瀬山士郎:なっとくする数学の証明

作成日 : 2024-04-08
最終更新日:

概要

「はじめに」から引用する。

ところで、証明を学ぶことで、読者に知ってもらいたい大切なことがもう1つあります。 それは、論理の間違いを見つけそれと指摘できること、また意図的な詭弁やごまかしの論法を見破る力を持つことです。 現代社会の中では、注意深く考えると詭弁としか言いようのない論理が大手を振ってまかり通ることがあります。 循環論法が堂々と使われ、理由にならない理由が述べられたこともあります。 しかも多くの場合、誰もそれを指摘しないようです。 こういう一見論理的に見えてじつは間違っている論法にごまかされることなく正しく物事を判断するために、その基礎となる数学の証明の構造と技法を学ぶことは、 数学の勉強のみならず広く一般的な論理能力を身につける役に立つはずです。

構成的証明と非構成的な証明

第 4 章は「証明の花形 ‐ 初等幾何学の証明」である。この章の末尾で、次のように著者は言っている。pp.129-130 から引用する。

2 等辺三角形の底角定理を少し詳しく調べてみて、証明には構成的なものと非構成的なものがあることが分かりました。 構成的な証明とは、証明の中に現れる数学的な対象を具体的に作り上げることができるもの、 非構成的な証明とは、補助線などの存在は分かるが、それを具体的に作ることが難しいものでした。

本書にはないが、私がかつて衝撃を受けた非構成的な証明を述べる。構成的な証明と比較してみるとおもしろいと思う。

命題 1 無理数の無理数乗が有理数になることがある。

以下の構成的な証明の例、非構成的な証明の例とも、下記のサイトからの引用である。2020年 横浜市立大学 無理数の無理数乗が有理数?驚異の両刀論法(examist.jp)


構成的証明

`x = (sqrt(2))^(log_2 9)` とおく。`x = 2^(1/2 log_2 9) = 2^(1/2 log_2 3^2) = 2^(log_2 3) = 3` であるので、`x` は有理数である。 一方、`sqrt(2), log_2 9 ` はともに無理数である。よって、無理数の無理数乗が有理数になることがある。

非構成的証明

`x = sqrt(2)^(sqrt(2))` とおく。`x` が有理数であれば、無理数の無理数乗が有理数になる例として `sqrt(2) ` の `sqrt(2)` 乗がその例である。 仮に、`x` が無理数であるとする。数 `sqrt(2)^(sqrt(2)^sqrt(2))` を考えると、`sqrt(2)^(sqrt(2)^sqrt(2)) = sqrt(2)^(2) = 2` であるから、 無理数 `sqrt(2)^sqrt(2)` の無理数 `sqrt(2)` 乗が有理数 2 となる。つまり、`sqrt(2)^(sqrt(2))` が無理数であろうがなかろうが、無理数の無理数乗が有理数になる例がある。

この非構成的証明の例を見たとき、本当に驚いた。`sqrt(2)^sqrt(2)` が有理数か無理数かわからないのに、証明として成立している。これには参った。 なお、`sqrt(2)^sqrt(2)` は無理数であることが証明されている。これは、ゲルフォント=シュナイダーの定理という、証明の難しい定理からの帰結である。

命題 2 半開区間 `(0,1]` から開区間 `{0,1)`への全単射が存在する。

以下の構成的な証明の例、非構成的な証明の例とも、下記のサイトの問題 30 からの引用である。
単射・全射・全単射の演習問題 35 問(解答付き)(sorai-note.com)
私の説明は端折っているので、正確な論証はリンク先をみてもらいたい。

構成的証明

半開区間 `(0,1]` を `A` とおく。題意を満たす全単射を `h` とする。`n` を自然数とする。`A` の要素 `x` が `1/n` と異なるときは、`h(x) = x` とする。 `x` が `1/n` に等しいときは `h(x) = 1/(x+1)` とする。この `h(x)` は半開区間 `(0,1]` から開区間 `{0,1)`への全単射となっている。

非構成的証明

半開区間 `(0,1]` から開区間 `(0,1)` への単射として、`f(x) = x/2` がとれる。また、開区間 `(0,1)` から半開区間 `(0,1]` への単射として、`g(x) = x` がとれる。 よってベルンシュタインの定理より、半開区間 `(0,1]` から開区間 `(0,1)` への全単射が存在する。

この非構成的証明を見たときも、本当に驚いた。構成的証明のほうは感心したので、数学にもいろいろあるものだと思った。ベルンシュタインの定理は、 集合を扱う本で説明されていると思う。たとえば、志賀浩二「集合への 30 講」に証明がある。

なっとくするシリーズ

数式記述

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書誌情報

書名 なっとくする数学の証明
著者 瀬山士郎
発行日 2013 年 1 月 30 日 第1刷
発行元 講談社
定価 2700 円(税別)
サイズ 21cm 189 ページ
ISBN 4-06-154573-1
その他 草加市立図書館にて借りて読む

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MARUYAMA Satosi