何 を 話 そ う か

9月号


月のはなし


   
 月が美しい季節になりました。仲秋の名月は十月十二日ですが、天候も落ち着き気持ちのよい夜空になります。
 月は私たちにとってもっとも身近な星なので昔からたくさんの伝説が伝わっています。仏教圏では広くウサギが棲んでいるといわれ、アイヌの人々の間にも類話があります。中国神話では常娥が夫をだまし、不死の仙薬を独り占めにして月に逃げたのですが、薬を飲んだとたんガマガエルに変身してしまいました。ですから中国の男性諸氏はあの月のアバタを眺めては、女は男を裏切るものなのだとか、大切なものは絶対に女に預けてはならないとか教訓にしているのでしょうね。
 もともと、つきは星空入門に最適な天体です。買ってきたばかりの望遠鏡でも簡単に捉えることが出来るし、表面が起伏に富んでいて、しかも毎日その表情を変えるので興味が尽きません。星見人にも月面の写真撮影を専らにする人もいるくらいです。けれども、さように親しみ深い月であっても、星見人にとっては概して好ましいものではありません。なぜなら、月の明るさに星たちが隠れてしまい、天体の観察には悪条件になってしまうからです。
 「落ちかかる月を観ているに一人」(山頭火)の心境にはどうしても無縁になってしまいます。