被団協新聞

非核水夫の海上通信【2018年】

このコラムは、川崎哲氏(ピースボート地球大学)によるもので、
「被団協」新聞に2004年6月から掲載されています☆☆

2018年12月 被団協新聞12月号

日本決議 開き直る核兵器国

 国連総会第1委員会で日本が提出した核兵器廃絶決議が賛成多数で採択され、政府は核兵器国と非核兵器国の橋渡しをしたとしている。だが実際は、これまで賛成していた米仏は棄権で、核兵器国からの賛成は英のみだ。オーストリアやメキシコなど核兵器禁止条約の推進諸国は昨年に続き棄権している。核兵器禁止条約に言及しないばかりか、過去のNPT合意文書にある核軍縮の表現を大幅に薄めているからだ。
 昨年の日本決議は核兵器国へのすり寄りが厳しく批判され、賛成を大幅に減らした。そこで今年は少し核軍縮の言及を復活させた。今度は米仏が拒絶した。米国は、NPT第6条(核軍縮)や過去のNPT合意への言及を嫌ったという。これらの条文や合意を拒絶するようではNPT体制の信頼性が揺らぐ。開き直る核兵器国へのすり寄りは危険だ。

2018年11月 被団協新聞11月号

INF条約 米大統領の破棄表明

 トランプ米大統領は中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄すると表明した。新たな核軍拡競争への道を開く危険な決定だ。INF全廃条約は戦略兵器削減条約(START)とならび、冷戦後の米ロ間の核軍縮・軍備管理の基礎をなしてきた。
 2月の新戦略でトランプ政権は「使いやすい」小型核の開発を打ち出した。この路線を進めば核軍拡競争を導くのは必至だ。イラン核合意からの離脱と同様、国際条約を通じた軍縮を否定する米国の一国主義は目に余る。NPT第6条の核軍縮義務にも逆行する。
 日本政府は米国に明確に警告を発し再考を促すべきである。日本はNPT下で核保有国との「橋渡し」をすると言ってきたはずだ。
 国際条約による軍縮そのものの信頼が揺らげば、北朝鮮の非核化交渉や中国を軍縮に関与させるという観点からもマイナスだ。

2018年10月 被団協新聞10月号

被害者援助 戦争が終わってもなお

 ピースボートのツアーでカンボジア・シエムリアップの地雷原を訪ねた。約30年続いた戦争により多数の地雷、クラスター弾、不発弾が残され、和平協定から25年以上が経つ今も撤去作業は続いている。地元民が金属探知機を持ち確認の杭を打ちながら歩き、反応があれば手作業で掘り出すという地道な作業だ。除去が完了するにはまだ10年近くを要する。
 現地の平和博物館には戦争で使われた膨大な兵器が展示されていて、気が滅入る。対ベトナム攻撃の延長で米軍がカンボジアに投下したクラスター弾の総計は2千7百万に上るという。カンボジアの人口の実に倍である。
 対人地雷禁止条約には被害者援助の義務が定められ、同様の規定は核兵器禁止条約にも作られた。だが被害者が直面する課題は途方もなく、被害者援助といった法律用語が軽々しく聞こえてしまう。

2018年9月 被団協新聞9月号

隣家の爆弾 核抑止論の愚かさ

 8月6日の広島の式典では湯崎知事の挨拶が異彩を放った。知事は核抑止論を仲の悪い隣家に例えた。お隣のご一家全員を家ごと吹き飛ばす爆弾を仕掛けてある。お隣もうちを吹き飛ばす爆弾を仕掛けている。「決して大喧嘩にはならないし爆弾は多分誤作動しない」から安心しろ。こんな話を大人が本気で子どもに説明できるのか、と問うたのだ。若い世代には、核の恐ろしさより、核の愚かさを伝えることの方が早いのかもしれない。
 日本政府による核軍縮「賢人会議」は今年3月の提言で「核抑止は…安定を促進する場合もあるとはいえ、長期的かつグローバルな安全保障の基礎としては危険なもの」だとした。だから「より良い長期的な解決策」が必要だという。
 「長期的な」などと言ってはいられない。隣家の爆弾が誤爆する可能性があるのだから。

2018年8月 被団協新聞8月号

条約発効へ 市民からのもう一押し

 核兵器禁止条約が採択されてから1年が経った。7月現在59カ国が署名、11カ国が批准している。
 50カ国が批准するとこの条約は発効する。NPTが発効に2年、化学兵器禁止条約が4年かかっているのに比べ遅いとはいえない。だが条約に賛成した122カ国の半分もまだ署名していないのは事実だ。それには米ロ仏など核保有国による強い圧力がある。
 ピースボートの被爆者「証言の航海」は5月以降、ギリシャの首相、アイスランドの外相、カナダの外務政務官、スリランカの外務次官らに署名・批准を要請してきた。核廃絶の目標は共通だがNPTなど既存の枠組みが重要だとして、慎重な国々が多い。北大西洋条約機構(NATO)諸国は申し合わせたかのように同じセリフだ。
 9月26日には国連で第2回署名式が開かれる。市民からのもう一押し二押しが必要だ。

2018年7月 被団協新聞7月号

軍縮へのステップ 米朝に提言

 核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)は米朝首脳会談に先立ち提言を発表した。朝鮮半島非核化への五つのステップである。
 第一に、核兵器の非人道性を認識すること。非核化の大前提だ。朝鮮人被爆者の声に耳を傾けよ。第二に、核兵器禁止条約に加入し核兵器を拒否すること。それは韓国や日本の課題でもある。第三に、国際的検証の下で核兵器を除去すること。
 第四に、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准。北朝鮮は核実験をやらないと自ら宣言したのだからすぐに署名すべきであるし、米国は議会で批准すべきだ。
 第五に、核不拡散条約(NPT)と国際社会への復帰。これには米国がNPT上の核軍縮義務を履行することも含まれる。
 米朝合意は歴史的なものだが、いまだ「二人の合意」の域を出ない。国際法の枠組みの下で確かな軍縮につなげねばならない。

2018年6月 被団協新聞6月号

実際の議論は?

 核兵器禁止条約の成立後初めてとなるNPT再検討会議準備委員会が開かれた。オーストリアなど核兵器禁止条約推進国は、禁止条約が核の非人道性の認識の上にNPT第6条の核軍縮措置として作られたことを強調し、そのことを国際的な共通理解とすべきだと訴えた。また多くの国々が、禁止条約の署名・批准に取り組んでいると表明した。
 これに対し核兵器国や同盟国は禁止条約批判を展開。核軍縮は安全保障を考慮に入れなければならないと強調した。ポーランドの議長のまとめ文書は、これらの見方を一段落ずつ併記。実際には禁止条約評価の声が大多数だったのに、かなり核兵器国よりのまとめだ。いかなる核兵器の使用も国際人道法違反との見解に「核兵器国は賛同しなかった」とも明記された。他国には核を持つなと強面で言いつつ自分たちには必要だという論法をいつまで続けるのか。

2018年5月 被団協新聞5月号

北朝鮮の今後 完全な非核化めざせ

 前号で、北朝鮮が体制保証と引き替えに段階的な核放棄を約束する可能性はあると書いた。実際4月20日、北朝鮮は核・ミサイル実験の中止と核実験場の廃棄を発表した。核保有国ではあり続けるが、これ以上の核兵器開発はしないという意味にとれる。長距離ミサイルを発射しない、他国に核技術を移転しないというのは、米国向けのメッセージだ。
 今後これを完全な核兵器放棄につなげていくことが課題だ。核実験場を廃棄するという以上、実験場や関連施設の国際的査察を求め、交渉し実現すべきだ。それが信頼に足る非核化への第一歩となる。査察・検証に日本は積極貢献すべきである。
 北朝鮮は包括的核実験禁止条約(CTBT)に直ちに署名し、CTBT機関による査察も可能とすべきだ。その後、完全な非核化の合意と核兵器禁止条約加入をめざすべきである。

2018年4月 被団協新聞4月号

国際的な検証制度を

 近く南北朝鮮と米朝の首脳会談が開かれる見通しだ。楽観は許されないが、挑発の連鎖が止まり対話が始まることを歓迎したい。
 朝鮮戦争の休戦状態を終わらせ平和協定をめざす中で、北朝鮮が体制の保証と引き替えに、段階的な核放棄を約束する可能性はあるだろう。米国も、北朝鮮の核開発と長距離ミサイル開発の凍結で妥結する可能性はある。
 ここで重要となるのが検証だ。10発程度あると見られる北朝鮮の核廃棄を確実にするには、核物質のみならず施設やミサイルへの検証も必要だ。国際的な検証制度が必要になる。
 日本はこの面でこそ力を発揮すべきだ。北朝鮮が「こわい、信用できない」とだけ繰り返していても問題は解決に向かわない。国際的信用に足る検証制度を作る―それは核兵器禁止条約が定める柱の一つでもある。北朝鮮のケースが重要な試金石となる。

2018年3月 被団協新聞3月号

日本政府の開き直り

 核兵器禁止条約の成立とICANのノーベル平和賞受賞を受け、国会ではいつになく核軍縮の議論が続いている。気になるのは、開き直って核兵器を肯定する政府の物言いだ。
 安倍首相は「国民の命と平和な暮らしを守り抜く」ためには「通常兵器に加えて核兵器による米国の抑止力を維持していくことが必要不可欠」と述べた(1月26日参院本会議)。
 河野外相は日本が核兵器禁止条約に入らない理由として同条約が「米国による抑止力の正当性を損う」ものだからとしている(17年11月21日ブログ)。
 たしかに核兵器禁止条約は核兵器を非正当化するものだ。だがこれに対して被爆国の政府が核兵器の「正当性」を訴えることはいかなる意味を持つか。
 今日日本が核抑止に依存する政策をとっているのは現実だが、その依存をどう減らしどう脱するかという意識が欠落している。

2018年2月 被団協新聞2月号

核爆発実験 米国が再開準備

 米国が核爆発実験を再開するために必要な期間を大幅に短縮する方針であることが報じられた。冷戦時代に千回以上の核実験を行なった米国は、1992年以降核実験を停止している。
 だが96年の包括的核実験禁止条約(CTBT)には未批准だ。将来大統領が核実験の再開を決めた場合、2〜3年の準備期間を経るというのがこれまでの体制だった。トランプ政権はこの準備期間を短縮し、最短半年で核実験を再開できるようにするというのだ。
 政権は「簡易核実験」という形を打ち出した。これは技術改良のためより敵を威嚇する「政治目的」の実験だという。日本など同盟国を「安心させる」目的もあるという。北朝鮮の核やミサイル実験には単なる技術開発だけでなく政治的メッセージが込められているが、米国も同様のやり方で応えるとなれば、危険な軍拡競争につながりかねない。

2018年1月 被団協新聞1月号

核抑止論の嘘 機能していない核抑止力

 現に核が存在する以上、核を禁止することではなく核を抑止することこそが現実的だとの主張は根強い。
 だが相手の核には核で備える必要があるというなら、あらゆる国が核を持ち始めることを防げまい。実際、米国の1万発近い核は北朝鮮の核開発を抑止しなかった。米国の核は9・11テロも防げなかった。自爆攻撃は核を恐れないからだ。そもそも第二次世界大戦後世界中で頻発する戦争や紛争を、核兵器は抑止してこなかった。
 米国の抑止力が機能しているというなら私たちが北朝鮮を怖いと思うことはないはずだ。北朝鮮が核を撃つかもとか米朝が戦争を始めるかもと私たちが感じている時点で、米国の抑止力は機能していない。
 核抑止が破れて実際に核が使われたら何が起きるのか。現実派と称する抑止論者たちはこの問いにまともに答えていないし、責任もとらない。