有名な作品、どこかできいたあのことば、それをオランダ語で知りたい、 という人のためのはじめの一歩。
オランダで紹介されているのが、人物としてはアンネ・フランク、ルーベンス、フェルメール、ゴッホ、ヘーシンクが紹介されている。 より正確な読み方な読み方は本書を参照されたし。
この本に載っていないが私がオランダ人として思い出すのは、物理学者、ファン・デル・ワールスである。分子間の引力をファンデルワールス力というのは、 分子間力を考えた最初が彼だからである。他にも、ファンデルワールス(ファンデアワールスとも記す)の名前がついた物理の述語がある。 自分では思い出せなかったが、調べてわかった科学者では、 スネルの法則のヴィレブロルト・スネル、ゼーマン効果のピーター・ゼーマン、デバイリングやコンプトン効果の発見で知られるピーター・デバイ、 ホイヘンスの原理のクリスティアーン・ホイヘンス、ローレンツ変換などのヘンドリック・ローレンツがいる。
情報科学では、エドガー・ダイクストラが有名だ。Edsger Dijkstra という表記であり、オランダ語の ij はエイと読むから、 姓はデイクストラと読むのがもとの読みに近い。彼の業績のなかの一つに排他制御のためのセマフォの考案がある。 このセマフォは二つの操作 V と P を有するが、これらはオランダ語にちなむものだという解説を聞いたことがある。 Wikipedia の説明を見ると、オランダ語起源には違いないが元となった動詞が何であるかは諸説あり、なかなか複雑である。
それはそうと、オランダ語である。外来語の中でオランダ語を意識したことはない。 土曜日の学校や仕事がが午前中で終わることを「半ドン」と言っていたが、 これのドンがオランダ語由来だということを聞いたことがある(半ドンの語源には異説もある)。
ゴッホは有名な画家だが、オランダの生まれとは知らなかった。「アルルの跳ね橋」という作品から、てっきりフランスの人だと思っていた。
さて、Vincent van Gogh(ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ)の Gogh は「ゴッホ」ではなく、しいていえば「ほほ」であるという。
以下、同書 9 ページからの引用である。
オランダ語の g は痰を切るように、下で触るとやわらかい上あごの奥の部分を強くこすって出すのです.
ああ、するとドイツ語の Bach の ch だったり、エスペラントの ĥolero の ĥ のようなものなのだな、とわかる。
私が転職した職場ではグラフィクス・ワークステーション (GWS) を使っていた。GWS との違いは、 いわゆるエンジニアリングワークステーション (EWS) より図形や図画を出す性能が優れていたところにある。 職場では GWS のホスト名に画家の名前をつけていた。いわく gauguin 、いわく monet 。 それぞれゴーギャン、モネなのだが、相棒には「ガウグイン」、「モネット」と発音する奴もいて、それはそれで日本での読み方だから当然だよな、 と思いながら話を聞いていた。そんな WS の中に koch があった。これはこんな画家いたっけ、と質問すると、「これはゴッホのことだけど、 ○○先輩が、正しくはコッホなんだというのでこうなった」と説明してくれた。実際にはこの本のおかげで「ほほ」と発音すべきことはわかったが、 痰を2回も切らないといけないのはつらい。正しい発音を知った後でも私はゴッホと言い続けるだろう。もしオランダ人の知り合いができたら、 「ほほ」といって相手を感心させよう、とさもしいことを考えている。
p.49 で、オランダ語は独自の個性に満ちている(!)
と著者は宣言している。私はこの本を読むまで、やはり著者が巷の発言として紹介している
「オランダ語っていうのは,英語とドイツ語を足して2で割ったようなことばだ」
と思っていた。
では実際どうなのか。
オランダ語は、名詞の性は両性と中性である。男性と女性が融合して両性になった。 英語では名詞の性はない。ドイツ語では、名詞の性は男性、女性、中性の3つの性がある。
オランダ語の定冠詞は、名詞の性によって変わる。 英語の定冠詞はただ一つ the のみである。 ドイツ語の定冠詞は名詞の性と単複によって変化する。
オランダ語の不定冠詞は変わらず、ただ一つ een のみである。 英語の不定冠詞は基本的に a のみで、母音で始まる名詞の前だけが an である。 ドイツ語の不定冠詞は名詞の性によって変化する(複数には不定冠詞はつけない)。
こんなことを列挙していくと、なんだ、やっぱり「オランダ語っていうのは,英語とドイツ語を足して2で割ったようなことばだ」
と思う。ところがやはり、両者とも違うところがあると著者はいう。
p.100 からは「てにをは」のしくみに当てられる。p.105 では、
まとめると,動詞の次に来る 3 つの名詞たちは,主語「…が・は」+動詞+目的語「…に」+目的語「…を」の順番でならぶ,ということになります.
となっている。そして、英語との安直な比較を戒めたあとで、再度念を押している。
オランダ語の語順の規則は,動詞の後ろに続く文中の名詞たちの順番を定めているからです.いいかえると, 「…動詞+主語+目的語[…に]+目的語[…を]」なのですよ,ということをうたっているのです. とある。
以下、自分なりに考えてみた。次のオランダ語の文がある。
意味は、「明日,アンはヤンに手紙を書きます.」である。morgen は明日という意味で、エスペラントの morgaŭ に相当する。 schrijft は動詞で「書く」という意味だ。英語なら、最初に副詞が来れば第2の位置には主語が来るのだが、 オランダ語はドイツ語と同じく、第2の位置には動詞が来る。そして、動詞を抜きで考えると、名詞の順番として並ぶのは、 主語(は、が)、目的語(…に)、目的語(…を)の順番になる。これがオランダ語らしさ、ということだ。 Jan を強調したいときは、前置詞 aan を使う。
英語ならばこんな風になるだろう。
英語は格の概念が代名詞を除いて失われているから、単語の働きを表すのは主に順序と前置詞である。 上の文は、動詞 to write が SVO1O2 の文型を取ること、前の O1 は間接目的語、与格で「…に」を表すこと、 後のの O2は直接目的語、 あるいは対格で「…を」を表すことがある。 SVO で同じ意味を伝えるには、与格を to 名詞 の形にしないといけない。 これで、「明日、アンはジョンに手紙を書きます」という文になる。John と a letter の順序を変えることはできるが、前置詞の助けが必要である。 ん?これはオランダ語と似ている。主語は動詞の前という原則はオランダ語とは違う。
ドイツ語ならばこうかな。
ドイツ語では明日は morgen だ。語順の配置はオランダ語と同じで、最初に副詞が来ても2番目には動詞が置かれる。 この場合は 3人称単数現在形だから、書くという意味の動詞 schreiben は schreibt となる。 次の Anne は主語、そして Johann は与格である。最後に einen Brief (手紙)という対格(4格)があるので、 結果的に「明日,アンネはヨハンに手紙を書く」となる。einen Brief は対格であることがわかるので、 文体的には問題があろうが、前置詞の助けは不要で einen Brief はどこにあってもよいことになる。 これは、オランダ語とは異なる性質である。
なんか、こう考えるとやはり英語とドイツ語を足して2で割った感じがしていまう。いかんいかん。
書名 | オランダ語のしくみ |
著者 | 清水 誠 |
発行日 | 2009年9月13日(初版) |
発行元 | 白水社 |
定価 | 1800円(本体) |
サイズ | 判 |
ISBN | 978-4-560-08516-5 |
その他 | 草加市立図書館で借りて読む |
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