「まえがき」より引用する :
一般の場合をはじめに示し,その特殊な場合として 2 次,3 次を例示すれば叙述が簡単にできるが, あえてやさしい 2 次の場合に証明をつけ,さらに 3 次,`n` 次でまた証明をしたり,証明を繰り返す代わりにヒントをつけたりした.
章末には問題があり、巻末には略解と参考文献がある。
pp.105-106 は「[トピックス]関孝和と行列式」がある。関孝和といえば、上毛かるたにも「和算の大家 関こうわ」として出てくる、 あの関孝和である。日本で発行された生誕 350 年記念切手の背景には和算による 4 次の行列式の図柄があるが、 この図柄を用いることを助言したのは著者であることを知った。なるほど。
本書は 2 次や 3 次の例を多く取り入れている。また 3 次方程式の根の公式や終結式なども紹介している。 入口は優しいが、この本の先には古典的な代数学分野を勉強してほしいというような意識が伺える。
とはいえ、最後の章の行列の応用には、ランカスターの 2 次法則やこれに関連した行列指数関数の収束性、エルミート行列と量子力学まで出てくる。 線形代数が幅広い分野で役に立つことに気を配っていると思える。
せっかく数学の本を読むのだから、一つは問題を解かないといけないだろう。第 4 章 平面図形への応用の章末問題 8) である。
`A(theta) = [[cos theta, sin theta],[sin theta, -cos theta]]`とおくとき,次を示せ.
`A(theta)^2 = E, A(theta)A(varphi) = T(theta - varphi)`
ここで、`E = [[1,0],[0,1]]` (本書 p.5)、また `T(theta) = [[cos theta, -sin theta],[sin theta, cos theta]]` (同 p.68) である。 本書の解答はどうか。ところが略解を見てもこの問題については「略」とすら書いていないのだ。仕方がない。以下、計算してみる。
`A(theta)^2 = [[cos theta, sin theta],[sin theta, -cos theta]][[cos theta, sin theta],[sin theta, -cos theta]] = [[cos^2 theta + sin^2 theta, sin theta cos theta - sin theta cos theta],[sin theta cos theta -sin theta cos theta, sin^2 theta +cos^2 theta]] = [[1, 0],[0, 1]]= E`
`A(theta)A(varphi) = [[cos theta, sin theta],[sin theta, -cos theta]][[cos varphi, sin varphi],[sin varphi, -cos varphi]] = [[costhetacosvarphi+sinthetasinvarphi,costhetasinvarphi-sinthetacosvarphi], [sinthetacosvarphi-costhetasinvarphi,sinthetasinvarphi+costhetacosvarphi]] =[[cos(theta-varphi),-sin(theta-varphi)],[sin(theta-varphi),cos(theta-varphi)]] =T(theta - varphi)`
三角関数の加法定理を使えばいい。
カッコ内は(2024-05-19 現在)発刊されていないと思われる。
数式の表記は ASCIIMath を使っている。
書名 | 線形代数 基礎と応用 |
著者 | 飯高茂 |
発行日 | 2001 年 9 月 25 日 初版 第1刷 |
発行元 | 朝倉書店 |
定価 | 3200 円(本体) |
サイズ | A5版 256 ページ |
ISBN | 4-254-11583-0 |
その他 | 草加市立図書館にて借りて読む |
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