山間の本佛寺境内には多くの石垣がある。石垣は形の違う一つ一つが都合良く重なり合って創られ、刻まれる歴史によって春夏秋冬の表情を見せてくれる。同じように縁石や石庭にも顔があり、物言わぬ作者の思いが、苔や泥の演出などと共に観る者の想像と織り交ざり、異なる語りかけをしてくれる。日本人の求める風情とはそんな個々の体感に応じた時、心が穏やかになる事ではないだろうか。極寒の修行とは言え、皆様に支えられ歴史を刻んでいる寒行。太鼓の音や読経が聞こえると飛び出して迎えて下さる姿に修行団も心が和み暖を頂いている。豊かになった今日でもこれを続けたいと願う真意は、物欲に満たされた「世間法」の中で「不染」を請い修行するという仏教の教えに由来する。 たしかに満たされた生活を追い便利となった社会に異論を唱えるつもりはない。ただ、石垣の石や縁石のそれを一つ外しただけで壊れたり伝わるものが消えたりするのと同じように、寒中での太鼓の音を失うことは人々の心が乾くような気がしてならない。だからこそ風物詩となった団扇太鼓でのお題目を大声で唱えつつ、頂戴した浄財を社会に還元し続けているのである。 平成25年1月 うきは市 本佛寺寒修行団
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