例」案は2001年12月6日に区議会で可決されました。
 この条例を批判した拙論「世田谷区子ども条例の制定と問題点―「子ども観」の変質を見逃すな」が季刊「子どもの権利」(No.15 2002年2月号)に掲載されました。アップしましたので、ご意見などお聞かせくだされば、今後の活動に生かして生きたいと思います。なお、可決の際の反対討論の議事録ができましたので、アップしておきます。

 ご意見はこちらまで kinoshita@a.email.ne.jp  
 
 2002年 2月28日  

世田谷区議会「無党派市民」木下泰之

 


世田谷区子ども条例案に異議あり!

 既に、私は条例素案に対し、「世田谷区子ども条例素案に異議あり!」として、11月4日以降、本ホームページに主張を掲載し、これを批判してきました。区民からの批判の高まりのなかで区は多少の字句修正を行いましたが、11月15日に当局から区議会に提示された条例案では、基本コンセプトはまったく変わっていません。
 従って、会派「無党派市民」としましては、区当局に対し、この条例案の基本コンセプトを「子どもの権利」を明確にしたものに改め、再提出するよう再度求めるものです。
 なお、区から提示された条例案と、11月8日区に区議会に提出された喜多明人早大教授等の「市民フォーラム意見書」、11月15日にやはり、区と区議会に提出された「青少年問題協議委員会委員有志」の「意見書」を、本日、新たに、それぞれアップしておきました。条例の立案過程資料や関連リンクには、このページの下のほうから参照できますので、お役立て下さい。

 2001年11月17日
 

世田谷区議会「無党派市民」木下泰之

 


世田谷区子ども条例素案に異議あり!

 はじめは、理想に燃えて、作成に着手したはずなのに、どうしてだんだんつまらないものになっていくのだろう。
 当初5月の時点での「(仮称)世田谷区子ども条例」に盛り込むべき要点等について」の段階では、この条例の理念はウェルビーイング(子どもの自己実現や権利擁護が保証された状態)として、子どもの権利を大切にしようということではじまった。ところが誰が茶々をいれたのやら、大人のつまらない思惑から、9月25日に至って、9月初頭の「大綱」には盛り込まれていなかった「社会における決まりごとや役割を自覚し」という文言が「条例素案」に挿入されるに至った。なにか、変だ。

 「子どもたちは未来への希望です」という以上、子どもたちに、「社会における決まりごとや役割を自覚し」などとはいってはいけない。社会における決まりごとや役割は言われなくとも子どもたちはいやというほど押し付けられている。そうではない、正に子どもたちにはウェルビーイングとして、大人たちの社会を乗り越える新しい共同の秩序を模索する権利があるのだ。そうでなければ、社会に進歩はないし、私たち自身にも未来はない。
 私たちはまず、子どもたちを信用するところから、始めなければならない。曇りのない眼で私たちよりも先に進んでくれることを願わない親がどこにいよう。われわれの子どもではないか。

 条例素案第14条に「誰であっても、いじめをしてはなりません。」とある。いじめについて、「してはなりません。」から問題の解決はつくのか。まともにいじめ問題に取り組んだことがあれば、このような起案はできないはずだ。この条例素案にはセンシビリティーもなければ、リアリティーも欠如している。問題とされている「いじめ問題」は「成熟社会」あるいは「豊かな社会」の病巣を反映したものでもあり、そういった状況のなかで、「子ども条例」を制定する以上は、日本の現状に合った「子どもの権利」を具体的にどう抽出し、表現していくかこそが問われている。国連の子どもの権利条約は発展途上国向けのものだとのうがった批判があるが、成熟社会に入りつつある日本の、そのなかでも都市部居住地域として代表的な世田谷区においてこそ、より現状に即した「子どもの権利」を定式化してゆく義務があるのではなかろうか。そういう努力がなければ、近年、最大の問題となり、恐らくは、そのために、今回の条例案を「権利条例」から大きく後退させる原因ともなっている少年凶悪犯罪問題に対する解決の糸口さえみつからない。

 「権利の過剰」が問題なのではない。本当の意味での子どもの権利、さらには大人をも含めての本当の人間の権利とその権利に裏打ちされた義務の欠如こそ問題なのだ。

 国連の子どもの権利条約について、わが国はしぶしぶながらも批准をせざるをえなかった。批准をしたにもかかわらず、どうもこの国の多くの政治家はこの条約がきらいなようだ。だが、この条約がなぜ、世界の多数の国に受け入れられるようになったのか。それは、この条約には、どの国のひとも否定しがたい「子どもを信ずる」という意味においての根源的な理想主義があり、それが光っているからなのであろうと思う。
 子どもを信用しなくなったら、その国は滅びる。子どもを解ろうとしなければ、子どもから信用されない。
 世田谷区の当局者も、ぜひ原点に立ち返ってほしい。
 不信の目で作った子ども条例など、子どもたちに見向きもされないのではないか。
 そこのところをよく考えて、現代日本の状況に対応した「子どもの権利」をこそ明記した条例案に再度作り直すことを提唱したい。それが大人の責任だ。
 今回提示された素案の水準では、条例づくりに向けて、子どもたちがまとめた「はじめの一歩」にはるかに及ばない。

 条例づくりの変遷資料と、国連のこどもの権利条約、川崎の条例を参考のために、ここに提示しておきたい。多くの皆さんが、世田谷区のこの条例問題に関心を持っていただくことを切に望む。  

 2001年11月7日(11月4日にアップしたものに加筆しました。)    

世田谷区議会議員 木下泰之

 

 ご意見をお寄せください。 kinoshita@a.email.ne.jp




素案への意見書

素案に対し、世田谷区や区議会あてに寄せられた市民からの意見書をアップします。

  • 子どもの権利条例東京市民フォーラム意見書 2001年11月8日

  • 喜多 明人(早稲田大学授)、森田 明美(東洋大学教授)、荒牧 重人(山梨学院大学教授)等、「子どもの権利条例東京市民フォーラム」による世田谷区長および区議会各会派宛の意見書です。これでは「子どもの権利条例」ではなく、「子どもの責任条例」になってしまうとして都内初の子ども条例としての世田谷区条例制定に危惧の念を表明しています。

  • 青少年問題協議委員会委員有志意見書 2001年11月15日

  • 条例づくりは、子どもを含めての住民参加の下、すすめられたはずでした。住民参加の中心的役割を担い「盛り込むべき要点」をまとめた青少年問題協議会有志から、条例案に注文がつきました。もともとは「盛り込むべき要点」にあった「子ども自身の権利と利益を守る」観点からの条例案への付加要求です。


    子ども条例案立案過程

    条例案立案過程の重要資料をアップします。

  • 世田谷区子ども条例案 2001年11月15日

  • 11月15日の常任委員会で11月定例議会(11月20日告示11月28日開会)提出予定案件としてあらかじめ示された条例案。「決まりごと」などの文言を消し、子どもたちを子どもに改めるなどしているが、一方で、一例をあげれば、素案では「愛情を注ぎ、理解を示すとともに、時には厳しさを持って接することも必要です。」となっていたのが、「理解を示すとともに、愛情と厳しさをもって接することが必要です。」と「時には」を省略し、言い回しが強化されたところもある。

     

  • 世田谷区子ども条例素案 2001年9月25日

  • 区議会にも提示された世田谷区の条例素案。大綱から3週間足らずの内に「社会における決まりごとや役割を自覚し」なる文言が、前文に盛り込まれている。また、大綱での「いじめ等の防止と解決」が14条で「誰であっても、いじめをしてはなりません。」と表現されている。  

  • 子ども会議報告書「はじめの一歩」2001年2月

  • 世田谷区は「世田谷区子ども・青少年問題協議会」の中に、(仮称)子ども条例に対する意見をまとめる目的で証委員会を設置した。この小委員会の元におかれた子どもより構成された会議「ティーンズスタッフ」による報告書。

  • 「(仮称)世田谷区子ども条例」に盛り込むべき要点等について 2001年5月11日

  • 世田谷区子ども・青少年問題協議会が作成したレポート

  • 世田谷区子ども条例案について(条例案「大綱」)2001年9月初め

  • 世田谷区生活文化部、保健福祉部、教育委員会事務局が共同で作成。この段階では「社会における決まりごとや役割を自覚し」なる文言やコンセプトは散見されない。

    <参考リンク>
    以下のホームページについての責任・権限は、そのホームページの管理者にあります。クリックすると、外のページへ飛びますので、戻るときにはブラウザの戻り機能を使って帰ってきてください。では、いってらっしゃい。

  • 世田谷区公式ホームページ

  • 子ども条例については世田谷区生活文化部 子ども・男女共同参画課 子ども施策推進係が担当事務局です。最近素案の簡単な骨子は示しましたが、残念ながら全文は掲載されていません。市民参加の区政を目指すなら、条例や政策の立案過程の基本文書は区の責任で全文を逐次公開すべきです。区に対してはどんどん意見をいってゆきましょう。(2001年11月3日記)

  • 国連・子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)

  • 外務省HPの該当ページへのリンクです。

  • 川崎市こどもの権利条例

  • 川崎市HPの該当ページへのリンク。

  • 子ども、青少年条例骨子案のたたき台(渡辺案) 基本的権利について

  • 世田谷区子ども・青少年問題協議会の委員の一人である渡辺伸江さんの私案です。

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    木下泰之 TEL 5355−1283 Email kinoshita@a.email.ne.jp