2008年(平成20年)2月12日
中国人強制連行、強制労働山形訴訟弁護団
団長 弁護士 加藤 實
酒田港中国人強制連行を考える会
代表 鈴木 輝男
1 本日、山形地方裁判所は、2004年12月提訴した中国人強制連行・強制労働山形訴訟事件において、国と企業である酒田海陸運送株式会社に対する損害賠償請求事件につき判決を言い渡した。
本判決は、中国人強制連行・強制労働事件に対して、加害と被害の事実を詳細に認定し、その違法性を厳しく指摘した上で、国及び企業の共同不法行為責任を認
定した。しかし他方、原告の請求権は、日中共同声明5項によって裁判上訴求する権能を失ったとする昨年4月27日の西松建設最高裁判決を踏襲して、請求を
棄却するという不当判決を言い渡した。
2 本件訴訟において、国は一貫して原告の主張した過酷な強制連行、強制労働の事実に対して全く認否もせず、ただ法的責任を争うという不誠実な対応に終始
した。また被告企業である酒田海陸運送は、過酷な労働の実態を争い、「日本人と比較しても過酷な労働ではなかった。被告会社もまた戦争被害者である」等の
主張を繰り返し、強制労働もなかったと主張してきた。しかしながら、本判決は、法廷に出された証拠を詳細に検討した上で、被告らの反論をことごとく否定
し、国と企業の共同の強制連行、強制労働の事実を全面的に認定した。
被告会社の過酷な強制労働の事実はなかった等する主張についても、原告らの供述等の証拠を子細に検討し、”被告会社の事業場において、中国人労働者が外出
又は逃亡のできない施設に収容され、かつ、衛生状態や食糧事情等が劣悪な環境の下で過酷な労働を強制させられたという事実が認定できる”として、被告会社
の主張をことごとく排斥した。
その上で、本件判決は、被告らの共同不法行為及び安全配慮義務違反を認め、また、国家無答責の法理の適用を否定したものであり、この点は、一定評価するこ
とができる。しかしながら、日中共同声明による個人請求権の放棄を認めた本件判決の論理は、最高裁判決を踏襲するものではあるが、形式論理に終始した、日
中共同声明に至る交渉の歴史的実態を見ない過ちを犯したものであり、歴史的検証に耐えない論理である。
中国人強制連行強制労働の国と企業の共同加害行為の事実あるいは共同不法行為の事実は、本判決によっても厳しく指摘され、司法の判断は今や揺るぎないもの
である。強制連行強制労働の事実は、慰安婦問題とともに、ILO条約勧告適用専門家委員会で幾度も勧告されるなど、国際社会においても公知の事実であり、
もはやこれを争うことはできない。
3 西松建設最高裁判決が付言したとおり、過去の犯罪的残虐行為に対して、その事実を真摯に認め、謝罪し、賠償等の解決をすることは、中国をはじめアジア諸国との真の友好を築くことであり、日本国が国際社会において信頼を築く上での新しい出発点となる。
私たちは、すでに2004年3月、この全面解決を目指す「中国人強制労働補償基金」の提言を発表し、さらに昨年4月の西松最高裁判決後もこの「補償基金」の設立を求め続けている。
この提言は、酒田港に連行された338名を含めた約4万人の中国人被害者の全体的な解決をめざすものであり、すでに中国の各界からも基本的な賛同を得られ
ている。戦後すでに62年余が経ち、多くの被害者がすでにこの世を去り生存者も残り少なくなっている中で、未だに事実を認めず、謝罪もせず、解決をいたず
らに引き延ばすことは被害者の反感と憎しみを高め、日中間の歴史認識の溝を深めるだけであり、絶対に避けなければならない。
残された原告らは既に80歳を超えている。まさに被害者の命のあるうちに、被害の救済と人権の回復を図ることは国と企業の道義的、政治的な責任である。国
と酒田海陸運送株式会社は、強制連行・強制労働の事実、その共同不法行為責任を真摯に受け止め、中国人強制連行・強制労働の事実を認めて、被害者に対して
謝罪し、その解決のための今こそ勇気ある決断を行うべきである。