Imaginary Garden
架空の花・植物が出てくる小説などをご紹介しています。
・ 小説
バジョーフ 『石の花』 岩波少年文庫など
石細工の親方プロコーピィチは、年をとった彼の石細工の技術をを覚えさせようと送られてきた子どもたちをどんどんつっかえしてしまっていた。とうとう送られてきたみなし子のダニーロが、あまりに弱々しいことにあきれていた親方だったが、ダニーロがすばらしい才能を持っていることに気づき、大切に育てることにする。
親方の仕事を見ているうちに覚えてしまったダニーロの仕事はすばらしく、足つきの大杯を作るようにと領主の旦那から命令がやってきて……。
この草むらには、くじゃく石でできている大きなみどり色の鈴の花がたくさん咲いていて、そのひとつひとつには漆黒の小さな星がついていた。 (p.127)
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このお話はウラル地方の民話を元にバジョーフが書いた作品です。子ども向けに書かれたものを昔読んだことがあり、とても印象に残っていました。
意外な結末の話があったり、とても楽しめます。
バラージュ 『ほんとうの空色』 岩波少年文庫
せんたく屋をしている母親と二人暮しのフェルコーの生活はとても貧しかった。母の手伝いをしているために宿題をする時間もなく、学校の成績もあまりよくはない。しかし、フェルコーは絵を描くのがとても上手だった。
ある日、フェルコーは青い野の花を使ってふしぎな絵の具を作り出すことを教えられる。その絵の具で空の色を塗ると、空には本物の小さな月や星が浮かぶのだ。その日から、フェルコーの周りには不思議なことが起き始めて……。
この花は、いつもお昼のかねが鳴るとさくんだよ。だがね、たった一分間しかさいていないのだから、いそいでつまないと、まにあわないよ。 (p.34)
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『ほんとうの空色』というタイトルも素敵です。
マーセデス・ラッキー 『宿縁の矢』(「ヴァルデマールの使者2」)中央公論新社
暴君に立ち向かうよりも、その手から逃れる道を選んだ人々が築いたヴァルデマール王国。
その君主は<共に歩むもの>という優美な白馬に見える生き物に選ばれたものでなければなく、同じように選ばれた人々は<使者>として使命に身を捧げていた。
「この花に相当惚れこんだようだから、きみの結婚式にはこの花で花輪が作れるようにしてあげるよ。たとえぼくがこの花を温室で育てることになっても」 (p.323)
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「乙女の望み」と呼ばれる、一年の夏至の時期にだけ、北方の森深い場所に咲く花についての台詞です。
<使者>の中でも君主についで高い地位にある<女王補佐>に選ばれたタリアの物語。
上橋菜穂子 『夢の守り人』 偕成社
新ヨゴ皇国のとある山の中に住むタンダは、村に住む姪のところを訪れていた。彼女は目覚めることなく眠り続けているという。
そして、同じように眠り続ける人々が増えつつあった。
姪の体には魂がいないことを知ったタンダは、その魂に触れようとしたとき、花のかおりのようないいにおいがしたことに気づいた。そのことを師匠のトロガイに告げると、彼女は自分がかつて見た別の世界にある<花>について語ってくれたのだ。
その<花>は人の夢を糧にして咲くという……。
「守り人」シリーズの第三作。
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アジアを思わせる世界を舞台にしたハイ・ファンタジーの傑作です。
主人公は女用心棒のバルサ。タンダは彼女の幼馴染です。
桜庭一樹 『赤朽葉家の伝説』 東京創元社
山脈の奥に隠れて暮らす「辺境の人」たちに置き忘れられた女の子・万葉は、成長後、鳥取の旧家・赤朽葉家に嫁いだ。
万葉の孫によって語られる、不思議な力を持った赤朽葉万葉、毛毬、瞳子……赤朽葉家三代の女たちと彼女たちが生きた時代の物語。
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鉄砲薔薇という不思議な名前の薔薇が出てきます。
谷間に咲く鉄砲薔薇を万葉たちが見つめるシーンは、ひどく美しいです。
菅野雪虫 『天山の巫女ソニン1 黄金の燕』 講談社
今年十二になるソニンは、母親のお腹にいるころから巫女としての才能を見込まれ、巫女たちの暮らす天山に赤ん坊の頃に連れて来られた。しかし、天山で修行を続けるソニンは、巫女としての才能がないらしく、両親の元へと戻されてしまう。
家族と一緒に平和に過ごすソニンだが、七番目の王子の落し物を拾ったことがきっかけで、その王子に仕えることになって……。
ソニンが一人で庭をながめていると、築山の陰の岩だらけの場所に、下界ではめずらしい花が咲いているのに気づきました。 (p.76)
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ソニンがレンヒという女性と出会う場面です。毒のある花に手を伸ばすレンヒに、ソニンは声をかけます。大輪の紅い花のようなその女性は、王弟の妻であり、ソニンの人生に大きな影響を与えていきます。
日向理恵子 『雨ふる本屋』 童心社
母親におつかいを頼まれた帰り道、ルウ子は急に降り出した雨のため、図書館に駆け込んだ。
おつかいの袋を持ちながら、ルウ子は妹のことを思い出し、面白くない。妹がルウ子のものを全部とってしまった気がするのだ。
図書館に入ったルウ子は、ポケットから落ちたカタツムリを追いかけるうちに、不思議な本屋へとたどりついて……。
かたちはスイレンそっくり。オーロラを切りとったか、宝石をうすく細工してつくったみたいな、繊細な花でした。 (p.49)
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中心に物語の種をもった不思議な花が出てきます。
・ 漫画
岡野史佳 「月光晶」(『月光晶』収録) 角川書店
月のコロニーにいる幼なじみの至瑞也から爽音に送られてきたエアメールの中には、
不思議な石が入れられていた。中の手紙には、「たすけて」の文字。
水晶に似たその石が、かつて至瑞也に送られた花の彫刻と同じ素材ではないかと思った爽音は、
父親に石の正体を訊ねてみると、地球上のものではないということだった。
至瑞也を心配した爽音は月へと向うのだが……。
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「架空の花」かどうかは分かりませんが、名前が特定できないので、ここに載せました。
神谷悠 『星迷宮 ダイヤモンドの殺人』 白泉社
サッカーから野球に転向し、初のレギュラーとなった試合で、
瀬尾ヒロシは殺された。特製ジュースに入れられた毒物はトミノヒメのもので、
瀬尾が車で怪我をさせ車椅子生活をすることになった江藤このみ、
自称婚約者の服部麻衣子、正選手の座を瀬尾にとられた宮田が疑われる。
瀬尾たちの後輩山田と、その友人綾小路京は事件を解決しようとするのだが……。
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作中に出てくる「トミノヒメ」は架空の植物のようです。
水野十子 「すいれん ―酔恋―」 白泉社
花の香りに誘われて校舎の裏までやってきた妙子は、甘い花の香りに酔ったように頭がくらくらして、倒れてしまう(朝ごはんを抜いたせいでもあるが)。しかし、後で確認するとその花の香りはもうしなくなっていた。不思議に思う妙子は、同じ陸上部の武市から、お前から甘い香りがすると言われ……。
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妙子以外にもうひとり花の香りのする人間が登場します。二人の関係は?
わかつきめぐみ 『ご近所の博物誌』 白泉社
都からやって来た博物学者の二羽(にう)の手伝いをすることになった三稜(みくり)は、マイペースな二羽に振り回されっぱなしである。
三稜が嫌がらせで持ってきた貧乏蔓を嬉々として育て(とんでもなく蔓延る植物なのだが)、貧乏蔓には化け物が住むという言い伝えを気にもしない。
ところが、ある日、二羽の家に泊り込みで手伝いに来た三稜は、家中を這い回る貧乏蔓の間に、怪しげな音を聞いてしまい……。
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貧乏蔓以外にも変わった植物がたくさん出てきます。