幸せの食堂(2003、10、01記)  

 知り合いに強く薦められていたレストラン「ピッコロ」(福岡市中央区平尾)に行ってきた。入りやすい入り口、落ち着いた店内。押し花絵がきれいだっ た。  
 ホワイトボードに書いてあった「鶏胸肉のベルギー風煮込み」(1000円) をパンとサラダ・コーヒーのセット(500円)で頼む。「あれ、ちょっと時間 がかかるな」と思い始めたころに料理が出てきた。焼きたてのパンが添えられて いる。「なるほど!」。深めのお皿のような形をした独得のパン。縁だけがきつ ね色になっていて香ばしい。「スープに浸して食べて」と言われた。
 「鶏胸肉のベルギー風煮込み」は信じられないほどに美味しかった。お皿の真ん中に大きな胸肉がどっしりと置いてあり、その上を覆い隠すようにニンジンや 玉ネギの千切りが載っている。コトコトと一緒に煮たのであろう。淡いオレンジ色の小山の周りには、ほんのりレモン色のスープが広がっていた。
 そのニンジンと玉ネギの甘いこと甘いこと、自然の甘みがぎゅーっと染み出て いる。北海道の実家で、母がクリスマスに決まって作っていたクリームスープと 同じような甘みに、懐かしさが込み上げた。  
 胸肉は、しっかりとした歯ごたえがあって、旨味がずんずんと舌を震わせる。 余計な脂身もなく、胡椒の香りがよく合った。ナイフでさっくりと切ってニンジ ンや玉ネギと一緒に口に運ぶと、それはもう、さくさくとした野菜の歯ごたえと甘みを味わっているうちに胸肉はどこかへと消えてしまった。  
 サラダは、キュウリやニンジンの細い細い千切りを。ドレッシングでさっくり と合えたもの。キュウリのはりはりとした歯ごたえが気持ちいい。ドレッシング はよく寝かせた味で、塩辛くなく酸味が美味しかった。
 パンは、よくあるスカスカのものではない。生地を力強くこね、十分に小麦の旨味が引き出されている。「砂糖を入れていないんですよ」と店の人は言う、そ う、小麦のほのかな甘みがたまらなく良かった。
 どの皿にも心がこもっている。でも、私のために、この時のために特別な何かをしたのではない。心を込めることが、既にスタイルとなって料理の中にあった。 そんな気持ちをかみしめながら食べるここの料理は、本当に幸せの味だ。  

 それから数週間して、店の人気メニューである仔羊のカレー(800円)を食べた。サラダ、ヨーグルトムース・ブルーベリーソースとのセットで計1200円。「肉とスパイス、玉ネギだけで8時間煮込んだんですよ」と奥さんが言うカレーはご飯よりパンが合う。肉は大好きな羊。脂分がほどよく抜き取られ、鍋の中でひねた味だ、かみしめるほどにいい味がある。フレッシュなトマトの味が爽快。スパイスの構成はけっこう単純で、かなり辛い。「小麦粉を使っていないんです」。なるほど、さらりとして、すっきりとした辛み。辛みはかなりきつくて、顔中グチャグチャになるほど汗をかいたが、ひとっ風呂浴びたような気持ちよさになった。「新陳代謝が良くなるでしょ」と言われてお店を出た。壮快な気分で秋になった道を歩いた。(03、10、28追記)


これまでの「美味しかった記」

実家の飯寿司(いずし) 待望の「おせち」 2002年の年越し Jacques(ジャック)のモンブラン
ピラフのおいしい店“ダンケ” エツ 白魚・珈琲美美・ジャミンカー たいめいけん
枉駕亭の一夜


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