「架空の庭」の入り口へ 

Pine tree

松の出てくる物語や詩、漫画などをご紹介しています。

松

マツ科の常緑高木

〔花期〕晩春

〔花言葉〕あわれみ・同情・不老長寿

日本各地に自生し、庭木などにも用いられる。常緑であることから、長寿や夫婦和合の象徴とされた。松飾りは歳神に来ていただく目印であり、門松はその代表。

 

<古典>


『竹取物語』より「大伴の大納言と龍の首の玉」

三四日吹きて、吹き返し寄せたり。浜を見れば、播磨の明石の浜なりけり。大納言、
「南海の浜に吹き寄せられたるにやあらん」
と思ひて、息づき伏し給へり。船にある男ども、国に告げたれども、国の司まうでとぶらふにも、え起き上り給はで、船の底に伏し給へり。松原に御莚敷きて、おろしたてまつる。……

『徒然草』 第百三十九段

家にありたき木は、松・桜。松は、五葉もよし。……

<短歌・俳句>


磐代の 浜松が枝を 引き結び 
   真幸くあらば 亦かへり見む
 (有間皇子/万葉集)

立ち別れ いなばの山の 峯に生ふる
   まつとし聞かば 今帰りこむ
 (在原行平/古今和歌集)

誰をかも 知る人にせむ 高砂の 
   松も昔の 友ならなくに
 (藤原の興風/古今和歌集)

松の葉の 葉毎に結ぶ 白露の 
   置きてはこぼれ こぼれては置く 
(正岡子規)

<詩>


高村光太郎 「風にのる智恵子」

狂つた智恵子は口をきかない
ただ尾長や千鳥と相図する
防風林の丘つづき
いちめんの松の花粉は黄いろく流れ
五月晴の風に九十九里の浜はけむる
智恵子の浴衣が松にかくれ又あらはれ
白い砂には松露がある
わたしは松露をひろひながら
ゆつくり智恵子のあとをおふ
尾長や千鳥が智恵子の友だち
もう人間であることをやめた智恵子に
恐ろしくきれいな朝の天気は絶好の遊歩場
智恵子飛ぶ

<漢詩>


劉驕@「贈従弟」

「従弟に贈る」

亭亭山上松     亭亭たり 山上の松
瑟瑟谷中風     瑟瑟たり 谷中の風
風声一何盛     風声 一に何ぞ盛んなる
松枝一何勁     松枝 一に何ぞ勁き
氷霜正惨愴     氷霜 正に惨愴たる
終歳常端正     歳を終えて常に端正なり
豈不羅凝寒     豈に凝(きび)しき寒さに羅わざらん
松柏有本性     松柏 本性を有(たも)てり

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「松柏」の「柏」は、「このてがしわ」を指すそうです。松も柏も常緑樹であるため、永久不変の象徴とされ、詩に多く詠まれています。

<小説>


菅浩江 『末枯れの花守り』より「第五話 老松」 角川文庫

毎月15日になると必ず留守番をすっぽかす祖母のフサを追って、和歌子は浜辺の御神木のところへ行った。祖母は松の根元にちんまりと座り、和歌子に気づくと話しかけてくる。
その御神木の下で祖母は結婚の盃を交わし、その約五十日後、相手は戦争に行き、帰ってこなかった。しかし、祖母はそこで和歌子の祖父・洋二郎をずっと待っているのだ。 定例の外出を「お婆ちゃんのデート」と和歌子は呼んでいた。

ところが、話をしている二人のところへいきなり古風な和装をした二人の女たちが現れて、祖母の預かった太刀を渡すように言い……。