向きのついた定積分の定義と性質: トピック一覧

定義:向きのついた定積分  
・性質:向きつき定積分の単調性
   向きつき定積分の三角不等式 
   向きつき定積分の区間加法性  
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定義:定積分の拡張−向きのついた定積分 

[ 小平『解析入門I』161-4; 杉浦『解析入門I』229-247]

 f(x)は閉区間I上可積とする。
 a,bIとするとき、以下の記法を定義する。
 
          注意:右辺の積分記号は、向きのない定積分を示す。

なぜ、向きの付いた定積分を定義するのか?

この定積分の定義に基づいて不定積分(積分関数)を定義すると、不定積分(積分関数)は微分可能となり、その導関数被積分関数と一致すること、すなわち、不定積分(積分関数)は、被積分関数原始関数であることを示すことが出来る。これで、解析学の基本定理も導出でき、その結果、定積分の計算を、微分の逆算として行うことが可能になる。しかし、もしも、向きのない定積分の定義のみに基づいて不定積分(積分関数)を定義すると、不定積分(積分関数)右微分可能であること、不定積分(積分関数)被積分関数と一致すること、しか示せなくなり、解析学の基本定理まで進めない。

 

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定理:向きつき定積分の単調性


 [杉浦『解析入門I』230]

定積分定義の拡張に伴い、積分の単調性は、以下のように拡張される。
 f(x)は閉区間I上可積、a,bIとする。
 a>bならば、
  
(証明)
a>bとする。
以下は向きなしの定積分の範囲内なので、積分の単調性が成り立つ。 
   …@
他方、向きつきの定積分の定義より、
  
これを用いて、@を書きかえると、
 f(x)≧g(x)⇒
  
  両辺に−1をかけて、
  
 [証明終わり] 



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定理:向きつき定積分に関する三角不等式

  [杉浦『解析入門I』230]
定積分定義の拡張に伴い、積分に関する三角不等式は、以下のように拡張される。
 f(x)は閉区間I上可積、a,bIとする。
 a>bならば、
  
(証明)
a>bとする。
以下は向きなしの定積分の範囲内なので、積分に関する三角不等式が成り立つ。 
   …@
他方、向きつきの定積分の定義より、
  
これを用いて、@を書きかえると、
 
  (左辺の絶対値のなかのマイナスをとった)…A
ここで、
  ∵a>b、|f(x)|≧0より、積分の単調性成立
だから、常に、
 
ゆえに、絶対値の定義より、
 
これを用いてAの右辺を書きかえると、
 
 [証明終わり] 



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定理:向きつき定積分の区間加法性

  [小平『解析入門I』162;杉浦『解析入門I』230]

定積分定義の拡張に伴い、積分の区間加法性は、以下のように拡張される。
f(x)が閉区間I上可積であるとする。
Iの任意の3点a,b,cに対し、その大小関係に関わらず、以下が成り立つ。
    …※

(証明) a,b,cの大小関係を場合わけしたうえで、どの場合でも結局こうなると示す。
(i) a=b=cの場合
 向き付きの定積分の定義から、
 
 よって、※成立。
(ii) a=b≠cの場合
 a=bと向き付きの定積分の定義から、
 
 また、a=bなので、
 
 よって、※成立。
(iii) a≠b=cの場合
 b=cと向き付きの定積分の定義から、
 
 また、b=cなので、
 
 よって、※成立。
(iv) a=c >bの場合
 ※の左辺:
  ∵a=cと向き付きの定積分の定義から
 ※の右辺:
  ∵a=c
      ∵c>bと向き付きの定積分の定義から
 だから、
 
 よって、※の左辺=※の右辺=0 
(v) a=c <bの場合
 ※の左辺:
  ∵a=cと向き付きの定積分の定義から
 ※の右辺:
  ∵a=c
      ∵a<bと向き付きの定積分の定義から
 だから、
 
 よって、※の左辺=※の右辺=0
(vi) a< b < cの場合
 ※における全ての定積分は、向きなしの定積分の範囲内となるので、
 その区間加法性より成立。
(vii) a< c < bの場合
 ※の右辺:
 
                ∵c<bと向き付きの定積分の定義から
                  
         ∵向きなしの定積分の範囲内となるので、
                その区間加法性より成立
        =※の左辺
(viii) b < a< cの場合
 ※の右辺:
 
                ∵b < aと向き付きの定積分の定義から
                  
         ∵向きなしの定積分の範囲内となるので、
                その区間加法性より成立
        =※の左辺
(ix) b < c< aの場合
 ※の右辺:
 
                ∵b < aと向き付きの定積分の定義から
                  
        
         ∵向きなしの定積分の範囲内となるので、
                その区間加法性より成立
        
                ∵c < aと向き付きの定積分の定義から
                  
        =※の左辺
(xii) c< b < aの場合
 ※の右辺:
 
             ∵b < a, c< bと向き付きの定積分の定義から
               
        
         ∵向きなしの定積分の範囲内となるので、
                その区間加法性より成立
        
                ∵c < aと向き付きの定積分の定義から
                  
        =※の左辺
(xiii) c< a < bの場合
 ※の右辺:
 
             ∵c< bと向き付きの定積分の定義から
                   
        
         ∵向きなしの定積分の範囲内となるので、
                その区間加法性より成立
        
                ∵c < aと向き付きの定積分の定義から
                  
        =※の左辺
 [証明終わり] 


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reference

日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、202項積分法(pp.520-525)→リーマン積分、204項積分論(pp.530-533)→ルベーク積分。
吹田・新保『理工系の微分積分学』学術図書出版社、1987年。pp.109-111.
高橋一『経済学とファイナンスのための数学』新世社、1999年、pp.79-85.
小平邦彦『解析入門I』 (軽装版)岩波書店、2003年 pp.161-4。
杉浦光夫『解析入門I』岩波書店、1980年、pp.209-211: n次元一般での定義;229-247:1変数関数の積分に特殊な性質(原始関数、…)。
高木貞治『解析概論改訂第3版』岩波書店、1983年、pp. 100-101.
青本和彦『岩波講座現代数学への入門:微分と積分1』岩波書店、1995年、130-5.軽く説明。
高橋陽一郎『岩波講座現代数学への入門:微分と積分2』 岩波書店、1995年、pp.1-11: ルベーク積分の前段階として単関数を用いて定義;pp.115-117。
矢野健太郎・田代嘉宏『社会科学者のための基礎数学 改訂版』裳華房、p.115.
和達三樹『理工系の数学入門コース1:微分積分』岩波書店、1988年、pp.94-6.
神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、pp.331:定義;p. 332-334.