Rock Listner's Guide To Jazz Music


Christain McBride



Gettin' To It

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★☆
[Recording Date]
1994/8/30-9/1

[1] In A Hurry
[2] The Shade Of The Cedar Tree
[3] Too Close For Comfort
[4] Sitting On A Cloud
[5] Splanky
[6] Gettin' to It
[7] Stars Fell On Alabama
[8] Black Moon
[9] King Freddie Of Hubbard
[10] Night Train
Christian McBride (b)
Roy Hargrove
   (tp [1][2][6][9], flh [4])
Joshua Redman
   (ts [1][2][6][8][9])
Steve Turre (tb [1][6])
Cyrus Chestnut (p)
Lewis Nash (ds)
Ray Brown (b [5])
Milt Hinton (b [5])
後のリーダー・アルバムでも分かる通り、クリスチャン・マクブライドは単にベースを弾くだけでなく、曲を書き、明確に自分の音楽観を持ってアルバムを制作する人である。その初のリーダー・アルバムは、しごくまっとうなジャズ・アルバム。ジャズ・ベーシストとしてまず押さえるところはガッチリ押さえて、地盤をしっかりさせるための手堅いアルバムになったのは自然な成り行きだと言えるでしょう。ではこの94年という時代はジャズにとってどんな時代だったのか。フュージョンやクロスオーバーはもう遠い過去のもの、アコースティック・ジャズは伝統音楽としてひとつの確固としたカテゴリーであることを多くの人が認め、オーソドックスなメインストリーム・ジャズのCDをリリースする人は結構多かった。奇をてらうことはなく、尖った刺激を備えることはなく、そして50〜60年代の演奏から大幅にテクニックと洗練度が向上したジャズがこの時代は流行るとまでは言えないまでもしっかりとした居場所を構えていた。でも僕はこの時代のジャズをあまり面白いと思わない。上手いし洗練されているし、かつてのジャズとは語彙が違っているけれど、お行儀が良くて優等生的な演奏を聴いていても「ああ、上手いねー」と思うだけで気持ちが高揚することがなく、そのようなジャズに価値があるんだろうかと考えてしまう。このアルバムはそんなこの時代の典型的なアルバム。トリオ、カルテット、クインテット、セクステットまで編成にバラエティを持たせる工夫は見られるし、当時若手だった(今では大物)仲間の演奏ももちろん良い。音楽してのクオリティは高いんだけれど、今となってはこれをあえて選んで聴きたいという気持ちにさせてくれるものがあまりない。それにしても邦題「ファースト・ベース」って酷すぎません?(2021年12月20日)


Number Two Express

曲:★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★
[Recording Date]
1995/11/12,16,17

[1] Whrling Dervish
[2] Youthful Bluss
[3] Tones For Joan's Bones
[4] Egad
[5] Miyako
[6] Divergence
[7] Jayne  ornette
[8] A Morning Story
[9] Grove
[10] Little Sunflower
Kenny Garrett (as [1][6])
Gary Bartz (as [2][4][8][9])
Steve Nelson (vib [2][9])
Mino Cinelu (vib [10])
Chick Corea (p, elp [1][3][6])
Kenny Barron
   (p, elp [2][4][5][7][8][9])
Christian McBride (b, elb)
Jack DeJonette (ds)
最初のリーダー・アルバムが同世代の若手メンバーを中心に編成していたのに対して、この2作目は名を成したベテラン勢が顔を揃えた編成。録音状態や音の感触は95年相応ではあるものの、諸先輩方に敬意を払ってか演奏内容は60〜70年代のスタイルのジャズになっている。もちろんこのメンバーであるが故に演奏のクオリティは高い。マクブライドのリーダー・アルバムはどうしても几帳面なものになってしまう傾向があるけれど、ここでは音楽作りをリードしているというよりはベテラン勢に自由にやってもらっているせいかそのような真面目な感じは薄く、そういう意味でリーダー・アルバムとしての個性は薄い。ジャック・デジョネットのドタバタ、バシャンバシャンというドラムはいつもどおりで、アルバム全体のイメージを構成する主要素になっていて、チック・コリアのエレピが入る[6]ではマイルスのロスト・クインテットのような演奏になっている(収録曲のなかでは異色)。全体にマクブライドのグイグイ進む太めのランニング・ベースはここではやや影を潜め、[6]でデイヴ・ホランド的な刻みを聴かせる部分も含め、本来脇役であるベーシストの「相手に合わせて弾く」役割をこなすことを重視したように思える。その合わせる相手、ベテラン勢の安定感と持ち味と楽しむアルバム。[3]チック・コリア、[5]ウェイン・ショーター(ベースのアルコ弾き演奏)、[10]フレディ・ハバードの曲以外はマクブライドの自作。(2021年12月24日)

A Family Affair

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★☆
評価:★★★★
[Recording Date]
1998/1/27-31

[1] I'm Coming Home
[2] A Dream Of You
[3] Family Affair
[4] Theme From Our Fairy Tale
[5] ...Or So You Thought
[6] Summer Soft
[7] Brown Funk (For Ray)
[8] Open Sesame
[9] Wayne's World
[10] I'll Write A Song For You
Tim Warfield (ts)
Charles Craig (elp, p, key)
Russell Malone (g [4][7])
Christian McBride
   (b, elb, key)
Gregory Hutchinson (ds)
Munyungo Jackson
   (per [1][4][5][6][7])
Will Downing (vo [2])
Vesta (vo [5])
ここまでの2枚でまっとうなジャズ・アルバムを制作してきて「まずはジャズ・ベース・プレイヤーとしてやっておくべきことできた」と思ったからかどうかは定かでないけれど、3枚目のリーダー・アルバムは曲も演奏もより幅を広げたものになった。いかにもジャズな曲は[2][3]くらいで、フュージョン系のサウンドと演奏を基盤に中盤(このあたりはエレキ・ベース)でソウル/ファンクの要素を持つ曲も取り上げ、後半はアグレッシヴでフリーキーな演奏まで顔を覗かせる。これまでの2枚も演奏と曲の幅は広かったものの、それを難なくこなせる才能と優秀なサイド・メンによってソツなく真面目に作られているために、聴いていると窮屈な気分になってしまうところがあった。その点は基本的には同じ傾向はある(まあ同じ人が作ってますから)ものの、ここまで2枚を手堅く作り終えた余裕がそうさせるのか[1]で(ジョニー・マティスというよりは)スピナーズの曲をニューオーリンズ・ジャズのようなリズムで楽しく始めるところから遊び心があり、アルバム全体も作り込みすぎておらず、良い意味での幾分の緩さがあって曲も演奏も自然に気持ちに入ってくるところが良い。余裕があるからこそ、高度で盤石な演奏が生き生きして聴こえてくるということも過去の2枚との比較で実感する。(2021年12月4日)

SCI-FI / Chiristian McBride Band

曲:★★★☆
演奏:★★★☆
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
2000/2/10-12

[1] Aja
[2] Uhura's Moment Returned
[3] Xerxes
[4] Lullaby for a Ladybug
[5] Science Fiction
[6] Walking on the Moon
[7] Havona
[8] I Guess I'll Have to Forget
[9] Butterfly Dreams
[10] Via Mwandishi
[11] The Sci-Fi Outro
[12] Sister Rosa
Ron Blake (ts, bs, fl)
Shedrick Mitchell (p, elp)
Christian McBride
 (b, elb, elp, key [7])
 ([12] el piccolo bass,
  p, b, ds)
Rodney Green (ds)

Herbie Hancock (p [3][4])
Dianne Reeves
          (vocalese [4])
Toots Thieleman
          (harmonica [8])
James Carter (bcl [6][8])
David Gilmore
         (g [1][5][6][10])
ウッドベースのジャズ・スタイルで進めるスティーリー・ダンの超有名曲[1]がオープニング。ハンコックが参加している[2][3]で、そしてダイアン・リーヴスがシャーデーにも似たボサ・ノヴァ・テイスト漂うスキャットを聴かせる[4]まで聴いているといかにもアコースティック・ジャズのアルバムに聴こえる。しかし、[5]からはエレピやエレキ・ギターが入ってきてクロスオーヴァーなサウンドになってくる。[6]のスティングの曲でジャジーなバラードに一旦戻りつつもここからエレキ・ベースが登場、ジャコ・パストリアススタイルのベースが[6]にも続き、ウェザー・リポートの[7]はノリ一発の軽快な演奏が心地良い。4曲で聴こえてくるエレキ・ギター(カタカナにするとピンク・フロイドのあの人と同じ名前だけど別人です)も典型的なクロスオーバー・スタイル。例えば初リーダー・アルバムと比べると「カッチリしたものを作ろう」という感じはなく、適度に緩く、それ故に(あまりこの言葉に縁のない人だけど)スリルもそれなりにあって、肩肘張らずやりたいようにやっている感じが好印象。この後も長い付き合いになるロン・ブレイクのサックスがこの幅広いサウンドを支えていてここでは重要な役割を担っているのは間違いない。アルバム・ジャケットの未来的なイメージとは異なり、実は古典的アコースティック・ジャズと古典的フュージョン・サウンドをバランス良く並べた気軽に聴ける良作。(2021年12月20日)

The Philadelphia Experiment

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
2000/9/25-27

[1] Philadelphia Experiment
[2] Grover
[3] Lesson #4
[4] Call For All Demons
[5] Trouble Man Theme
[6] Ain't If The Truth
[7] Ile Ife
[8] The Miles Hit
[9] (Re)moved
[10] Philadelphia Freedom
[11] Mister Magic
[12] Just The Two Of Us
Uri Cane (elp, p, org)
Christian McBride (elb, b)
Armir Thompson (ds)

Pat Martino (elg [1][2][4]
John Swana (tp [1][5])
Larry Gold (cello, Arr [10]
Aaron Louis Levinson
(handcrap & SFX [2][9])
こちらはマクブライドのリーダーアルバムではなく、フィラデルフィア・エクスペリメントという3人のユニット(+ゲスト)のアルバム。組む相手はヒップホップ界のドラマー、アミール・トンプソン(別名クエストラヴ)と、クラシックにも足を伸ばすジャズ・ピアニストのユリ・ケイン。出てくるサウンドはエレクトリック・ジャズとヒップホップ/ファンクが融合したもの。そう聞くとロバート・グラスパーを連想するし、今ではこ種のサウンドは珍しいものではないから既に発売から20年以上経過している現在、特に注目されているアルバムではない(本日時点で廃盤)。ストレードアヘッドなジャズの愛好者はヒップホップと聴いただけで「ああ、あの単調なリズムだけの音楽ね」と受け付けない御人もいるに違いない。僕も以前はそうだったんだけれど、いろいろ(例えばホセ・ジェイムとか)聴いているうちに結構馴染むようになってきた。マイルス・デイヴィスだって晩年にはヒップホップに接近していたわけで、両者の距離は実は近いものだという理解に変わっている。このユニットはベースとドラムの技量が高く、単調なリズムにはなり得ないし、そこに乗るエレピもクールだから、ともすれば打ち込み系と思われがちなヒップホップとは一線を画する。[9]はフォービートのピアノ・トリオ演奏まで登場し、各メンバーが持っている音楽の幅広さが感じられる。20年以上経過していてもまったく古さを感じさせず、今聴いてもカッコいいと感じさせるのは音楽として普遍的なクオリティの高さを備えているからに他ならない。(2021年12月25日)

Vertical Vison

曲:★★★☆
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★
評価:★★★★
[Recording Date]
2002/6/14-16

[1] Circa 1990
[2] Technicolor Nightmare
[3] Tahitian Pearl
[4] The Wizard Of Montara
[5] The Ballad Of Little Girl Dance
[6] Lejos De Usted
[7] Song For Maya
[8] Boogie Woogie Waltz
Ron Blake (ts, ss, fl)
Geoffrey Keezer (p, key)
Christian McBride (b, elb)
Terreon Gully (ds)
所謂、世間的に良く知られているフュージョン・ミュージックに取り組んでみました、というがこのアルバム。SE的短いイントロに次いで始まる[2]はロック的なハード・フュージョンでハイテンションかつテクニカルに迫る。それ以降はそこまでハードにプッシュしている演奏が続くわけではなく、エレキ・ベースで弾かれる曲はどこかウェザー・リポートのサウンドに似ている(実際[8]はウェザー・リポートの曲)のはマクブライドの趣味では当然に成り行きか。なんでも無難にこなすロン・ブレイクは実はこういうサウンドが一番合っていると思わせるハマり具合。キーボードも収まるべくして収まる安全運転でこれもフュージョン的である。ならばウェザー・リポートを聴いていればいいじゃないか、ということにさせないのがテレオン・ガリーのドラミング。聴いただけで「あ、これは黒人だな」とすぐにわかる芯の太さがあり、その迫力だけに留まらず、キレと小技をこなすテクニックをも備えている。やっている音楽は特に目新しいものではなく、数ある耳あたりの良いフュージョンのうちの1枚ということになってしまうけれど、このドラムを味わいたいという理由だけで聴きたいというモチベーションをも持たせてくれる。僕にとってはドラムの凄さを味わうための1枚。(2021年12月21日)

Live At Tonic / Chiristian McBride Band

曲:★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
2005/1/10,11

Disc 1
[1] Technicolor Nightmare
[2] Say Something
[3] Clerow's Flipped
[4] Lejos De Usted
[5] Sonic Tonic
[6] Hibiscus
[7] Sitting On A Cloud
[8] Boogie Woogie Waltz

Disc 2 1/10 2nd set
[1] See Jam, Hear Jam, Feel Jam
[2] Out Jam
   /Give It Up Or Turn It Loose
[3] Lower East Side/Rock Jam
[4] Hemisphere Jam
[5] Bitches Brew
[6] Out Jam/Via Mwandishi
[7] Mwandishi Outcome Jam
[8] The Comedown (LSD Jam)

Disc 3 1/11 2nd set
[1] E Jam
[2] AB Minor Jam
[3] D Shuffle Jam
[4] D Shuffle Jam (part 2)
Geoffrey Keezer (key)
Ron Blake (ts, bs, fl)
Christian McBride (b, elb)
Terreon Gully (ds)

Disc 1 (guests)
Charlie Hunter (guitar)
Jason Moran (piano)
Jenny Scheinman (violin)

Disc 2 (guests)
Rashawn Ross (tp)
DJ Logic (turntables)
Scratch (beat box)
Eric Krasno (g)
今は閉店してしまったマンハッタンのトニックというクラブで2005年1月10日、11日の両日で行ったライヴを収めた3枚組。Disc 1はクリスチャン・マクブライド・バンドでの演奏で両日のベストテイクを集約したもの。両日共に2nd setはゲストを加えた演奏になっており、Disc 2とDisc 3にそれぞれが収録されている。軸足はジャズにありつつもファンク、ソウル、R&Bといった黒人音楽の根幹をなす要素が入り混じっていて、そうしたジャンルを融合して新しいサウンドを作ろう(熟考して練られた音楽を作ろうと)いうよりも、やりたい音楽をやってみたらこうなりましたといういかにもライヴならではの即興性が聴きどころ。演奏は、事前の約束事をあまり決めていないジャム・セッションそのもの。ライヴでのジャム・セッションとなると単調なリズムを繰り返してダラダラとソロを取るという実はあまり面白くない演奏になりがち。もちろんここに収められている演奏にもそういう要素がないとは言わないけれど、遊び的な余裕を持たせつつも弛んだ時間はほとんどなく演奏は一定の緊張感があって一瞬たりとも耳が離せない。典型的なジャズになっていない最大の要因は、スコンスコンと高いスネア音が多いドラムの在り方によるもので、このソウル/ファンク系ドラムの小気味良さが肌に合うようならこの3枚組は一気に通して聴すことも苦にならない。ゲストが参加するDisc 2からよりジャム色が濃くなり、Disc 3はスクラッチを混ぜて更にファンク・テイストが横溢(ジェームズ・ブラウンマニアのマクブライドの面目躍如)、いかにも深夜のギグというムードになってくる。3枚共に、ジャム・セッションでしか出てこないスリルと演奏者同士の即興的な絡みをお腹いっぱいに満喫できること請け合い。既に廃盤ながらスポンティニアスな生演奏の面白さを味わいたいのなら中古でも入手する価値あり。(2021年12月19日)

Kind Of Brown / Christian McBride & Inside Straight

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★☆
[Released Date]
2009/6/16

[1] Brother Mister
[2] Theme For Kareem
[3] Rainbow Wheel
[4] Starbeam
[5] Used 'Ta Cloud
[6] The Shade Of The Ceder Tree
[7] Pursuit Of Peace
[8] Uncle James
[9] Stick & Move
[10] Where Are You ?
Steve Wilson (as, ss)
Warren Wolf (vib)
Eric Scott Reed (p)
Christian McBride (b)
Carl Allen (ds)
94年、初のリーダー・アルバムからコンスタントに自身名義のアルバムをリリース、それぞれ音楽性も演奏レベルも高い。一方で、クリスチャン・マクブライド・バンド名義を含めて、1枚のアルバムの中でゲストを交えて編成をいろいろと変えフュージョン系やファンク系の曲も幅広く収めた、良く言えば多彩な、悪く言えばイメージが明確でないアルバムを作り続けてきた。それでも一定の統一感があるのは、マクブライドが音楽家として優れていてバランス感覚を持っているからでしょう。その器用さはよくわかるものの、何を表現したくてアルバムを制作しているのか主軸が定まっていなかったという見方もできる。スタジオ録音のリーダー・アルバムとしては7年ぶりとなるこのアルバムは、マクブライド自身が才能を見出したというヴィブラフォン奏者のウォーレン・ウルフを含む固定メンバーで初めて制作されたところが(今更ながら)目新しい。楽器編成もメンバーも固定、マクブライドはウッド・ベースで通しているからサウンドはひとつのバンドとして統一感がある。聴こえてくるのはこの編成としてしごくまっとうな、ストレート・アヘッドで気難しさ皆無の心地よいジャズ。曲調は幅広く、演奏の技術もツボの押さえ方もケチのつけようがないくらいクオリティが高い。尖った演奏や表現を目指しているわけではない上にこのスムーズで上質な演奏とマクブライドの几帳面さが音楽に現れていることで、アップテンポの曲であってもスリルや熱気をあまり感じさせないから、のめり込んで自ら音楽に没入していく感覚を抱くことは難しい。技術向上と洗練は、音楽が目指す進化としてまっとうなはずなのに、ここまでキレイでお行儀良くまとまってしまうとジャズが持っている野性味が失われてしまうものだなあという思いを抱いてしまう。(2021年12月22日)

Conversation With Christian

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★
評価:★★★★
[Released Date]
2011/11/8

[1] Afirika
   (featuring Angelique Kidjo)
[2] Fat Bach and Greens
   (featuring Regina Carter)
[3] Consider Me Gone
   (featuring Sting)
[4] Guajeo y Tumbao
   (featuring Eddie Palmieri)
[5] Baubles, Bangles and Beads
   (featuring Roy Hargrove)
[6] Spiritual
   (featuring Billy Taylor)
[7] It's Your Thing
   (featuring Dee Dee Bridgewater)
[8] Alone Together
   (featuring Hank Jones)
[9] McDukey Blues
   (featuring George Duke)
[10] Tango Improvisation #1
   (featuring Chick Corea)
[11] Sister Rosa
    (featuring Russell Malone)
[12] Shake 'n Blake
    (featuring Ron Blake)
[13] Chitlins and Gefiltefish
    (featuring Gina Gershon)
Christian McBride (b, elp)
and Guests
各曲にゲストを迎えてクリスチャン・マクブライドとのデュオを収めた企画モノ。ゲストはジャンルも楽器もさまざま、取り上げる曲もバラバラなんだけれど、全曲ウッド・ベースが文字通りベースになっているパフォーマンスということもあって意外や散漫な印象はなく通して聴いても違和感はない。ベースとのデュオのみだから、耳を奪われてグイグイ引き込まれるということはなく、パフォーマンスはこじんまりとしたものになるのは仕方のないところ。日本で知名度が高いと言えるゲストは少ないものの、実力のある個性派ミュージシャン達の飾り気のないパフォーマンスを密室で聴いているかのような味わいは有る種贅沢な音楽の聴き方だし、音楽そのものは豊かさに満ちている。もちろんマクブライドの妙技もたっぷりと味わうことができる。(2022年2月6日)

The Good Feeling / Christian McBride Big Band

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★☆
[Release Date]
2011/9/27

[1] Shake 'n Blake
[2] Broadway
[3] Brother Mister
[4] When I Fall In Love
[5] Science Fiction
[6] The Shade Of The Cedar Tree
[7] The More I See You
[8] I Should Care
[9] A Taste Of Honey
[10] Bluesin' In Alphabet City
[11] In A Hurry
Frank Greene (tp)
Freddie Hendrix (tp)
Nocholas Payton (tp)
Nabate Isles (tp)
Steve Davis (tb)
Michael Dease (tb)
James Burton (tb)
Douglas Purviance (btb)
Ron Blake (ts. ss, fl)
Todd Williams (ts, fl)
Leon Schoenberg (ts [2][8])
Steve Wilson (as, fl)
Todd Bashore (as, fl)
Carl Maraghi (bs, bcl)
Xavier Davis (p)
Christian McBride (b)
Ultsses Owen Jr. (ds)
Melissa Walker (vo [4][7][9])
インサイド・ストレートでバンドとして自身の音楽を表現することを試みたマクブライドが次の取り組んだのはビッグ・バンド。自作曲を中心に現代のミュージシャンによるビッグ・バンドはどんなものかと言うと、予想以上にオーソドックスでノスタルジックな往年のビッグ・バンドのスタイル。ホーン・アンサンブルのムードも古き良き時代のそれで、このアルバムを最初に聴いて目新しさや特異性を感じる人はまずいないはず。そんな手垢にまみれてカビが生えたビッグ・バンドのサウンドをあえて堂々と演っているのはマクブライドがかつてのビッグ・バンドをリスペクトしているからであろうことは想像できる。古い手法そのままで演っているとはいえアレンジには現代的な工夫もあるし、メンバーの演奏は当然現代のスタイルに則ったもので、演奏技術の高さをベースに明快で綻びがない鉄壁のアンサンブルで聴かせている。この完成度の高さと安定感に感心はするけれど気持ちを揺さぶられるような興奮を覚えることはない、というこれまでのマクブライドのリーダー・アルバムと同様の感想をここでも書くことになってしまっている。今や絶滅危惧種と言っても良いビッグ・バンドという形態を伝統芸能として正面から取り組んでその文化を残そうという活動はとても素晴らしいとは思うし、生で聴いたら楽しそうだなとは思うんだけれど、このアルバムを積極的に手に取ろうと思わせるもうひと押しが足りない。(2021年12月25日)


People Music / Chiristian McBride & Inside Straight

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★★
[Release Date]
2013/5/14

[1] Listen To The Heros Cry
[2] Fair Hope Theme
[3] Gang Gang
[4] Ms. Angelou
[5] The Movement, Revisted
[6] Unusual Suspects
[7] Dream Train
[8] New Hope's Angel
Steve Wilson (as, ss)
Warren Wolf (vib)
Peter Martin
   (p [2][3][4][5][6][8])
Christian Sands (p [1][7])
Christian McBride (b)
Ulysses Owen Jr. (ds [1][7])
Carl Allen
   (ds [2][3][4][5][6][8])
インサイド・ストレート名義での2枚目。ピアニストが交代、2曲でドラムが異なるという違いはあれど編成は同じで音楽の方向性も違いはない。これまでは同じクリスチャン・マクブライド・バンド名義でも編成やメンバーがバラバラだったことを考えると、マクブライドの経歴上初めてのパーマネント・バンドとしての活動と言えるかもしれない。前作から4年が経過し、その間恐らくは数多くのライヴもこなしてきたであろうことからか、演奏はより自由度が高くなっている。それはソロ・パートの時間が多く取られているということではなく、メンバー間との連携や距離の取り方がより複雑かつ柔軟になっているという意味での自由度の高さを意味していて、ひらたく言うならばバンドとしての成熟度が高まり演奏表現の幅が広がっているということ。この自由度の高さをジャズの醍醐味と捉えるのであればこの2枚目の方がずっと聴き応えがある。現代のジャズは表現が洗練されていることが前提となっていて熱さを感じさせるものは見かけなくなってしまったけれど、このアルバムでは往年のジャズが持っていた熱さが垣間見える。自身の音楽性と演奏技術を背景に器用にいろいろな音楽をこなしてきたマクブライドが、グループとして音楽を創りにおいてもついに成果を上げはじめたと言って差し支えない充実した内容だと言える。(2021年12月23日)

Out Here / Christian McBride Trio

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★★★
評価:★★★★★
[Release Date]
2013/8/6

[1] Ham Hocks and Cabbage
[2] Hallelujah Time
[3] I Guess I'll Have to Forget
[4] Easy Walker
[5] My Favorite Things
[6] East of the Sun
    (And West of the Moon)
[7] Cherokee
[8] I Have Dreamed
[9] Who's Making Love
Christian Snads (p)
Christian McBride (b)
Ulysses Owens Jr. (ds)
ベーシストのリーダー・アルバムというのは編成としてはギターを入れたり、ピアノ・トリオであったり管楽器を外した方がベースの存在感を出しやすい。しかし、音楽家としての資質があるマクブライドはそうした安易な手法はこれまで採ってこなかった。すっかり大物ベーシストとして、音楽家としての評価が確立したマクブライドがここに来てその王道手段に取り組む。相手はインサイド・ストレートやマクブライド・ビッグ・バンドで共演し、恐らく気心が知れた若いクリスチャン・サンズとユリシス・オーエンス・ジュニア。それぞれ17歳、10歳下と弟子のようなものであり、安易なピアノ・トリオ・ジャズに落ち着くことが予想できる。現代のジャズ・ピアノは妙にひねくれたり内向的で思索的であったり芸術性の高さを見せるものが多く、それはそれでいいんだけれど伝統的なジャズ・ピアノが持つ躍動感や疾走感、明快さといったものがほとんど感じられない。それをジャズの進化だとするならば、このトリオは懐古的で安易ということになるのかもしれない。クリスチャン・サンズのピアノはオスカー・ピーターソン、ボビー・ティモンズ、ジーン・ハリス、ホレス・シルヴァーといった伝統的な黒人ピアニストの王道スタイルを踏襲していて、しかも疾走感や正確さ、タッチの鋭さと言ったテクニックはその諸先輩方よりも断然優れている。もちろんマクブライドの骨太かつ正確でスピーディなベースと、キレと重みをを兼ね備えたオーエンス・ジュニアのドラムもテクニックは最上級。テクニックに溺れず、黒人3人ならではの伝統的ピアノ・トリオを現代の語法で表現すると、明快で楽しくも聴き応えたっぷりのカッコいいものに仕上がることを立証している。スローでブルージーな曲から内省的な一面も覗かせる曲まで幅広く聴かせるところも受かりない。ジョニー・テイラーの68年のヒット曲[9]でポップに締めるところも粋。斬新であったり芸術性が高いものであったりする必要はない、ピアノ・トリオジャズの王道はこれだ、という妙に力んだところもないところがイイ。気難しさ皆無で気持ちが上がるわかりやすさと高度な演奏が見事にバランスした現代ジャズ・トリオを秀作。(2021年12月27日)

The Movement Revisited:
                        A Musical Portrait of Four Icons

曲:★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
評価:★★★
[Recording Date]
2013/9/8-11

[1] Overture
   /The Movement Revisited
[2] Sister Rosa - Prologue
[3] Sister Rosa
[4] Rosa Introduces Malcolm
[5] Brother Malcolm - Prologue
[6] Brother Malcolm
[7] Malcolm Introduces Ali
[8] Ali Speaks
[9] Rumble In The Jungle
[10] Rosa Introduces MLK
[11] Soldiers (I Have a Dream)
[12] A View From The Mountaintop
[13] Apotheosis: November 4th, 2008
Lew Soloff (tp)
Ron Tooley (tp)
Frank Greene (tp)
Freddie Hendrix (tp)
Darryl Shaw (tp)
Ron Blake (ts, ss)
Loren Schoenberg (ts)
Steve Wilson (as, fl)
Todd Bashore (as)
Carl Maraghi (bs)
Michael Dease (tb)
Steve Davis(tb)
James Burton (tb)
Doug Purviance (btb)
Warren Wolf
     (vib, tmbrn, timpani)
Geoffrey Keezer (p)
Christian McBride (b, arr)
Terreon Gully (ds)


J.D. Steele
 (choral arr,vo [9][12])
Alicia Olatuja (vo [6])
Sonia Sanchez
(narrates the words of
 Rosa Parks)
Vondie Curtis-Hall
(narrates the words of
 Malcolm X)
Dion Graham
(narrates the words of
 Muhammad Ali)
Wendell Pierce
(narrates the words of
 Rev. Dr. Martin Luther
  King Jr.)

Sonia Sanchez, Vondie
Curtis-Hall,
Dion Graham and Wendell
Pierce
(narrate the words of
President Barack Obama)

Voices Of The Flame:
Marvel Allen
Shani P. Baker
Jeffrey S. Bolding
Jeff Hamer
Susann Miles
Deborah Newallo
Eunice Newkirk
Claudine Rucker
Trevor Smith
Melissa Walker
Webサイトの情報によると本作の制作背景は次の通り。

「本原点は1998年のこと。クリスチャン・マクブライドがポートランド芸術協会から"黒人歴史月間"というイベントのための作曲を依頼されたことが発端となった。その時に、カルテット+ゴスペル・クワイアという編成で書き上げられた"Movement Revi si ted"が、10年後、2008年5月にロサンゼルスで行なわれたコンサートで再演された際に、スモール・コンボ+ビッグバンド+ゴスペル・クワイア+ナレーターの大編成が奏でる4楽章の組曲へと発展した。
それら4つの楽章は、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師、ローザ・パークス、マルコムXという1960年代の公民権運動に大きな貢献を果たした3人と、同時代にべトナム戦争への徴兵を拒否したことによって当時のボクシング世界ヘヴィー級王者のタイトルを剥奪されながらも黒人の地位向上のために大きな尽力をしたプロ・ボクサー、モハメド・アリを合わせた4人のアイコンに捧げている。
さらに2008年11月にバラク・オバマがアメリカ初の黒人大統領になったことによって新たな楽章「Apotheosis: November 4th, 2008」が追加され、2010年2月13日にミシガン大学で演奏された。」

まだ人種差別があからさまにまかり通っていた50年代のジャズ・ミュージシャン達は、黒人アイデンティティを強く押し出したアルバムを発表していた。表立ってそれを行っていたのはチャールズ・ミンガスだけれども、ビリー・ホリデーやマイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーンなども黒人としての主張を音楽に込めることは珍しくなかった。人種差別が急に改善されたとは思えない60年代になるとそうした表現をするトレンドは控えめになり(とはいえスライなどジャズ以外では主張を続けていた)、21世紀となった今ではそうした表現を表立って行うことはなくなった。音楽に品性があり、音楽性に様々な要素を取り込むマクブライドがは音楽の中での黒人アイデンティティは感じるものの、明確なメッセージ性を込めたことはこれまでなかった。それが2020年という時代に、堂々とその主張をしたのがこのアルバム。マクブライドのベースをバックに、ナレーションで人種差別に抗うメッセージが次々に朗読される。音楽的には、大編成のバンド(決してビッグ・バンドのような編曲・演奏ではない)とコーラス、歌が入り、黒人としてのメッセージが語られる。ナレーションの意味がわからないと込められた主張を理解することは難しい。シリアスなゴスペル調のパートや、コルトレーンの「至上の愛」のようなムードが漂うところまであり、これまで一貫して純粋に娯楽としての音楽に取り組んできたマクブライドが作った、シリアスで重さを伴った壮大なジャズ抒情詩になっている。何度も繰り返して聴きたいとは思わないし、BGMには向いていないけれど、力作であることは間違いない。(2021年12月29日)

Live At The Village Vanguard
                 / Chiristian McBride & Inside Straight

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
2014/Dec

[1] Sweet Bread
[2] Fair Hope Theme
[3] Ms. Angelou
[4] The Shade Of The Ceder Tree
[5] Gang Gang
[6] Uncle James
[7] Stick & Move
Steve Wilson (as, ss)
Warren Wolf Jr.(vib)
Peter Martin (p)
Christian McBride (b)
Carl Allen (ds)
現代のジャズは、整った演奏を洗練されたスタイルで聴かせる。昔と同じことをやっていては当然評価されないからそうなるのは必然ではある。しかし、そうなってしまったが故に押しなべてスリルがない。気持ちが高揚しない。しょうがない、それが現代のジャズだ、これはこれで品格があっていいじゃないかと思って聴いている。でもジャズってそういうものじゃないだろう、とも言いたくなってしまう。抑揚が効いて洗練されたスタイルを楽しむことが現代のジャズだとの思いが確定しているところで聴いたこのアルバム良い意味で期待とは違っていた。インサイド・ストレートというグループ名義のスタジオ・アルバムは、僕が抱いている現代のジャズのフィーリングそのものの演奏になっている。しかし、この名門クラブでのライヴは違っていた。演奏はラフだし、演奏は抑制されていなくてスポンティニアスなジャズ本来の演奏の主張がある。もちろん演奏スタイルや表現は現代の芸風を踏襲しているけれど、正確な演奏に注力しすぎることがなく、ある意味不安定な要素を残しているが故に体を動かしたくなるような躍動感がある。それはある意味古いスタイルでそれをあえて録音から7年も経ってからリリースする理由は何かと言ったら、ジャズの魅力の根底にあるのは躍動感、高揚感であるとマクブライドが実は思っているからではないだろうか。約80分の中にはアップテンポなものからスローな曲まで、内容も硬軟取り混ぜていて飽きさせないところも魅力。ときには70年代に流行ったスタイルやメロディ(マッコイ・タイナーのライヴ盤と似たムード)まで聞こえてくるけれど、それすらもジャズの歴史の一部として堂々と演奏すればいいじゃないかという主張が感じられる。近年CDとしてリリースされたのジャズ演奏で、ここまで古き良きジャズのスタイルを明け透けに出している例は珍しいんじゃないだろうか。(2021年12月4日)

Live At The Village Vanguard
                                    / Chiristian McBride Trio

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
2014/12/12-14

[1] Fried Pies
[2] Band Introduction
[3] Interlude
[4] Sand Dune
[5] Lady in My Life, The
[6] Cherokee
[7] Good Morning Heartache
[8] Down by the Riverside
[9] Car Wash
Christian Snads (p)
Christian McBride (b)
Ulysses Owens Jr. (ds)
スタジオ・アルバムでも楽しく聴けるストレート・アヘッドなピアノ・トリオ・ジャズを聴かせた3人によりヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴは、よりライヴリーな仕上がり。マクブライド自身のMC、長めのソロと言ったライヴならではのムードはもちろん、スタジオ盤で聴かせた緻密な演奏力と生演奏ならではの良い意味での粗さ、自由度の高さを味わうことができる。聴いていて気分良く、思わず笑顔になってしまうような伝統的古典ジャズが持つ楽しさと高揚感があるところが素晴らしく、これの場にいたかったと思わせる。Rose Royceのヒット曲、"Car Wash"でジャズ・クラブの楽しい空気感が伝わる締め方も良い。これもレベルの高い演奏とジャズの楽しさの双方がたっぷり味わえる好盤。(2021年12月27日)

Bring It / Christian McBride Big Band

曲:★★★★☆
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★★☆
[Release Date]
2017/9/21

[1] Gettin' To It
[2] Thermo
[3] Youthful Bliss
[4] I Thought About You
[5] Sahara
[6] Upside Down
[7] Full House
[8] Mr. Bojangles
[9] Used 'ta Could
[10] In The Wee Small Hours
                         Of The Morning
[11] Optimism
Frank Greene (tp)
Freddie Hendrix (tp)
Brandon Lee (tp)
Nabate Isles (tp)
Ron Blake (ts. fl)
Dan Pratt (ts, cl)
Steve Wilson (as, ss, fl)
Todd Bashore (as, fl, piccolo)
Carl Maraghi (bs, bcl)
Michael Dease (tb)
Steve Davis (tb [11])
Joe McDonough
       (tb except[11])
James Burton (tb)
Douglas Purviance (btb)
Xavier Davis (p)
Rodney Jones (g [1][7])
Christian McBride (b)
Quincy Phillips (ds)
Melissa Walker (vo [6][8])
Brandee Younger (harp [10])
前作から6年ぶりとなるマクブライド・ビッグ・バンドの2枚目。伝統的な、言い換えると型に嵌まったビッグ・バンドというスタイルであえてもう1枚の制作に至った理由は定かでないけれど、「演っていて楽しいから」というのが理由ではないかと思える。前作と比較してスタイルは変わっていない。アレンジと曲のバリエーションが広がっていること、ソロパートが充実していることが6年で蓄積された経験値の成果として現れている。バンド全体の演奏もより勢いがあってライヴ演奏のムードをイメージさせるようになっている。もともと精度が高くてきっちり演奏することはお手の物だったこのビッグバンドが、よりダイナミックで生気漲るパフォーマンスをするようになったところが進化点。曲、アレンジ、ソロのいずれもが底上げされたことで1枚通して聴いて飽きさせない充実したアルバムになった。(2021年12月26日)

Christian McBride's New Jawn

曲:★★★☆
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
2017/5/25-27

[1] Walkin' Funny
[2] Ke-Kelli Sketch
[3] Ballad of Ernie Washington
[4] The Middle Man
[5] Pier One Import
[6] Kush
[7] Seek The Source
[8] John Day
[9] Sightseeing
Josh Evans (tp)
Marcus Strickland (ts, bcl)
Christian McBride (b)
Nasheet Waits (ds)
トランペットとサックスのフロントにピアノレスのリズムセクション、となると60年代のオーネット・コールマン・カルテットを連想する。アルトとテナーの違いこそあれ、この編成となると実際に音の感触は似てくる。そのオーネットのカルテットは、独特のヒョロっとしたトボけたメロディが独自性を際立たせているけれど、このカルテットではそうした癖は当然抑えられていて、ピアノレスのソリッドなサウンドでシリアス度は高くなっている。ほぼ同時期に録音されたジョシュア・レッドマンの「Still Dreaming」も同じ編成で、曲のムードも奏法も恐らくオマージュとしてあえてオーネット・コールマン・カルテットを模しているところがあり、奏法(チャーリー・ヘイデンそのものなベース奏法も聴こえる)やフレーズ、フロント二管の絡み方だったりという点において確信的に似せている。それに対してこちらはより真面目に取り組んでいて、演奏の精度が高く、歌わせ方もよりテクニカル。ピアノがいないことによってより浮き立つマクブライドのベースは音程の選び方にヒネリを加えつつ基本的にいつも通りの安定感とスピーディな推進力で押し、それによってよりオーソドックスな普遍性をもたらしている。シリアス傾向に軸足を起きつつも眉間にシワ寄せてというほどではなく、トボけたムードも隠し味として持たせているのがこのユニットなりのオーネットへのオマージュということなのかもしれない。最初に聴いたときには、既視感のあるサウンドと地味な曲調のせいか印象が薄かったものの、何度か聴いていくうちに曲と演奏のクオリティの高さをジワジワと実感させてくれる。アルバムを通してサウンドのトーンは一貫しており、しかしアレンジや演奏には創意工夫とヒネった遊び心が横溢していて飽きさせないところにグループとしての実力の高さが良く現れている。(2021年12月17日)

For Jimmy, Wes and Oliver
                            / Christian Mcbride Big Band

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★☆
評価:★★★★★
[Recording  Date]
2019

[1] Night Train
[2] Road Song
[3] Up Jumped Spring
[4] Milestones
[5] The Very Thought of You
[6] Down by the Riverside
[7] I Want to Talk About You
[8] Don Is
[9] Medgar Evers' Blues
[10] Pie Blues
Frank Greene (tp)
Freddie Hendrix(tp)
Brandon Lee (tp)
Nabate Isles (tp)
Anthony Hervey (tp)
Michael Dease (tb)
Steve Davis (tb)
James Burton (tb)
Douglas Purviance (tb)
Steve Wilson (ts)
Todd Bashore (ts)
Ron Blake (ts)
Dan Pratt (ts)
Carl Maraghi (ts)
Mark Whitfield (g)
Joey Joey DeFrancesco  (org)
Christian McBride (b)
Quincy Phillips (ds)
マクブライド・ビッグ・バンドの第3弾は、ジミー・スミスとウェス・モンゴメリーの共演盤「Dynamic Duo」「Further Adventure」のトリビュート的な企画(カルテット編成を4曲入れているのもこれらのアルバムに倣っているらしい)。現代のジャズにおいて高い完成度と安定感を誇るこのビッグ・バンドは、一方で優等生的で面白みがないという見方もできるアルバムを既に2枚制作してきた。今回は、企画がハッキリしていて馴染みの曲が多いこともあって、古き良きジャズのようなおおらかさがあってまた聴いてみようという気にさせる魅力がある。企画の主旨の通り、オルガンとギターがサウンドの主要部分を占めていてビッグ・バンドありきの演奏になっていないところもこれまでと大きく異るところ。そのオルガンとギターの演奏は申し分なく、企画の意図をなぞるだけでなく、オーソドックスなスタイルの演奏でによる説得力ある堂々とした演奏を味わえる。先達がやってたことを今風にやっているだけではないかという見方ができるのは確かにそうかもしれないけれど、古き良きジャズが備える魅力をより魅力的な演奏で聴けるとなればそんなことはどうでも良くなる。(2022年9月11日)

Prime / Christian McBride's New Jawn

曲:★★★☆
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
2021/12/16,17

[Release Date]
2023/3/7

[1] Head Bedlam
[2] Prime
[3] Moonchild
[4] Obseqious
[5] Lurkers
[6] The Good Life
[7] Dolphy Dust
[8] East Broadway Rundown
Josh Evans (tp)
Marcus Strickland (ts, bcl)
Christian McBride (b)
Nasheet Waits (ds)
ピアノレス・カルテットのグループ、New Jawnの2作目。前作はこの編成を取りつつ、あまりオーネット・コールマンをオマージュしているムードはなく、本作の解説によるとオーネットを意識したものではなかったとのマクブライドのコメントが書かれている、編成は同じでも音楽は独自のものを目指しているんだというプライドということなのかもしれない。この2作目はまず、いわゆる典型的なフリーのぐしゃぐしゃな演奏で始まり、前作に続きオリジナル曲を揃える中で[6]はオーネット・コールマンの曲([4]はラリー・ヤングの曲)を取りあげるなど、殊更オリジナリティを強調するするような力みは感じられない。しかし、演奏の方向性と質の高さはは前作と変わるところはなく、より自信と余裕を持って音楽作りに挑んだのではないだろうか。とにかく演奏力の高さが凄まじい。演奏力が高ければいいってもんじゃないというのはどのジャンルの音楽であっても言えることではあるけれど、その正確で複雑なフレーズと各メンバーの緻密な絡みは極上のレベルにあり、親しみやすさやおおらかさをあえて排除したかのようなソリッドでタイトな演奏にグイグイ引き込まれる。(2023年5月25日)