Web-Suopei  生きているうちに 謝罪と賠償を!

強制連行・解決への提言

中国人強制連行・強制労働問題の全面解決に向けた提案

全面解決要求

1 日本政府と加害企業は,先の大戦中,中国人被害者を中国から日本へ強制連行し,国内各事業場で強制労働させた事実を認め,謝罪の意思を表明せよ。

2 この謝罪の証として,日本政府と加害企業及びそのグループ企業は,総額1000億円の基金を設立し,被害者・遺族への補償金の支払,強制連行・強制労働の調査・研究・教育及び未来を担う青少年の日中交流等の事業に充てよ。

提言の趣旨

1 中国人強制連行・強制労働事件とは

先の大戦中に,中国大陸から3万8935人の中国人が日本へと拉致され,全国135カ所の現場で奴隷労働を強いられ,1年余りの間に6830人が死亡し, 生き残った者も,賃金が支払われないまま,終戦後,中国へ送り帰されたという事件である(数字は,外務省による)。

2 西松最高裁判決

中国人強制連行・強制労働西松建設事件について,最高裁判所第2小法廷は,2007年4月27日,被害者らの請求権は,日中共同声明によって(消滅したのではなく)裁判上訴求することが認められなくなったものとの判断を示し,併せて,「本 件被害者らの被った精神的・肉体的な被害が大きかった一方,上告人(西松建設)は前述したような勤務条件で中国人労働者らを強制労働に従事させて相応の利 益を受け,更に,前記の補償金を取得していることなど諸般の事情にかんがみると,上告人を含む関係者において,本件被害者らの被害の救済に向けた努力をす ることが期待される」と述べた。

ここに「上告人を含む関係者」とは,西松建設を含むすべての加害企業,および,閣議決定により国策として強制連行・強制労働を実行した日本政府であること は明らかであり,最高裁判所は,被害事実の重大性を直視し,日本政府と加害企業が,中国人被害者を救済して,人道的,道義的,政治的責任を果たすべきであ るとの見解を示したのである。

3 解決を求める世界の声

中国政府も,西松最高裁判決の直後,中国人強制連行・強制労働は「重大な犯罪行為であり,現在も適切に処理されていない現実的で重大な人権問題でもある。歴史に責任を負う姿勢で問題を適切に処理するよう日本側に求めた。」とする声明を発表した。

また,ILOの条約勧告適用専門家委員会は,中国人に対する強制連行・強制労働が強制労働禁止条約に違反するとして,日本政府に対し,被害者らの要求に直ちに応えるよう,繰り返し求めている。

4 強制連行・強制労働問題の全面解決のために

この問題を真に解決するためには,まず,加害者である加害企業と日本政府が,強制連行・強制労働の事実を認め,被害者に謝罪し,二度と繰り返さないと誓うことが必要である。

そして,謝罪と誓約の証し(一時的な,また,言葉だけのものではないことを示すもの)として基金を創設し,被害者への補償によりその人権を回復するととも に,強制連行・強制労働の調査・研究・教育を進めて歴史の教訓とし,また,未来を担う青少年の日中交流等の事業を行い,真の日中友好を実現することが適切 である。

5 基金構想について

基金の規模は,上記の補償,調査・研究・教育,青少年の交流等の各事業を遂行するにふさわしいものでなければならない。

基金総額については,約4万人いる被害者に,一人あたり2万米ドルの補償金を支払うことを前提に1000億円とした。2万米ドルは,先の大戦中にアメリカ 政府が強制収容した日系アメリカ人に対して支払った補償金額(2万米ドル)を参考にした。この金額は,被害が重大であったこと,賃金が支払われていないこ となどを考えると,最低限の金額といえる。また,中国人被害者を使役したことで損失を受けたとの理由で,戦後,加害企業が日本政府から総額約5670万円 (1946年当時。現在の価値に換算すると1000倍で567億円)もの国家補償を受けたことを考えると,基金の総額が1000億円を下回るべきではな い。

そして,基金は,ドイツの強制労働基金「記憶・責任・未来」にならい,日本政府と加害企業を中心とする日本企業が資金を折半して設立され,日中両国の然るべき機関の関与の下で,上記目的のために適切に支出されるべきである。

6 今こそ全面解決を

被害者の多くはすでに他界し,生存者の高齢化が進んでいる。今こそ,日本政府と加害企業は,歴史的事実を真摯に受け止め,道義的,人道的,政治的責任を果たすべきである。

我々は、2004年5月「全面解決のための提言」を発表し、その実現のために活動してきたが、西松最高裁判決を受けて、2007年6月、より具体化した 「中国人強制連行・強制労働事件の全面解決提言」を新たに発表した。今回、その「提言」をさらに改訂して公表し、改めてこの問題の全面解決を求めるものである。

 

2008年3月9日


中国人強制連行・強制労働事件全国弁護団 
団長 高橋 融

中国人強制連行・強制労働補償基金(案)

前文

アジア太平洋戦争中、日本に強制的に連行された約40,000名の中国人らは過酷な労働を強いられ、非人間的な処遇のもとで7000名が死亡するという不正義が行われた。

私たちは、この中国人強制連行・強制労働の歴史的事実を直視し、被害者及びその遺族の人間としての尊厳が回復されることを願い、被害者及びその遺族に対し 謝罪し補償するとともに、その歴史的教訓を後の世代に継承することによって日中両国民の信頼関係を醸成し、未来にわたって日中両国間の恒久平和を構築する ために本基金を設置する。

第1 基金の目的

本基金は、補償基金により戦前日本に強制連行・強制労働された被害者及びその遺族に対して補償金及び弔慰金を支給し、未来基金により日中両国民の将来にわたる友好関係を築く事業を推進することを目的とする。

第2 基金の拠出主体及び基金財産

  1. 本基金は、日本国及び日本企業が拠出する。

  2. 本基金の充実のために第三者からの寄附を受け入れることができる。

  3. 本基金の規模は、第4以下の事業を行うのに十分な規模とする。

第3 機構

  1. 本基金を管理し運営するために、管理委員会及び運営委員会を設置する。

  2. 管理委員会は、日本国政府、中国政府、日中両国NGOから任命された委員により構成され、基金運営全体を統括し、運営委員会の業務を管理する。

  3. 運営委員会は、日本及び中国に設置され、被害者の認定、補償金等の支給、未来基金にかかわる業務を実施する。

  4. 管理委員会及び運営委員会の費用は、本基金から支出する。

第4 基金の内容

  1. 本基金は、

    1. 補償基金

    2. 未来基金

    から構成する。

  2. 補償基金及び未来基金の内容は、次のとおりである。

    1. 補償基金

      1. 被害者本人への謝罪の証としての補償金の支給

      2. 被害者の遺族への弔慰金の支給

    2. 未来基金

      1. 中国人強制連行・強制労働の実態等を調査・研究・発表し、記念館及びモニュメントの建設など後の世代に継承するための事業

      2. 日中両国民の相互交流・対話、とりわけ青少年の交流・対話を通じて恒久平和を確立していく事業

第5 補償基金−補償金及び弔慰金の支給

  1. 性格
    被害者本人への補償金及びその遺族への弔慰金は、被害者に対する真摯な謝罪の証として支給するものである。

  2. 支給額(注:補償金及び弔慰金の支給額は、戦後補償関連の問題の解決のために日本政府が給付した金額や日本の財政事情などを総合的に考慮して決める。)

    1. 被害者本人への補償金は    円とする。

    2. 被害者遺族への弔慰金は    円とする。

  3. 支給対象

    1. 補償金及び弔慰金の支給対象は、事業場報告書及び外務省報告書で特定されている38,935名の被害者及び日本への強制連行・強制労働被害者と認定された者並びに被害者の遺族とする。

    2. 被害者の認定は、中国の運営委員会が行う。

  4. 支給方法
    被害者補償金及び遺族弔慰金の支給は、中国の運営委員会が行なう。

第6 未来基金

未来基金の事業は、管理委員会がその内容を決定し、日本及び中国の運営委員会が実施する。

2004年5月

中国人強制連行・強制労働補償基金解説

はじめに

「中国人強制連行・強制労働補償基金」(以下「補償基金」といいます)は、補償基金設置の基本的な考え方を、ひとつの構想としてまとめたものです。

私たちは、この構想を実現するために、立法化その他の方法を想定しています。立法化するためにはさらに詳細な事項を定める必要があります。しかし、「補償 基金」構想の段階ですので、必要最低限の基本的な事項を定めるにとどまり、詳細な事項については定めていません。

この「補償基金」構想を一つのたたき台として意見を交換し、内容を練り上げ、完成させていきたいと考えています。

基金の目的

最初に、「補償基金」の目的を定めています。
中国人強制連行・強制労働問題の解決のためには、歴史的事実を直視し、責任を認め、真摯に謝罪し、その証として補償をし、二度と同じ過ちを繰り返さないた めに歴史的事実を後世に伝えることが必要です。本基金は、そのために、補償基金により強制連行・強制労働の被害者及びその遺族に対して補償金及び弔慰金を 支給し、未来基金により日中両国民の将来にわたる友好関係を築く事業を推進することを目的として設置されたことを明らかにしています。

基金の拠出主体

「補償基金」の拠出主体は、国、加害企業及びそれに関連する企業を想定しています。中国人強制連行・強制労働について責任を負うのは国と加害企業及びそれ に関連する企業です。したがって、「補償基金」の財源は、国、加害企業及びそれに関連する企業からの拠出金によります。

「補償基金」の財源に関して参考となるものとして、未解決となっている未払賃金及び加害企業への補償金があります。中国人強制連行・強制労働の被害者に対 する未払賃金は約8000万円(当時。現在に換算すると約800億円)、他方で国から加害企業に支払われた補償金は約5672万円(当時。現在に換算する と約600億円)です。国と加害企業及びそれに関連する企業は、少なくてもこれらも一つの基準として、拠出すべき金額(現在の換算金額)を定めるのが道理 であると思います。

機構

「補償基金」の運営のためには、基金運営全体を統括する機関と、具体的にたとえば被害者の認定や補償金等の支給作業を実施する機関が必要となります。そこで、前者に対応する機関として「管理委員会」を、後者に対応する機関として「運営委員会」を設置します。

「管理委員会」は基金運営全体を統括し、運営委員会の活動を監督します。構成員は、日本政府、中国政府、NGOから任命されます。運営委員会は、日本及び中国両国に設置され、被害者の認定、補償金等の支給、未来基金の事業などを実施します。

なお、以上は機構の骨格であり、詳細については今後具体化する必要があります。   

基金の内容

本基金は、

  1. 「被害者本人への謝罪の証としての補償金の支給」「遺族への弔慰金の支給」活動を行う「補償基金」

  2. 「中国人強制連行・強制労働の実態等を調査・研究・発表し後の世代に承継する事業」「中国両国民の相互交流・対話を通じて恒久平和を確立していくための事業」を行う「未来基金」

から成り立ちます。

「被害者本人への真摯な謝罪」として参考になるのは、ドイツの例です。ドイツでは、ドイツ連邦政府、アメリカ合衆国、被害者団体などで交渉が重ねられ、 1999年12月に基金設立が合意されます。当時、ドイツ連邦大統領ヨハネス・ラウ(SPD)は、合意当日、強制労働被害者に対して、「ドイツ国民の名に おいて赦しを請う」という演説を行いました。その後、さらなる交渉を経て2000年7月に「『記憶・責任・未来』基金の創設に関する法律」がドイツ連邦議 会で可決され、7月17日に調印されました。「被害者本人への真摯な謝罪」のあり方は、たとえば国会での謝罪決議など、さまざま有り得ると思います。その 際、被害者本人へ真摯に謝罪していることがきちんと伝わることが大切です。補償金等の支給は、後述するように、まさにその真摯な謝罪の証としてそれを象徴 するものといえるのであり、謝罪と補償金の支給が一体となってこそ「真摯な謝罪」の現れともいえるのです。

また、未来基金の活動としては、たとえば中国人強制連行・強制労働の実態調査しそれを記録に残すこと、基金主催で講演会を開催すること、基金として定期刊 行物を発行すること、日本と中国とで共同研究を進めることなどが考えられます。具体的な事業は、管理委員会等で決められることになります。

基金

  1. 補償金及び弔慰金は、被害者への真摯な謝罪の証として支給するものです。
    被害者が一番求めていることは、加害と被害の事実が認められ、真摯な謝罪が行われる中で人間の尊厳が回復されることです。その証として「補償金」を支給します。それは被害者らが求めていることにも合致します。
    なお、「補償基金」では、訴が繰り返されず終局的な解決であるという「法的安定性」をも十分に考慮する必要があります。「補償基金」により解決の道筋がつ いた場合には、現在行われている訴訟については、和解も含めて終結することを検討する必要があります。また、訴訟を提起していない被害者らに対しては、補 償基金による解決の可能性があります。それにより、法的安定性がはかられると考えています。なお、それでも訴訟を提起する被害者が出てくることが可能性と しては考えられます。しかし、加害と被害の事実を認め、真摯な謝罪をし、被害者の人間性が回復されることが文字通り行われたならば、被害者の多くは、訴訟 に比べて負担の少ない補償基金の補償による解決を求めると思われます。それにもかかわらずあえて訴訟を提起する被害者がでてくることは絶対にないとは断言 できませんが、その可能性は極めて低く、事実上法的安定性が確保されるのではないかと考えています。

  2. 支給額及び支給対象者
    補償金及び弔慰金の支給額は、「戦後補償関連の問題の解決のために日本政府が給付した金額」や「日本の財政事情」などを総合的に考慮して決めます。
    これまで戦後補償関連の問題の解決のために支給された例としては、台湾の軍人軍属に関する法律等が考えられます。一つの案としては、1人あたり2万米ドル(約200万円)との案もあります。
    また、中国人強制連行・強制労働の場合には、支給対象者が事業場報告書・外務省報告書等で特定されています(38,935人)。したがって、支給総額につ いては予算枠の設定が可能であり、数年の予算で順次支給することが想定されます。また、原資としては、前述した未払賃金及び企業への補償金を拠出させるこ とも考えられます。
    支給対象として「被害者本人への補償金」がありますが、すでに亡くなっている被害者に対しても生存被害者と同じように支給するのか、仮に支給するとしたら 同額支給するのかという検討課題があります。また、現在裁判を行っている原告らとの関係はどうするのか(新潟地方裁判所では賠償金として1人あたり800 万円が認められていますが、補償基金額が裁判の認容額よりも低い場合にどのように処理をするのか)ということも検討課題です。しかし、基本的に補償基金を 実現するとの方向性が定まれば、いずれも補償基金実現そのものを困難にするほどの問題ではなく、解決可能な課題であると思われます。

未来基金

未来基金の活動として、中国人強制連行・強制労働の実態調査・研究・発表があります。中国人強制連行・強制労働の被害者はいずれも高齢です。したがって、実態調査を行うにあたっても早期に事業を開始する必要があります。

さいごに

被害者はいずれも、現在なお人間としての尊厳が回復されないまま放置されています。被害者はいずれも高齢です。被害者らが生存中にこの問題を解決し、被害 者の人間としての尊厳を回復することがいま緊急に求められています。害者が生存しているときに解決しなければ、この課題は被害者らの子孫へ引き継がれるこ とになり、その解決はさらに困難になることが想定されます。

新潟判決により中国人強制連行・強制労働の全面的解決が現実的な政治課題として浮上し、かつ、被害者が生存しているいまこそ、この問題の終局的な解決をはかるチャンスといえます。

是非、「補償基金」を練り上げる議論を早期に始めて解決の道筋を明らかにしていただくことを強く望みます。

2004年5月

 

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