宇宙収縮現象

   ビッグバン理論によれば、宇宙はその創生、すなわち「ビッグバン」以来依然膨張を続けているとされていた。だが、2007年、木星圏におけるZマスター殲滅戦以降行方不明となっていた戒道少年により報告されたところによると、Zマスターとの対消滅の最中、ザ・パワーによってヴォイドへと転移したJアークの透徹した観測技術によって宇宙全体が光速度を超える速度で収縮していることが判明した。収縮の中心は木星であると見られ、それゆえ太陽系内部ではその予兆すら感知できていない(収縮は中心から遠ければ遠いほどはやい速度で起こっているため。つまり中心付近での収縮速度は現在の所限りなくゼロに近い)。
   獅子王凱によるソール11遊星主に対する直接諮問によると、この宇宙収縮現象は三重連太陽系の復元システムであるソール11遊星主が三重連太陽系を再生するために、パスキューマシンを中枢とした物質復元装置によって宇宙空間中の暗黒物質を消費していることに起因しているという。
   本来、宇宙空間中における暗黒物質が減少すれば、宇宙自体の質量が減少し、その結果宇宙空間の収縮(ビッグクランチ)の開始は遅延される。だが、ここで起きているのは「暗黒物質の減少」を原因として生じている「宇宙の収縮」である。この一見矛盾する現象を我々はどう解釈すれば良いのであろうか。
   暗黒物質の総量と宇宙の収縮の開始の関係、すなわち「暗黒物質が少なければ宇宙の収縮は遅延される」という法則は「宇宙空間の暗黒物質の総量は一定である」という前提を含んでいる。宇宙の寿命は宇宙空間における暗黒物質の総量の多少によって決定される。宇宙全体の暗黒物質の総量が少なければ宇宙全体の質量は小さなものになり、その分重力も小さなものになるため宇宙の収縮は遅延される。逆に、暗黒物質の総量が多ければ宇宙全体の質量は大きなものとなり、それゆえ宇宙の収縮は早まるであろう。だが、暗黒物質の総量がその途上で変化したとしたらどうだろうか。獅子王凱は暗黒物質を宇宙という巨大な「風船」の中の「空気」に例えていた。「暗黒物質は宇宙という『風船』の中の『空気』であり、これが減少すれば当然宇宙は収縮する」。「ビッグバン」以来膨張を続けていた宇宙は、ソール11遊星主によって宇宙空間内の暗黒物質が急激に「失われた」ために、穴をあけられた風船のように急激な収縮を開始したのである。
   では、この宇宙収縮現象によって生じる具体的な脅威とはなんであろうか。考えられるのは宇宙全体の温度の上昇である。宇宙は絶対零度の世界といわれるが、誕生当初はビッグバンの熱による超高温の世界であった。しかし、宇宙が膨張拡大しその密度が低下するにつれて宇宙の温度も低下していき現在のような絶対零度の状態に落ち着いたのである。宇宙が急激に収縮し密度が高まれば、宇宙の温度は自然と上昇し、その結果地球の大気表面における放射冷却現象が生じず、地球全土が急激に温暖化し、海水面の上昇、気候の大変動から多大な被害が生じるであろう。最終的には木星や土星といったガス惑星が高温下で燃焼をはじめ、地球そのものが金星のような灼熱の惑星となることが考えられ、もちろん灼熱化した地球の環境に適応できない、人間を含めたあらゆる生物が死滅する事になるだろう。
   またさらに、宇宙の収縮は光速度を越えており、明らかに宇宙の膨張速度を上回っている。今後ソール11遊星主が暗黒物質の消費を停止したとしても収縮が止まるとは考えにくく、最終的には宇宙全体が収縮の中心である木星に集中、再びビッグバンを引き起こす事になるだろう。宇宙収縮の行き着く先は、すなわち宇宙全体の死と再生である。
   ソール11遊星主が自らの母星系を再生するために宇宙全体に死をもたらせば、いくら三重連太陽系を復元しても意味はない。これを根拠に宇宙全体が死に至る事はないであろうとする説もあるが、三重連太陽系が別次元の宇宙にあるという可能性も完全に否定はできないし、あるい遊星主はこの宇宙の再生をこそ目指しているのかもしれない。現象の規模が規模だけに何が生じても不思議はなく、早急に阻止すべき現象である事に間違いはないのである。