KhasyaReport ひなたやまカフェ 026
ミニマリストのスパイス料理 
  ヘビウリのスープ

簡単シンプルなミニマリストの調理でヘビウリのスープができた。ヘビウリはクミンとの相性がとてもいい。

 ヘビウリをココナツ・ウォーターで煮て、クミンを加えただけのシンプルなスープ料理。くせのないヘビウリの軟らかな風味がクミンの甘味と溶け合って、絶妙な朝のスープになる。からだに優しい南国のスパイス料理。

 インド料理研究家の香取薫さんから今年もヘビウリ(シンハラ語でパトーラ(ヘビウリ))をいただきました。一緒にこの4月刊行の近著が添えられていました。
 『健康ごはん』(講談社)。「魔法のクミンレシピ」と赤地の帯に白剥き文字が並んでいます。
 「健康」と「魔法のクミン」と「パトーラ(ヘビウリ)」と。この三題話で何か作ってみて、なんて言っているのかしらと『健康ごはん』をペラペラ綴っていたら南インドのおかゆのページp.70に目が停まりました。ひょいと思い立った。いつもはスリランカ風に作って美味しくパトーラ(ヘビウリ)をいただいていたのだけど、今年はシンプルなスープに仕立ててみるかな。
 5年前の大手術直後、スリランカの友人たちが「オペが済んだならスリランカにお出で。外科は西洋医療がいい。予後のケアは東洋の療法がいい」とアーユルウェーダを勧めてくれました。そういうことがあったから、という訳じゃないけど、大手術の後は薬物による化学療法を拒絶して血液検査だけの経過観察の道を選びました。オペの3か月後に大病院の中の陰の部屋で体を固定されて長時間の薬物点滴を受けたけど、その帰りにシャーベットを食べて、口に入れたステンレス・スプーンがウエハースのように砕けるというおどろおどろしい体験をしました。就眠の時には、おとなしくベッドに体を横たえただけなのに心臓がパクパク言って百に近づく脈拍を数えたりしました。あの化学療法のサイド・エフェクトは恐怖として今も体が覚えています。
 予後の食事はミニマリズムに搾って来ました。動物性の脂肪を避ける。動物性脂肪と大腸癌の関連はニュージーランドの例で明らかだからと主治医は助言してくれました。腸に詰まるようなものでなければ何を食べてもいいと指導を受けたけど、食事はミニマムにしています。

 スパイスもミニマム。南の島のカレー信者として何度も言ってるのだけど、何十種類もスパイスを混ぜ繰り合わせてグヅグヅ時間かけて煮込んで芳醇な香りと味を醸し出すなんて芸当はやらない。そうした盛り花の美味は地上波のグルメリポートにお任せ。
 ミニマリストのスパイス料理はあっけらかん。今回、使うのはクミンだけ。パトーラ(ヘビウリ)を煮るココナツ・ミルクはシンハラ料理定番のごく薄いやつ。後は食べるに足る海塩を加えるだけ。

クミンを軽く煎って、甘い香りが漂ったら、ミリス・ガラで押しつぶします。パウダー状にするにはガリガリガリを繰り返します。
 ポル・キリで煮るパトーラ(左)と乾煎りして甘味を出しているクミン(右) /ヘビウリの健康スープ。


 香取さんにパローラのお礼をして、これってタミル料理のミラグ・タンニールに近いような気がするけどつくってみようと思う、と書いたら、「さすが、勘が鋭い。それ、タミル料理にあります」と返事が返ってきました。ブラタモリに登場する地質学の専門家が御老体タモリさんにささげるフレーズの「さすが云々」を図らずも頂戴してしまった。


ヘビウリのスープ 材料
魔法のクミン へびうり ポル・キリ(ココナツ・ミルク) 塩


魔法のクミン
 大昔、インド料理店のキャッシャーにクミンの種が置かれていました。支払いを済ませると「お帰りにどうぞ」なんて勧めてくれた。焼肉屋の帰りにミントの利いたガムを頂戴して、ガムを噛んでニンニクの匂い消しをするようなものだとしか思っていなかった。
 クミンは取るに足らない雑草の種みたいにふうッと吹いたら飛び散らかる。スリランカ料理ではクミンを「ドゥルの類」と呼んで、同じように吹けば風に飛ぶようなフェンネルと同様に扱います。シンハラ語ではクミンがスードゥル(白いドゥル)、フェンネルがマードゥル(大きなドゥル)と呼ばれる。シンハラ・スパイス料理には欠かせないから私もよく使っているけど、駆風、利尿の効果があるとされています。

 いや、いや。クミンは魔法の種だった。香取さんは《魔法のクミン》と帯に書いたじゃないか。
 アーユルウェーダはのたまう。クミンは血糖を下げます。肝臓癌に効きます。アーユルウェーダの療法を癌治療に広げようという方針が2011年から本格的にインドで取り上げられるようになって、そうした記述がされるようになった。特に黒クミンは最高の薬効ありなどと歌い上げるサイトも世界中にあって、きれいな小瓶に入った高価な黒クミンがネットにうごめいている。黒クミンってシンハラ語ではブラック・スードゥルと言う。「黒い-白い-ドゥル」という意味だからシンハラ語としては言葉が破たんしている。ま、よくあることだけど。

へびうり(パトーラ(ヘビウリ))
 黄疸、心不全、解毒、糖尿の改善に始まって便秘解消、ふけ症の予防までへびうりはカバーしてしまうという。野菜は大体薬以上のクスリなのだから、そうした効能はあると思います。しかし、それより感心してしまうことがヘビウリにはある。食感が軽いのだ。いくらたくさん食べても食べたか食べなかったかわからない。リンが豊富だから肝臓の再生にはいいかもしれないと思い、下手な調理はしないで薄いココナツ・ミルクで煮るだけにした。simple is more に最適な食材。


ヘビウリのスープ 調理法(という程の事じゃないけど)

 パトーラ(ヘビウリ)を小口にサクッと切って鍋に入れて塩少々を振り薄いポルキリで炊きます。その横でスードゥル(クミン)を軽く煎ります。スードゥルから甘い香りが立ち昇ったら火からおろしてミリス・ガラで潰します。プロセッサーでカットしてはいけません。ミリス・ガラで押しつぶします。スードゥルを潰したら間を置かず半量をパトーラ(ヘビウリ)の鍋に入れます。パトーラ(ヘビウリ)が柔らかくなったら鍋を火からおろしてフード・プロセッサーでガリガリガリ。舌触りを滑らかにするためです。
 こうしてこしらえたパトーラ(ヘビウリ)のペーストをもう一度鍋に戻して、薄いポル・キリ(ココナツ・ミルク)を加えてとろみを調節して、塩を加えて調味します。味の重みがちょうどいい頃合いになったら火を止めて、パウダーにしたスードゥル(クミン)を振り入れて、さっと掻きまわして、ハイ、出来上がり。

 熱帯のジャングルの朝、アーユルウェーダのホテルで目覚めた。鳥の声に囲まれたホテルの中庭で供される朝食は野菜のスープ。スプーンですくって一口。「おお、これはいい。癖がなくてさっぱりしている。何のスープ?」と訊いたら、「パトーラ(ヘビウリ)ですよ」と教えてくれます。

 かくしてパトーラのスープはひなたやまカフェのメニューになりました。2016-7-16



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