カバーから引用する:やさしい例で、じっくり解説。どのように使うのかが、よくわかる。
数学者が書くベクトル解析の本はおもしろい。ただ、おもしろいから理解できるというわけではない。
本書は、なんとか読者にベクトル解析をわかってもらおうと努力しているようすが感じられる。
たとえば、「はじめに」を読んでみる。ベクトル解析がわからないと感じられる理由について、
著者は第1に1. 圧縮解凍技術がわからない
ことを挙げている。著者は、
ベクトルを使った表わし方というのは,圧縮表記なんです.
と説明している。なるほど、
ベクトル解析をわかってもらおうと努力しているのだな、と感じる。
そこでどうしたか。著者は対策を述べている。
圧縮解凍技術については,使っているうちに慣れます! そのために,たくさんやさしい例を入れました.単純作業なので,慣れれば本当に誰でもできます. 携帯電話も満足に使いこなせない私がいうのですから間違いありません.
スマートフォンを携帯電話に含めていいのなら、私も携帯電話が満足に使いこなせない。 携帯電話が満足に使いこなせない人はたくさんいるのではないか。 携帯電話が使いこなせない人でもベクトル解析ができる、というのは言い過ぎのような気がする。 まあ、それはレトリックというものなのだろう。
ともかく、数学者が書くベクトル解析だから、当然外微分やら微分形式まで言及されている。また、 結び目や絡み目が出てくるし、シェーンフリースの定理やアレクサンダーのツノ球まで出てくる。 こういうところが、数学者が著したベクトル解析だなと思う。理解はできないが、おもしろい。
pp.179-180 は、例10.10(ニュートン・ポテンシャルの勾配)が示されている。以下引用する。 ただし引用にあたって微分をあらわす記号 d は本書では立体だが、引用では斜体とする。 一方、ベクトル S, V, b と曲面を表わす Σ は本書では斜体だが、引用では立体とする。
ベクトル場
`V = bb b / abs(bb b)^3 = (x/r^3, y/r^3, z/r^3)`と,原点を通らない閉曲面 `Sigma` に対し、`int_Sigma bb V*d bbS` を求めましょう. ただし `r = sqrt(x^2+y^2+z^2)` です.(後略)
本書では、Σ が原点を囲まなければ 0 、原点を囲むときは `4pi` であることを導いている。 では、Σ が原点を「含む」ときはどうなのだろうか。 この疑問に関して、使える数学 ベクトル解析では `2pi` と書かれているが、 その信憑性に疑問がついている。そのような場合は、閉曲面 `Sigma` で曲面に含まれる原点 `bbr = (0, 0, 0)` で `V` が定義できず、したがって積分が定義できない、とするのが正しいと思うのだが、 広義積分のような形で定義できるのかどうか、私にはわからない。
書名 | なっとくするベクトル解析 |
著者 | 谷口雅彦 |
発行日 | 2004 年 3 月 20 日 第 1 刷 |
発行元 | 講談社 |
定価 | 2700 円(本体) |
サイズ | A5 版 234 ページ |
ISBN | 4-06-154551-5 |
NDC | 414.7 |
備考 | 草加市立図書館で借りて読む |
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