ルネ・カーディフ

 フランスの対特殊犯罪組織・シャッセールに所属し、「獅子の女王」のコードネームで敵味方を問わず畏怖されている「豪腕」捜査官。外見は18歳という年齢相応の少女だが、サイボーグ・ガイと同様にGストーンによって生命活動を維持し、超人的な身体能力を獲得したサイボーグである。ガイと同様にイークイップすることで戦闘形態へとシステムを移行、身体機能を通常時よりも30%余り向上させる事が出来る。またハイパーモードとなることで15%の更なる機能向上を果たす事が出来るが、ガイと同様にその稼働時間は極めて限定される。
 身体の90%余りを機械化したガイに対し、ルネの機械化率は50%程度にとどまっている。主に外皮や骨格の強化が執られているが、それに追随可能なように神経系や筋肉の薬物による強化も行われている。一方、肝臓を除く主要な臓器は殆ど手付かずの状態で、基本的な身体機能はサイボーグ・ガイにやや劣るが、特務機関特有の戦闘訓練を経て、数々の銃火器を駆使するルネの総合的な戦闘力は決してガイに劣るものではない。本質的には犯罪を憎み、他者を思いやる事もできる純粋な少女であるが、表面的な性格は極めて攻撃的で事態の解決に際して物理的強制力の行使を好む傾向があり、常に周囲の状況に対して苛立った態度をとる。そのために周囲との軋轢が絶えず無用にトラブルを招く事も多いが、それは彼女を襲った惨禍の傷跡が余りに深く、そして生々しく現在の彼女をさいなむからである。
 ルネ・カーディフは1988年、獅子王雷牙工学博士とフランスの科学系雑誌編集者であったフレール・カーディフとの間にフランス・ノール・パ・ド・カレー地方のランス市で生まれた(ちなみにフランスでランス市といえば、シャンパンとノートルダム大聖堂で有名なシャンパーニュ地方のランス市を指すのがむしろ一般的である)。しかし、婚姻関係は存在しておらず、ルネが生まれるより早く雷牙はフレールの前から姿を消したために、事実上フレールがひとりでルネの養育を担うことになった。決して裕福とはいえなかったが、それでもフレールは職を転々としながらも、ルネを精一杯に慈しみ育てたようである。魔法使いのように仕事も家事もこなし、勉強はもとより格闘技まで教えてくれた母はルネにとって唯一の肉親である以上に、絶対的で神聖に近い存在だったようだ。母の無償にしてゆるぎない愛情を注がれたルネは14歳までの歳月を極めて幸福に過ごすことが出来た。
 しかし悲劇は唐突に、理不尽に、少女の人生を捻じ曲げた。14歳の秋の一日、突如乱入してきた黒服の男たちによってフルーレは惨殺され、ルネは拉致監禁された。国際犯罪組織バイオネットリヨン支部である。ルネの優れた戦士としての資質を見抜いたバイオネットは彼女をエージェントに仕立て上げようと脅迫や洗脳、強制的な訓練を試みた。しかし、これに決して屈しなかったルネに育成部のエージェントも手を焼き、彼女を別部署に引き渡す。研究開発部、すなわち強化兵士開発担当部門である。ハイブリッドヒューマンに代わる前線戦力として強化サイボーグの開発を進めていたバイオネットは鍛えられたルネの身体を格好に実験材料とみなしたようである。メビウス、ラプラス両博士を中心とした未熟で悪意に満ちた技術による改造手術が繰り返され、苦痛共にルネは戦闘用サイボーグへと改造された。それはバイオネットによるメンテナンスなしには生き長らえる事さえ出来ない不完全な身体であり、それを枷としてバイオネットはルネを支配下におこうと試みたのである。だが母を惨殺したバイオネットにルネが服従する事はなかった。試作型戦闘サイボーグの完成披露と実戦試験の場でルネは参集されていたバイオネット幹部に対して発砲、玉砕的復讐を遂げようとしたが、不完全なサイボーグ体が発熱し、ルネは意識を失ってしまう。本来なら反逆者としてその場で粛清されていたはずのルネだったが、幸か不幸か、彼女の人生は二度目の転機を迎えた。フランスの対特殊犯罪組織・シャッセールが、偶然にもその瞬間に突入捜査を開始したのである。
 バイオネット・リヨン支部に突入したシャッセールは、実験室と思しき部屋で拘束されていたバイオネットエージェントを発見する。彼女はサイボーグ体の機能不全から生死の境をさまよっており、周囲の状況から彼女が制裁的実験の被験体となっていたと推測。彼女から有力な証言を得られると判断して彼女を保護、その生存のために緊急手術に踏み切る。しかし被験者の生命を省みない無謀で未熟な実験の繰り返しは、彼女の身体を極限まで蝕んでいた。幸運にもシャッセールに滞在していた―そして患者の氏名を知った途端、協力を申し出た―獅子王雷牙博士の技術と、彼が超法規的にもたらしたGストーンがなければ、彼女は一命を取り留める事さえなかったに違いない。
 こうしてルネは、ガイと同じく実の父の手によって、Gストーン制御のサイボーグとなった。しかしそれによってもたらされたものはガイとは大いに異なる。身体のほぼ全てをサイボーグ化されたガイと異なり、ルネの機械化は身体構造のおよそ半分にとどまっている。しかしこれは無謀な改造手術の繰り返しと暴走による発熱で損なわれた身体を考慮しての事であり、結果としてルネはその生命を維持するために排熱用のインタークーラーコートを絶えず着用していなければならず、サイボーグ・ガイほどに過酷な活動を行うことはできない。これらは基本的には延命処置であり、雷牙博士としては死に瀕した娘を救う事のみを念頭においていた。しかし、死を覚悟したルネにとって、この延命処置は大いに心戸惑う結果であった。生を諦めた次の瞬間に新たな生の余地を与えられた事は、死への覚悟に肩透かしを食わされたに等しく、死によって解放されるはずだったルネの爆発的憎悪は発散されないままに、彼女の体内に渦巻く事となったのである。憎しみに身を焼くほかに生きる意味を見出せなくなっていたルネにとって、その憎悪を解放する手段が必要だった(その対象は無論バイオネット以外にありえない)。故にルネは更なる手術、すなわち戦闘用サイボーグへの改造を希望し、結果的に雷牙博士はそれを受け入れたのである。ルネにとって不幸だったのは、手術を終え、血の滲むようなリハビリテーションを経てシャッセールの捜査官となった時、自身を改造したのが実の父であり、彼がその行動や信念ゆえにバイオネットと対立し生命さえ狙われている事を知らされた事であろう。ルネが自身にとって神聖な絶対的存在である母の死の原因を、やや短絡的にせよ、母と雷牙との関係に求めた事は無理からぬ事であった。加えて母のほかに、複数の女性とも恋愛の末に20人を超える子どもをもうけているとなれば、絶対不可侵の存在を無残に汚され奪われたと言う思いはいや増したに違いない。そしてよりにもよってそんな人物の手によってルネは生命を救われ、復讐の力を与えられたのである。ルネは屈辱に震えたがその時には雷牙博士はフランスを去ってしまっており、ルネの怒りはその振り向けるべき対象を失ってしまっていた。
 以降、ルネは母を殺したバイオネットへの憎しみと、その原因を作り我が子である自分に向き合いもしないままに去った父への憎しみ、そしてそんな父によって生命を救われた自分への苛立ちと父の手によるサイボーグ体への嫌悪を糧としてベテラン捜査官も舌を巻くほどの執拗さをもって捜査にあたり、残虐なまでの苛烈さでバイオネットのエージェントと施設を粉砕していった。降伏し、保護を求めるエージェントにさえ容赦ないルネの捜査法は当然問題視されたが、功績の巨大さと周囲の嘆願によって黙認されるようになっていく。そしていつしか彼女に与えられたコードネーム―「獅子の女王(リオン・レーヌ)」は敵味方を問わずに畏怖の感情を喚起するものとなっていくのである。
 しかし如何に多大な功績をあげようと彼女個人の独走が無限定に許されるはずはない。彼女がシャッセールを放逐されずに済んだのは、彼女を影でフォローし続けた二人の人物の功績といってよい。ひとりは戦闘サイボーグ手術の後、ルネのリハビリテーションメニュー作成を担当し、実際にその指導にあたった生体医工学者、パピヨン・ノワール、いまひとりはシャッセールに配属されたルネの戦技指導担当教官であり、そのまま彼女の捜査上のパートナーとなったコードネーム”ジェントルマン”こと、エリック・フォーラーである。彼らに共通していたのはルネの内心の絶え間ない苛立ちに対する理解力や包容力(あるいはそれを外部からコントロールしうる能力であったかもしれないが)、そしてそれ以上に重要だったのは不思議とルネの怒りを刺激しない人柄、あるいはルネに対するそうした接し方を有するという一点にあった。これはもはや天賦に等しい才能であり、余人に換えがたい二人の存在によってルネのシャッセール内での立場は辛うじて護られていたのである。パピヨンは特にプライベートにおいて歳の近い貴重な友人として、エリックは任務においてルネの不足部分(主に周囲への配慮や後始末)を補うことで、それぞれにルネにとって掛け替えのない存在となっていった。だが常に自身とそれを取り巻く状況に苛立ち続けるルネにそれを自覚する余裕はなく、殆ど盲目的に任務に没頭していく結果となっていた。
 それが大きく変化したのは2005年、ルネがエリックと共にバイオネットのエージェントを追って訪れた香港において鳥型のハイブリッドヒューマンとの戦闘に端を発する事件である。エージェントの追跡、GGG機界文明との戦闘を目撃、そしてそれに続くフランス製AIロボット護衛任務とバイオネットによるAIロボット強奪…。一本の細い糸を辿るような一連の事件の流れの中で、ルネは最良のパートナーであったエリック・フォーラーを失ってしまう。鞘を失った事によって危うい抜き身の刃となったルネを救ったのは、同じく事件の経過の中で得たいくつかの出会いであった。唯一の友人であるパピヨンとの再会、彼女が手がけた二体のAIロボット、光竜闇竜との邂逅、新たなパートナー・ポルコートとの、そして父との「再会」…。パリを壊滅させた大事件をくぐり抜け、ルネは再び掛け替えのないものを手に入れた。それは、あるいは「仲間」と呼ぶものであるかもしれず、同時に父と母の間にあった真実の一端であったかもしれない。以来、ルネの行動にそれまでと大きな変化はない。相変わらず苛烈なまでの憎しみと冷酷さでバイオネットと戦い、これを粉砕する。気に入らない事があれば所かまわず鋼鉄の拳を叩きつける。変化があったとすればそれらの合間にごく稀に見せる、柔らかな表情と、そして名前の最後に新しいファミリーネーム―獅子王が加わったことだろう。それは極めて些細な変化に過ぎない。しかしその些細な変化がルネ自身にとっていかに重大な事であったか、それは以前の彼女を知る者が彼女の新たな表情を目にしたときのみ実感できるであろう。
 かくしてルネ―ルネ・カーディフ・獅子王は、ポルコートをパートナーとし、光竜、闇竜を率いてバイオネットとの戦いに臨む。大きな喪失と引き換えに新たに手にした掛け替えのないものを抱いて。
 声優はかかずゆみさん。