都筑卓司 : なっとくする熱力学

作成日 : 2024-03-05
最終更新日 :

概要

「はしがき」から引用する :

この書は、教科書の副読本として使われることを意図して書かれたものである。

感想

軍事

著者は軍事にも詳しいのだろうか、日本の戦闘機のエンジンは工夫をこらしていたが燃料がだめだったとか、 ノモンハンで日本とソ連が戦ったときソ連の戦車が最初はよく火炎瓶で燃えていたがその後燃えなくなったのはソ連戦車はガソリン機関からディーゼル機関に変えたためだとか、そんな話が出てくる。

カンニングペーパー

熱力学ではいろいろな量の関係式がたくさんあってこまる。これらの量の関係式を覚えるために、著者は次の図を紹介している。これは本書 p.209 の図 6.1 だが、これはp.227 図 6.9 と同じである。 ちなみに、図 6.1 のキャプションは「覚えるための図」であるが、図6.9 のキャプションは「カンニングペーパー」である。

V F E G H p T S

`E`:内部エネルギー
`F`:ヘルムホルツの自由エネルギー
`G`:ギブスの自由エネルギー
`H`:エンタルピー
`p`:圧力
`S`:エントロピー
`T`:温度
`V`:体積

通常、`E` は `U` と書かれることが多いが、本著者はこのカンニングペーパー用に `E` という文字をあてている。以下は、本著者による覚え方を少し私が変えて紹介する。

まず、右上の象限に `E` が入っている。そこから象限を反時計回りに回って、`F, G, H` と入れていく。アルファベット順だから覚えやすい(内部エネルギー `U` を `E` としたのはこの理由だろう)。 なお、x 軸の矢の向きは左向きなので注意。右にはエントロピー `S` が、左には温度 `T` が入る。 y 軸の矢の向きは上向きで、これは通常の座標軸と同じだ。下には圧力 `p` が、上には体積 `V` が入る。そして、`pV, ST, E, F, G, H` ともすべてエネルギーの次元[`L^2MT^-2`]を持つ。

使い方はこうだ。まず、左側の量に TS を加えると右側の量になる。つまり、`F + TS = E , G + TS= H` だ。また、上側の量に `pV` を加えると下側の量になる。 すなわち、`F + pV = G, E + pV = H` だ。

つぎに、熱力学で頻出の、上記のどれかの量を、別の量を一定にして、第三の量で偏微分すると第四の量になるという、あれだ。これをカンニングペーパーから導く方法を示す。 まず右上の `E` に関して考えよう。縦軸は `V` が、横軸は `S` がある。そこで、軸の片方の量が一定のときの、もう片方の量の偏微分を考える。`((delE)/(delV))_S` と `((delE)/(delS))_V` だ。 `((delE)/(delV))_S` は、`V` で偏微分しているので、縦軸の `V` と反対側を見ると `p` がある。`V` から `p` を見る方向は矢印とは反対だからマイナスをつけ、 `((delE)/(delV))_S = -p `となる。もう一つの偏微分は `((delE)/(delS))_V` だが、`S` のある軸の反対側には `V` がある。この方向は矢印と一緒だからプラスと考え、`((delE)/(delS))_V = T` である。

次に左上の `F` に関して考える。同じ理屈で式を作ると、`((delF)/(delV))_T = -p, ((delF)/(delT))_V = -S` となる。 同様に、左下の `G` に関しては、 `((delG)/(delp))_T = V,((delG)/(delT))_p = -S`、右下の `H` に関しては、`((delH)/(delS))_p=T, ((delH)/(delp))_S=V` となる。なるほど。 本書では、このカンニングペーパーを用いたマックスウェルの関係式の覚え方も紹介しているが、ここでは割愛する。

なっとくするシリーズ

数式記述

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書誌情報

書名 なっとくする熱力学
著者 都筑卓司
発行日 1997 年 8 月 10 日 第 7 刷
発行元 講談社
定価 2621 円(本体)
サイズ A5 版 284 ページ
ISBN 4-06-154503-5
その他 草加市立図書館にて借りて読む

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MARUYAMA Satosi