Camellia
椿の出てくる物語や詩、漫画などをご紹介しています。
ツバキ科の常緑高木
〔別名〕厚葉木・艶葉木(あつばき) 〔花期〕冬〜春
〔花言葉〕ひかえめな美徳(赤)・最高の愛らしさ(白)
種子は油として化粧用・食用などにする。
椿の花の特異な散り方が、武士の首と結びつけて嫌われたのは
江戸時代になってからのことらしい。(湯浅浩史 『植物と行事』 朝日新聞社 p.66)
<短歌・俳句>
巨勢山の つらつら椿 つらつらに
見つつ偲はな 巨勢の春野を (坂門人足/万葉集)
火のけなき 家つんとして 寒椿 (一茶)
赤い椿 白い椿と 落ちにけり (河東碧梧桐)
<詩>
八木重吉 「こころ」
やまぶきの 花
つばきのはな
こころくらきけふ しきりにみたし
やまぶきのはな
つばきのはな
<漢詩>
ツ格 「歳寒圖」(歳寒の図)
寒花還與歳寒期 寒花 還って歳寒と期す
夜起移燈看雪時 夜起きて灯を移し雪を看る時
未許東風到桃柳 未だ東風の桃柳に到るを許さず
山茶先發近窗枝 山茶 先ず窓に近き枝に発く
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山茶は椿のことです。寒い季節に花を開く椿のあざやかさが目に見えるようです。
<小説>
デュマ・フィス 『椿姫』 光文社古典新訳文庫他
持ち主の死亡にともなう骨董品の競売で、扉に書きこみのある『マノン・レスコー』を手に入れた私の元に、アルマンという青年がやってきた。彼こそ、その本を高級娼婦マルグリット・ゴーティエに送った当人だったのだ。
彼と親しくなった私は、アルマンからマルグリットの話を聞くことになる。初めて会ったときの様子、恋人同士になったときの喜び。しかし、マルグリットとの仲を知ったアルマンの父親の出現が彼らの幸福に影を落として……。
「だって」と、マルグリットはぼくの腕から逃れながら、その朝届けられた赤い椿の大きな花束から一輪の花を抜きとると、それをぼくのボタン穴に差しいれながら言ったのです。(p.165)
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マルグリットは芝居の初演には必ず姿を見せ、じぶんの席の前に、三つのものを置いていたそうです。その三つとは、オペラグラス、ボンボンの袋、椿の花束。
その椿は月の二五間は白で、残りの五日間は赤であり、彼女が椿以外の花を持っているのを誰も見たことがないことから、「椿姫」とあだ名されるようになったとか。
大海赫 『白いレクイエム』 ブッキング
母親が死んだ夜、ウタウは白いギターを持ったアイと名乗る女の子の幽霊に出会う。その子のギターを聞いたウタウは、どんどん力が抜けていき、飼い犬のダンがいなければ、死んでいたかもしれない。
同じ頃、子どもたちが「ロダン病」というものにかかり、次々と死んでいく事件が起きていた……。
アイは本当に死神なのだろうか?
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作中でアイが椿の花の前でギターを弾く場面があります。
霜島ケイ 『玉響に散りて』 小学館キャンバス文庫
千年以上もの時を生き続ける鬼、聖と弓生、そして、彼らが使える「本家」の陰陽師たちの物語。
白い世界が音を拒み、すべてが凍りついたように動かぬ静寂の中、視界に一点、鮮やかな紅が散った。
庭の奥に、見事に枝を張った一本の椿の木がある。
如月の今を盛りと咲き誇る紅の花が、ほつりとひとつ、地に落ちた。落ちて、雪の上でまた花開く。
首から落ちるその散り様を、不吉という者もいれば、潔いという者もいる。 (p.142〜p.143)
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ある人物の死の後の場面に出てきます。椿はその死を象徴しているようです。
夏目漱石 『草枕』 岩波書店他
見ていると、ぽたり赤い奴が水の上に落ちた。静かな春に動いたものはただこの一輪である。しばらくするとまたぽたり落ちた。あの花は決して散らない。崩れるよりも、かたまったまま枝を離れる。……(中略)……またぽたり落ちる。ああやって落ちているうちに、池の水が赤くなるだろうと考えた。 (岩波文庫 p.126)
「山路を登りながら、こう考えた」ではじまる漱石の代表作の一つ。
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椿以外にもさまざまな花が書かれています。どれもその花のイメージを捉えていると思いますが、池に落ちる椿の描写はとりわけ恐ろしいほどです。
夢野久作 「白椿」
勉強嫌いで落第ばかりしているちえこは、庭に咲く白い寒椿を見て「こんな花になったらいいだろう」とつぶやいてしまう。
すると、その香りをかぎクシャミをしたとたん白椿になってしまい……。
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「あたしはこの白椿のようになりたいといつも思っています」
と台詞にもあるように、この小説での椿は清らかさを表現しているようです。
これは椿の花のイメージというよりも、色のイメージによるのかもしれません。
青空文庫で読むことが出来ます。
<漫画>
喜多尚江 「聖獣D(ドラゴン)」(『鬼がふり返った刻』収録) 白泉社
時は平安時代。椿の森で拾われた娘は、「椿」と名づけられ、不思議な力を持つ娘へと育った。主上に使える斎姫となった椿は、ある日、世間を騒がせている竜と出会う。
お互いに惹かれあう二人だが……。
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地震を予知したり、花の咲く時期を当てたりする椿や、恐ろしい力を持つ竜よりも、人間のほうがよほど怖いということがよく分かる話です。
谷口ひとみ 『エリノア』 さわらび本工房
みにくい容姿を持つ少女エリノアは、アルバート王子にあこがれていた。
女官として働きながら、エリノアはアルバート王子に必要な人間になりたい、美しければそばで働くことができるのにと思うのだった。
森での祭りの日、エリノアのところに仙女が現れ、誕生日プレゼントとして、エリノアを30時間美しい少女に変えてくれた。
祭りに参加したエリノアはアルバート王子とはじめて踊ることができ、彼はエリノアを「カミーリア(つばき)」と呼ぶのだった。しかも、彼はエリノアに求婚し……。
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当時高校二年生の少女が書いた作品です。
みにくいけれど、心の美しい少女エリノアのたどる運命とは……?
波津彬子 『異国の花守』 小学館
大学卒業の半年後、実家に戻っていた雛子は、大伯母にあたる女性にお茶を習うことになった。
久しぶりに大伯母の家を訪れると、裏庭の椿の木が気にかかる。ちょうど、その日の朝、椿の花の夢を見ていたのだ。
その椿の下に立っていたのは……?
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続編『花の声』("声"は旧字)もあり。
ゆったりとした季節の流れを楽しめます。
柳原 望 『時間旋律』 白泉社
椿町で過去の人物が姿を現すという幽霊騒ぎが頻繁に起きるようになったのは半年前だった。
統計をとった椿由郎は、それが椿館と言われる自分の家が中心になっていることを知る。
同じころ、陸上の特待生として陸上の名門校に通う東野は、とある少女と会うため部活をさぼりがちになっていた。その少女が過去の存在と知りながら、東野は会うことをやめられず、二人は恋に落ちるのだが……。
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幽霊のことを、過去を懐かしがって椿が見た夢と、作中では表現されています。椿=少女のイメージでしょうか。