「はじめに」から引用する。
ものごとに関する基本的なことばである数と論理が辿ってきた道を, 一つの視点からではあるが見渡してみようと思う.
文中の問・解答はない。
私のような、頭が弱い者にはわからない。少し本書から引用してみよう。まずは「1. 数学の小史」 p.4 から。
何年か以前に,教育の現代化のときに,それを破綻に導いたといわれている話題の一つで, 空集合 0 と,空集合唯一つからなる集合 1 = {0} について, 生徒から 0 と {0} はどうして違うの? と質問されて,どうしてそんなことを聞くんだ! と答えざるを得なかった先生がいたという話を思い出した.
一方は 0 を含むが他方は含まない.そのことは頭の柔らかい生徒には難なく受け入れられることであったが…先生方には必ずしもそうでない場合が多かったと聞いている.
ここを読んで,竹内外史の「集合とは何か」に
`a` は `{a}` の元ですが,
`{a}` は `{a}` の元ではありません
という注意があったことを思い出した。
次に「2. 古典述語論理」 pp.37-38 から。
能率なる語は 20 世紀の特徴的な迷信であったと,私は思う. それは批判を許さない雰囲気をもって登場したのである. 迷信としての資質は十分である. そしてこれは分数の形をしている.つまり,分母を小さくすることが,分子を大きくすることより能率がよい, という性格をもっている.`n^2 - 1 lt n^2` 即ち,
`(n+1)/n lt n/(n-1)`である.こういうものはいずれ破綻する.寡占,独占や独裁である.
なるほどなあ。企業が従業員の首を切るのもこういうことなのだろうな。
「3. 数と論理の話」 p.88 から。
余談であるが,数学の定理というのは異なる(ように見える)対象が同一の形式(値)をもつという場合が多い. 駄洒落と形式は似ているのである.社会生活でも,両舌,奇語,焉馬の憂い,優,等の語や字に出会うと,故人の息づかいを感ずる.
焉馬の憂い
というのは聞いたことがなかった。焉馬は「えんば」と読み、まちがいやすい文字のことをいうのだという。
「4. 集合論の話」 p.163 から。
これは私感であるが,近頃は,これでいいのだ,どこが悪い.…等というのが(私には)耳につく時代であるが,それが気にならない時代である. 危険を感じないことは危険の一つの特徴的な兆候であると思う.
著者のいうことはもっともだが、私などは危険を一つ一つ感じていると身がもたないからやり過ごしている、というのが偽らざる気持ちだ。
「5. 有限の話」 p.250 から。高速フーリエ変換に関する説明である。
いずれにしても,`n^2` が `n*log n` に帰着できるということの意義は大きい.“量”でカバーするのと“知恵”を使う位の差がある. 量と質あるいは品格の差といってもいいかもしれない.
品格ということばが、当時はやっていたのだろうか。
ひょっとして誤植とは異なるのかもしれないが、p.62 の下から 4 ~ 5 行めで、強制法(フォーシング,forcing method)を発見したのが
コーヘン(Paul Joseph Cohen, 1934-)としている。一方、p.192 の下から1 ~ 2行めでは、独立性や無矛盾性の話とすれば,
まずコーエン(1963)の強制法の発見についてであろう.
と述べている。もちろんコーヘンとコーエンは同一人物で、
本書の索引を見ると、コーエン
が 192 ページのみであるのに対し、
コーヘン
は 62 ページのほか 163 ページや 186 ページにもある。だから本書においてはコーエンをコーヘンにしておくのがいいだろう。
なお、コーヘンは 2007 年に亡くなっている。
p.119 では、2^65536 という巨大な数についての説明がある。
対数が
19728.301795834671609…であるから,もちろん,最初の数は 2 であり,桁数は 19729 桁の数である.1 頁 5000 桁として 40 頁の数である.
桁数が約 20000 で、1 頁に 5000 桁がおさまれば 40 頁ではなく 4 頁で済むと思う。
p.244 の下から 2 行め 強疑素数
とあるが、
その前の定義によれば正しくは《強擬素数》だろう。
カッコ内は(2024-05-19 現在)発刊されていないと思われる。
数式記述は ASCIIMathML を、 数式表現は MathJax を用いている。
書名 | 数学と論理 |
著者 | 難波完爾 |
発行日 | 2003 年 4 月 20 日(初版第 1 刷) |
発行元 | 朝倉書店 |
定価 | 4800 円(本体) |
サイズ | 280 ページ |
ISBN | 4-254-11603-9 |
その他 | 草加市立図書館で借りて読む |