◇強制連行の裁判

強制連行山形訴訟（酒田港訴訟）

原告と請求内容	檀蔭春
提訴	2004年12月17日
山形地裁判決	2008年２月12日　敗訴　弁護団声明	事実認定○、不法行為○、安全配慮義務違反○、国家無答責○、請求権放棄×
仙台高裁判決	2009年11月20日　敗訴　弁護団声明	事実認定○、不法行為○、安全配慮義務違反○企業・×国、請求権放棄×
最高裁決定	2011年２月18日　敗訴
支援団体	酒田港中国人強制連行を考える会

山形訴訟の概要

　山形県の酒田港で荷役業をしていた「酒田海陸」で働かされた檀蔭春さんをはじめとする中国人たちが、国と企業（酒田海陸）に対して、謝罪と一人2000万円の賠償をもとめた裁判です。

　

【檀蔭春さんの被害証言】

　1944年12月河北省の家の近くで洋服を売っていたときに日本軍の兵士に捕まりました。22歳でした。貨物船で日本に連行され、さらに列車で酒田まで運ばれました。中国を出たとき７日分の食料しか与えられなかったので、空腹でした。連行されてきた中国人は200人ほどいました。

　翌年１月から、船から石炭を下して貨車に積み込む作業をさせられました。重さ50㎏くらいの石炭を天秤棒などを使って40ｍくらいの距離を運ぶ作業で、朝６時から夜８時ごろまで働きました。月に何度かは10時や12時ごろまでの残業がありました。休憩は昼食時間に１時間あるだけでした。仕事中に休むと日本人監督に棒で殴られました。

　200人のうち31人が死にました。賃金はもらえませんでした。冬の服装は天津でもらった綿入れ防寒具と麻袋で作った服だけ。夏は綿入れの綿が抜けて布だけになったものを着ていました。靴はボロボロになったので日本に来てから自分で編んだ草履をはいていました。日本で支給されたのは最初の１着だけ。雨や雪のときは蓑をかぶりました。麻の服が破れても縫うことはできず、針金で縫っていました。汚れは天気のよい日に海で洗いました。夜は敷布の配給が３～４人に一枚だったので、体をくっつけて寝ました。宿舎に暖房はありませんでした。屋外に風呂がありましたが、火事の危険のため使用禁止でした。寒いときの手袋もありません。

　食事は小さい饅頭が１回２個で、１日６個でした。長さ10㎝厚さ２㎝くらいの黒色の楕円形の饅頭でいつも同じでした。遅くまで働いた日は小麦粉を入れたスープが出ましたが、そのときは饅頭が小さくなっていました。空腹のため海に浮いていた海藻を拾って食べました。

（2008年11月13日仙台高裁の本陣尋問より抜粋）

山形地裁での闘い

　裁判で、酒田海陸は「当時は日本人も困難な労働条件で働いていたわけで、それに比べて中国人労働者が特に劣悪な条件で働いていたのではない」、などと弁明しました。

　しかし、１日の労働時間、労働安全の配慮、宿舎の状況、食事の内容などが日本人労働者と比べてもひどいものであったことは被害者本人の証言からも明らかでした。

　2008年２月12日、吹雪の山形で判決の申し渡しがありました。請求棄却の原告敗訴の判決でした。会社側が「日本人と比べて劣悪ではなかった」とした待遇について、「中国人労働者が、外出または逃亡できない施設に収容され、かつ衛生状態や食糧事情など劣悪な環境のもと、過酷な労働を強いられたという事実認定ができる」として、会社ばかりでなく、「国にも不法行為の責任がある」と認定しました。つまり国にも安全配慮義務があり、企業に対して指導すべき立場にありながらこれを怠ったと指摘しました。

　通常なら、この点で原告勝訴の判決が下されるはずなのですが、「日中共同声明により中国人戦争被害者の請求権は放棄された」という最高裁判決（2007年4月27日）を理由にして原告の請求を棄却したのです。

　〇判決に対する弁護団声明

仙台高裁での闘い

　2009年11月20日、仙台高裁は１年９ヶ着きのスピード審理で結審し、一審で認められていた国の安全配慮義務違反も認めず、国家無答責の主張の無効性も否定する控訴棄却の判決をしました。

　しかし裁判官は、「本件被害者は強制労働等により、きわめて大きな精神的・肉体的苦痛を被ったことが明らかになった。その被害者に対して、任意の被害救済が図られることが望ましく、これに向けた関係者の真摯な努力が期待されるところである」と述べました。

　○判決全文

　○判決に対する弁護団声明

最高裁での闘い

　2011年２月18日、最高裁は一片の通知で上告を棄却しました。