対消滅

   物質とその反物質が接触し、質量に相当するエネルギィを放出して互いに消滅する現象。Gパワー素粒子Z0は互いに反物質の関係にあり、接触することで互いに消滅してしまう。Gストーンを搭載した機械類が原種ゾンダーロボに取り込まれないのはその為である。
   1928年イギリスの物理学者、ポール・エイドリアン・モーリス・ディラックがとある仮説を提唱した。ディラックは量子力学と相対性理論を統合して、電子の波動方程式を立てた。この方程式の解は電子の存在を表しているはずであったが、この解は負のエネルギィ状態をも取っていた。そこでディラックはこの宇宙においてエネルギィが「負」になっているところには電子が充満しており、エネルギーが満たされた状態、即ち何もない状態を真空であるとし、また、その電子はそのままでは観測することが出来ず、エネルギィが「正」になることで普通の電子として存在するとした。この仮説が「ディラックの海」と呼ばれるものである。
   これによると電子と対になる「電子の抜けた穴」が存在することになる。ディラックはこの「負」のエネルギー状態の「穴」が電子とは逆の電荷を持つ粒子として存在するとした。すなわち1932年にそれは発見された。アメリカの物理学者アンダーソンによって発見された電子の反粒子「陽電子」である。これが世界初の反粒子の発見であった。この反粒子で構成された物質が反物質であり、反物質は理論上通常の物質と全く同じである。しかしひとたび通常の物質と接触すれば、互いに質量に相当する莫大なエネルギィの放出と共に消滅してしまう。これが対消滅である。
   東京におけるゾンダリアンの最終作戦終結後、EI−01・パスダーは東京のエネルギィをその一身に集め、地球圏脱出を図ると共にGGG機動部隊と交戦した。その際パスダーはその膨大なエネルギィを利用して多量の素粒子Z0を発散、機動部隊のGパワーと相殺させ、機動部隊のエネルギィを削ぎとる作戦にでた。素粒子Z0とGパワーは互いに反物質であり、一定量の素粒子Z0に対して、それと同量のGパワーが消滅する。この場合、エネルギィの総量から単純に消滅していくエネルギィの量を引き算していくことになり、エネルギィ総量の多い側に最終的には軍配が上がることになる。首都全域のエネルギーをその身に取り込んだEI−01とGSライドによる高出力を得ているとは言え、末端の機動歩兵であるGGG機動部隊とでは、総エネルギー量の絶対差はあまりに大きく、一時機動部隊のGSライド出力は臨界点の20%を下回るまでに落ち込んだ。
   機界四天王のひとりプリマーダも衰弱した状態で超竜神のGストーンの光にその身をさらしたために消滅してしまった。プリマーダが発散していた素粒子Z0と超竜神のGSライドからのGパワーの露光が対消滅しあった結果である。
   Gストーンと機界文明は接近するだけで互いの命を削り会う関係にあるといえる。よって地球圏、或いは銀河系といった限定された空間において、Gストーンと機界文明の共存は実質上不可能であり、一方が他方を淘汰する以外に己の生存を保つ術がないのである。もとよりGストーンの存在意義は機界文明に対抗することではあったが、敵対者との相克の中でしか、本来のありようでいられないというGストーンの存在は、赤の星の生体兵器「アルマ」のありように重なる。それに対抗する究極の形として、本来の自己をも否定する機界新種という存在をも産み出した機界文明とは、そしてその両者の争いに巻き込まれた人類の戦いとは一体なんだったのだろうか。