ε-N論法による「lim an = α」「an→α(n→∞)」定義の考え方 : ビギナー向け定義のどこをどう明確化してるの?  

厳密な「an→α(n→∞)」定義の考え方 

・アイデアのみを、ざっくり述べると、

 「 数列 { an } 実数αに収束する
     "{ an } converges to α"
 「『数列 { an } 極限値』は実数αである」
         " { an } has limit α"




 「 an→α (n→∞) 」 「 lim
an=α  」
n→∞

 とは、

 εに設定した距離を変更して、
 《αからの距離ε以内の目標接近ゾーン》の幅を変えるたびに、

 その時εに設定した距離に応じて、 




【文献−解析】 ・『岩波入門数学辞典』「ε-δ論法 ε-δ method」(p.33).
      ・小林『微 分積分読本:1変数』 1章5数列と収束(p.16)
      ・和達『微 分積分』1章CoffeeBreak(p.13)
      ・杉浦『解析入門I』I-§2-定義 5(2.5)(p.12);
      ・笠原『微 分積分学』1.2定義1.6(pp.8-9)
      ・黒田『微分積分学』§2.5.2補足 説明1(p.43)
      ・青本『微 分と積分1』§1.2(b)(p.11)
      ・瀬山『「無 限と連続の数学」−微分積分学の基礎理論案内』定義2.6.3-定義2.6.4(pp.57-59).
      ・Ross,Elementary Analysis:The Theory of Calculus,ChapterU§7:7.1Definition(p.25)
【文献−論理】  ・中内『ろ んりの練習帳』2.8(1)(p.115)
【文献−数理経済】
 ・神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』定義2.2.4の 直後(p.68)


 ・De La Fuente, Mathematical Methods and Models for Economists, Definition2.1(p.46);2.3Sequences in R and Rm(pp.49-58)
   《しきい値》Nに代入すると「項番号nが《しきい値》Nを突破すると、anが《αからの距離ε以内の目標接近ゾーン》へ 突入する」を実現する項番号
 が、実在すると確認できるので、

 εに設定した距離を変更して、《αからの距離ε以内の目標接近ゾーン》の幅をどのように変えていっても、
 その設定変更のたびに、その時εに設定した距離に応じた項番号を《しきい値》Nにセットし直していくことで
 「nが《しきい値》Nを突破すると、anが《αからの距離ε以内の目標接近ゾーン》へ 突入する」を実現し続けることを保証できる

 ということ。  [ →  イメージトレーニング : ε-N 論法による「数列の極限値」定義 ]

論理記号を用いて、全体を表すと、「 ∀ε>0 ∃NN ∀nN ( nN α−ε< an<α+ε ) 」となる。  [→厳密な極限定義]

・このような厳密な「 an→α (n→∞) 」定義のアイデアは、
 ビギナー向け定義 「項番号n限りなく大きくなると、an実数αに限りなく近づくということ」 を明確化したもの。

 どこをどのように明確化して、このような定義が出てきたのか?
 以下は、そのプロセスの再構築の試み。(もちろん史的経緯を追ったのではない。ビギナー向け定義のどこをどう明確化すると、厳密な定義になるのかを指摘したいだけ)


厳密な「数列の極限値」定義の考え方 
数列の収束・極限値の定義 


【見取り図】


  ビギナー向け「 an→α(n→∞) 」定義
  「項番号n限りなく大きくなると、an実数αに限りなく近づく ということ」

【改良1】→↓ 

  「nが《項番号N》まで大きくなると、an実数αに《距離ε》まで近づく」(*)
  ──《距離ε》の限りないバリエーションの一つ一つに応じて、好都合な《項番号N》がそれぞれ実在して、(*)を実現するということ。

【改良2】→↓

  厳密な「 an→α(n→∞) 」定義
  「n大きくなって《しきい値N》を突破すると、an《αからの距離ε以内のゾーン》へ突入」(**)
  ──《距離ε》の限りないバリエーションの一つ一つに応じて、《閾値N》がそれぞれ実在して、(**)を実現するということ。


厳密な「数列の極限値」定義:ビギナー向けのどこを明確化?
厳密な「数列の極限値」定義の考え方 
数列の収束・極限値の定義 


【ビギナー向け定義の限界】





・「 an→α (n→∞) 」のビギナー向け定義は、
 「数列 { an } において項番号n限りなく大きくなると、an実数αに限りなく近づく 」
 だった。

 この「 an→α (n→∞) 」定義のわかりやすさは、うわべだけで、

 1. 「n限りなく大きくなる」とは、いかなる事態を指すのか?
 2. 「anがαに限りなく近づく」とは、いかなる事態を指すのか?
 3. 「nが大きくなる」ことと「an実数αに近づく」こととが、いかなる関係にあるのか?

 という点が不明確なので、
 性質の証明等、的確な事態把握が求められる場面では、使用に耐えられないのだった。



厳密な「数列の極限値」定義:ビギナー向けのどこを明確化?
厳密な「数列の極限値」定義の考え方 
数列の収束・極限値の定義 


【定義の明確化ーステップ1−失敗】


ビギナー向け定義では、
   「 an→α (n→∞) 」とは 
   「項番号n限りなく大きくなると、an実数αに限りなく近づく 」ということ
 だと言うが、

 そもそも、はっきりしないのは、

 1. 項番号n限りなく大きくなるとは、項番号nどの項番号まで大きくなることなのか?
 2. an実数αに限りなく近づくとは、an実数αにどれだけの距離まで近づくということなのか?
 
 の二点。

 この二点を確定できれば、
 
 3. 「nが大きくなる」ことと「an実数αに近づく」こととが、いかなる関係にあるのか?

 も、自動的に確定しそうだ。

 この線で、「 an→α (n→∞) 」を明確化できそうではないか!

・ところが、
 1. 項番号n限りなく大きくなるとは、項番号nどの項番号まで大きくなることなのか?
 2. an実数αに限りなく近づくとは、an実数αにどれだけの距離まで近づくということなのか?
 に直接正面から答えるのは、困難。

 「 項番号n限りなく大きくなった」と言える項番号を具体的に明示した途端、
 それは、限りある大きさになってしまうのではないか?

 「an実数αに限りなく近づいた」と言える距離を具体的に明示した途端、
 それは、限りある近さになってしまうのではないか?

 等々、難問頻出となる。

 というわけで、
 1. 項番号n限りなく大きくなるとは、項番号nどの項番号まで大きくなることなのか?
 2. an実数αに限りなく近づくとは、an実数αにどれだけの距離まで近づくということなのか?
 を確定した上で、
   3. 「n大きくなる」ことと「an実数αに近づく」こととが、いかなる関係にあるのか?
 を確定するという「 an→α (n→∞) 」明確化戦略は、失敗。


厳密な「数列の極限値」定義:ビギナー向けのどこを明確化?
厳密な「数列の極限値」定義の考え方 
数列の収束・極限値の定義 


【定義の明確化ーステップ1−成功】


・そこで、逆に、

  「nが限りなく大きくなると、anがαに限りなく近づく」という表現に込められた
   3. 「n大きくなる」ことと「an実数αに近づく」こととの関係性 
 を明示的な関係に再定式化することから着手し、

 そのなかで、
  1. 項番号n限りなく大きくなるとは、項番号nどの項番号まで大きくなることなのか?
  2. an実数αに限りなく近づくとは、an実数αにどれだけの距離まで近づくということなのか?
 を明確化する

 という戦略がとられることになる。

・では、
    「nが限りなく大きくなると、an実数αに限りなく近づく」
 という表現に込められた
    「nが大きくなる」ことと「an実数αに近づく」こととの関係性は、
 いかなる明示的な関係に再定式化されるのだろうか。

 数学者は、これを下記のいささか奇妙な関係に再定式化した。

 「nが《項番号N》まで大きくなると、an実数αに《距離ε》まで近づく」(*)
  ──《距離ε》に設定した距離を変えるたびに、
     その時《距離ε》に設定した距離に応じて、「《項番号N》に代入すると(*)を実現する項番号」が実在する
    と確認できるので、
    《距離ε》に設定した距離をどのように変えていっても、
    その設定変更のたびに、その時《距離ε》に設定した距離に応じた項番号を《項番号N》にセットし直していくことで
    (*)を実現し続けることを保証できる

 …そんな「nが大きくなる」ことと「an実数αに近づく」こととの関係

 
・この関係性のなかで、
 「数列 { an } において項番号nが限りなく大きくなると、an実数αに限りなく近づく」と言ったとき、
  1. 項番号n限りなく大きくなるとは、項番号nどの項番号まで大きくなることなのか?
  2. an実数αに限りなく近づくとは、an実数αにどれだけの距離まで近づくということなのか?
 という点も明確化されている。 

 2. 曖昧だった「an実数αに限りなく近づく」は、
   「an実数αに《距離ε》まで近づく
   ただし、《距離ε》はあらかじめ確定した一つの距離を表すのではなく、
           任意の距離、距離の無限のバリエーションを表す
 という形で明確化、
 
 1.曖昧だった「項番号n限りなく大きくなる」は
   「項番号nが《項番号N》まで大きくなる」
    ただし、
    《項番号N》はあらかじめ確定した一つの項番号を表すのではなく、
    距離の無限のバリエーションから一つの距離を選択して《距離ε》にセットし直すたびに、
     「nが《項番号N》まで大きくなると、an実数αに《距離ε》まで近づく」の実現という基準で
      《距離ε》にセットされた距離に応じて決定し直される各々の《項番号N》を表す
 という形で明確化されている。

ビギナー向け「 an→α(n→∞) 」定義 
  「項番号n限りなく大きくなると、an実数αに限りなく近づく 」
 の「nが大きくなる」ことと「an実数αに近づく」こととの関係を、
 上記で再定式化した関係に更新すると、

 「 an→α (n→∞) 」の定義は、以下のようになる。

 「 an→α (n→∞) 」とは、

  《αからの距離ε》に設定した距離を変えるたびに、
  その時《αからの距離ε》に設定した距離に応じて、
    《項番号N》に代入すると「nが《項番号N》まで大きくなると、an実数αに《αからの距離ε》まで近づく」を実現する項番号
  が、実在すると確認できるので、

  《αからの距離ε》に設定した距離をどのように変えていっても、
  その設定変更のたびに、その時《αからの距離ε》に設定した距離に応じた項番号を《項番号N》にセットし直していくことで
  「nが《項番号N》まで大きくなると、an実数αに《αからの距離ε》まで近づく」を実現し続けることを保証できる

 ということ。



厳密な「数列の極限値」定義:ビギナー向けのどこを明確化?
厳密な「数列の極限値」定義の考え方 
数列の収束・極限値の定義  


【定義の明確化ーステップ2 量的操作化】


・しかし、上記で示された「 an→α (n→∞) 」定義には、まだ不明確な点が残されている。
  

  《αからの距離ε》に設定した距離をどのように変えていっても、
    《αからの距離ε》に設定した距離各々に応じて都合のよい《項番号》がその時その時実在するので、
  《αからの距離ε》に設定した距離をどのように変えていっても、
    《αからの距離ε》の設定ごとに都合のよい《項番号》を《項番号N》にセットすることで
       「nが《項番号N》まで大きくなると、an実数αに《αからの距離ε》まで近づく」を実現できるのだが、
       nが《項番号N》を通過して、きわめて大きくなったときに、
          an実数αから《αからの距離ε》よりも遠方へ離れていくこともある

 という数列は、
 「 an→α (n→∞) 」と呼ぶべきではないが、
 上記の定義に従うと、これも「 an→α (n→∞) 」してると解釈できなくもない。

・たとえば、数列 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,… は、9に収束するか? を検討してみよう。
  (もちろん、収束しないのだが、上記の定義の不備をチェックするために検討する)

  《αからの距離ε》に5を設定する。
  このとき、
    第五項までいくと、数列1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,…はα=9に《αからの距離ε》=5まで近づいたと言えるので、
    《項番号N》に代入すると「nが《項番号N》まで大きくなると、anがα=9に《αからの距離ε》=5まで近づく」を実現する項番号
    として、項番号5が、実在すると確認できる。

  《αからの距離ε》に3を設定する。
  このとき、
    第7項までいくと、数列1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,…はα=9に《αからの距離ε》=3まで近づいたと言えるので、
    《項番号N》に代入すると「nが《項番号N》まで大きくなると、anがα=9に《αからの距離ε》=3まで近づく」を実現する項番号
    として、項番号7が、実在すると確認できる。

  《αからの距離ε》に1を設定する。
  このとき、
    第9項までいくと、数列1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,…はα=9に《αからの距離ε》=1まで近づいたと言えるので、
    《項番号N》に代入すると「nが《項番号N》まで大きくなると、anがα=9に《αからの距離ε》=1まで近づく」を実現する項番号
    として、項番号9が、実在すると確認できる。

  《αからの距離ε》に0.1を設定する。
  このとき、
    第9項までいくと、数列1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,…はα=9に《αからの距離ε》=0.1まで近づいたと言えるので、
    《項番号N》に代入すると「nが《項番号N》まで大きくなると、anがα=9に《αからの距離ε》=0.1まで近づく」を実現する項番号
    として、項番号9が、実在すると確認できる。

  《αからの距離ε》に0.01を設定する。
  このとき、
    第9項までいくと、数列1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,…はα=9に《αからの距離ε》=0.01まで近づいたと言えるので、
    《項番号N》に代入すると「nが《項番号N》まで大きくなると、anがα=9に《αからの距離ε》=0.01まで近づく」を実現する項番号
    として、項番号9が、実在すると確認できる。
  :
  :
  
 このように、
 《αからの距離ε》に設定した距離をどのように変えていっても、
 その設定変更のたびに、その時《距離ε》に設定した距離に応じた項番号を《項番号N》にセットし直していくことで
  「nが《項番号N》まで大きくなると、an実数αに《αからの距離ε》まで近づく」を実現し続けることを保証できるので、
 数列1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,…は、9に収束する?!

・どうして、このようなトラブルが生じるのかといえば、

 上記の「 an→α (n→∞) 」定義では、
   1. 「nが《項番号N》まで大きくなる」が指す《nの挙動》
   2. 「an実数αに《αからの距離ε》まで近づく」が指す《anの挙動》 
 が不明確だからだ。
 
・そこで数学者は、

   1. 《項番号N》を《しきい値》Nに明確化したうえで、

    「nが《項番号N》まで大きくなる」を
    「nが《しきい値》Nを突破する」という《nの挙動》として明確化

   2.「an実数αに《αからの距離ε》まで近づく」が指す挙動・操作を 
     「anが《αからの距離ε以内の目標接近ゾーン》へ 突入する」という《anの挙動》として明確化
 した。

・この適用によって、

 「 an→α (n→∞) 」に込められた「n大きくなる」ことと「an実数αに近づく」こととの関係性は、
  
 「nが《項番号N》まで大きくなると、an実数αに《距離ε》まで近づく」(*)
  ──《距離ε》に設定した距離を変えるたびに、
     その時《距離ε》に設定した距離に応じて、
       「《項番号N》に代入すると(*)を実現する項番号」が実在する
     と確認できるので、

     《距離ε》に設定した距離をどのように変えていっても、
      その設定変更のたびに、その時《距離ε》に設定した距離に応じた項番号を《項番号N》にセットし直していくことで
       (*)を実現し続けることを保証できる

  …そんな「nが大きくなる」ことと「an実数αに近づく」こととの関係 

 から、

  「nが《しきい値》N突破すると、anが《αからの距離ε以内の目標接近ゾーン》へ 突入する」(**)

  ──εに設定した距離を変更して、《αからの距離ε以内の目標接近ゾーン》の幅を変えるたびに、
     その時εに設定した距離に応じて、「《しきい値》Nに代入すると(**)を実現する項番号」が実在する
    と確認できるので、
    εに設定した距離を変更して、《αからの距離ε以内の目標接近ゾーン》の幅をどのように変えていっても、
    その設定変更のたびに、その時εに設定した距離に応じた項番号を《しきい値》Nにセットし直していくことで
    (**)を実現し続けることを保証できる

  …そんな《nの挙動》と《anの挙動》の関係

 へ明確化される。

・これらの明確化の結果、
 下記の厳密な「 an→α (n→∞) 」定義が得られる。

 「 an→α (n→∞) 」とは、

  εに設定した距離を変更して、《αからの距離ε以内の目標接近ゾーン》の幅を変えるたびに、

  その時εに設定した距離に応じて、
    《しきい値》Nに代入すると「項番号nが《しきい値》Nを突破すると、anが《αからの距離ε以内の目標接近ゾーン》へ 突入する」を実現する項番号
  が、実在すると確認できるので、

  εに設定した距離を変更して、《αからの距離ε以内の目標接近ゾーン》の幅をどのように変えていっても、
  その設定変更のたびに、その時εに設定した距離に応じた項番号を《しきい値》Nにセットし直していくことで
       「nが《しきい値》Nを突破すると、anが《αからの距離ε以内の目標接近ゾーン》へ 突入する」を実現し続けることを保証できる


  ということ。


厳密な「数列の極限値」定義:ビギナー向けのどこを明確化?
厳密な「数列の極限値」定義の考え方 
数列の収束・極限値の定義