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Narcissus

水仙

水仙の出てくる物語や詩、漫画などをご紹介しています。

水仙

ヒガンバナ科の多年草

〔別名〕金盞銀台・雅客(がかく) 〔花期〕冬〜春

〔花言葉〕うぬぼれ・自己愛・もう一度愛してほしい(黄ズイセン)・尊敬(ラッパズイセン)

西洋でも文学に登場する花のなかでも、最も古いものの一つ。ニンフのエコーが恋した青年ナルキッソスの神話はよく知られている。 雪の中でも咲くため、雪中花の異名もあり、中国では冬の花として昔から愛され、多くの詩題にされた。日本では古代文学にも、近代短歌にもあまり詠まれない。

 

<古典>


ブルフィンチ 「エコーとナルキッソス」(『ギリシア・ローマ神話』収録) 岩波文庫

美しいニンペのエコーは、ある日ナルキッソスという青年が山で猟をしているところを見かけた。彼に思いを寄せたエコーは話しかけたいと思ったが、自分からはできない。その青年が偶然仲間たちからはぐれて『誰かここにいるかい』といったとき、初めて『ここよ』と答えることができた。
しかし、残酷なナルキッソスは彼女に気を持たせたあげく、見捨ててしまう。

こんなように騙されたのはエコーだけではなく、彼に片思いをした少女がある日ひとつの祈願をかけた。
それは、ナルキッソスにも何かを恋するという気持ちを味わわせ、しかもその愛情は報いられないでほしいというものだった。

ナルキッソスは少女の祈願どおり、清らかな泉に映った自分の姿に恋をし、食べることも寝ることも忘れ果て、弱りきって死んでしまう。
彼が水に落ちたところからは、花が咲き、ニンペたちはその花にナルキッソス(水仙)という名前をつけて彼の記念としたのだった。

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東西でイメージがはっきり違うところが面白いですね。

<短歌・俳句>


水仙や 白き障子の とも映り (芭蕉)

水仙や 寒き都の こゝかしこ (蕪村)

水仙に 狐遊ぶや 宵月夜 (蕪村)

水仙の 咲よく見ゆる 凹み哉 (一茶)

水仙に さはらぬ雲の 高さ哉 (正岡子規)

水仙や 古鏡の如く 花をかゝぐ (松本たかし)

<詩>


ワーズワース ”I wondered lonely as a Cloud”

I wandered lonely as a Cloud
That floats on high o'er Vales and Hills,
When all at once I saw a crowd
A host of dancing Daffodils;
Along the Lake, beneath the trees,
Ten thousand dancing in the breeze.

The waves beside them danced, but they
Outdid the sparkling waves in glee:-
A poet could not but be gay
In such a laughing company:
I gazed - and gazed - but little thought
What wealth the shew to me had brought:

For oft when on my couch I lie
In vacant or in pensive mood.
They flash upon that inward eye
Which is the bliss of solitude,
And then my heart with pleasure fills,
And dances with the Daffodils.

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雲のように私はさまよう、という出だしで始まる有名な水仙の詩です。大学のときのテキストを引っ張り出したのですが、綺麗に訳するのは難しいですね。ただ、原語ならではの押韻を楽しんで読むことは出来ました。懐かしい。

私が引用したものとは少し違っていますが、松浦暢著『英詩の歓び』は、訳詩と原文が共に載っていて興味深いです。

<小説>


ドリュオン 『みどりのゆび』 岩波少年文庫

とてもきれいで大金持ちの両親を持つチトは、八歳になりはじめて学校に行くことになった。それまでは母親が読み書きなどを教えていたのだ。
評判のよい学校に行ったチトだが、一日中眠たくてたまらず、学校から預かることはできないと言われてしまう。困った両親は新しい教育を受けさせようと話し合った。実地に庭や畑や町や工場の勉強をさせようというのだ。

最初に庭の授業を受けることになったチトは、庭師のムスターシュさんと出会う。ムスターシュさんはチトが「みどりのおやゆび」を持っていることに気づいた。チトの親指で触れると、何にでも花が咲くのだ。チトはいろいろなところに花を咲かせるのだが……。

夜のあいだに、テーブルのまわりにスイセンがさいていたのです。かけぶとんはツルニチニチソウでおおわれていました。じゅうたんの上には、カラスムギが波をうっていました。それから、チトが心をこめてつくった、すばらしいバラの花が、たえまなく変化し、葉をひらいたり芽をふいたり、まくらにそって、ベッドのあたまにはいのぼっていました。 (p.112)

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水仙のほかにもたくさんの花が出てきます。

ルース・レンデル 『ロウフィールド館の惨劇』 角川書店

ユーニス・パーチマンがカヴァディル一家を殺したのは、読み書きができなかったためである。
(p.5)

また、彼女は字が読めなかったために逮捕される。

有能な召使であるはずの彼女がなぜ一家の四人を殺害したのか。彼女が召使として雇われることになったきっかけ、彼女の友人となる女性(共犯者でもある)との偶然の出会い。
殺人に到るまでの過程が淡々と描かれている。

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館の女主人はガーデニングを好んでいたので、庭にはたくさんの花が咲き乱れていました。まず最初に目につくのが「水仙」。もちろん、花言葉は「うぬぼれ」や「自己愛」。
また、小説の中にタバコの花やチョウセンアサガオ(これは毒草)など変わった花が出てきます。
そして、一家が最後に見ることになる花は、春の最初の花であるマツユキソウ。この花の花言葉は「慰め」や「希望」。その一方で英国では死をイメージさせる花でもあるとか。

太宰治 「水仙」

菊池寛作「忠直卿行状記」を少年のころに読んだ「僕」は、自分の剣術の腕前に自信を持っていた忠直卿が家来たちの本音を偶然聞いてしまい、その後真実を求めて狂ってしまったことを忘れられずにいた。
家来たちの彼への賞賛は真実であり、忠直卿の腕前は本当に優れていたのかもしれないと考えてしまうのだ。

「僕」の忠直卿は三十三歳の女性であり、自分を天才だと口走り、夫を残し自由な生活を求めて家出をしてしまう。
そして、「僕」の役回りとは……?

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家出をした女性の残した絵の一つに、水仙の花が描かれています。この短編のタイトルがなぜ「水仙」なのか、なぜ彼女の描いた絵が水仙だったのか気になるところです。

青空文庫で読むことができます。

宮沢賢治 「水仙月の四日」

水仙月の四日。
一人の子どもがカリメラのことを考えながら家へと急いでいると、その道中、急に天候が悪くなり、雪嵐が吹いてくる。

雪狼(ゆきおいの)を連れた雪童子(ゆきわらす)たちが、その雪を降らせていることをもちろん子どもは分からない。雪婆んごにせかされ、雪を降らせる雪童子の一人が、その子どもの声を聞きつけるのだが……。

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青空文庫で読むことができます。

夢野久作 「青水仙、赤水仙」

水仙の根を切り割って、赤い絵の具と青い絵の具を入れて庭に埋めたうた子は、赤と青の花が咲くのが楽しみでならない。
ところが、うた子の父親が誤って水仙を半分にしてしまったという。
がっかりしたうた子だが、ある日、学校の帰り道、変わった二人の女の子に出会い……。

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青空文庫で読むことができます。
赤い水仙、青い水仙はちょっと想像がつきません……。

<漫画>


花郁悠紀子 「水面(みのも)に咲く」(『風に哭く』収録) 秋田書店

とある地方で起こった殺人事件は、奇妙に残酷な手口で行われていた。外見は傷一つないのに、身体中がめちゃくちゃなのだ。

特殊能力者(ミュータント)の起こした事件である可能性があるということで、そこに派遣されたのはアナトリィ・ドニェプロフとフェン。E・S・P研究の世界的権威でありながら国から逃げ出し、E・S・Pステーションから一人の子どもを連れ出したイリヤ・フュズリ博士のもとを彼らは訪れる。
その子どもが事件を起こした可能性を探るうちに、ある真実が浮かび上がってくるのだが……。

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水仙の咲く湖沼地帯が舞台となっている短編です。水仙の咲く岸で水面ばかりを見つめる少年が本当に見つめているものとは?