この手のお話がお嫌いなあなたは、どうぞお出口へ。
『渋谷系元ネタディスクガイド』(太田出版 ISBN-8723-299-7)という本があります。「渋谷系」ミュージシャンの「元ネタ」となった曲を紹介する本です。
「そんなアラ捜しをしてどうする!」と一蹴する人も多いのですが、この本は単にパクりパクられの話に終わらず、それぞれのミュージシャンがどういう人たちにどうリスペクトを受けたか、というところまで言及しているのがミソ。元ネタと、それを料理したミュージシャンの両方の魅力を引き出すスグレモノの一冊です。
われらがオリジナル・ラヴは、次の2曲について紹介されています。
※ヴィブラフォンのイントロが同じメロディ。ヴァイヴス・アライブの曲は当時のクラブ・ヒットで、1965年作品の「Selim」をサンプリングしています。ところが、「Selim」は再発されていて入手も容易なのに対し、「The Spoken Word」は12インチ・シングルだけだそうで入手が困難かもしれないとのこと。
マイルス・デイヴィスの"Milestone"と似ていると言う人もいます(渡辺香津美の『キリン』でカヴァーされているアレです)。筆者も最初そう思っていたクチでしたが、"Selim"聞いて改心しました。
※イントロ部が綺麗にそっくり。「MIGHTY MIGHTY」でも魂列車1号氏がからかっていました。
ところがどういうわけか、この本はサンプル数が少ないのです(しかし、佐藤公哉氏が執筆したこのコーナーの最後のくだりはファン必読)。他にもまだ「元ネタ」らしきものは存在します。ひそみに倣い、不完全ながらまとめてみました。
個人的に詳しく知らないミュージシャンが多いので、至らないところはフォローいただだけるとありがたいです。
※イントロ部のサックスに同じフレーズがあります。
"Somthin' Else" はマイルス・デイヴィスが参加し、「枯葉」の名カヴァーを残した名盤。
※イントロのオルガンが「ジョリー」のサビに似ています。もっとも「ジョリー」のサビをパクった曲を集めたら1枚のアルバムができる、と言われるほどの名フレーズでもあります。「接吻」アルバムヴァージョンのイントロのギターもこの曲に似ているという意見もありますが、どうでしょう? ちなみに、Jolieとはクインシー・ジョーンズの娘のことなのだそう。
※具体的な1曲ではなくて、作風をパロディしたとでもいえそうな作り。デ・ヴォーンのアルバムは1974年のこれが大定番ですが、あとは1980年の『Figures Can't Calculate』しかありません。
なんでも当時の田島が「音楽人生で最も重要な一人」とか言って大絶賛したという話を聞いたのですが、この件を詳しくご存知の方がいたら教えてください。
※「ジャンプ」や「ジャイヴ」と呼ばれる音楽は、1940年代の黒人ダンスミュージックのことです。ルイ・ジョーダンやキャブ・キャロウェイという人物たちが中心でした。イギリスのジョー・ジャクソンは1980年にそのカヴァー曲によるアルバム『Joe Jackson's Jumpin' Jive』を発表しました。ジョー・ジャクソンはパンク〜ニュー・ウェイヴのミュージシャンとして引き合いに出されるミュージシャン。田島が「ジャイヴ」の手本としたのは、オリジナルのジャイヴではなく、このジョー・ジャクソンの方でしょう。
アルバムにはズバリ「Jumpin' Jive」という曲があり(キャブ・キャロウェイのカヴァー)、たしかにオリジナル・ラヴの曲に似ているのですが(もっともブルースのようにジャイヴはどれも同じ曲に聞こえます)、それよりも「モーという名の5人の男」(ルイ・ジョーダンのカヴァー)の方こそが、ベースライン、間奏のホーンの絡み、コーダ部などで直接の元ネタと思われます。
さらに『変身』に収められたウゴウゴ・ルーガのエンディグ曲「Never Give Up」は、この曲のメロディとまったく同じ。このページの「パクリ」の中で、一番ダイレクトな例です。
なお、タイトルはローリング・ストーンズの `Jumpin Jack Flash' に引っかけたもの、と個人的に思っていたのですが、ジョー・ジャクソンの同アルバムに `Jack, You're Dead' という曲もあったので、そちらとの合わせ技なのかもしれません。
※出だしのスキャットからもろに影響が感じられ、随所に聞いたような音階があらわれます。
ギル・スコット・ヘロンは、'70年代のブラック・アーティスト。1978年のアルバム『Secrets』は、解説には「特別冴えている方のアルバムではない」とありましたけど、このころのオリジナル・ラヴ好きには堪らないサウンドでしょう。
ちなみに、歌詞は谷川俊太郎の有名な詩(教科書にも載ったらしいがタイトル不明)からの引用が甚だしいらしいです。田島は詩の方面で、谷川俊太郎に私淑しているそうです。2001.01.10追記:谷川俊太郎の詩は「生きる」とのご指摘を頂きました(内容)。hossyさんありがとう。
※イントロ及びコーダ部分で聞こえるアナログ・シンセ風の音はクール&ザ・ギャングから。1994年の旭川のライヴで共演しましたが、TV放送では楽しそうにライヴを見る田島が映っていました。
歌詞中には、田島が敬愛するカーティス・メイフィールドがソロ以前に活動していたバンド、インプレッションズの代表曲名が現れます。'80年代になってジェフ・ベックがカヴァーしました(ロッド・スチュワートが歌っているあれです)。
※あの印象的なベースリフは、アーチー・シェップの1972年の作品から。黒人運動を背景にしているオリジナル曲は、エモーションの塊の様なファンク・ジャズ。
※Aメロのリズムパターンやバックの雰囲気などが似ている? ……うーん、でもこの曲が好きな人なら必ず気に入る曲でしょう(ラテン色はないけれど)。 『トーキング・ブック』 『インナーヴィジョンズ』と続く3部作を締めくくる1974年の傑作アルバムより。
※自曲解説で「チック・コリアっぽくなった」と言っていたこの曲。そのものズバリの音はありませんが、きっとカモメのジャケットでお馴染みの、このアルバムのことなのでしょう。 「ラ・フィエスタ」という曲もあるくらいですから(この曲は目頭が熱くなるくらいの名曲)。また、最近(2000年)自動車のCMに使われた「What Game Shall We Play Today」もありますが、 歌っているのがチックなのではないです。
※全体のリズムとオルガンの入り方が強く影響されています。そして曲間とラストの「トゥルル」のフレーズは、ほぼそのまま。 そういう意味では「ダンス」とダブるところもあります。
'70年代を風靡したフォークトリオ、クロスビー・スティルス&ナッシュ の一人としてお馴染みスティーヴン・スティルスの、初ソロアルバム、1曲目。
なお、コンピ盤『Free Soul Eyes』の解説によれば、当時(1995年ごろ)のDJ御用達の一曲だったそうです。
※1995年の「Xmas Special Live」で田島がカヴァーしていた曲です。ま、よくあるコード進行だとは思いますが…。
アイルランドの大御所ミュージシャン、ヴァン・モリソンの最初期のヒット曲より。
※カーティス1972年の名ライヴ盤から。Aメロの雰囲気がそっくり。ギターのカッティングがほぼそのまま。インプレッションズ時代の曲だそうですが、そちらは未確認なので。
※サビ直前のシタールのフレーズを、ラモン・ドジャーの曲から借用。コンピ盤『Free Soul Eyes』のライナーノーツにて二見裕志氏も「オリジナル・ラヴも『プライマル』の盛り上がり部分でこの曲のフレーズを引用しているけど。」と指摘。
(「フォール・イン・ラヴ」の方はイントロが似ているそうですが未確認です)
※いかにもありそうなリフだと思っていましたが、案の定(?)元ネタありでした。'99年春に出たオムニバス『モッズ・シーン』に収録されていたナンバー。エイメン・コーナーは'60年代後半のグループ。ただし、これ自体がソウルのカヴァーだそうです。オリジナルをご存知の方、教えてください。
※コーラスの重ね方がビーチ・ボーイズ?(よくわからなかった)。イントロがペリー・キングスレイ(未確認)。
※永井豪原作のTVアニメ番組の主題歌から。「ハニー・フラッシュ」は主人公が「変身」するときのかけ声です…とは、今これを読んでいる大半の人には説明無用でしょう。
1998年のツアーでは L?K?O がレコードよりサンプリングしていたようですが、『XL』収録のものは、なんと実際に本人を呼んで録音したものだそうです。その前川陽子は、アニメソング歌手のパイオニア。詳しくはファンページを。
※歌いだしのところで田島がシャウトしている言葉は、「SING A! SIMPLE! SONG!」だそうなのだ。もちろん、スライの1969年のこの名曲から。
そして曲全体は、歌い方はもちろん中間部のディレイのところまで、ご丁寧にプレスリーの影響受けまくり。この曲は'99年のXXXツアーでもカヴァーしていました。
未確認情報
・Jon Lucien(ジョン・ルシアン)の「Mi Vida」という曲のイントロとそっくりな曲があるそうなのです。お分かりの方は教えてください。
・「時差」の元ネタは「Light as a Feather」(Return to Forever)の方だという情報がありますが、未確認です。
※この「夜をぶっとばせ」という邦題を考えたのは、ローリング・ストーンズ・ファンクラブ副会長マイク越谷氏。"Hot Rocks" のライナーで自慢しています。
※「Darkside」と「Dark Side」の違いはあるけど、やはりこれでしょう。邦題『狂気』。15年間ビルボードチャートにランクインしたという化け物アルバム。最近「Catalog Albums チャート」というのができて、また載っています(1100週超)。こうなると、もはやゾンビ。
※英語の副題はこの曲のタイトルからとられたものと思われます。
※これは名づけてから気づいたそうです。「僕の歌は君の歌」という邦題が付いていますが、このころの洋楽の邦題の付け方って気合い入っているものです。
※スカパラ&小沢がカヴァーした「しらけちまうぜ」も入っているアルバム。当時の指向から言っておそらくこの曲からとったのでしょう。
※同じタイトルになるのは意識していたようですが、タイトルは後付け。Beatles の曲は、ケロッグのシリアルフードのCMソングを意識して作ったのだとか。
そして、最後にこれ。
※'80年代に活動していたアメリカのニューウェイヴ・パンク・バンド。1998年に久しぶりの新譜を出したようです。曲自体は3分もない小品で、アルバム中でもさほど目立たない曲。
また、『元ネタディスクガイド』には、クレモンティーヌとピチカート・ファイヴのコーナーに田島作曲分があります。
※「ねぇ、ラモン」はインディーズ時代の「No.9」というインスト曲が元で、ボブ・ドロウの曲とは主旋律が似ています。小西康陽曰く「(ボブ・ドロウは)パンクなジャズ・ヴォーカリスト。これ絶対、田島くんが好きだと思って聴かせたら、ほんとに狂っていた、最高です」(同書より)。
※間奏のホーンアレンジのメロディ。ただし「そして今でも」(ピチカートの前作『カップルズ』の曲)の「恋の終わる日が近付いているの」と同じメロディなので、小西氏の影響かもしれません。田島はこれではじめてホーンアレンジをしたのだそうです。やり方もなにも知らないのに小西氏にせっつかれて1日で作らされた、という逸話もあります。
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