A flower blooming out of season
  
  帰り花の出てくる物語や詩、漫画などをご紹介しています。
 
  
  
本来は冬に咲くはずのない桜やツツジなどの花が時期はずれに、一つ二つ花を咲かせることがあり、これを帰り花や狂い咲きなどと呼ぶ。
桜やツツジのほかに、梨・桃・杏・山吹・藤なども帰り咲くことがある。
<俳句>
凩に 匂ひやつけし 帰花 (芭蕉)
かへり花 暁の月に ちりつくす (蕪村)
誰が為ぞ あぶなきそらに 帰り花 (千代女)
帰り咲く 八重の桜や 法隆寺 (正岡子規)
<漢詩>
「早冬」
十月江南天気好     十月 江南 天気好し
    可憐冬景似春華     可憐の冬景 春華に似たり
    霜軽未殺萋萋草     霜は軽く未だ殺(か)らさず 萋萋たる草を
    日暖初乾漠漠沙     日は暖かく 初めて乾く 漠漠たる沙(すな)
    老柘葉黄如嫩樹     老柘 葉は黄にして嫩樹の如し
    寒櫻枝白是狂花     寒櫻 枝は白くして是れ狂花
    此時却羨閑人酔     此の時却って羨む 閑人の酔うを
    五馬無由入酒家     五馬 酒家に入る由も無し
<小説>
霜島ケイ 『カラクリ荘の異人たち』 GA文庫
太一がおかしな下宿屋、空栗荘で一人暮らしをするようになって数ヶ月。
      人間の住む「こちら側」の世界と、妖怪たちの住む「あちら側」の世界の境界に建つこの建物で、不思議な出来事が起こるのは、いつものことだ。
      今日も二階の廊下に落ち武者が立ち、市松人形が動き回る。
冬を迎えたある日、太一に実家から宅配便が届く。送り主は父の再婚相手である阿川鈴子。中に入っていた手作りのクッキーは、固すぎのうえに甘すぎて、明らかに失敗作だった。ところが、料理の得意な空栗荘の住人からそのクッキーを「悪くない」と言われ、太一は混乱してしまう。
      また、冬休み実家に帰らないと言った太一に、年の近いレンが帰ったほうがいいと言ったことで、喧嘩をしてしまい……。
そこにはまるで、季節がないみたいだった。
      足下にはレンゲにタンポポ、冬枯れたはずの草むらに新しい緑が萌えて、家の周辺には赤紫のホタルブクロや黄色の菜の花が揺れている。
      さらに視線を移せば、日だまりには深紅とピンクの秋桜。野菊。オシロイバナ。
      樹木も見事だ。桜がぽつぽつと薄紅の花を灯し、その傍らには山吹の黄金とユキヤナギの白。傾いた軒から、小ぶりとはいえ藤が紫の房を幾つも垂らしていた。 (p.189)
    
<漫画>
山口美由紀 「花異国」(『フィーメンニンは謳う 5』収録) 白泉社
十年前従兄と一緒に山の中で行方不明になった隆は、桜の咲く村で過ごし、一人だけ村へ帰って来た。従兄は死んだものとされ、桜の村のことも夢の中の出来事のように思っていたところへ、かつてその村で出会った少女・萌がやって来る。
一緒に遊んだ少女のイメージが昔と違っていることにとまどう隆のもとへ、その少女とそっくり同じ顔をした「萌」と名乗る少女が姿を見せて……。
狂い咲きの
  桜の楔は
  鬼月の狂気と同じ (p.179)
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大人の姿のない、子どもだけが満開の桜の下で遊ぶ村。村に隠された秘密はとても悲しいものでした。
