2000年7月の映画


料理は冷たくして Buffet froid 
セザール賞脚本賞
1979年 フランス 89分
監督 ベルトラン・ブリエ(「バルスーズ」「美しすぎて」)
出演 ジェラール・ドパルデュー/ミシェル・セロー/ベルナール・ブリエ
メモ 2000.7.31 CSシネフィル・イマジカ録画
あらすじ
アルフォンスは毎夜悪夢を見るため眠るのが恐い。失業しているせいだろうか? 街をさまよって地下鉄で話かけた男が電車に乗って去っていったはずなのに、次に見ると地下道で腹にナイフを突き立てられ転がっているではないか。しかも突きたっているのは自分のナイフのようだ。 死にかけている男は「指紋がついているから、ナイフを引き抜いてもっていけ」という。そりゃそうだな。妻が待つモダンな高層マンションに帰れば、今日ご近所で引っ越してきた人がいるという。このマンションの二人目の住人だ。挨拶に行くと警察官だという。もっけの幸いとアルフォンスは「どうも人を殺したようだ。」と自白をはじめるが、「非番に私をわずらわせないでくれ」とけんもほろろ。そりゃないんでないの?
リュック・ベッソン監督が15才の時に見て天地がひっくりかえったそうです(うそです)。
感想
なんじゃ、こりゃ? と思って見ていたのですが、なるほどねぇ。現実とも夢ともとれる内容なのね。夢の映像化としては素晴らしいのではないかと思う。好みとは言えないけれど、20年という年月を経ても斬新に感じる。不思議な映画やねん。
−ネタバレ、はいります−
つじつまが合わないような合っているような、神経が麻痺しているようなピリピリとんがっているような感覚を持ち、最後は”誰もいなくなって”、しかも最初と最後はつながり円はみごとに閉じられるという凝った作りの不条理ブラック・コメディ。
リュック・ベッソン監督の「サブウェイ」やアレックス・コックス監督の
「デス&コンパス」はこの映画の影響をもろ受けているのではなかろか。
おすすめ度★★★1/2
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死の十字路

1956年 日本・日活 101分
監督 井上梅次
原作 江戸川乱歩
脚本 渡辺剣次
撮影 伊藤武夫
音楽 佐藤勝
出演 三國連太郎/新珠三千代/山岡久乃/芦川いずみ/大坂志郎/澤村国太郎/三島耕
メモ 2000.7.30 ビデオ
あらすじ
えっと、家庭を顧みないで新興宗教に入れあげている古女房に愛想を尽かし、若くて美しい秘書を愛人にして妻の留守に愛人のアパートでくつろい居た社長さん(三國連太郎)、そこに目をつり上げナイフを振り上げて妻(山岡久乃)が乗り込んでくる。お風呂に入っていたオールヌードの愛人・新珠三千代を助けようと、妻を押さえ込むが無我夢中のあまり肘で首を押さえ込んだため気がつくとあわれな妻・とも子は息をしていなかった・・・。事故だったとは誰も信じちゃくれない、一か八かと社長さんは3日後にダムに沈む村の井戸に妻を隠すことにする。
感想
2つの運命がクロスするシーンに違和感がない。よく出来ているよね。原作も読んでみたい。

新珠三千代さんって、ドラマ「細腕繁盛記」のイメージが強く、きつくてしっかり者という印象だったのですが実にやさしげできれいでした。男だったらあんな女の人に惚れられたいし、かいがいしく世話をして欲しいし、守ってやりたいと思うのではなかろか。澤村国太郎さんが仏壇背負って白い犬を連れた新宿の浮浪者姿もなかなかのもの。風情のある正調ルンペン姿です。
しかし、それよりも何よりも三國連太郎さんの演技に魅了される。役者さんの演技がうまいかへたかはよくわかりませんが、この人は特別なんではなかろか。他の役者さんが気の毒に木偶の坊に見えてしまう。引き立てているとも思えない。「釣りバカ日誌」のスーさんも結構なんですけれども、映画界の事情はよくわかりませんが、この傑物・怪物役者をおおいに生かす映画は出来ないものなのでしょうか? 手遅れにならない内に。
おすすめ度★★★1/2
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太陽の誘い(たいようのいざない) 

1998年 スウェーデン 118分
監督・脚本 コリン・ナトリー
音楽 パデイ・モローニ(「ザ・チーフタンズ」)
出演 ロルフ・ラスゴート(オロフ)/ヘレーナ・ベリストレム(ヘレン)/ユーハン・ヴィーデルベリ(エリック)/リング・ウルヴェウス(アバの娘さんだそうです)
メモ 2000.7.29 梅田シネマアルゴ
あらすじ
北欧の夏は短い。その短い夏に農夫・オロフは一世一代の恋に落ちる。相手は訳アリそうな家政婦のエレン。オロフが募集した家政婦に応募してきた女性だった。実はオロフが欲しかったのは家政婦ではなく女友達。体中の勇気をかき集めて新聞で募集したら、美しいエレンが天から舞い降りてきた。
感想
「顔」が満員だったので、急遽Uターンして見た映画。
見た直後はね、「男の願望おとぎ話」とか、刺激が少なくて幾分単調に感じられ「さぼてんもすれた。ミステリが好みだからか。」とか思っていたのですが、今時間がたって思いかえすと、いい映画だったと思う。白夜の夏の短さが人生の残り少ない華を大事にしなくてはと言っているよう。40才で童貞なのがどれほど希有な事がよくわからないんですけれど、若い時の燃え上がる恋ではなく、中年になってからお互い幾分臆病にちょとずつちょっとずつ近寄って行くっていう所の描写がとても細かく美しい。豊かな緑の風景も美しい。エレンのサマードレスの色鮮やさも美しい。
若い頃の方が色々な人から選べるし、自分がまだ出来上がっていないから相手に会わせられるって所もあるけれど、それからが長いでしょ。黄昏てからの恋がもしあればそれもいいななんて、なんとなく最近思う。そんな物はあるわきゃないけど(さぼてんには)。

「オール・アバウト・マイ・マザー」とアカデミー外国語賞を競った作品。古い映画が好きで割と好んで見ているんですけれど、古い映画と現在の映画を見ていて一番の違いは音楽に感じる。この映画も凝っていたと思う。
おすすめ度★★★1/2
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花火降る夏 −去年煙花特別多/The Longest Summer

1998年 香港 128分
監督・脚本 フルーツ・チャン(
「メイド・イン・ホンコン」
撮影 ラム・ワーチュン
美術 ヤン・スーシン
音楽 ラム・ワーチュン/ケネス・ビー
テーマソング アンディ・ラウ「去年煙花特別多」
出演 トニー・ホー(ガーイン・北京)/サム・リー(シュン・旺角)/ジョー・クーク(ジェーン)/パン・イックワイ(パン・上海)/ライ・チーホー(ゲイリー・広州)/リン・イウワー(ジッパー・香港)/ラム・セッキン(ボビー)/チャン・サン
メモ 2000.7.26 パラダイス・シネマ
あらすじ
1997年3月31日香港返還を前に、英国軍香港部隊は解散した。香港中国軍兵士達は解雇され職探しをはじめるが不況でままならない。軍曹だったガーインは、ヤクザな弟シュンの紹介で親分の運転手になる。それから香港が中国に返還される7月1日まで狂乱の3ヶ月が走り抜ける。
感想
暑い、熱い、空気が熱い、街が熱い。そして、もの哀しい
戦争にいったことがない軍隊に20年いた男達が突如世間に放り出される。今までは、ガキの頃の続きで戦争ごっこをしていただけなんだと知らされる日々が待っていた。それでも俺達は戦争ごっこが好きなんだ、秘密基地も好きなんだ、自分で考えるのではなく誰かが命令してくれてそれに従う単純な生活が好きなんだ、世の中の役にたっていると思うのが好きなんだ、戦車や規律正しい生活が好きなんだという思いはもうどこにも届かない。という居場所を無くした中年男達のコミカルな悲哀を描きながらも、監督の真の主人公は迷走する祖国・ホンコンの姿だ。お上品な英国に里子に出され、今親元・中国に返された孤児・ホンコンの行く末を見すえながら、この国はエネルギッシュなパワーでつっぱって欲しいという監督の願いが伝わる、気がする。 香港返還というのは、Y2Kのフィーバーをもっともっと大きくしたようなものだったんだな。何が起こるかわからない、どうなるのかわからない、どうしていいのかわからない。が、過ぎてみれば夢がさめたようなあっけなかったような気がする、という。「メイド・イン・ホンコン」を見て、この作品を見ると大人達も将来の不透明さに不安定だったのがわかる。

最近思うところがあって「男と女は本質的に違うところがあるんじゃなかろか」とも考えるようになった。この年になってこんなことを言うというのは、いかに人生経験が乏しいかを暴露してるんですけれど。これまでは「性差よりも個人差の方が大きいんじゃなかろか。」とか「女だから、男だからと枠にはめられたくない、はめたくない。」という思いが強くなかなか認められなかったのかもしれない。それに数多くの人間を知っているわけじゃなしさぼてんの世間は狭いし、自分は女のカテゴりにすんなりはまるとは思えないし、なんともいえない。それでも、この映画を見て男にはメチャメチャしてみたいという強い衝動があるんだなと感じた。子供を見てたらわかるんですけれどね。「ワシはそんなことないデ。単純に言わんといてくれる?」という向きもおられるでしょうが。
おすすめ度★★★★
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殺し屋とセールスマン L'Emmerdeur

1973年 フランス=イタリア 85分
監督 エドヴァール・モリナロ(「「Mr. レディ Mr. マダム」、「ボーマルシェ」)
脚本 フランシス・ヴェベール
撮影 ラウール・クタール
音楽 ジャック・ブレル
出演 リノ・バンチュラ(ラルフ・ミラン)/ジャック・ブレル(ピニョン)/カロリーヌ・セリエ
メモ 2000.7.25 CS録画
あらすじ
凄腕の殺し屋ラルフ・ミランは、予定通りホテルにチェック・インし準備万端。後はターゲットの到着を待つばかり。アタッシュケースに収めてあったライフルを組み立て始めると、隣の部屋でなにやらドタバタする音が聞こえる。しまいにはドアの下から水まで漏れてきた。ベルボーイが隣の部屋に駆け込むと、自殺未遂男ピニョンが首にロープを巻いたまま呆然とバスタブに座っている。配水管で首をつろうとしてパイプが外れ部屋は水浸しだ。トラブルは困るミランは警察を呼ぶというベルボーイを押しとどめ「俺が面倒をみるから」と告げるのだった。それからの恐ろしい展開を予想できずに・・・・。
その後のピニョン。自殺すると脅すわ、捨てられた妻に未練がましく電話せーの、会いに連れていけの、飛び降りかけて地上の警官達の注目を集めるわ、「俺が仕事で人を殺す他になんか悪いことしたんかっ」とリノ・バンチュラが目をむき、アタッシュケースからライフルを出したりしまったり出したりしまったり・・・の爆笑映画(^^)。
感想
すさまじい・・・・・・。自己中の善人の破壊力がすさまじい(笑)。

「奇人たちの晩餐会」と同じく元々は舞台劇のドタバタ・コメディ。にこりともしない苦み走ったというより苦虫噛みつぶしたリノ・バンチュラに笑った。「三人の逃亡者」のジェラール・ドパルデューやニック・ノルティと同じく
「こいつは。ほんまに、ほんまに、、、、、、首しめたろかっ!」のノリ。

ふと気づくと、あたし、結構リノ・バンチュラの映画選んで見てますね。アセチレンランプ=リノ・バンチュラ好きかも(笑)
ビリー・ワイルダー監督作品「新・おかしな二人」(1981年)は本作品のリメイクだそうです。
おすすめ度★★★★
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間諜最後の日 The Secret Agent

1936年 英国 88分
監督 アルフレッド・ヒッチコック
脚本 チャールズ・ベネット
原作 サマセット・モーム「アジェンデン」
撮影 バーナード・ノウルズ
出演 ジョン・ギールグット(アジェンデン)/マデリーン・キャロル(エルサ)/ピーター・ローレ(将軍
「狂乱のモンテカルロ」「暗殺者の家」「毒薬と令嬢」「80日間世界一周」「絹の靴下」)/ロバート・ヤング(マービン)
メモ 2000.7.23 CS録画
あらすじ
1916年第一次世界大戦中、軍人よりも作家として有名なブロディが本国イギリスに帰ってみれば自分の葬式が行われていた。諜報部の”R”から死んだことにしてスイスに潜入しドイツのスパイを捕まえろと指令を受ける。アメリカ人アジェンデンとしてスイスのホテルに着いてみれば、妻が先にホテルにチェック・インしているという。妻って、、、、、誰だ?
感想
ヒッチコック監督がアメリカに渡る前、「三十九夜」と「サボタージュ」の間の作品。見所は雪山での殺人とふもとのホテルの張りつめた空気を交互に見せサスペンスを盛り上げるシーンと、ドイツ兵で満杯の列車でのスパイ同士の対決。
もうひとつの見所、さぼてんのお目当てはおかしなスパイ役ピーター・ローレ。フリッツ・ラング監督作品「M」を見てヒッチコック監督が起用したそう。右の耳だけイアリングしてニコニコ出てくる。メキシコ人のスパイで”将軍”と呼ばれると気持ちいい人。うつろな目をしたりして気持ち悪い。気持ち悪くておかしい。こんな人はもういない。
アジェンデン役が「エリザベス」でローマ法王を演じていたジョン・ギールグッド。今年の5月に96才で亡くなられたようです。
おすすめ度★★★
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犬を連れた男−One Man and his Dog

1998年 オランダ 86分
監督 アネッテ・アポン
出演 ラムサイ・ナスル
メモ 2000.7.16 CSシネフィル・イマジカ録画
あらすじ
失業しているキースには友達がいない。知り合いもいない。日々話をすることもない。母親はキースが幼い頃キースの父が死んだショックで精神に変調をきたし家族の写真をすべて焼き払い今も病院にいる。ひとりぽっちのキースの楽しみは散歩しながら家々の様子をぶらぶら見て歩く事。その家族の空気を自分も共有しているような気がする。でも若い男が夜にふらふら歩いていると不信がられるので、犬を散歩させているふりをするため犬の鎖を持って歩いていた。
感想
奇妙な味の映画だった。行動がエスカレートしだしたキースが他人の留守宅に入り込み、部屋から部屋へとさまよう。かなりあぶない行動なんやけれど、内気で善良な青年はキレていない。いや、他人のアルバムを盗み自分のアルバムに貼って宝物にするってのは、かなりきているのかもしれない。でも、かわいそうやなと思うけれど危うさは感じられない。幸せそうだ。幼い頃の写真がないというのは、どういう気持ちなんかな。 この身が空中に浮いているようなよるべなさを感じるんだろうか。 キースが病院で意志疎通がない母親に、ひとり語りかける所が「ママは生きていてくれるだけで、それだけでええねんよ。」と言っているようでとてもいいシーンだと思う。それでもその見えないへその緒はいつかは切れる時が来る訳で、その時にどう一歩を踏み出すかはその後の人生にとって大事なんだ。
おすすめ度★★★1/2
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チャオ・パンタイ Tchao Pantin(操り人形)

1983年 フランス 90分
監督・制作・脚本 クロード・ベリ(「王妃マルゴ」)
原作 アラン・パーシュ
撮影 ブルーノ。ニュイッテン
音楽 シャルレリー・クチュール
美術 アレクサンドル・トローネ(「天井桟敷の人々」)
出演 コリッシュ(ランベール・セザール賞)/リシャール・アンコニナ(ヨセフ・ベンスサン)/アニエス・ソラル(ローラ)
メモ 2000.7.16 CSシネフィル・イマジカ録画
あらすじ
真夜中雨がしのつく中をひとりの若い男が、エンストしたバイクをおしている。ようよう終夜営業のガソリン・スタンドにつき部品を買い求める濡れねずみ男。夜勤の給油係・ランベールは「今、切らしている」とそっけない。が、雨の中バイクをおして家に帰る若い男が気になり窓から後ろ姿を見ていた。ただひとりひっそり生きたいと思っている中年男と、ひとりぐらしの少年は少しずつ少しずつちかづきはじめる。が、少年・ベンスサンはヤバイ橋を渡っていた。麻薬の売人だったのだ。
感想
無駄な物のないストーリーと映像だった。フィルム・ノワールの秀作。魂がなくなって惰性で生きていて、いつも飲んだくれているにもかかわらず、ただ者ではない空気を感じさせるランベールを見ている内に少しずつ哀しくなってくる。それでも最後、早朝の静謐な景色と、やりとげて心の底の澱が流れ清められた主人公ランベールが透き通っていた。
リュック・ベッソン=セレクションの1作品。人がお薦めするものは、ひとまず見ておくもんだと素直に思いました、ワタクシ。
おすすめ度★★★★
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獣人伝−FIRST BORN

1989年 英国 151分 TV映画
出演 チャールズ・ダンス(エドワード・フォレスター)/ジェームズ・フォスター(ゴードン、愛称ゴル)/ガブリエル・アンウォー(ネル)
メモ 2000.7.14 ビデオ
あらすじ−ねたばれあり−
1960年代冷戦真っ直中、英国の陸軍研究所では極秘の実験がなされていた。なんと優秀な兵士を作るため、人間と人間以外の霊長類をかけあわせ新たな人類を創造するという”神をも恐れぬ”所業。ドクター・エドワード・フォレスター自身は、「争わない新しい人類」を創造するつもりで、一番人間に近く争いを好まないゴリラのメアリーを選び、人間との合いの子をこの世に生み出させる。6回の失敗後の7回目の実験でHO7と名前をつけられたプロジェクトの真相を知っているのはフォレスター博士とランシング大佐だけであり研究に携わった他の研究員たちは、ゴリラとオラウ−タンの子供だと思っていた。実験は成功したが数時間で死ぬと予想されていた赤ん坊は危機を乗り越え生き続ける。ゴリラよりはみかけはほぼ人間に近く体毛も成長とともに抜け落ちていった。同じ頃フォレスター博士にも娘が授かる。ネルと名付けられた女の子は豊かで愛情溢れた環境ですくすく育つ。一方、もう少しでタッチが出来るという頃、プロジェクトは急に中止となりすべての証拠は破棄されるよう命令された。フォレスター博士は悩んだ末ゴードンと名付けられた子供を川に捨てるが捨てきれない。田舎に里子に出すが5才になっても子供の声帯はゴリラと同じで発声できない。「この子が助かったのは神のご意志だ」と自分を納得させつづけている博士はスイスで手術を受けさせ、研究所に勤めていた両親が交通事故で亡くなって天涯孤独の身になったかわいそうな子供なんだと妻を説得して自分の養子にする。しかし、何かがおかしいと疑いを持った妻の元におけるはずもなくゴードンは全寮制の士官学校に送り込まれる。
それから13年がたち、ゴードンは18才の優秀な兵士に成長していた。知能は人並みだが運動能力が抜群なのだ。しかし人をあやめる事ができない心やさしい力持ちのゴードンは士官学校を辞め聖職者になりたいと養父フォレスターに頼む。自分のいる場所はここではないというのだ。神父見習いになるまでの期間、養父フォレスターの屋敷に帰ってきたゴードンはあろう事か美しいネルと恋に落ちる。衝撃を受け強硬に反対する博士を見てゴードンは自分の出生に疑いを持ち、ネルと共に探りはじめ死んだことになっていた極秘実験の結果が自分だったことを知る。”神への冒涜”の所産だと年とった神父に断言された罪なき罪の子は研究所で博士に詰め寄る。そこでまた今の悲惨さの上をゆく事実が明らかにされる。実は自分の精子を使い実験したのであり、ゴードンは自分の息子でネルはゴードンの妹だという。「母にあわせてくれ」と子供を取り上げられ気のおかしくなっていたゴリラのメアリーの檻にはいるゴードン。メアリーはフォレスター博士ができなかった事をなしとげる。生まれてはならなかった息子を打ちのめし殺したのだ。
時は移り、ネルが抱いている赤ん坊が洗礼を受けている。じっと耐えている博士の耳に「ナー」としか泣けない孫の声が届いた時博士は悟る。ゴードンを生かし続け、しかも考えられなかった生殖機能があった事は神のご意志ではなく自分への罰であったことを。
感想
ビデオ屋さんでSFの棚を見ていると目に付いた作品。 
「獣人島」と同じく「ドクター・モローの島」の映画化なんかなあと見ると「アクシデント」で狂気の演技をしていたチャールズ・ダンスが主演とかいてある。「へぇー。縁があるんかな。」とパッケージの内容紹介を読んでいるとBBC製作のTV映画と書いてある。興味を惹かれて見てみたのですが。。。

まじめなまじめな作品でした。それでもドラマティックで飽きさせない。 「子供は宝」という言葉が浮かぶ子役達がかわいい。ガブリエル・アンウォーもかわいい。 英国の方だったんですね。「ドクター・モローの島」がフィクションだった時代が過ぎ去った現代では、「可能な事をどこまでするか?」というさけて通れない線引きを突きつける作品。少しづつタブーが無くなっていき少しずつ譲歩していき、これから行き着く先はどこなのか? 原子力と同じく常に振り返って考え続けなければならない”両刃の剣”への警告。

わたしが子供の頃の子供向け雑誌というのは、割と猟奇的とかオカルトめいた話も多くてね。エジプトのミイラの作り方とか中尊寺のミイラとか即身成仏の作り方とか世界の奇形人間の話とか何の役にもたたんキワモノの読み物があった。その中で中南米でうまれたゴリラのような女の子の話があって、たくさんの兄弟姉妹でただひとり、体毛が濃く顔もゴリラに似ていて知能も普通ではなく先祖返りと挿し絵つきで書かれていましたが。事実なのかなあとその時も今も不思議に思っています。
中学の時に「オオカミに育てられた少女」の本を先生が読んでくれて、インドで小さい頃に助け出された少女達は宣教師の元で育てられたのですが、トイレとかが出来るようになるのがせいいっぱいで短命で亡くなったそうです。先生がいいたかったのはいやゆる「氏より育ち」っていう”教育のありがたさ”って事だと思うのですが、その時、森で暮らし続けていた方が幸せだったのになあ。教育し続けた努力には頭が下がるけれども宣教師も罪作りなと思ったな。そういう意味では、ゴードンは人間として教育を受けたまぎれもない人間なんですね。それでも割り切れるはずもなく苦しむ。映画名から思い出したただそれだけの話なんですけれど。

おすすめ度★★★1/2
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雨月物語 ベネチア映画祭銀獅子賞

1953年 日本・大映京都 97分
監督 溝口健二
原作 上田秋成(「浅茅が宿」「蛇性の淫」)
脚本 川口松太郎/依田義賢
撮影 宮川一夫
音楽 早坂文雄
美術 伊藤熹朔
出演 田中絹代(宮木)/京マチ子(若狭)/水戸光子(阿浜)/森雅之(源十郎)/小沢栄(小沢栄太郎・籐兵衛)/青木杉作(老僧)/毛利菊枝(右近)/香川良介(名主)
メモ 2000.7.9 ビデオ
あらすじ
戦国時代末期の琵琶湖のほとりでは、羽柴秀吉と柴田勝家の軍勢が小競り合いを繰り返し睨みあっていた。信楽の陶工・源十郎は焼き物が町で飛ぶように売れると金の亡者となり、弟の籐兵衛は侍になりたいと夢を見ていた。双方の女房は心配するが男ふたりは聞く耳をもたない。
感想
男が外で時を忘れ遊びほーけハッと気がつきあわてて帰ってみれば、女は家を守って待っていてくれた。という昔々の古きよき時代の男の夢・物語。
朽木屋敷の若狭(京マチ子)の”妖しい輝き”がゾクゾクするほど美しい。若狭に仕える右近の不気味さにも別の意味でゾクゾクする。対して宮木(田中絹代)のしっとりした品の良さがきれいだ。小さな体で子供をおぶって駆けるシーンが幾度もあり、溝口監督の厳しさと田中絹代さんの芯の強さが感じられる。けなげ。
霧のたちこめる琵琶湖を小舟で渡るシーンが静かで幻想的です。このシーン必見。「ISOLA」を読んでいて急に見たくなった作品−なんてわかりやすいんでしょう(笑)−なんですが、これは「吉備津の釜」の恐ろしさを期待していたさぼてんを華麗にうらぎり、日本が世界に誇る外面の美と相対する内面の美がともに昇華した芸術性の高さに圧されながらも、それでも尚理解できるようにさえ感じられる。
おすすめ度★★★★
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狐の呉れた赤ん坊

1945年 日本・大映 85分
監督・脚色 丸根賛太郎
原作 谷口善次郎
撮影 石本秀雄
出演 板東妻三郎(張り子の寅)/羅門光三郎(へちまの辰)/光岡龍三郎(丑五郎)/橘喜美子(おとき)/安部九州男(相撲取り・賀太野山)/見明凡太郎(蜂左衛門)/香川良介(佐吾兵衛)/原タケシ・澤村マサヒコ(善太)
メモ 2000.7.9 BS録画
あらすじ
川越人足の兄貴分”張り子の寅”は、弟分の”へちまの辰”が狐にばかされ腰が抜けたと聞くやいなや、「とっつかまえて、懲らしめてやる!」と街道はずれへと飛び出す。寅の家でみんなが待っていると、赤ん坊を抱えて帰ってくる寅。「狐が赤ん坊に化けやがったもんで、とっつかまえてきた。」と寅は言うが待てど暮らせど、赤ん坊は赤ん坊のまま。おもらしはするは、お腹へったと泣き出すやら。手に余った寅は元の場所に捨てに行くが、捨てられない。お前なんかに育てられるもんか、里子に出せと言われれば、生来の意地っ張り、強情がむくむく頭をもたげ「てやんでぇ、おいらが困っているのはこいつの名前よ。りっぱに育ててみせるから、覚悟しろ!」とたんかを切り、酒も博打も絶って男手ひとつで子育てをはじめる。実は一杯飲み屋の娘おときや弟分に手伝って貰ってだったが。。。善太と名付けられた男の子は誰に似たのか、りりしく育つ。
感想
むかし・・・・
  大井川の西の渡し場
    金谷(かなや)の宿に
       張り子の寅八と云ふ
           男が居た

というのどかな字幕、のどかな渡し場の風景で映画は始まる。
と、お銚子が空を飛び、むさい男ふたりが一杯飲み屋で大喧嘩しているシーンにばっと変わる。
張り子の寅が馬方の丑(うし)にバカにされたと口をとんがらかして怒っているのだ。丑の話と言えば「物知りの大黒屋の親父が言うには、人間とサルのちげえは着物を着ているか着てねえかだけなんだぜ。 そりゃおまえ、馬方と駕篭かきと川越人足の中でまともに着物を着てできる商売は馬方だ。 川越人足は朝から晩まで裸でよぅ。」
すかさず反論する寅。「よしやがれ! あの大黒屋の親父はな。質に入れた着物をはやく請け出させようと思って誰にでもそんな事をいいやがんでぇ。 丑! 馬に稼いで貰った金で買った着物がそんなに嬉しいかっ。ばかやろ!」
こちとらは、このしょっぱなのセリフで捕まった。 時には威勢良くはぎれよくぽんぽんと、時には上方落語のようなもったりした語り口。そして言葉と絶妙のバランスをとったお顔としぐさがいい。翻訳モノの映画では味わえない魅力です。一言一言いきいきしてる。クライマックス「ここが思案のしどころだ。」とかのらくら言っていた大黒屋の親父が 「寅! もう一度死ね!」 と喝をいれる強弱ののセリフに力がある。

さぼてんの好みから言えばナンセンスコメディの「天狗飛脚」に軍配が上がりますが、この映画も「酒とサイコロと喧嘩に明け暮れていた荒くれ男が赤ん坊抱かえてオタオタ」というおかしいやらしんみりするやら、板東妻三郎さんに魅了される。 戦後GHQがちゃんばら映画を禁じて苦し紛れに生まれた傑作”父物”物語。
おすすめ度★★★★
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天狗飛脚

1949年 日本・大映 77分
監督・脚本 丸根賛太郎
撮影 川崎新太郎
出演 市川右太衛門/小杉勇/志村喬/加藤大介/羅門光三郎/相馬千恵子/沢村貞子/原健作/小杉勇/香川良介/上田吉二郎/石黒達也
メモ 2000.7.8 シネ・ヌーボォ九条
あらすじ
江戸を荒らし回る賊を、目明かし、与力、同心が束になって追いかけても捕まえる事ができない。人間離れした俊足なのだ。一計を案じ飛脚屋・亀屋の足自慢に追いかけさそうとするが、命あってのモノダネと断られ、斜陽の飛脚屋・天狗屋にも話をもっていくが「大黒柱」を亀屋に引き抜かれ残っているのはお笑い三人組だけ。天狗屋のお笑い三人組はひょんな事から長太という男と知り合う。相撲取りになるつもりで部屋入りしたが、親方に「この足が勝手に蹴りつけ」追い出され故郷に帰る所だと言う。
これがまたどえらく人間離れした足の持ち主で、江戸から大坂までを3日で駆け抜けるのだ。またたく間に評判を取り戻し大繁盛の天狗屋だったが、ライバルの亀屋が「あんな足の速いヤツがふたりといるはずがないやんけぇ。長太が足の速い盗人ちゃうんか? 」という噂を流す。おりしも江戸では子供達が熱病で倒れていた。
感想
異彩を放つ実に個性的な作品だった。
「ラン・ローラ・ラン」も真っ青。お江戸日本橋→品川→小田原→箱根を越え→府中→大井川を渡り→掛川→鳴海 →桑名→水口→草津→京→枚方→大坂瓦町まで東海道を走る走る。クライマックスは、あれも(子供が待っている南蛮渡来の熱冷ましを緒方洪庵先生っちまで取りにいかなければっ) これも(ぬれぎぬを着せた盗人をお縄にするのだ) それも(花嫁奪還)しなければならないっという日本発かうんとだうんさすぺんす(笑)

まったりした関西風言葉、ギョロ眼をむいた体当たり演技、地響きたてた走りの市川右太衛門さんもいいけれど、志村喬さんのおとぼけぶりが絶品。「うむっ。長生きせよ。」にまず笑った。

何度も登場する富士山が美しい。日本の宝です、この映画。
おすすめ度★★★★
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アクシデント UNDERTOW(底流)

1996年 アメリカ 93分
メモ 2000.7.5 ビデオ
監督・脚本 エリック・レッド
出演 ルー・ダイアモンド・フィリップス(ジャック)/ミア・サラ(ウィリー「ブルー・ナイト・ロード」「刑事エデン 追跡者」)/チャールズ・ダンス(ライル)
あらすじ
流れ者のジャックが山の中車を飛ばしている最中、豪雨に巻き込まれ事故る。気がつけば若い女の顔が見える。かわいい。と、横から突きつけられたのはショットガンだった。
感想
やっつけ仕事かなあと感じられる箇所も無きしもあらずでしたが、最後にはこの水準までもっていくってのがたいしたもの。登場人物は3人だけ。人里離れた山の中に住む猟師と若い妻、そこに現れた若い男。自分の世界を造りあげ、その世界の王様だった男のテリトリーに異邦人が現れ、風速60mのハリケーンの最中、雄共が雌を奪い合うというただそれだけなんですけれど、「幼な妻に逃げられるのが恐くて山の中に隠していた。」っていう哀しい話にまで持っていってた。この爬虫類のような眼をしたライル役のチャールズ・ダンスって俳優さんは、タビィアーニ兄弟作品「グッドモーニング・バビロン」(1987)の中で「イントレランス」製作中のグリフィス監督を演じていた人のようです。世間から隔離されていた若い妻にミア・サラ。きれいな人だと思うんだけれども、薄幸の役、汚れ役が多いというかぬぎっぷりがいい女優さんです。こんなにきれいなのに。不思議だ。

なぜこの映画をレンタルしたかというと、もちろんルー・ダイアモンド・フイリップス様ご主演だから(笑)。監督さんは、ルドガー・ハウアーの「ヒッチャー」(1985)、異色ヴァンパイア物「ニア・ダーク−月夜の出来事」(1986)の脚本を担当したエリック・レッドって方だそうです。なんとなくこの映画の雰囲気がわかる気がするでしょ。あっちへ行ったり、こっちへ行ったりどこへ向かうのか不明でバラバラになりそで案外しっかりした作品なん。キャスティングもいい。
おすすめ度★★★1/2
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墜ちた天使たち FALLEN ANGELS

1993年 アメリカ TVドラマ
メモ 2000.7.2 TV録画
感想
深夜TVで放送していたアメリカのTV映画を「ゲーリー・オールドマンが出ている」の一言に惹かれて見る。
30分のドラマが3話でした。驚いたのですよ、わたくし。第一話「都合のいい女 MURDER,OBLIQVELY」の原作がコーネル・ウールリッチだってのに。1月に読んだウールリッチの短編集「見えない死」の一編でした。それがね、困った事に題名を覚えていないの。本屋さんで調べてまいります。しばしお待ちを。「私の死」か「見えない死」のどちらかのはず。「6週間前最後の恋に出会った。一番最近のという意味ではない。文字通り最初で最後の恋」という惹かれる言葉から始まります。原作の雰囲気を表現するのにかなり苦労と工夫の跡が見えましたが、なかなか難しいね。とらえ所のない話だし。原作読んでいないとラストは意味不明じゃなかろか?と思うような頭悪いのは私だけ?(笑) 出演は私(アニー)にローラ・ダーン。ブルース・ダーンの娘さんですね。最初で最後の恋の相手ドワイトにアラン・リックマン。「ダイ・ハード」の悪役の西部劇に疎かった人。ドワイトのかわいさ余ってにくさ百倍の恋人バーネットにダイアン・レイン。

第二話「トラブル・シューター SINCE I DON'T HAVE YOU」が一番好きだ。原作はジェイムズ・エルロイ。ゲーリー・ビジー(バズ)がいいの。。LAで男を狂わす美女グレッチェンを取り合いするハワード・ヒューズとミッキー・コーエン(ジェームズ・ウッズ)。それぞれから女を捜すよう命令されたバズがふたりから金をせしめて、しかも平和裡に事を収める解決法やいかに? よく出来た話だと思う。

第三話「デリアのどんづまり DEAD-END FOR DELIA」これが一番評価が高いらしい。ある夜、デリアが路地で殺される。最期の言葉は「パット ごめんなさい。ルイスに聞いて」だった。3ヶ月前から行方しれずになり探し回っていた妻デリアの変わり果てた姿を見て、警察官のパットは独自の捜査をはじめる。確かに完成された作品でした。パットがゲーリー・オールドマン、ルイスがメグ・ティリー、殺されたデリアがガブリエル・アンウォー。何度もリメイクされているにもかかわらず、映画『ボディ・スナッチャー』と言えばまず思い浮かべるのはガブリエル・アンウォーの美しい裸身、のアンウォー(笑)。ダン・ヘダヤとかもでていたし、知っている俳優さんを見ているだけでも嬉しい。
おすすめ度★★★1/2
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