日本の食と基本は同じ

スリランカの家庭料理




 スリランカの家庭料理
 鈴木孝男
 カタツムリ社
 1986(初版)


  小さなクッキング・ブックですがこの本の中には大切なことがたくさんあふれています。
 スリランカ料理のレシピ―を紹介する前に「大切なのはスパイスのバランス」と鈴木孝男さんは断りを入れています。「私たちがもっている”本場のカレー”といったイメージとスリランカのカレーとはかなり異なっている」とも触れています。
 そう、それがこの本の出発点です。こうしたこだわりが生まれたのは鈴木さんが東北大学の理学研究科でスリランカ出身のアーリさんと知り合ったことから。アーリさんが研究室の仲間だった鈴木さんやほかの研究者たちに作ってくれるスリランカ料理。それは、彼女が母から引き継いだ家庭の味でした。
 スパイスを煎って焦がして使うことや、ココナツ・ミルクを薄めて使うことや、50品を数えるレシピ―にそれぞれの料理を作るときの細やかな配慮が記されています。小林カツ代さんがこの本を絶賛されたというのも、さすがにそうか、と納得してしまいます。
 この本が2014年に復刊されました。最初に刊行された時期はドイツ人がスリランカ料理をスロー・フードとして紹介した時代に重なります。スリランカの料理を手本にしてドイツ人が家で料理を作ろうと提唱したその時代、日本でも鈴木さんがスパイスとハーブを使うスリランカ料理を手本にして、エスニックな家庭料理を提唱しました。1980年代には東京四谷にTOMOCAがオープンしました。鈴木さんはアーリさんと一緒にTOMOCAへやって来て食事をしていきました。当時、TOMOCAのレジのわきにこの『スリランカの家庭料理』が置かれていたことを記憶されている方もおられるでしょう。
 風土と食。文化と食。それらが切り離せないものだということを、肩ぐるしい能書きやお説教めいた知識で披露する本ではありません。五感のすべてを用いてスパイスとハーブに向かい、わが身で調理して、そして、食べる。そうした伝統文化の実践を『スリランカの家庭料理』はやさしいレシピ―で語りかけてくれます。