しかしパンダは出なかった〜上海馬戯城
 
しかしパンダは出なかった
〜上海馬戯城
 

   北京の京劇、上海の雑技。そう、せっかく上海に来たからには中国が世界に誇るこの伝統芸能を見逃す手はない。実は観光一日目に淮海路まで足を伸ばし、花園飯店のJCBプラザで送迎+チケットの上海馬戯城オプショナルツアーを抜かりなく申し込んでおいたのだ。
 南京路の上海商城でも雑技を見ることができる。アクセスが良く、パッケージツアーなどではむしろこちらが一般的かもしれない。しかし、繁華街のど真ん中にあり動物の出演が難しいことなどから1999年に市の北に雑技専用の劇場、上海馬戯城が建設された。ここしばらく動物のショーは休止されていたが、大型連休の到来を契機に再開されることになったそうだ。
「楽しみだね。ワクワクするね」
「何が出るのかな。パンダかな、象かな」
 ホテルから車を飛ばすこと20分弱、松ぼっくりのようにデコボコした金色のドームが道沿いに現れた。一目でそれとわかる変テコな外観だ。ガイドにチケットを買ってもらい入口へ向かう。ドームの外周は通路になっており、映画館のようにところどころ扉が設けられている。中に入ると円形のステージをすり鉢状に客席が取り囲んでいた。入りは六分程度だろうか。やはり小さい子供を連れた家族が多い。開演まで10分あまり。子供のように胸が高鳴り始める。
 ブザーが鳴り照明が落ちる。中国語のアナウンスが高らかに始まりを告げる。いよいよだ。
 最初の出し物はピエロのアクロバット。思い思いに仮装をした十人以上のピエロが縦横無尽にステージを飛び跳ねる。続いて犬の曲芸。調教師の女性に率いられた10匹あまりのワンちゃんたちが、入れ替わり立ち代り輪をくぐったり二本脚で隊列を組んで行進したり。ちょこまかして、なかなか可愛らしい。
 再びのピエロの後いきなり舞台が暗転した。にわかに雰囲気が物々しくなる。ステージ全体が網で覆われ装置係が入念にチェックに回る。どうやら大物の出番らしい。舞台後方にトレーラーが横付けされ、鉄格子で出来た大きな檻が運び出された。客席から歓声が上がる。
 登場したのは6匹のトラと2匹のライオンだった。のっそりと、大きなからだを面倒臭そうに揺らしながら一頭ずつ用意された椅子に乗る。お座りの姿勢は猫と同じなのだが何しろデカい。特にトラは動物園で見る1.5倍はあろうかという印象だ。これだけの猛獣が揃っておとなしくしていること自体、ひとつの芸と言えるかもしれない。しかし、この程度で賞賛するのは彼らに対して失礼と言えよう。なぜなら、その後彼らは縦一列に並んで座ったり、横一列に並んで行進したり、二本脚で立って歩いたり、挙句の果てに3mほどの高さに設けられた輪をジャンプしてくぐったりしたのだ。一仕事終えると、ざわめく客席には目もくれず、彼らは登場した時と同じように悠然と檻に戻っていった。ここで前半が終了。しばしの休憩時間となる。
 後半は再度ピエロのアクロバットに始まり、ブランコや吊り輪を使ったサルの曲芸を挟んで、「回転シーソー」へと続く。天井からワイヤーで吊り下げられた巨大なシーソーにふたりの男が乗り込み、両端でバランスを取り合い観覧車のように全体を回転させる大技だ。
 馬のロデオを経て、いよいよ最後の出し物となった。ステージ後方に仕舞われていた直径5mほどの金網の球体が中央に引っ張り出される。サーカスの華、オートバイの曲乗りだ。月光仮面のようなコスチュームを身に纏ったライダーたちが一台、また一台と球の中に入っていく。接触ぎりぎりに併走しながらオートバイは快調に排気音を響かせ、コマネズミのように高速で回る。最終的に入ったのはなんと六台。もう何がなんだかわからない。客席は割れんばかりの大拍手だ。
 久し振りのサーカスにすっかり童心に帰った僕は、出演者が勢揃いしたフィナーレを迎え夢中で手を叩いていた。大満足だった。このダイナミックさ、このワクワク感。やっぱり、わざわざ馬戯城を選んで来てよかったと思った。あれ、でもパンダや象は出なかったな。
 

   
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虹色の上海
 

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