KhasyaReport さとやま食らいふ 003

紅茶を直火で淹れてはいけない…の?

ちょっとしたコツだけど、ダージリンとキーマンの割合を1:3にすると茶園で飲むスリランカの紅茶っぽくなる。
コツがつかめたら温度 計はしまいましょう。勘をつかむために。
 スリランカ産のおいしい紅茶を切らした。最近、山を下りたところの町はずれのイオンにコーヒーの専門販売店がオープンした。世田谷の代田でコーヒーの焙煎卸売りを始めたあの急成長の店だ。やっと東北の山里にもやってきた。ありがたや。ここに紅茶もあるというので訪ねて山を下りて行った。
 小ぶりな店の棚に紅茶のパックが並んでいる。小さなパック入りのダージリンとキーマンを買い求めた。ブロークンじゃないからスリランカ産のBOPとは仕様が違うけど、香りのダージリンとまろやかなキーマンを合わせればヌワラエリヤの茶園で飲むような鮮烈な香りが現れるかもと、ちょっと計算した。日本で商業用に流通するBOP紅茶ではなかなか茶園で飲むセイロン紅茶に届いてくれないからだ。

 一緒にティサーバーを買おうとしたら、「直火不可」と言われた。PL法とか、なんとか。
「直火で使えるの、ないの?」
「そんなのありません」
「だったら、紅茶沸かせないジャン」
「直火不可」と言った店員さん、「紅茶を沸かす? そんなのありえない」って目をしながらあきれて私を見た。

 世の中、なんでこんなに面倒くさくなった? ティ・サーバーでコーヒー、紅茶を沸かしてはいけません、と日本では決まった。怪我するからね、と閣議決定したのかどうかどうかは知らないが、いつの間にか日本ではそう決まった。マニュアルに寄ればそもそも紅茶は沸かさないものです、とも。
 そんな紅茶の知識が広まって、その流儀で輸入されて日の経った紅茶を淹れて飲むからみんなまずい紅茶をうまい振りして飲むしかなくなった。量り売りの紅茶でさえ、輸入会社では冷蔵して紅茶を保管するから鮮度は長持ちするけど、小売りの店頭に出れば常温に置かれた時間と共に茶葉の質の劣化が急速に始まる。
 熱湯注いで香り豊かな紅茶が飲めるのはスリランカのエステートで新鮮なBOPを飲むときだけだ。日本で売ってる紅茶は本場エステートと違ってお湯を注ぐだけでは本場の紅茶にならない。むかし、トモカではスリランカの家庭でよくやるように茶葉を沸かしてお客さんに出していた。お客さんにもあちこちからやって来る雑誌取材の人たちにも好評だったから、その淹れ方を再現してみよう。

 日本に輸入した紅茶は製茶してから時が経過している。湯を入れただけでは香りが中途半端、あの紅茶独特のリキュールのような特色のある旨みも出てこない。

 本場の味と香りを再現。でも、PL法が怖い人と自己責任が取れない人はやってはいけない。ティ・サーバーを直火にかけるというスゴ技だからだ(昔はスゴ技じゃなかった)。紅茶を沸かすと言うのはスリランカでは当たり前でも、今の日本じゃ禁じ手だ。

 茶葉を沸かす道具はこれだけ。
サーバー、紅茶(BOP、OP)、汲みたての水、できれば、念のために最初は温度計も。


 
紅茶をこう淹れる
 
 私の紅茶の淹れ方はこうだ。
 サーバーに適量の水を入れる。水を入れたサーバーの周囲を良く拭いて水気をとって おく。サーバーについた水気をぬぐっておかないと、時にサーバーが割れることもあるようで、こうなった騒がれればPL法の出番という羽目に陥る。

サーバーを直火にかける。ゆるい火で。五徳に金網をひいておくと硝子への熱の衝撃が防げる。
水温が80度を越えると水泡が浮かび始める。それを合図にBOPをさっと入れる。

 サーバーを直火にかける。ゆるい火で。五徳に金網をひいておくと硝子への熱の衝撃が防げる。
水温が80度を越えると水泡が浮かび始める。それを合図にBOPをさっと入れる。
 写真→のように少しの間、茶葉は浮かんだまま動かない。でも、加熱を続けるとこれが下の写真のように茶葉のジャンピングが始まる。
 ジャンピングが始まったら2、3秒の頃合いで火を止める。ここで慌てて沸騰した湯に茶葉を入れると、茶葉もお湯も一瞬のうちにサーバーから溢れて大失敗する。沸騰した湯に入れた茶葉は香りが瞬時に消える。また、ときにサーバーが割れたりもするから、ヘタすれば怪我の心配さえ出てくる。ここにクレームを付ければ親切なPL法の出番にもなる。自己責任なんて言葉は嫌いだけど、充分に自己管理をして慎重に。紅茶の作法は繊細なこと、この上ないのです。

 火を止めて茶葉を蒸らす。蒸らし始めたその瞬間から熱帯の高山の茶園にたむろう甘いブランディのような芳醇な香りがサーバーから漏れてくる。蒸らしている間に茶が冷めるようならティ・コジーを被せる。


TOMOCAの紅茶はこうして淹れていた。ティ・コジーで保温された紅茶がいつまでも香り豊かでおいしかったわけはここに…
 甘くて香りの豊かな紅茶ができるまで5分は 掛かる。長く放っておくと苦味がきつくなるから、そのときは茶漉しをサーバーから保存用ポットに移します。 こうして淹れた紅茶は冷めてからも充分においしい。ゆっくりと気長に楽しんでください。

2013-09-04



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