写真展について

 

<最近観た写真展>

フジフィルムスクエア

フジフィルム・フォトコレクション展 日本の写真史を飾った写真家の「私の1枚」

 

日本新聞博物館

激動のOKINAWA42年


 

田沼武能/
戦後を生きた子どもたち


南良和/
秩父三十年 ―1957~1991―

 

立木義浩/
PIECE OF CAKE


<写真展寸評>
写真家順

 

企画展

 

<テレビ番組>
Hello!フォト☆ラバーズ
ミル・トル・アルク


 「いつか見た風景」という展覧会名につられて見に行った。北井一夫という名前に覚えはなかった。しかし、“三里塚”というシリーズがあるのを見て、そんな作家がいた様な気になった。今回の展覧会は彼の主要なシリーズをたどる初めての大規模個展であり、また初めて美術館で開催される個展になるらしい。

itukamita

 展覧会は時系列にシリーズ写真を並べている。まず“抵抗”、というシリーズから始まる。1964年の横須賀への米軍原子力潜水艦寄港反対運動を撮っているが、画像は流れているし、プリントはざらついている。諸般の事情もあり、また本人がそれを良しとして発表したものらしい。米軍基地付近の横須賀の風景、人々も撮られていて、それにはそれなりに興味をそそられたが、写真の良さは私にはわからなかったし、なじめなかった。
 彼は当時は未だ日大に籍を置いており、学生運動のセクトの友達に誘われて横須賀に行ったらしいが、寄港そのものに反発はしたものの、“運動”そのものに対して、それほど共感はしなかったらしい。写真集「抵抗」も売れなくて、大学を辞め、神戸に帰る。そこで、彼はもっと地に足がついた人たちを撮りたいと思い撮ったのが、次のシリーズ“神戸港湾労働者”である。このシリーズも主題は分かるが、プロの写真家の写真としては何か今ひとつ訴求力に欠ける様な気がした。
 彼は次にセクトに頼まれて王子闘争を撮るものの、セクトの意向に沿わず“除名”という形で袂を分かったらしい。これらの話は、小冊子タイムトンネルシリーズVol.20 北井一夫に書かれている。このころから、彼は依頼される写真を撮るプロ写真家になる。

タイムトンネル20 読書人

 “過激派・バリケード”、“三里塚” 、シリーズ名を見ると過激な学生運動を撮った写真の様に思われるが、そうではない。前者は日大全共闘のバリケードの中の日常風景を捕らえているし、後者は成田空港反対闘争そのものを撮ったものではなく、反対する人々の日常の何気ない行動、生活を撮ったものだ。いづれのシリーズも政治性は薄い。と、言うよりは意識的に政治性を削いでいる。この“三里塚”で彼は日本写真協会新人賞を取る。その時に推奨した木村伊兵衛は、「写真は125分の1秒とか250分の1秒とか、人が止めてみることができない瞬間を止めて見せるものだと思ってた。……北井さんのは……日常の長井時間を感じる。」と褒めた。
 以後、“いつか見た風景” 、“村へ” 、“境川の人々”、“新世界物語”、”フナバシストーリー”、と
彼の作風は一貫して何気ない日常生活を撮り続ける。これらの作品を見て初めて、私は彼の作品に親しみを感じた。“1990年代北京”もその作風に近いものを感じるが、“おてんき”や“ライカで散歩”、“道”にはその作風は感じられなかった。

 

 しかし、彼の撮った70年代、80年代の写真を見ると何か古めかしく、私の記憶している時代より少しずれている感がする。そう思うのは私だけだろうか?
(2012年11月24日〜2013年1月27日、東京都写真美術館にて開催)